ソーシャル・ネットワーキング・サービスの若者への心理的悪影響

12月10日の朝日新聞1面は、「把握済み、FBに批判 インスタグラム「若者に悪影響」」でした(見出しに「FB」とアルファベットが使われています。日本を代表する日本語新聞としては、これは問題ですね)。

・・・元従業員の内部告発をきっかけに、世界で36億人の利用者を持つSNS最大手メタ(旧フェイスブック、FB)への批判が強まっている。傘下の写真投稿アプリ「インスタグラム」の若者への悪影響が指摘されており、朝日新聞が入手した内部文書からは、FBが以前からそうした心理的な悪影響を把握していたことが読み取れる・・・

・・・インスタの若者に対する悪影響については、内部告発の元になったFBの内部文書に関連の記述がある。2019年11月に社内で共有された、日本を含む6カ国の約2万人を対象にした調査では、自殺願望や自傷行為の悩みをかかえる10代の少女の13・5%が、インスタをみると状況が悪くなると答えた。身体の悩みを抱える少女の32・4%が状況を悪くすると答え、「良くする」を上回っていた。
昨年3月に共有された別の社内調査では、インスタは有名人の投稿が多く、「完璧に見えなければいけないというプレッシャー」があるとしている。こうした結果、摂食障害、うつ、孤独などにつながりうるという・・・

川北稔先生「私と西洋史研究」

川北稔著『私と西洋史研究:歴史家の役割』(2010年、創元社)を読みました。かつて読もうと買ってあったのが、本の山から発掘された(正確には、崩れて出てきた)ので。
川北先生はイギリスを中心とした西洋史の大家です。私は、『路地裏の大英帝国』『民衆の大英帝国』やウォーラーステインの『近代世界システム』の翻訳で、親しみました。あとで、高校の先輩だと知りました。

この本の解説には、次のようにあります。
「西洋史研究の碩学として知られる著者の個人研究自伝。計量経済史および生活史(社会史)の開拓、世界システム論の紹介・考察など数々の画期的業績を築きあげた著者の研究スタンスや思考を詳説するとともに、学界研究動向の推移や位置づけ、歴史研究の意義とあり方、歴史家の役割など、歴史を学ぶうえで必須の観点を対談形式で平易に説き明かす」

この本にも書かれていますが、川北先生と阿部謹也先生が社会史を始められた頃は、学会からは異端として相手にされなかったそうです。私も、阿部先生の『ハーメルンの笛吹き男』や川北先生の本を手に取ったときは、「このような歴史学があるのだ」と驚きました。歴史を政治史として習った私には、社会史は「文学に近いな」と思えたのです。
興味を持って読んだそれらの平凡社のやや大きめの判型の本は、いくつも今も本棚の奥に並んでいます。
大学で政治学を学び官僚になったのですが、社会史の見方に惹かれ、そのような本を読むだけでなく、今の社会と政治の見方にもつながっています。

先生の史学は、当時の主流であった東大を中心としたマルクス主義史観、大塚久雄先生の史学を超えることでした。そして、ヨーロッパの研究者の三流にならないこと、彼らと互角の戦いをすることでした。すると、史料を読み解いて発表するだけでなく、新しい物の見方を提示する必要があります。それに成功されたのです。
先達の努力と葛藤を学ぶことは、ためになります。

ブログ「自治体のツボ」2

このホームページでも紹介した「自治体のツボ」。めでたく、3年続いたそうです。

・・・この間、地方では色々なことがあった。ふるさと納税、大阪都、インバウンド。しかし、なんと言ってもコロナ対応に尽きるであろう。
知事の存在感は際立った。患者数を憂慮する会見、国を批判するコメント、踊るフリップ。スタンドプレー込みでも不眠不休の行政運営だった。
ただ知事個人に目が行ったものの、自治体個別、地方独自といえる政策はもうひとつ見るべきものがなかった。残念ながら少なかった。
気になるのは、やや国頼みが強まって見える点だ。未知なる感染症との闘い、財政も逼迫とあってはやむを得ないが、国お任せムードが充満する・・・
・・・地方の形を変える論議は消失した。財政再建論議も止まっている。地方分権の機運も残念ながら薄れていると考えざるをえない。
ウィズコロナ、ポストコロナの時代。地方をダイナミックに、そして地道に駆動させる政策で競い合ってほしいものである・・・

連載「公共を創る」103回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第103回「「通念」を変える─その方策と障害」が、発行されました。

かつて日本の経済発展や社会の安心を支えた日本独特の「通念」「社会の仕組み」が、成熟社会になって、負の機能を生んでいます。それを変えるためには、教育の内容を変えることが重要でしょう。
そして、通念や社会の仕組みは、自然とできていると考えるのではなく、国民や住民がつくるものだという意識に代える必要があります。自然に対する作為です。

近代市民革命や、国民による革命的な政権交代(韓国や台湾)を経ている国は、政府や社会は国民がつくるという経験と意識があります。それに対し日本は、長い歴史とその間変わらなかったと考えられている日本文化と社会があります。
その日本文化と社会は高い評価を得ていたので、変える際には大きな障害となります。

ネット炎上、既存メディアの加担

12月10日の朝日新聞オピニオン欄、山口真一さんの「誹謗中傷問題 ネット炎上、既存メディアの加担自覚を」から。

・・・インターネット上の誹謗中傷問題が連日報道される。しかし、インターネットが注目されるあまり、既存メディアがこのような問題で果たしている負の役割に目が向けられていないことに、筆者は強い危機感を抱いている・・・

・・・ここで起こったのが、既存メディアとインターネットの共振現象だ。インターネット上の批判的な声を踏まえて既存メディアがネガティブな報道をし、既存メディアを見てそれを知った人がまたインターネット上に投稿し――と繰り返すことで相乗効果が起きて、かつてない規模の誹謗中傷や悪意ある噂が広がっていったのである。
帝京大の吉野ヒロ子准教授が、ネット炎上(インターネット上に批判や誹謗中傷が殺到する現象)の認知経路について、興味深い研究を発表している。1118人を対象としたアンケートの結果、ネット炎上を見聞きした媒体として、ツイッターと答えた人が23・2%であったのに対し、テレビのバラエティー番組が58・8%だったのである。ネット炎上とはいうが、それを広げているのは既存メディアなのだ・・・

・・・いずれの例にも共通しているのが、既存メディアが人々の批判的感情を煽(あお)った点である。その背景には、商業主義の広がりがある。中国の北京航空航天大学の研究チームが、中国のツイッターとも言われるウェイボーを分析したところによると、「怒り」の感情を伴う投稿がSNS上で最も拡散しやすいことが分かった。つまり、批判的感情を煽れば、それだけ話題になり、視聴率や発行部数の増加につなげられるのである。
インターネットが登場する前から、既存メディアは批判を煽れば視聴率や購買部数に繋がることを知っていて、商業的な手法として多用してきた・・・

・・・また、インターネットと既存メディアの負の相乗効果を放置することは、商業主義という動機に照らしても得かどうか疑問である。眞子さんと小室さんの件については、テレビや雑誌などの報じ方に失望する声も多く聞こえた。米国のメディアも「メディアの狂乱」「傷つけるような激しいメディアの報道と世間の残酷な意見」などと同情的に報じていた。人々の批判的感情を煽ることで短期的には収益を上げられても、中長期的には信頼を損なって、商業面にも悪影響が出る可能性がある・・・
・・・そしていま一度、メディアには商業主義の追求だけでなく公共性という重要な役割があることを認識し、事実に基づいた正確な報道と個人の人権を守ることを心がけてほしい。それは悲劇を減らすだけでなく、メディアの信頼を取り戻すことにもつながるだろう・・・