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大学院春学期終了

日本大学法学部大学院での春学期講義が完了しました。講義では、社会のリスクと行政の役割を鳥瞰し、行政のリスク管理・危機管理の問題点を整理しました。
これまで、行政の危機管理に関する本をいくつか読んで、疑問に思っていました。私の経験に照らして、違和感があるのです。大災害にあった時と不祥事を起こした時を、一緒に論じるのは変です。危機の際の指導者論も不祥事の際のおわびの仕方も、それぞれ重要ですが、それは行政学の本筋ではありません。
県庁総務部長、総理秘書官、そして消防大学校の勤務を通して、いろいろ考えました。今回、講義の機会をいただいたので、今までの考えを整理することができました。このような「締め切り」が無いと、なかなか考えをまとめることができません。また、学生という「観客」兼「批評者」がいてくれると、独りよがりにならずにすみます。毎週土曜日におつき合いいただき、ありがとうございました。この後、レポートの採点が待っています。

多数負傷者事故、現場指揮訓練

今日は、消防大学校で、幹部科と警防科合同の、多数負傷者事故訓練を行いました。想定では、市民ホール(大学校の講堂)から火災通報があって、消防隊が出動します。実際に、消防車と救急車が、サイレンを鳴らし校庭を走って駆けつけます。
実は、観客の一人が「火事だ」とふざけて叫んで、出口に人が殺到して多数の死傷者が出ていたのです。しかし、現場は混乱して、その事態を把握することが難しいのです。関係者から事情を聞き、負傷者を運び出し、徐々に事態が把握できます。消防本部からは、登録された台帳を基に、ホールの概要などの情報も、現場指揮本部に無線で入ります。
とても手に負えないので、さらに救急車や医者の応援を求めます。次々と、車両がサイレンを鳴らして到着します。たくさんの負傷者を運び出し、負傷の程度で振り分け(トリアージ)、急ぎの人から病院に搬送します。受け入れ病院の手配も、大変です。全身を毛布で覆われた人形(死亡者)もあります。
ごった返しているところに、報道関係者が入ってきて、写真を撮ったり取材をしたりします。報道対応も、訓練の一つです。プライバシーの保護などもありますから、むやみに入られては困るのです。
今日は総勢117人の、大訓練でした。消防隊役と負傷者役に分かれて、繰り返します。部隊の指揮と運用、事態の把握、本部への報告と応援要請など、指揮者としての能力を磨くのです。1回目より2回目の方が、格段に上手になります。
夏の日差しの下での訓練で、大変です。水分補給も大切です。見ている私も、真っ赤に日焼けしました。首筋が痛いです。

ねじれ国会の下での政策実現

久しぶりに会った、政治部記者さんとの会話
記者:参議院選挙の結果、国会がねじれ状態になって、大変です。
全勝:そんなことはないよ。去年までも、ねじれだったんだから。与野党が入れ替わっただけじゃない。アメリカだって、大統領と国会がねじれることはしょっちゅうある。
記:いえ、衆議院で与党が3分の2を持っていません。
全:3分の2を持っていた時の方が、例外なの。
記:でも、法律が通りませんよ。
全:そんなことはないよ。1989年に、土井社会党が勝って、ねじれになった。それは大変な騒ぎだった。でも、予算は成立し、地方交付税法改正案も成立した。いろんな条件をつけてだけど(この経緯は、拙著『地方交付税-仕組みと機能』p70を参照してください)。その後も、1998年、2007年とねじれになった。でも、ねじれの下でちゃんと法律は成立してきたじゃない。自民党にも民主党にも、ねじれを経験した議員さんが、たくさんおられる。
あなたたちは「国会で十分議論を尽くして」と言うけど、衆議院も参議院も与党が多数なら、はじめから政府提出法案は成立することが見え見えで、議論にならないじゃないの。ねじれの時にこそ、国会の機能が発揮される。
記:消費税増税は、どうなりますか。
全:大きな課題の中で、消費税増税案が、もっとも成立しやすい。民主党内閣も野党第一党の自民党も、消費税値上げを主張している。マスコミにおいても、朝日、読売、日経3紙も賛成している。これほど成立しやすい課題はない。
記:そんなに簡単ですかね。
全:もちろん、手続は重要だよ。それに、与野党の駆け引きもある。そして、具体的内容もね。
記:どういうことですか。
全:それは、今日は内緒。

海賊絶滅のためのアプローチ

13日の読売新聞論壇は、竹田いさみ獨協大学教授の「ソマリア海賊対策」でした。ソマリア沖アデン湾での海賊対策のために、日本も海上自衛隊の護衛艦と哨戒機を派遣しています。第一次派遣部隊の出港式に、総理のお供をして呉までお見送りに行きました。寒い日でした。
これで1年経ちました。マスコミは、その活動ぶりを報道しませんね。
記事の内容は、海賊対策は効果を上げているのですが、海賊事件は増えているのだそうです。どうすれば事件をなくすことができるか。一つは、取り締まりを強化することです。もう一つは、発生原因を絶つことです。ソマリアで海賊が「稼業」として成り立っているのは、産業がなくほかに稼ぐ場所がないこと、政府が機能していないこと、沖合をたくさんの船が通るからです。それが解決しない限り、海賊はなくなりません。そこで、教授が国際会議で提案されたのは、産業振興です。なるほど。詳しくは、原文をお読みください。

科学外交、風土病対策

7月12日の日経新聞夕刊「人間発見」は、北里研究所の大村智名誉理事長でした。家畜の寄生虫を駆除する抗生物質を実用化して、世界のベストセラーになり、250億円の特許料収入を得たそうです。
それよりも、私が関心を持ったのは、その先です。その薬「イベルメクチン」は、人間にも効くことがわかりました。そしてアフリカのオンコセルカ症という、猛烈なかゆみや失明をもたらす病気を、抑えることができるようになりました。これで1億2千万人の人びとが、感染から守られたそうです。
先生は、次のように述べておられます。
・・最近、科学の力で世界に貢献する「科学外交」という言葉を聞きますが、イベルメクチンはその先駆けではないでしょうか。日本人の私たちが見つけた微生物がこの薬を生み出し、それが世界に貢献し、世界から評価されています。残念ながら、そのことが日本国内ではあまり知られていません・・
私も知りませんでした。このようなことを、もっと報道して欲しいです。マスコミでは、編集部のうちの何部の仕事になるのでしょうね。政治部や社会部は、国内を見ていますから。