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復旧での統計の活用・3

さて、統計は、何かの目的のために作られます。それは、現状を把握するため、あるいは課題を発見するためです。しかも、被災地が大変な状況になっている場合に、手間暇をかけて、また市町村役場に苦労をけるわけにも行きません。
例えば発災直後に、避難者の数を把握する必要がありました。これは、最低限の数値です。ところが、被災市町村は、避難者を数えている余裕すらありませんでした。どこにどれだけの避難所があるかも、把握できませんでした。僻地で孤立し、民家を避難所としていたところもありました。
そこで、私たちが使ったのが、毎日送っている弁当の数でした。これを3で割ることで(1日3食と仮定して)、おおよその数がわかりました。この中には、自宅にいるが、電気ガスが止まって食事ができない人も、含まれています。しかし、当時私たちが必要だったのは、どれだけの人が支援を求めているかでした。この数字で、まずは十分だったのです。
その後、避難所の生活環境を改善するため(温かい食事は届いているか、風呂に入っているか、トイレはどのような状況かなど)、避難所の実態調査をしました。これも、回答がない避難所もありました。それくらい大変で、回答などしておられなかったのです。しかし、これだけでも、おおよその状態はわかり、関係者にどこに力を入れなければならないかを理解してもらえました。

情報化社会を支える暗号

辻井重男著『暗号―情報セキュリティの技術と歴史』(2012年、講談社学術文庫)が、勉強になりました。私たちが「暗号」と聞いて思い浮かべるのは、軍事・外交での暗号です。第2次大戦での、ドイツのエニグマ暗号、日本の紫暗号など、その解読が戦争の勝敗を決めたという評価もあります。
そのような「暗い暗号」ではなく、近年は「明るい暗号」が社会で活躍しています。キャッシュカードの本人確認、インターネットでの本人確認、文書の本物であることの確認など、ITの発達・情報化社会で、秘密にする事柄と本物であることの確認作業が増えたのです。それを、「明るい暗号」が支えています。
公開鍵暗号」といいます。鍵を秘密にせず公開するのです。しかし、その鍵は本人しか開けることができません。う~ん、私には「たくさんの桁の数字の掛け合わせで暗号にし、それを元の(ある一つの)掛け合わせに分解できるのは本人だけ」としか理解できませんでした。パスポートやクレジットカードの署名(公開済み)と、本人が目の前で書く署名が合致しているかを確認する例が出ています。この場合は、コピーで直ちに複製ができてしまいます。それを数学で複雑にして、簡単には複製できないようにします。
個人情報や企業情報が大量かつ瞬時に交換され、しかも他人には見られないようにする。大変な技術が使われているのです。

復旧での統計の活用・2

岩手県では、復興計画の進行管理に当たって、「事業進捗」、「客観指標」及び「県民意識」に分けて調査し、管理しています。
すなわち、復旧の状況(アウトカム指標)として、主観的なものでは「県民(抽出)意識調査」と「復興ウオッチャー調査」を、客観的なものでは「インデックス調査」と「事業所調査」(後者は主観も含まれます)を行います。
事業の実施状況(アウトプット指標)としては、「事業進捗管理調査」を行っています。それぞれがどのような調査かは、ホームページで見てください。
これらを体系づけて、「いわて復興レポート」として公表する予定です(7月24日、専門委員会資料2-1)。
ここでは、アウトプットとアウトカムを区別し、さらにアウトカムについて主観的なものと客観的なものを区分して調査公表しています。
復興の現場でその度合いを見る場合には、「マクロな指標」と「ミクロな意識・感覚」の2つがあります。道路の復旧割合や鉱工業生産指数が前者であり、住民の満足度が後者です。前者は客観的ですが、後者は主観的になります。
たとえばマスコミ報道の場合は、この2者をどのように組み合わせるかが問われるのでしょう。
これに関連して、「地域の復旧」と「暮らしの復旧」という2つの視点があります。すなわち、インフラ、経済活動、サービス提供、さらには人口などの復旧指標が表しているのは、地域の復旧です。他方、個人や家庭の生活がどの程度復旧したかは、それぞれの個人の住宅再建、働く場の再開、収入と、教育や医療などの環境、ご近所とのつながりなどです。
これまで政府の統計などは、前者が主だったのではないでしょうか。もちろん、統計としては、提供者側の前者はとらえやすく、生活者側の後者はとらえにくいです。また後者には、客観的指標とともに主観的なものが大きくなります。
さらに、公共施設の復旧は行政の役割でしたが、個人の生活再建は個人の自己責任と考えられていたことも、その背景にあると思います。

栗田参事官の新著、新しい公共

復興庁の栗田卓也参事官が、岩波書店から『都市に生きる新しい公共』(奥野信宏先生と共著)を出版しました。前著『新しい公共を担う人びと』に続く第2弾です。
以下、著者に聞いた概要を、転記します。
・・ここで「新しい公共」とは、公共心を持って社会で必要とされるサービスを提供する活動や活動主体、それらの意義を評価する価値観を指しています。東日本大震災の被災地では、市民ボランティアやNPO法人の生活支援活動以外にも、復旧・復興のための志ある資金の提供、被災企業の立ち上げ支援など、人の繋がりに支えられた新しい公共の多様な姿を見ることができます。
わが国では、人口減少と高齢化が進む中で、先進国に相応しい安定感ある社会の構築が求められています。その鍵を握るのは、新しい公共の育成だと考えます。
前著では、主に地方圏での取組みを紹介しました。新著では、都市圏に息吹く新しい公共の担い手の取組みの実例をもとに、それらが都市の魅力をどのように創出し、豊かで安定感ある都市と地域社会の形成に寄与するかを分析しています・・
ご関心ある方は、ぜひお読みください。
栗田参事官は、復興庁で忙しく仕事をしながら、東京大学公共政策大学院へも特任教授として講義に行っています。その精力的かつ多面的な活動に、脱帽します。

文科省の自己検証

7月27日に、文科省が大震災対応について、第2次の自己検証を発表しました。「SPEEDI の計算結果の活用・公表」や「学校給食の安全・安心基準の発表」などについての検証です。文科省は、平成23年12月22日に第一次の検証結果を発表しています。その際は、緊急時対応体制をテーマにしていて、今回の報告書には、その教訓を踏まえた今後の取り組みも載っています。