「人生の達人」カテゴリーアーカイブ

成功には千人の父親がいる。だが、失敗は孤児である。

うろ覚えだったのですが、「成功するとたくさんの親が出てくるが、失敗するといなくなる」という表現を思い出しました。正確には何かと思って、インターネットで探したら、ありました。
アメリカのケネディ大統領の言葉だったのですね。
”Victory has a thousand fathers but defeat is an orphan.”
「成功には千人の父親がいる。だが、失敗は孤児である。」

だとすると、A・M・シュレジンガー著『ケネディ ― 栄光と苦悩の一千日』(1966年、河出書房新社。中屋健一訳)に出てくるのではないかと、探してみました。この本は、大学に入ってすぐの頃(1973年)、わくわくしながら読みました。ケネディ大統領暗殺は1963年で、まだつい最近のことでした。これは本棚の分かりやすいところに置いてあるので、すぐに取り出せました。
たぶん、ピッグス湾事件の失敗のあとだろうと当たりをつけて斜め読みすると、出てきました。上巻の304ページ下段でした。ただし、次のように訳されています。
・・・一方大統領は国務省の講堂で行われる記者会見へ出かけていった。ここで彼は、内幕の暴露ものを排斥した。「勝利には500人もの父が名乗りを上げるが、敗北は孤児である、という古い諺があります」(後になって私は、この適切な評言をどこから引用したのか、彼にたずねてみた。彼は驚いた様子で、あいまいにこういった。「さあ、知らんね。ただの古い諺だよ※」)・・・

英語版も、当たってみました。私が持っているのはペーパーバックで、Arthur M. Schlesinger Jr. 「A Thousand Days: John F. Kennedy in the White House」(2002年、Mariner Books)です。289ページに出てきました。
・・・”There’s an old saying that victory has a hundred fathers and defeat is an orphan.”(I later asked him where he had come upon this felicious observation. He looked surprised and said vaguely, “Oh,I don’t know;it’s just an old saying.”) ・・・

不思議なのは、※の出典についての注記です。日本語版では次の通り。
※ イタリアの外相でムッソリーニの女婿だったチアノ伯は、日記の1942年9月9日の項に、次のように書いている。「歴史の常で、勝利には百人の父親が名乗り出るが、敗北は孤児のまま取り残される」

英語版では、次のようになっています。
※ Emily Morison Beck,the editor of the new edition of Bartlett’s Familiar Quotatios,informs me that she knows of no previous use of this “old saying.”

と書きましたが、連載「公共を創る」第182回の注に書いていました。

電子決裁の限界、顔が見えない

私の勤務先である市町村職員中央研修所でも、電子決裁が進みつつあります。起案者は便利になります。ところが、決裁者には、少々困ったことが起きます。

その一つは、ちょっと聞きたいことがあっても、前に起案者がいないのです。画面を使って質問をするか、出かけていって聞くことになります。本質的な疑問なら、それをいとわないのですが、ちょっとしたことの場合は困ってしまうのです。私は、出かけていきますが、面倒な人はそのまま了解するのでしょうね。

もう一つは、職員と顔を合わす回数が減りました。大部屋なら、決裁や相談がなくても顔を合わせます。しかし個室では、案件がないと部下は来てくれません。
「いやな上司と顔を合わさなくてもすむからうれしい」という職員もいるでしょうが。上司としては、部下がどのように仕事をしているか、その状況を知りたいのです。職場は通信教育ではなく、決裁は送られてきた答案の採点ではありません。
この状況に、どのように対応するのか。考えなければなりません。

と書いたら、肝冷斎が「でも部下に決裁を投げつけようにも電子決済だ」(なので投げられない)と反応しています。そういえば、私の若い頃に、気に入らない決裁案だと決裁板を投げつける上司がいましたね。

悩みの原因、時間管理

5月10日の朝日新聞別刷りbe「フロントランナー」は、中島美鈴・臨床心理士の「夢かなえる「時間管理」」でした。詳しくは記事を読んでいただくとして。3ページ目の「精神論ではなく、仕組みを整えればいい」から。
ご本人が、発達障害のひとつ、注意欠如多動症(ADHD)と診断され、それに特化した認知行動療法と出会います。「考え方のくせ」ではなく、整理整頓や計画立てなどの「行動」と「環境調整」を訓練する内容でした。「困りごとに合わせて、仕組みを整える。できないのは、脳の特性が理由であって、その人が悪いのではない。そして、対処法がある」。それを、広めておられます。
ここでは「時間管理」と書かれていますが、私が言う「段取り」(「明るい公務員講座」)と共通するところがあります。

――なぜ、時間の管理に着目を?
自治体職員や大学の相談室、医療機関、主宰する心理相談所などで、心の悩みを聞く仕事を続けてきました。離婚、解雇、友達との絶縁などの困りごとって、実は時間管理が原因で起こることが多いのです。
例えば、遅刻が多い、書類が期限までに仕上げられないなどで解雇。生活リズムが整わず、家事や育児が回らなくて離婚。友達に借りたお金を返すのが遅くなったりLINEの返事が遅すぎたりして絶縁……。先延ばしや時間管理の問題で行き詰まっている人は多く、高学歴や、社会的に地位のある仕事をしている人たちにもいました。

――時間管理ができる人と、できない人の違いはどこにあるのでしょうか。
目に見えない「時間」という概念をあつかう時間管理は、脳の働きの中でも一番高度なものです。
時間管理は、脳の「実行機能」がうまく働くとできて、四つのステップがあります。まずは「スタートする」、次に「計画を立てる」。そして、時計などを見ながら「進捗をモニタリングする」。最後に「脱線を防止する」。この四つがすべてそろわないと、時間管理はできません。
ADHDの特性があると、この実行機能がうまく働かないことがわかっています。日常生活への支障が大きいと診断につながります。ただ、ADHDの場合、薬を飲んで集中力を増すことはできても、時間管理のように高度で複雑なはたらきを改善するには限界があります。
どこが苦手かは、人それぞれです。でも、どこでつまずいているかがわかれば、手を打つことができます。

――どのように対処するのでしょうか。
例えば、スタートが切れないなら、最初のステップを小さくします。計画を立てる時は、まず自分の時間を把握するところからはじめます。それから、やるべきことを書き出してToDoリストにしたら、それを何月何日の何時にやるのか、まで決めて手帳に書き込みます。未来の自分に予約を入れる。ここがすごく大事です。
やり始めたら、スマホのアラーム機能などを使って時間を確認します。脱線しやすい人は、カフェなど自分が集中できる環境で取り組むことも一つの方法ですね。
苦手なのは、性格ではなく脳の特性のせいですから、精神論ではなく、仕組みを整えればいいんです。「自分を責めないで」と伝えたいですね。

業績V字回復、社員に謝る

日経新聞私の履歴書、磯崎功典・キリンホールディングス会長の続き、第22回「ビバレッジ」から。

・・・ブラジルキリンの売却を進めながら、次の低収益事業とも向き合った。その1つがキリンビバレッジだった。
てこ入れのため、清涼飲料の巨人である米コカ・コーラグループと資本業務提携をする方針を2016年に打ち出した。・・・互いに株式を数%ずつ持ち合う案を軸に交渉が進んだが、ビバレッジの業績改善が前提である。もし再建が行き詰まれば、コカ・コーラ社に売却する「プランB」も頭の中にあった。

キリンビバレッジは1963年に設立された歴史ある会社だ。当初は「キリンレモン」、その後も「午後の紅茶」をはじめ愛されるブランドを多数世に送り出してきた。
だが上位競合企業と規模の差が大きく、長年の低収益体質も課題であった。私が社長についた15年の事業利益率は1%台という低水準にあえいでいた。グループ内で安住するような甘い意識を捨て、もっと厳しく収益性を追求しなければ未来はない。
社長には新たな人材を充てた。小岩井乳業の社長として実績を上げた堀口英樹氏が就任。広がりすぎた商品数を絞り込み、中核ブランドである「生茶」を刷新した。営業面では数量ばかりを追うのではなく、いかに安売りを避けるかに知恵を絞った。生産面においても急な増産にも柔軟に対応して欠品を回避したことが、業績回復を支えた。
こうした取り組みが功を奏し、16年に5.9%に急回復した事業利益率は年々上昇。19年には9.1%に達した。

何よりもビバレッジ従業員が「なにくそ、売られてたまるか」と奮起してくれたからにほかならない。結局は実現しなかったが、コカ・コーラとの資本提携案が新聞にスクープされたことで、売却されかねないとの危機感がさらに高まり、心に火をつけた。
ビバレッジの業績がV字回復した16年。グループで顕著な貢献があった組織や個人を表彰する制度「キリン大賞」に、同社が選ばれた。同社幹部が受賞のプレゼンテーションの最後に「コカ・コーラと売却交渉していた磯崎社長、みんなの前で謝ってください。私たちは頑張りました」。こう発言した。私はその場で「ものの見事に自分たちの力で再生してくれて大変うれしい。心からお礼とおわびを申し上げます」と頭を下げた。その時の受賞者の満足した顔は忘れられない・・・

まだ長い日本人男性の労働時間

5月6日の日経新聞経済教室は、柴田悠・京都大学教授の「日本人の休み方、人口構造の変化に遅れた対応」でした。詳しくは記事を読んでいただくとして、興味深い数字が行くも並んでいます。

・・・長時間働いていると生産性は低下する。豪セントラルクイーンズランド大のドリュー・ドーソン教授らの実験によれば、起床後5時間を超えると人間の認知的精神運動能力の成績は上がるが、13時間を超えると成績が下がり、「酒気帯び」相当の血中アルコール濃度での成績に匹敵するか、下回るほど落ちてしまう・・・

このあと、起床後に能力が上がり始めるのが遅いであろうことに留意すると「生産性を高く持続できるのはせいぜい8時間」との示唆が得られる、と書かれています。また、「脳機能を高く維持するには7時間睡眠が必要」という示唆も得られます。すなわち、生産的に働くには、「労働は8時間以内、睡眠は7時間以上」が重要です。

労働時間の長さではなく、時間当たりの生産性による人事評価へと転換する必要があるのに、日本は昭和の長時間労働の成功体験に引きずられたのです。生活時間調査によると、日本の正規雇用者やフルタイム労働者は、まだ平日に平均10時間の長時間労働をしています。欧米では8時間前後です。
1970~2015年の経済協力開発機構の分析によると、多くの国で年平均労働時間が減るとともに、労働生産性が上がっています。