東プロシア

池内紀著『消えた国 追われた人々―東プロシアの旅』(2013年、みすず書房)が、勉強になりました。
東プロシア、第2次大戦まで存在した国というか、ドイツの領土です。現在では、ポーランド、ロシア(飛び地)になっています。有名な都市では、ダンツィヒ(現在ではグダニスク)、ケーニヒスベルク(カリーニングラード)です。中世にドイツ人(騎士団)が植民し、ということは原住民を追い出したのですが、ドイツ人中心の国を作っていました。ケーニヒスベルクは、ベルリンより先に華麗な首都になっていました。
ドイツが大戦に負けたことで、ソ連がまず国境線をポーランドよりに西へ動かし領土を拡大します。その玉突きで、ドイツとポーランドの国境を西に動かしたのです。そして、ドイツ人を追い出しました。その数、千2百万人です。財産をすべて残し、着の身着のまま見知らぬ祖先の地ドイツに移住します。この点は、日本の戦後引き揚げ者と、似ているところがあります。
先生がこの地を3度訪問して、その歴史を調べることになったきっかけは、大戦末期1945年1月に多くの避難者を乗せた客船が、ソ連潜水艦に攻撃され沈没したことに興味を持たれたからです。ヴィルヘルム・グストロフ号、1万人を越えるドイツ難民を乗せ、9千人程度が死亡したと推定されます。戦争中のことであり、その後も封印されて、正確なことはわかりません。タイタニック号が史上最大の海難事故といわれますが、犠牲者は千5百人ほどです。それに比べはるかに大きいのですが、ナチス批判の陰に隠されたようです。
膨大な避難民と大勢の海難犠牲者、とても悲しい話ですが。政治が多くの人の人生を変え、人命を奪う事例です。お薦めします。