岡本全勝 のすべての投稿

農業保護、EUと日本の違い

古くなりましたが、2月12日の日経新聞「TPP農業再生の条件・下」に、次のような指摘がありました。
・・経済協力開発機構(OECD)によると、2010年の農業生産に対する農業補助の比率は日本が5割で、欧州連合(EU)が2割。内外価格差も「補助」とみなした試算だが、日本の農業補助の水準は、決して低くない。だがEUは農業先進地と称され、日本農業は危機が叫ばれる。
分かれ道は1992年にあった。ウルグアイ・ラウンドが大詰めを迎え、農産物貿易の自由化がテーマとなった。EUは公的機関が介入して作物の値段を下支えする仕組みを改め、農家に補助金を出して収入を補填する制度を作った。
農業保護には変わりはない。だが価格を市場に委ねることで、輸入農産物に対抗する力は強まった。ドイツの小麦販売価格は2005年までに4割下がり、恩恵は消費者に及んだ・・
翻って日本。農林水産省も1992年に「市場原理を導入し、競争を促す」と宣言した。だが実際にやったのは、6兆円に及ぶ農村のインフラ整備などだ・・・日本も農業にお金を投じてきた。問題は使い道だ・・

自己改革できない組織は続かない

先日(2月5日)紹介した、カー著『危機の二十年』(岩波文庫)に、次のような文章があります。
・・政治的変革の必要性を認めることは、どの時代のどんな考えをもつ思想家たちにとって、別に珍しいことではない。バークの有名な言葉に、次のようなものがある。「何らかの変更の手段を欠く国家は、自己の保存のための手段を持たない」・・(p393)
確認したら、確かに。エドマンド・バーク著『フランス革命についての省察(上)』(邦訳2000年、岩波文庫)に、書かれています。その記述の後には、次のような文章が続きます(p45)。
・・かかる手段がなければ、それは自分が最も入念に保存を念願する、憲法の肝心要の部分を喪失する危険をさえ引き起こすだろう・・
そして、バークは、イギリスの王政復古と名誉革命について言及し、イギリス国民は、国王をなくしても王政と議会を解体せず、イギリス国家(政治)を再生させたことを述べます。もちろん、王政を廃止し混乱に陥ったフランス革命との対比です。

保守主義の父と言われる、バークの発言だから、重みが違いますね。
大きくは政治の要諦、身近なところでは組織の維持に必要なことは、既存秩序の維持と変革の組み合わせです。変化は、既存社会・組織の秩序や構造から逸脱する行為です。目に余る逸脱は排除しなければ、既存秩序は揺らぎます。組織は維持できず、政治は信頼を失います。しかし、環境の変化や構成員の考えの変化を取り込まなければ、組織は維持できず、構成員の支持を失います。新しい変化のうち、何を排除し何を取り込むか。そして、それをどのような過程で処理するか。処理の仕組み(プロセス)を組み込まない組織は、弱いです。

ず~と、こんなことを考えているのですが。その気になって読まないと、何が書いてあっても、頭に残らないということですね。反省。馬の耳に念仏。

民主主義の機能不全・日本の場合

日経新聞・経済教室は2月22日から「民主主義の機能不全」を連載していました。24日の、スティーヴン・ヴォーゲル教授の主張から。
・・日本の場合、筆者はさらに2つの処方箋を提案したい。両者は相矛盾するようにみえるかもしれないが、うまくいけば並行的に機能するはずだ。それは官僚の権威の回復と政党間競争の促進である。
日本の経済政策が90年代以降に一貫性を欠き効果を失った原因を問われたら、筆者は政党再編など政治の変動よりもむしろ、官僚の自信と正統性が失われたことを挙げたい。戦後期の巧みな経済政策を立案し実行してきたのは、結局のところ政治家ではなく官僚だった。かつての日本の官僚は公僕として強い職業倫理を持ち、短期的な政治の圧力からもある程度遮断されていた・・
その一方で日本は、政策論議に関しては、政党間の真剣な競争から得るものが大きいと考えられる・・
詳しくは、原文をお読みください。

私は、日本の官僚機構は、かつては効率的であったが、成熟国家においては、従来のままでは機能不全に陥り、変化しなければならないと考えています。よって、教授の説に全面的に賛成はしませんが、政治家と官僚がそれぞれ役割を果たすべきであるという点は、賛成です。もっとも、こう言ってしまえば、平板ですね。

復旧復興予算の執行

復旧復興が進んでいないという批判の一つに、予算が執行されていないという指摘があります。補正予算がどの程度執行されているか、各省の協力を得て、取りまとめました。平成23年度補正予算についての調べです。
何をもって「執行」というかは、いろいろな定義があります。建物が完成した時点、予算が支出された時点、契約が締結された時点、国から地方団体に予算が渡された時点などです。この調査では、国においてか所付けをした時点=地方団体が執行する金額が確定し、執行できる状態になったものを調べました。これより先の数字を調べようとすると、地方団体の協力が必要で、忙しい団体にさらに仕事を増やすことになるからです。
これで見ると、約55%が執行されています。予算額の多くを占める第3次補正予算は、11月に成立したので、それから数えると3か月経っていません。各省とも頑張っています。なお、例えば総務省は23%と低くなっていますが、復興特別交付税が3月に決定されるので、それが行われれば、一気に上がります。
進んでいない事業には、被災地での計画作りが進んでいない、住民合意が遅れている、専門職員が不足しているといった課題もあります。

職員の応援

総務省が、被災地への地方公務員の派遣数を公表しました。延べで7万9千人です。現時点で、約800人が派遣されています。これは、消防や警察を除いた地方公務員の数です。今回の被災地支援の特徴の一つが、職員の派遣です。当初は、避難所の運営などの応援が多かったのですが、現在では施設の復旧や復興計画策定の支援が多くなっています。
復旧復興を進めるには、施設の復旧の技術者や街作りの専門家が、必要です。被災地の市町村にはそのような専門家が少ない上に、何年分もの事業があるのです。国からも応援に行っていますが、他の自治体からの職員の応援も、さらに増やしてもらう予定です。全国知事会、市長会、町村会や、国土交通省、総務省が全国の自治体に呼びかけて、専門職員の派遣をお願いしています。
もっとも、応援に出す自治体も、職員に余裕があるわけではありません。各自治体も行革で職員数を削減していますし、専門職となると数も限られています。そもそも、自らの自治体の業務量に応じて職員数を確保しているのです。民間の技術者も、OB職員も、それぞれに仕事があります。お金を出せばたくさん集まるというものではありません。

ところで、今朝2月23日の朝日新聞が、現地で技術職員が不足していることを取り上げていました。指摘は正しいのですが、次のような記述がありました。
・・国交省は4月から技術系職員150人を被災地に派遣することにしたが、岩手県のある市幹部は「時期も遅いし、人数も一けた少ない」と冷ややかだ・・
このような発言が出るのは、残念です。上にも書いたように、それぞれの自治体や国も、職員数に余裕があるわけではありません。限られた職員、忙しい職員をやりくりして、支援しているのです。その事情を理解してほしいです。