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連載「公共を創る」第234回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第234回「政府の役割の再定義ー「内閣官僚」の育成を」が、発行されました。前回から、内閣官房職員育成の問題を議論しています。

国家公務員は政府に一括して採用された後に各府省に配属されるのではなく、試験の合格者名簿等から各府省で採用され、そこで昇進し、やがて退職します。それに対し内閣官房は、独自に職員を採用して育成する仕組みを採ってません。各府省から派遣されている「出向職員」で構成されています。仕事が終わると、あるいは一定期間(多くは2年程度)が過ぎると、親元(本籍の府省)に戻ります(なので、一部の職を除いて職員採用のホームページや職場紹介のパンフレットもないようです)。

企業に例えれば、各省という事業会社(子会社)の上に、内閣という持ち株会社(ホールディングカンパニー)があるような姿です。そして、各子会社で社員(職員)を採用し、持ち株会社には子会社社員(職員)がその都度出向しているようなものです。
ところが、内閣官房の仕事は、各府省で行っている仕事とは、進め方などが異なっています。各府省での仕事の多くは、法令の運用や予算の執行など決められたことを実施する事務です。ところが、内閣官房での仕事は首相などから下りてきた新しい課題であり、前例通りや単なる運営改善では済まないことが多いのです。

私は旧自治省に採用されたのですが、官僚生活の後半は、省庁改革本部、首相秘書官、復興庁と、内閣の下やその近くで仕事をすることが多かったのです。それぞれに大変な仕事でしたが、政策の新しさと大きさと、そして首相の肝煎りという難しさは、やりがいでもありました。
私は、「内閣官僚」といった集団をつくるべきだと考えてきました。といっても、内閣官房で職員採用をするのではありません。官僚には専門性が必要です。内政、外交・安全保障、社会保障、経済・産業といった各分野での専門家が要請され、「何でもできます」という人材はあり得ません。内閣官房で採用して育成する方法では、機能しないのです。他方で各府省からの2年程度の期間の出向では、親元の方ばかりを見てしまいます。
職員は各府省で採用して育成しますが、若いときから内閣官房などに出向経験をさせ、その中から適性のある者を内閣官僚として転籍させるのです。

中国、官僚主義を批判し指導

8月26日の日経新聞に、「中国・習近平指導部、地方の形式主義にメス 「公文書は5000字以内」」が載っていました。文書作成の手引きや事務の簡素化なら、拙著『明るい公務員講座』を配れば良いと思います。翻訳して出版してくれないかなあ。

・・・中国共産党の習近平指導部が地方政府ではびこる形式主義への警戒を強めている。冗長な公文書の作成や無駄な会議が現場の負担になっているとして、8月に入って是正を指示する通知を出した・・・

・・・特にやり玉に挙げたのが公文書だ。「年間の発行数は前年より減ることはあっても増やしてはならない」と強調し、増やす場合は書面で理由を説明するよう義務付けた。
文書1件あたりの文字数も原則5000字以内に収めるよう求めた。内容は「冒頭から本題に入る」べきだとし、文体についても「簡潔で、実用的でなければならない」と明記した。政策を提案する際は「背景などの説明までは必要ない」と断じた。
会議の開催に関しては「一つの領域で包括的な会合を開くのは原則年1回」「責任者のスピーチは1時間以内に収めるべきだ」と定めた・・・

・・・中国当局は2024年夏にも同じような規定を公表した。改めて「規定を厳格に執行するように」と通知した背景には、形式主義が依然はびこる現実がある。
国営新華社通信によると、東北部・黒竜江省綏化市は7月、市の公安当局が現場の職員に、評価のために大量の参考資料を提出するように要求しており、これが本来業務の妨げになっていると批判を受けた。
必要な資料として要求されたのは、会議を開いた証拠写真や宣伝文書、携帯電話のスクリーンショットなど多岐にわたっていた。評価の結果は毎月ランキング付けして公開されるため職員らも提出しないわけにいかず、大きな負担になっていたという・・・

埼玉県職員研修講師

今日9月10日は、埼玉県職員研修のため、さいたま市浦和まで行ってきました。研修は「リーダーシップ・トレーニング」で、参加者は県職員(主幹級・主査級)の計12人です。10時半から16時半までの長丁場でした。
私の役割は「自治体職員のリーダーシップ」を講義することですが、講義だけでは参加者も飽きるでしょう。そこで、主催者と相談して、午前中は講義、午後は班別討議(2題)と質疑にしました。

管理職や管理職を目指す人たちの研修でなく、主幹級(課長補佐)や主査級(係長)から選ばれた12人に、リーダーシップを講義するのです。主催者と何度もやりとりをして講義の内容を固め、また班別討議の設問も一緒に考えてもらいました。
班別討議は、予想以上に盛り上がりました。そのために工夫もしたのですが。反応が良いと、やりがいがありますね。
彼ら彼女らが、さらに経験を積み、視野を広げて、立派な幹部になることを期待しています。

補足 新聞を読むことの意義は「新聞の役割」をご覧ください。

地方版ハローワーク

8月23日の日経新聞に「地方版ハローワーク、女性や高齢者の働き手発掘 就職率は国を上回る」が載っていました。これまで地方自治体の関与が少なかった(できなかった)分野の一つが労働政策です。

・・・自治体が運営する無料の職業紹介所「地方版ハローワーク」が眠れる働き手を発掘している。5月時点で全国に992カ所あり、島根県は県と全19市町村が設置する。地域課題を解決する自治体の政策と連動した職業紹介で、働く意欲のある高齢者や女性、障害者らの背中を押す。就職率は2019年度以降、国のハローワークを上回る。

地方版ハローワークは、地場産業の振興や介護・福祉の人手不足解消、移住促進といった地域課題を解決する政策の効果を高めるため、自治体が独自に職業紹介する。
地域のニーズをきめ細かく吸い上げて雇用に結びつけ、23年度の就職率は全国で31.3%。民間の職業紹介が存在感を増し、就職件数の減少が続く国のハローワーク(26.8%)より4.5ポイント高い。
都道府県別に自治体の設置割合をみると、島根県が100%で最も高く、鹿児島県の65.9%、大阪府の61.4%が続く。

島根県益田市は介護現場の課題解消をめざし地方版ハローワークを活用する。高齢者福祉課が実施する入門研修やUIターン人材への働きかけと並行し、課内に設置した「無料職業紹介所」が介護の周辺業務の求人と求職者をマッチングする。
施設の部屋の清掃や食事の片付け、利用者の話し相手など、資格が不要な周辺業務を担う人材を多数確保することで、資格のある職員が食事や入浴の介助、専門的な知識の必要な業務に集中できる環境を整えるのが狙いだ。
経験や年齢、勤務時間、資格の制限を設けず「介護お助け隊」として募集したところ、4年間で延べ97人が登録し、43人が職を得た。24年度の就職率は50%だった。
益田市は広報紙やチラシのほか、介護保険や家族の介護の相談で市役所を訪れた高齢者らに地方版ハローワークを紹介して周知してきた。「普段から足を運ぶ市役所の窓口に開設したことで、働きたくても一歩を踏み出せなかった高齢者のニーズを掘り起こせた」(高齢者福祉課)・・・

・・・中央大学の阿部正浩教授は地方版ハローワークについて「地域の課題やニーズをくみ取る自治体の施策に合わせた活用は効果が期待される」と評価する。
そのうえで「高齢者や女性の就職支援は国のハローワークも力を入れ、人材を奪い合う構図もある。地方版の一部は開店休業状態だ。地域の事情を詳しく知る強みをマッチングに生かすことが、地方版にはさらに求められる」と話している・・・

朝日新聞福島総局勉強会

今日は、朝日新聞福島総局での記者勉強会に、福島市に行ってきました。
頂いた主題は「復興政策の理想と現実」で、「巨大津波と世界最悪級の原発事故に見舞われた地域の復興に対し、政策をつくる側は何を考え、どう地元と対話し、どのような復興を目指したか。そして現実はどうだったか。できたこと、できなかったこと、今後どうあるべきかなどについて解説する」です。

発災以来すでに14年余りが過ぎました。当時のこと知る記者も少なくなり、若手記者は体験していません。時間とともに記憶が薄れることは仕方ないことであり、人間の脳にとって必要なことです。しかし、現状を分析し、何がうまくいっていて何がうまくいっていないか。それを記事にするためには、これまでの経緯も知っておく必要があります。
復興庁は、なるべく記録を残し、ホームページに載せることに務めてきました。また、それだけでは当時の意図や苦労がわからないので、関係者から聞き取りをして残すこともしています。私自身も、書物や新聞の取材に答えることで、残し伝えることを心がけてきました。(私の所管ではありませんが、新型コロナ感染症対策では、どのように記録は残っているのでしょうか。)

私も担当を離れて5年が経つので、改めて保管してあった資料(かつて使った講演資料など)を引き出し、講義資料を整えました。電子媒体は便利ですね。ところが、どこにどんな資料を保管したか(講演で使ったか)がわからず、講義資料の半封筒の紙資料を見て、整理しました。あわせて、これを機会に、半封筒の紙資料は捨てました。

勉強会は、前半を大震災全体、主に津波被害とし、後半を原発被害としました。そして、記者の関心に応えるため、質疑の時間をたっぷり取りました。
約20人の方が出席、5人の方がオンラインで参加でした。さすが第一線で活躍している記者たちです。鋭い質問がたくさん出ました。このような形でお役に立てるとは、うれしいです。