忖度、ドイツにもあった文化

7月7日朝日新聞オピニオン欄、「暴走する忖度」。政治学者のヴィルヘルム・フォッセさんの発言から。
・・・ドイツには「フォラウスアイレンダー・ゲホルザム」という言葉があります。忖度と同じように、訳すのは難しいですが、直訳すれば先回りした服従という意味です。なぜ、ホロコーストのような大量虐殺が起きたのかを説明する際によく使われます。
法律や社会のルールを守り、税金を納める。家庭では、よい息子、よい娘で、ほめられたい。周囲に波風を立てないよい隣人で、異議を唱えようとしない態度が、結果として非人道的な悲劇を生む土壌になったのです。
日本の政治と社会の研究を30年以上してきました。日本とドイツは似ています。まじめで時間を守り、先回りして自主的に服従します。ドイツの戦後と日本の戦後もある時期までは非常に似た道をたどったと思います・・・

・・・自信を取り戻しつつあったドイツ人に大きく影響したのが、68年から世界を覆った若者の反乱でした。きっかけは米国でのベトナム反戦運動です。日本でも、日米安保体制に対する反対や大学制度を見直す運動があり、環境運動などその後の市民運動にも様々な影響を与えました。ドイツでは若者たちが、教授や親の世代が戦争中に何をしていたのかを問いただす運動に発展したのが大きな特徴でした・・・
・・・民主的だったワイマール体制がヒトラーの台頭を許してしまったのは、制度の欠陥ではなく、民主的な思考と行動をする市民が足りなかったとの理解が広まったのです。それまで、先回りして服従するのがよい市民だとされてきた考えから、疑問を公的に発する成熟した市民になることが重要だという考えが共有され、意識が変わったのです・・・

原文をお読みください。

山梨県庁で講演

今日7月10日は、山梨県庁で、部局長研修の講師を務めました。
今回の主な聞き手は、部長です。「明るい公務員講座」は係員向けで、「明るい公務員講座・中級編」は課長向けですから、部長クラスには向いていません。何をお話しすれば「役に立つか」を考えて、話の内容とレジュメをつくりました。で、次のようなことに絞りました。
・部長と課長は何が違うか(これって、結構重要なのです)。
・私が部長を務めたときに、「こんなことを知っていたら、よかったのに」ということ。
・そして、私の幅広い経験(総理秘書官、被災者支援本部の責任者)で、こんなことを考えていて、こんなことをしました(世の中、こんな仕事もあるんです)ということです。
さて、皆さんのお役に立てたでしょうか。びっくりするようなことは、お話ししていません(世の中、山よりでっかい獅子は出てきません。しかし、部長よりもう一段上の仕事もあります)。

振り返ってみると、私も現役の時、いろんな研修を受け、本も読みましたが、「実践、部長講座」は教えてもらわなかったですねえ。それを、しゃべることができる人って、そんなに多くないでしょう。
もちろん、私の話が「すべて役に立つ」とは思いませんが、自治体の現場と霞が関を経験し、総理秘書官のほか千年に一度の経験もしました。そんな先輩がしゃべっているのです。
「なるほど」と思われたら、挑戦してみてください。「私のやっていることと同じだ」と思われたら、自信を持って続けてください。

砂原教授の新著

砂原庸介・神戸大学教授が、『分裂と統合の日本政治ー統治機構改革と政党システムの変容』(2017年、千倉書房)を出版されました。砂原君は、昨年からカナダ・ブリティッシュコロンビア大学で研究中です。

今回の著書は、これまでの論文を整理加筆したものです。著者が、「地方政治と国政との、国政と地方政治の関係(その不十分さ)」について、この10年近く研究を重ねてきた成果です。
著者の言葉を借りれば、「選挙制度改革と地方分権改革を踏まえて国政と地方政治で統合のあり方がどう変わったかを議論しているものです。今回の都議選でも明らかなように、現状で最も政治的資源を持つ政治家は(内閣のトップクラスを除けば)知事であり、知事への統合が国政政党の分裂をもたらすと考えています。そういった背景をもたらす制度的な要因として、地方議会の選挙制度の問題点を論じてその改革を主張しています」。

民主党政権の失敗を元に、次のような説を立てています。
・・・なぜ自民党と民主党による二党制は十分に制度化されてこなかったのか。本書はその要因を、国政とは異なる選挙を通じて知事・市長や地方議員が選出される地方政府が重要な権限を持つことにより、「地方」で国政とは異なる独自の政治的競争が展開されることに求める・・・(p19)。
・・・もとより国政政党にとって、地方議員に規律を及ぼすことは容易ではない。一方で選挙制度改革によって、政党執行部が国会議員対して規律を強めることができたとしても、他方で地方分権改革を通じて強化された知事や市長が国会議員や地方議員に対する影響力を強めることになると、国政政党の地方に対する影響力はますます衰える。有権者と政府の意思決定をつなぐ政党システムを制度化することを考えるならば、国政と地方政治の関係を再構築する制度的な整備が必要であろう・・・(p31)。

自民党は政権党として、利益分配によって、地方政治家を「吸収」します。他方で、社会党は反対党として、また労組の支えによって、国政でも地方政治でも一定の支持を集めました。しかし、2大政党制を目指した小選挙区制がもたらしたのは、反対党と期待された民主党の凋落です。大阪維新の会、都民ファーストという地域政党が、党首の魅力によって地域で大きな支持を得ます。しかし、それは国政にはまだ反映されません。

日本の政党政治を議論する際に重要でありながら、これまでは国政と地方政治とは合わせて議論されることが少なかったです。また、国政政党が「足腰を強くする」ためには、国政政党が地方政治家を「統合する」ことに力を入れることが必要です。時の「風」を期待するのではなく、地域から政党組織を強くする必要があります。
地方議会の選挙制度改革で必要であると、著者は主張します。重要な視点の分析の書であるとともに、今後に向けての提言の書です。

休日の苦しみと喜びと

かつて、わが家の子供が、「金曜日↑、土曜日↑、日曜日→、月曜日↓」と、イントネーションを利かして歌っていました。笑って聞いていましたが、確かに金曜日と土曜日は、「明日は休み」と思うと気分も楽しいです。日曜日になると「明日から働くのか」と少し落ち込み、月曜日にはさらに・・・。

私も、金曜夜が、気分が一番ゆっくりします。しかし、締めきりが来た原稿を抱えた身では、そうも言っておられず。
金曜夜(飲んでから)、土曜日と日曜日は早起きをして(こちらは冴えた頭で)、一気に書き上げました。すっとしました。
書いてしまえば、「何で、こんなことに悩んでいたんだろう」と思うのですが。まとまった時間がとれないのです。昼はキョーコさんのお供と孫の相手をしなければならないし。

まだ、今週の講義の準備と、17日締めきりの原稿がもう一つあります。常に締めきりに追われる人生は、健康によくないです。
でも、一つ書き上げたので、気持ちよくこの文章を書いています。

アジア通貨危機から20年

1997年にアジア通貨危機が発生してから、20年になります。7月3日の日経新聞が、特集を組んでいました。発端、連鎖と、危機が発生し広がった経緯を紹介するとともに、その際に関係者はどのように対応したか、何が失敗で何を学んだかを、証言の形で紹介しています。

もう20年にもなるのですね。しかし、専門家でないと、これらの全体像や概要を知っている人は少ないでしょう。近過去のことを、このように解説してくれる新聞記事は、ありがたいです。