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全頭検査の安全神話とコスト

食品安全委員会が、「BSE(牛海綿状脳症)の検査を、これまで月齢20か月以下は不要としていたものを、30か月以下まで検査不要とする」決定をしました。専門家の研究の結果、BSEは若い牛では発生しないことが確認されたからです。
11月11日の毎日新聞オピニオン欄が、「牛全頭検査は必要か」として、有識者の見解を載せていました。吉川康弘千葉科学大学副学長の発言から。
・・私たちは多くの情報を得た。第1に、BSEの封じ込め対策として国際的に採用された「特定危険部位の食用及び飼料への利用禁止」は効果があった。その結果、BSEの発生件数が激減し、リスクが減少した・・
2002年1月に生まれた牛を最後に、BSEが陽性の牛は1頭も出ていない。対策が有効に働いたのは明らかだ・・
日本も「汚染が止まった」という認識に立ってリスク評価を改め、それを消費者に丁寧に説明すべきである・・

次に、牛の全頭検査です。「20か月以下の牛について検査は不要」と決めたのは平成17年です。ところが、国内では、自治体がこれらについても検査を続けています。全ての牛を検査しているのです。有路昌彦近畿大学准教授の発言から。
・・食品安全委員会の答申は、科学的な手順で厳密に分析されたものだ。日本の食肉市場はようやく、元の健全な状態に戻る足ががりを得たことになる。
ところが、科学的に月齢条件の正常化がなされたにもかかわらず、今なお「国産牛肉は全頭検査を行っているから安全だ」という考えがみられる。これは、検査に対する誤解が、国民の間に根強く残っていることの表れだ。
感染リスクの削減に直接的な効果があるのは、脳や脊髄など特定危険部位(SRM)の除去と飼料規制であって、検査ではない・・
国内では現在、危険部位の除去も飼料規制も十分に行われており、「全頭検査を行っているから安全」という論理に科学的根拠はない。にもかかわらず、そのことが国民に十分に伝わっていない。全頭検査で安全性が担保される、という「神話」が広がっているのだ。
背景には、大きく二つの要因があるように思われる。一つは、リスクに関する理解が十分でないことだ・・
全頭検査への「神話」が広がったもう一つの要因は、費用への感覚の欠如である。全頭検査にはこれまで、多めに見積もって1000億円近い経費がかかり、さらに数百億円の人件費がかかったと推定している・・費用は税金から支払われているため、消費者は負担の感覚を持ちにくい・・

食品安全委員会は「・・既に20か月齢以下の検査は不要とされているにもかかわらず、地方自治体において、消費者の不安を重く受け止めて全頭検査を実施し続けているのだとすれば、当委員会としても、引き続き、広く国民に対して科学的な情報を十分に提供する努力が必要と考えています」と述べています(Q&A問4)。

復興状況パンフレット

復興の進捗状況について、これまで「復興の現状と取組」を公表してきました。今回、より簡単でビジュアルなパンフレット「東日本大震災からの復興状況」を作りました。増し刷りしますので、必要な方は注文してください
復興庁は少人数の組織ですが、職員が次々とアイデアを出して、新しいことをやってくれます。ホームページの「新着情報」と「トピックス」も、日々新しいニュースで満載です。
新しい組織なので、いろんなことに挑戦できます。これまでにない仕事と組織は、「行政のフロンティア」です。人数が少ないことは、一人あたりの仕事量が多いということですが、それだけやりがいがあります。また、大部屋でフラットな組織なので、若い職員の意向がすぐ幹部に伝わります。新しいことに挑戦してくれる職員が多いことは、ありがたいことです。

リーダーに求められる資質

11月26日の日経新聞グローバルオピニオン、ダミアン・オブライエン氏(スイスの人材コンサルティング会長)の発言「企業リーダー早期に選べ」から。
・・欧米には「CEO(最高経営責任者)はユニークアニマル」という表現がある。企業に限らないが、組織のトップに立つ人間には、他のポストとは違う独特の資質や姿勢が必要だ。あえて言えば、CEOに向いている人と向いていない人がいる。
例えば、CEOは底抜けに楽観的な性格の持ち主であったほうが良い。どんな難局に臨んでも、「何とかなる」という前向きな気持ちを失わず、組織を引っ張らないといけないからだ。異質な人材や異質な意見を受け入れる度量の広さも必要だ。多様な人材をうまく生かすことは、企業がグローバル競争するうえで欠かせない。
自分を犠牲にしてでも、組織に尽くすメンタリティも求められる。リーダーに私心があってはならない。さらには孤独に耐えて決断を下す心の強さも必要だ・・
日本企業は改革を進めるとは言うが、人事システムのような内部慣行はあまり変化していない・・だが、現状がうまくいっていないのなら、従来のやり方は変えないといけない。米欧の企業経営は、過去20年で大きく進化した。次は日本が変わる番である・・
詳しくは、原文をお読みください。

復興推進会議、特会予算の絞り込み

今日、復興推進会議(閣僚等会議)で、「今後の復興関連予算に関する基本的な考え方」を決定しました。これは、「復興財源が被災地に関係の薄い事業に使われている」との批判を受けて、決めたものです。
「東日本大震災からの復興の基本方針」では、(イ)被災地域の復旧復興事業、(ロ)被災地域と密接に関連する地域の事業、(ハ)全国での事業の3つが掲げられていましたが、今後は原則イだけを「復興特会」に計上することにしました(少し例外あり)。今年度予算であっても、停止できるものは、執行を停止します。
今回批判を受けた「被災地域外での事業」(ロやハの事業)であっても、国としては必要と判断したものです。ただし、それに、国民に増税をお願いした復興財源を使うのがよいかどうかという判断です。
ある記者曰く「事業の善し悪しの仕分けではなく、復興特会か一般会計かの会計の仕分けですね」と。また、「よく現年度予算を止めることができましたね。前例はあるのですか」という質問もありました。
決定の中で、「復興基本方針」については、「上記の考え方を反映させるなど、これまでの被災地の状況の変化などを踏まえた必要な見直しを、平成25年度の予算編成と併せて行うものとする」と決められました。
現在の「復興の基本方針」は、平成23年7月に決めたもので、まだ発災後4か月の時点でした。がれきの片付け、インフラ復旧、産業の復旧、仮設住宅建設が大きな課題だった時期です(時間が経つのは早いですね)。そこで、今回の改定は、次のような考えに立って行うことになると考えています。
1)1年半が経って、多くの分野でそれなりの復旧が進んだことを踏まえる。
2)代わりに、課題が明らかになり、絞られてきました。津波地域の復旧と住宅建設、原発汚染地域の復旧、長期避難者対策です。これは、復興推進委員会の中間報告でも指摘されています。
3)そして、今回の「予算の絞り込み」です。
また、「復興関係予算の事故繰り越し手続きの簡素化」が、公表されました。23年度補正予算は、年度の終わり近くになって成立しました。事業を実行する日数が短かったです。そこで多くの事業で、「明許繰り越し」という制度を使って、24年度に事業をしても良いとしました。しかし、なお完成せず、25年度に延びる事業があります。「事故繰り越し」という制度があるのですが、手続きが面倒です。
それを、財務省が、きわめて簡単にできるようにしてくれました。もちろん、公金なので、それなりの理由と説明は必要です。これで、関係自治体は安心して事業ができると思います。詳しい手続きは、追ってお知らせします。

海外で身を守る

11月11日の日経新聞「暴動・テロから身を守るには」。
喜多悦子・日本赤十字九州国際看護大学学長の発言から。
「海外で日本人が巻き込まれる事件や災害が続発しています。危機に対処する上での心構えは」という問に対して。
・・心配性であることだ。危険な経験はしないに越したことはない。ただ、危険を避け、起きた危機から迅速に脱出するには、ある種の敏感さが必要だ。動物的な感性と言ってもいい。平和な時代が長く続いた結果、今の日本人はそうした感性が鈍くなり、あまりに無防備になっている。海外では「事態は自分の願う方向にはいかないかも」と考える、ある種のネガティブ思考が必要だ。今の日本人は、逆に善意と楽観的見方でものを考えてしまいがちだ・・
小島俊郎・日立製作所リスク対策部長の発言から。
「企業にとっての海外でのリスク管理の要諦は何でしょうか」という問に対して。
・・いい意味で臆病であることではないか。臆病を表に出しては困るが、慎重に行動するようになるし、情報を集めるためにアンテナを高くできる・・
「あるべき体制は」という問には。
・・本社の危機管理組織は「トップに直結したシンプルな組織」が理想的だ。そうした体制なら、必要な情報が必要な人に必要なタイミングで届き、的確な対応がとれる。
一方で、危機管理で最初から満点を狙うのは非現実的だ。危機時には、顧客、従業員とその家族、株主、地域社会や行政など多様なステークホルダーが十分納得してくれる体制を築くことを目指したい。それができれば、結果的に完璧な危機対応ができなくても、関係者には「やむを得なかったな」と思ってもらえる。満点は取れなくても、合格点はとれる・・