2006欧州随行記4

7月13日(木曜日)
今日は、飛行機でアイスランドへ移動。所要3時間だが、ここもイギリスとの間で1時間の時差があるので、時計の上では2時間。
飛行機はアイスランド航空。30万人の国が飛行機会社を持っている。ロンドンとの間は週14便、コペンハーゲン(旧宗主国)との間は27便。アメリカとは、ワシントン7便、ニューヨーク7便、ボストン7便の他、いくつもの便がある。ロンドンまで3時間、ニューヨークまで6時間。良い位置にいるわけだ。
使用機材は、200人から300人乗り。それだけの需要があるということだろう。漁業と観光で成り立っている国だから、観光客が多いのか。私たちの乗った便も、ビジネスクラスは満席だった。あとで聞いたら、年間60万人の人が訪れるらしい。国民の倍の数だ。それも、夏の期間だけだろう。到着した飛行場も、利用者でごった返している。
パリ、ロンドンと違って、雨。気温は12度くらいとのこと。夏から、一挙に晩秋の気候になる。
(議会)
早速、議会訪問。議長を表敬したあと、議場を案内してもらう。10年ほど前に、2院を1院にした。議員数は63。小学校の教室くらいの、こぢんまりとした部屋。各議席に、電子投票のボタンがある。投票結果は、壁に総数とともに、議席ごとのランプでも表示される。議員の中から選ばれる閣僚席にも、ボタンはある。
おもしろいのは、議席の指定がくじ引きでされること。会期の始めに、箱の中から、数字の書かれた木の球をめいめい取り出す。隣り合わせになった議員がけんかをしないようにとのこと。それなら、党派別に座った方が良いような気もするが。
(街)
総人口30万人のうち20万人近くが、首都レイキャビックとその周辺に住んでいる。周辺部は大きなアパートがたくさん建っているが、レイキャビックの中心街は、こぢんまりしたきれいな街。議事堂も、首相府も、商店街も歩いて回れる。そう言えば、かつて行ったノルウェーのオスロも小さくてきれいな街だった。
(白夜)
白夜の国の夏なので、真夜中でも明るい。カーテンを閉めても、明るい。ある議員は翌朝、「岡本さん、夜の3時も明るかったよ。眠れなかった」とのこと。この時期、太陽は北から上がって、北に沈むとのこと。もっとも、冬は南から上がって、4時間ほどで南に沈む。毎日が真っ暗。これはつらいらしい。
7月14日(金曜日)
朝は、嵐。横なぐりの雨が降っている。
(エネルギー先進国)
午前中は、エネルギー庁長官との意見交換。
この国は、水力と地熱でエネルギーの大半をまかなっている。環境先進国。安い費用で発電し、温泉熱で各戸にお湯を供給している。蛇口からお湯が出て、暖房もお湯。化石燃料(石油、ガス、石炭)は車と船と飛行機に使っている以外は、ほとんど使っていない。
電気も輸出したいのだが、輸送技術とコストの関係で、実現していない。「電気が余っていて、東京の消費量はまかなえるよ」と笑って説明してくれる。現在の電気の輸出方法は、アルミニュームの精錬。アルミは電気の缶詰とも言われる。ボーキサイトを輸入して、安い電気でアルミにする。これを輸出すると、電気を輸出していることになる。効率のよい蓄電池が開発されれば、電気そのものを輸出できるのだろう。電線で輸出できなくはないが、ロスが大きい。
次の課題は、化石燃料を使っている残りのもの。特に車を対象としている。電気を使ったハイブリッド車=トヨタのプリウスも説明してくれた。これも課題は、蓄電池。今取り組んでいるのは、水素ガス。バスを3台実験的に走らせている。電気で水を分解し水素を作る。これを燃やして電気を作る。出てくるのは排気ガスでなく、水。もっとも、効率は50倍くらい悪いとのこと。「まだまだだめだ」。
地球温暖化による氷河の減少も、写真で見せてくれる。さらに、「おもしろいのを見せよう」」と言って、未来予測も動画で見せてくれる。大きな氷河が、あと100年でなくなってしまう。「もっとも、いろんな条件でのシミュレーションだけどね」と笑っているが。
(行革の実験)
続いて、財務省次官との意見交換。この国も、1991年以降民営化を進めている。小さな国なので、いくつもの国営企業を持っていたのだろう。漁業などの会社を民営化したあと、国営銀行2行とを民営化した。なるべく国の管理が及ぶように、国内で株を持ってもらうように意図しながら進めたが、いずれも失敗し、一度は延期した。その経過を説明してくれる。もう一度やり直して成功した。その際は、「結局は価格がすべてを決めたね」ということだった。
エネルギーの説明は、写真もあればグラフもあって、理解しやすい。民営化も同じようにパワーポイントを使って説明してくれるが、こちらは文字ばかりでなかなか難しい。通訳さんも、専門用語に手こずる。私の拙い英語で、何とか理解する。
(大国と小国)
さらに、首相と大統領にも表敬訪問。アイスランドは、東京に大使館を持っている。日本側は、アイスランドはオスロ大使館の管轄で、レイキャビックに事務所を置いている。大統領は「30万人のアイスランドが東京に大使館を置いているのに、なぜ日本は本格的大使館をアイスランドに置いてくれないのか」「中国は、アイスランドに非常に興味を持っている。大規模な訪問団も来た。我が国は日本ともっと関係を持ちたいのに、日本からは企業が進出してくれない」と強くおっしゃる。
また、「お互いに食糧輸入国であるなど共通な位置にいる。早く貿易自由化交渉をまとめよう」とも言っておられるとのこと。おっしゃるとおりだ。
捕鯨でも日本と同じ主張をし、日本が国連常任理事国入りを目指したときも、真っ先に賛成してくれた。このような国を、大事にする必要があるだろう。
(自然)
地熱発電所を見学したあと、時間があるので、間欠泉と地球の割れ目まで車を走らせる。真夜中まで明るいので、体力さえあれば活動できる。
町中を歩いている限りは、風景は、北欧の他の街と変わらない。しかし、一歩郊外に出ると、全く違った風景になる。空港から街までの道路の両側は、溶岩原が広がっている。その上にこけが生えているだけで、草や木はない。こけさえ生えていないところもある。
鹿児島の桜島の溶岩原が、ずーっと広がっていると思えばいい。このあたりでは、放牧もできない。歩くと足首をねんざしそう。アメリカのアポロ計画の際、ここで月面着陸の訓練をしたらしい。風景が月面に似ているから。
島自体が、まだできて新しい。溶岩が十分風化せず、土がない。気候が厳しく、木や草が育たない、ということだろう。誕生してまだ若い頃の地球を想像させる。
さらに車を走らせると、牧場が広がる。ここはかろうじて草が生えている。羊、馬、牛がのんびりと、とはいえない厳しい気候の中で、草をはんでいる。馬肉もこの国の名物。
北海道と四国を足した面積に、30万人が住んでいる。広々としたきれいな国だ。
(氷の国)
アイスランドIceland=氷の国という命名は、半分正しく、半分間違っている。緯度は、ロンドンやパリからは北、北極圏に近い。日本より、はるかに北にある。カムチャッカ半島くらい。ちなみに緯度を南に当てはめると、南極の昭和基地になるらしい。大きな氷河もある。草木が茂らない。夏は白夜になり、秋や春にはオーロラが見られる。ここまでは、確かに氷の国。
しかし、気温は、夏で6~14度くらい、冬でもそんなに下がらない。零下10数度にはならない。冬を比べると、北日本の方が断然寒い。これは、メキシコ湾流(北大西洋暖流)が流れているから。この暖流と寒流がぶつかって、よい漁場になる。タラやししゃもが名物。ニシンはかつてはよくとれたが、今はもっと北の漁場らしい。
この島の西側に、グリーンランドGreenland=緑の国がある。これは命名間違い。こちらは、氷河に覆われていて、とても人が住めたところではない。どうも命名が、逆だったようだ。
アイスランドの天気は、よく変わるらしい。曇ったり、雨が降ったり、日が差したり。私たちの滞在中もそうだった。
メキシコ湾から来た水が、地球の割れ目に雨を降らせ、そんなことも知らず羊は草を食べている。