2006欧州随行記6

(いすは人をつくる)
30万人といったら、日本では中規模の市くらいの人口規模だ。中核市は、要件が人口30万人以上となっている。横浜市の350万人、大阪市の260万人など政令市は別として、県庁所在市と思えばいい。例えば、宇都宮市や奈良市は30万人より大きい。
その団体が、外交を行い、通貨を発行し、一国としてやっている。空港、税関、パスポートコントロール、放送、通信、郵便、銀行・・。国としての様々な機能を備えている。
日本の市役所と比べるなら、国会は市議会、大統領は市長、各省は各部と思えば、それほどの驚きはない。国会だって、施設だけ見れば、日本の市議会の方がはるかに立派だ。しかし、施設設備でなくその内容、いってみればハードでなく、ソフトとコンテンツがどうかである。
何人もの議員が、「岡本さん。失礼だけど、この国の大統領とか首相は、人口から言えば日本の市長みたいなものだろ。でも、威厳があるねえ。発言も立派だし。うちの地元の市長は、この国より人口が大きいけど、こんなに立派に応対できるかなあ」とおっしゃる。確かにそうだ。
左から、大統領府官房長、大統領、私、大使。
こちらが、相手を大統領だと思うから、立派に見える面もあるのだろう。でも、発言内容は、国のあり方であり、外交についてである。ひるがえって、日本の市長はどうか。まず、私たちが、相手を市長と思うから、大統領ほどには敬意を払わない。これは、差し引こう。発言内容はどうか。市のあり方について、あれほどの発言ができるか。
アイスランドは、ここにも記したように、決して条件の恵まれた国ではない。皆さん声をそろえて、「第2次大戦までは貧しかった」とおっしゃる。独立を果たしたが故に、宗主国デンマークに頼ることができなくなった。自分たちで考え、自分たちで生きていかなければならなくなったのである。
日本の自治でいえば、「補助金が少なくて」とか「税収が少なくて」なんて言っておられない。言う相手がいない。自分たちで稼ぐ、自分たちで節約するしかない。
「椅子は人をつくる」という言葉がある。私たちが見た「小国」アイスランド政府と政府関係者は、まさにこれではないか。一つには、それぞれの人が仕事をこなすことで、立派な威厳のある人に見える。この人たちだって、30万人の市の市長になったら、「市長さんらしく」見えるのだろう。
もう一つは、団体が自立すると、その団体は、その条件の中で立派に運営していくということである。日本の市とアイスランドを比べなくても、日本の県は人口や経済力では、ヨーロッパの中規模国と同じくらいだ。スウェーデン、オーストリアだって、大阪府くらいだから。
国による保護をやめれば、それぞれの地域は立派に生きていく。ヨーロッパの国々が立派に国を運営しているのに、日本人ができないはずがない。万が一、失敗しても、それはその地域の人たちの責任だ。しかも、条件が悪い北欧の国だって特色ある国をつくっているし、日本の分権は、独立しようなどと言っていないのだから。
保護国側の言い分は、「その地域は、まだ、自分たちで運営するだけの能力がない」である。植民地・保護領の独立と、分権は似ている。いずれも、地域が自立を求めるのに、保護者が「まだまだ」という。既得権を失いたくないからだろう。権限も渡さずに「能力がない」というのは、子供にボールを触らせず、「おまえはまだボールを蹴れないから」と言っているようなものだ。最初は下手でも、触っているうちに上手になる。
いすは人をつくる。自立は地域をつくる。(この項、8月6日)
7月15日(土曜日)
(日本へ)
朝の4時に起きて、5時にホテルを出発。7:40の飛行機でパリへ。なぜか、こんな早朝になる。たぶんこれが、アイスランドにとって便利なのだろう。
パリで、昼食などを取って時間待ちをする。19:40発、実際には20:00発の飛行機で、成田へ。
機内で食事をしながらテレビを見ると、ニュースでサンクトペテルブルグ・サミットを報道している。飛行機は、ちょうどフィンランドからサンクトペテルブルグの近くを飛んでいる。この下でやっているんだ。もっとも、現地時間は夜のはず。東へ向かう飛行機は、進行方向に向かって左側の窓、北極よりは、夕日の雲が続いている。右側の窓、南の大陸は夜。パソコンに向かい、こつこつとこの原稿を書いている。
(道中の暮らし)
久しぶりの海外旅行だったが、まずは快適に過ごせた。
機内では長袖シャツのノーネクタイ、すなわちクールビズで過ごす。ネクタイなしでも、失礼でなくなったのがありがたい。もっとも、日本人の間の話だが。長袖シャツは冷房対策。私は、国内を新幹線で移動する際もそうしている。
お金は、例によって現金を使わず。両替もせず。ホテルでの支払い、ちょっとした記念の品だけ。これはカードですませるのが便利。
ティップは、家にあったユーロの小銭を持ってきて使った。イギリスはユーロに加盟せず、ポンドだけど。ロンドンのホテルで、シャンプーが置いてなかった。翌朝「シャンプーください」と英語で書いて、ユーロのコインを置いておいたら、ちゃんとコインはなくなっていた。シャンプーは、ホテル用のあの小さいのが、4つも置いてあった。
必需品が、体洗いのメッシュのタオル。ホテルのタオルは分厚すぎて、体を洗うようにはできていない。これまでの旅行でも持って行くのだが、必ずホテルに忘れてきた。ソウル、パリなどなど。風呂に入ったあと干しておいて、翌朝出発時に鞄に入れるのを忘れる。次のホテルで気がつくが、その時は遅い。今回は、無事なくさなかった。まあ、忘れてもたいしたものではないが、その後が不便なのと自分の注意散漫に腹が立つ。
インターネットは、さらに使いやすくなった。パリでは、電話回線で海外ローミングを使った。ロンドンでは、ラン回線端末があって、差し込むとホテルのHPにつながり、そこからインターネットに入れる。1分50ペンス=約100円。電話回線(市内通話)も同額だが、スピードが違う。一日中つないでおくと、20ポンド=4,000円。
レイキャビックのホテルは、ラン回線端末があって、これは無料だった。空港のビジネスラウンジには、パソコンが何台か置いてあって、インターネットが自由に使える。出発までの時間待ちにこれはいいと座ったが、私のHPを始め、NHKのページも開けない。正確には、日本語のページが開けない。「言語に対応するブラウザがない」との表示がでる。「次のうちから選べ」と表示が出て「Japanese」選ぶが、対応できないらしい。何度か試みて開くと、ほとんどが文字化けしている。
もちろん、NHKインターナショナル(英語ページ)は開くことができる。そうなんだ。インターネットは国境をなくすというが、世界言語は英語なんだ。BBCとCNNは、私たちもお世話になる。しかしそれは、英語だからだ。
(電話は嫌い)
議員の多くは、海外でもつながる携帯電話を持ってきた。せっかくの海外なので、私は持ってこなかった。私は電話は大嫌い。できれば電話のない国に行きたいと、いつも思っている。こちらからかけるのは仕方ないとして、こちらが何かしているときに突然かかってくる電話は、身体に悪い。しかも、そのような電話は良い話でなく、緊急の用件か悪い話が多い。だから、出たくない。
アイスランドでパソコンを開くと、本省からのメールで「異動内示をするので、できるのなら次の時間帯で官房長に電話するように」との指示が来た。時差もあるし、早く聞いてどうなるものでもないと思い、「帰国してから受けて良いですか」と返事をしておいたら、「本人が良いのなら、それでよい」と返事が来た。
日曜日に日本に着き、月曜日は海の日でお休み。火曜日に出勤して、官房長に帰国の報告をしたら、その週の金曜日付での内閣府官房審議官への異動を告げられた。
総務課長の仕事は、しんどいけれどおもしろい仕事。まだまだ続けたかったが、総務課長2年半、通常国会3回は、総務省だけでなく各省を見渡しても、前例のない長さらしい。いつかは、後輩に譲らなければね。