吉見俊哉著『トランプのアメリカに住む』2

吉見俊哉著『トランプのアメリカに住む』の続きです。もう一つの主題は、ハーバード大学と東大との比較です。詳しくは読んでいただくとして。同じ大学の授業といっても、これほど内容に差があるのかと、驚きます。
慶應大学の授業では、「古くなりましたが。皆さん方の先輩の留学記です」と言って、阿川 尚之著『アメリカン・ロイヤーの誕生―ジョージタウン・ロー・スクール留学記 』(1986年、中公新書)を読むことを勧めています。

日本の文化系の大学の授業は、「甘い」ですわね。それを許しているのは、そしてそれを支えているのは、学生の意識と大学の都合、そしてなにより日本社会の意識です。
・学生に学問を求めない会社。学生の頭は白地で良い、会社に入ってから教えるから。根性があればよい、それで会社では通じるから。
・楽をして卒業できるのなら、それが良いと考える学生。
既に指摘されているように、採用する会社は、学生がどれだけ学問を修めてきたかでなく、大学の偏差値で学生を評価します。大学での学問より、大学入試で判定しているのです。

日本において文化系の大学は、レジャーランドであり、学生にとってはモラトリアムの時期です。で、就職面接の際には、「学生時代力を入れたこと(ガクチカ)」が聞かれます。本来なら、「大学ではどの分野を研究し、どのような内容を修めましたか」を質問するべきでしょう。
もったいないですね、高い授業料を払いって。人生で一番元気な時期に、生産性の低いことをしているのは。もちろん、様々なことに挑戦するのは、良いことですが。勉強しないなら、大学に行かずに他の場所で、やりたいことをできないのでしょうか。そのような場所を提供することを考えたら、社会に貢献する良い商売になるのですが。

私は、慶應大学法学部という優秀な学生を相手にしているので、他の大学の教授よりは、講義は高度なものができています。ただし、「岡本の地方自治論」を履修したと言えるように、学生の「品質保証」は必要です。よって、試験は厳しいです。
一度も授業に出席せず試験だけを受けるという、「あんた講義を何と考えているの」と聞きたい学生もたくさんいます(評価基準に合致しておれば及第点を与えていますが)。もったいないですよね、岡本講師の講義を聴かないなんて。
予習しなくても出席すれば、ある程度のことはわかるような授業をしていますが、これも甘いですね。

しかし、日本の大学での授業の世間相場がこうなっている以上、ハーバード大学流の講義をするのは、難しいです。
吉見先生が提案しておられるように、日本の大学の「軽い科目をたくさん履修する」から、ハーバード大学のように「重い科目を少数履修させる」に変えることは、現実的な改革論だと思います。
この項続く。