2006欧州随行記3

7月12日(水曜日)
朝、少し早起きをしたので、近くのハイドパークまで散歩。ホテルの玄関で、リンボウ先生こと林望先生を見かけた。車に乗って出かけられるところだったので、ご挨拶はできなかった。あのお顔とひげだから、まず間違いないだろう。
(イギリス紳士?)
ある議員さん曰く。「パリにもロンドンにも、紳士はいないね。岡本さんくらいだ」。「それ、どういうことですか」と聞くと、「帽子をかぶっているのは、あんただけだぜ」。実は、私も気になっていた。山高帽とはいわないが、私のかぶっているような中折れ帽をかぶっている人を見かけない。もちろん、ステッキや細身の傘を持った人もいない。ウイスキーのジョニーウオーカーのラベルにあるような紳士はいない。
そもそも、私たちが英国紳士としてイメージする、背の高い白人の割合が少ない。黒い人や茶色い人が目立つ。パリの町もそうだった。パリ=美人のパリジェンヌと思って探したが、お目にかからない。やはり黒い人が多い。
この時期、観光客が多いからということもあろうが、仕事をしていると見受けられる人もそうだ。
(BBC)
午前中は、BBC放送へ。報道の中立性、受信料確保、インターネット戦略などを聞く。
インターネットのニュース用に、記者が200人、その他のスタッフが200人いるとのこと。NHKのHPでは、テレビで放送したニュースが載るのに、かなり時間がかかる。
(世界戦略)
BBCは英語だから、世界中の人が見るのだろう。日本でも海外放送の拡充が議論されている。さて、何にターゲットを絞るかが問題だ。全世界向けか、アジア向けか。日本人向けか、外国人向けか。日本語放送か、外国語放送か。日本の実情紹介か、もっと国際的な内容か。
例えば、BBCの中近東向け放送は80年の歴史がある。それだけのスタッフと蓄積、背景がある。ひるがえって、日本はどうだ。また、英語は世界中の人が聞く。BBCしかり、CNNしかり。私も、ホテルに日本語放送がないときは、お世話になっている。完全には理解できないが、あらすじはわかる。じゃあ、日本語放送はどうだ。世界に向けて発信して、誰が聞くか。
これは対象者、地域についても同じ。英語で放送したとしても、誰に何を伝えたいか。「国際ニュースを客観的に」なんて言っても、BBCには勝てないだろう。その戦略を絞り込まないと、空に向かって鉄砲じゃない、電波を出すだけになる。
日本は、まずはアジアに対象を絞るべきではないか。アジアの人に向けての発信である。言葉を何にするか。アジアの人に見てもらうのなら、現地の言葉になろう。韓国語、中国語(北京語・広東語)、タガログ語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語・・・。これだけでも大変だ。何を発信するか。これも大変な問題。それだけのスタッフをそろえるのも大変。大学にもそれだけの研究者や関係者はいないだろう。
BBCがイギリスの、いや世界の公共財になっている。そして、イギリスの地位を高めている。こうして、英語の影響力、イギリス流のものの見方が、世界を覆う。凄いものだ。
(ハードスケジュール)
第2次湾岸戦争に際し、イギリスはアメリカとともに積極的に戦った。BBCは「客観的に」報道したことで、政府との関係が緊張した。この点も、当方の議員達の関心であり、いくつも質問が飛び交った。ほかにも得るところが多かったが、詳細は省く。3時間経っても議論は続く。
午後は、BT電話会社へ。こちらは、固定電話をすべてIP電話に代えるとのこと。ここも詳細略。
質問状を前もって渡してあるので、議論はかみ合う。通訳も、事前に勉強しているので、思った以上に話が進む。すると次の質問が出る。当方の議員は勉強家だし、日本の状況についてもよく知っている。質問するのはお手の物。
また、大使館、特に総務省から行っている中井君、山口君、河合君がよく手配してくれている。ありがたい。こちらも欲張って日程を入れてある。さらにいろいろ聞きたい。ということで、ますます欲張った日程になってしまう。
毎日のハードスケジュールと暑さで、みんな疲れ気味。最初のうちは、緊張感もある。3日も経って慣れてくると、かえって疲れが出てくるし、日本が恋しくなる。夜は、みんなの希望により、予定を変更して日本食レストランへ。
(2006年7月16日、18日)
(30年後の日本)
訪問先での話に触発されて、バスの中や食事の際に、議員さんたちと日本のあり方を議論する。主なテーマは、まちづくりと国際戦略。
1 まちづくり
「いつ来ても、パリやロンドンはきれいだねえ。農村の風景もきれいだし。日本の街並みも立派になったけど、まだまだだね」「日本は昔に比べれば、はるかに立派になったけど、きれいじゃないよ。東京だって、ごちゃごちゃしているし」「日本も、昔はきれいな風景だったよ」
「こっちに比べて、日本は雑然としているね。まあ、それがエネルギーの表れかな」「悲惨なのは、地方都市ですよ。うちの地元も、中心はシャッター通りで」「道路沿いの立て看板、あれどうにかならないの。こっちはそんなの見ないじゃない」
「こっちは、立て看板を規制しているようです。町によっては、家のかたちや色まで決められているところもあります」「大型店の出店を規制しているところもあるよね」「パリだって、150年前に大改造してつくったんだ」「ヨーロッパの街って、100年前の遺産が残っているのだろ」「田舎はもっと古いままだぜ」
「日本は、いつになったらきれいな街になるかい」「今のままじゃ、それぞれの建物は立派になるけど、街並みとしてはきれいにはならないね」「こちらの街がきれいなのは、豊かなときに立派にした。それが残っている。それと、統一がとれるように規制している。この二つだな」
「このままじゃ、30年経っても、日本の街はきれいにならないぞ」「めいめいが、良いものを作ろうとするだけじゃ、良い街並みはできないね。ある程度の規制をするとか、こういう街がきれいだという共通認識や価値観が必要だね」
「日本にはエネルギーがある、でもそれを自由に放出しているだけでは、きれいにならないということですね」「日本もようやくそれを考えることができるまで、豊かになったんだよ。ついこの間までは、食うのが先だったんだから」
2 国際戦略
「それと、パリにしてもロンドンにしても、街の美しさや立派さを売り物にして、観光客を呼び込んでますね」「そうだ。博物館だって、世界中からぶんどってきた文化財を展示しているんだものね。買ってきたのもあるけど」「芸術の都パリは、もうはやらない。でも演劇なんかも、世界中から人を集める」「パリとロンドンというブランドで、商品を高く売りつける」「昔はこっちへ来たら、衣料品など必ず欲しいものがあったけど、今はないね。日本の方がずっと品質が良いよ」「でも、日本の女性軍は、大挙してブランド品を買いに来ますよ」「そうだ、あんな鞄なんかどこが良いのかね」「えーっ、私も家内と娘に頼まれて、買いましたよ」
「百年前のフランス人やイギリス人が、どこまで将来を考えたかわからないけど、良い遺産を残したね」「また、それを守って、ちゃんと商売にしてます」「それに比べると、日本の絶頂期は短かったですね」「で、ジャパン・アズ・ナンバーワンの日本は、何を残したのかね」「世界からは無理としても、アジアの人たちは日本に何を見に来ますかね。東京ディズニーランドじゃねえ。都庁を見に来るかい」「エッフェル塔には世界中から観光客が来るけど、東京タワーにはアジアの人が来ているのかい」「エッフェル塔って、塔を観に行ってるんじゃなくて、そこからパリの街を観に行っているんでしょ」「ただ大きいとか高いだけでは、観に行かないわな。何か歴史とか、ストーリーが必要だろう」
「BBCもすごいね。日本じゃ、そう簡単にあれだけの海外放送はできないよ」「戦略的にやっているんだね」「日本は、まずはアジアを対象に考えるべきだろう」「それは、みんな異存はないんじゃないか。アジアなしで日本の将来はないよ」「アジアの人が、日本に行ってみたいと言うようにならないとね」
「それも、10年とか30年くらい先を考えて、じっくりとやらなきゃだめだね」「うーん、日本では国会も新聞も、すぐに結果を求めますからね」