社会と民主主義をつくる「参加による習慣」

宇野重規先生の『民主主義のつくり方』(2013年、筑摩選書)を紹介します。宇野先生は、トクヴィル研究で有名です。先生は、この本を、『トクヴィル、平等と不平等の理論家』(2007年、講談社選書メチエ)、『〈私〉時代のデモクラシー』(2010年、岩波新書)とともに、デモクラシー3部作と言っておられます。詳しくは、本を読んでいただくとして。
『〈私〉時代のデモクラシー』については、このホームページでも紹介しました(2010年5月5日)。近代は、自由と平等を達成し、それが社会の不安と不満を生みました。身分や所属する団体による不平等を撤廃することを目指し、それを達成して見えてきたものは、あらゆることを自分で判断しなければならないという負担であり、その選択に責任を持たなければならないという不安です。また、中間集団の希薄化は、個人の砂状化とともに、政治への回路をなくしてしまいます。では、ばらばらになった個人〈私〉は、どのようにして〈私たち〉をつくりだすのか。それに答えようとするのが、本書です。
この本では、プラグマティズムの考えを手がかりに、皆でつくる「習慣」が、個人と社会をつなぎ、社会をつくることを論じています。そこにあるのは、所与のものとして与えられるのではなく、市民・民衆・個人が参加しながら作り上げなければならないという事実・原理です。
このホームページをお読みの方は、お気づきでしょうが、これは地方自治の原点です。拙著『新地方自治入門』では、豊かさを達成した地方行政の目標が、モノを増やすことから、関係を充実することへと変わることとともに、住民がサービスを受ける客体から、参加する主体になるべきであると主張しました。参加は、国家規模では難しいですが、自治体や近所付き合い、サークルやNPOなど中間集団では容易です。
私は、津波が全てを流し去った町を復興する際に、官(行政)・私(企業)・共(町内会やNPOなど中間集団)の3つが必要なこと、そして住民合意の際にコミュニティが重要であると指摘しています。「被災地から見える町とは何か」(2012年8月31日、共同通信社のサイト「47ニュース、ふるさと発信」)。