北欧の従業員の学び直し

日経新聞が12月5日から「成長の未来図・第3部 北欧の現場から」を連載していました。第1回は「北欧起業圏「自らを再生する街」 救うのは企業でなく人」、第2回は「「古いままが最も怖い」 デンマークの元祖リスキリング」でした。

北欧諸国は、規模も大きくなく、自然環境にも恵まれた方ではありません。しかし、だからこそ、さまざまな挑戦を行ってきました。福祉は有名ですが、経済においてもです。
この二つの記事にあるように、会社が倒産する危機になっても、政府は救いません。生き残ることができない企業に見切りをつけ、新しい企業や事業に従業員が移ることを支援します。そして、国民もそれを受け入れています。
第2回目の記事には、失業対策として、また失業してなくても、学び直しに取り組む姿が描かれています。
4時に仕事を終わらせて、勉強会に参加している人への質問です。・・・ポールセンさんに職歴を聞くと「47歳だけどまだ2社目」という。少し恥ずかしげに答えたのは「よい仕事を得るためなら何度でも転職するのがごく自然」だからだ・・・

そして、国民の幸福度も高いのです。

トルコの若者、経済成長知らず不満

12月7日の日経新聞に「トルコ与党、若者の支持離れに苦慮 経済成長知らず、不満募る」という記事が載っていました。

・・・11月に政権樹立から丸20年を迎えたトルコの与党、公正発展党(AKP)が有権者の支持離れに苦慮している。80%を超える高インフレに加え、過去のめざましい経済成長を知らない若者の不満が強く、2023年半ばに予定される選挙ではエルドアン大統領の再選も予断を許さない・・・
・・・イスタンブール経済研究所の11月調査によると、トルコの将来に「不安」を抱く人は年齢別で18~24歳の若年層が最も多く、58%に上った。反対に「希望」(18%)や「誇り」(9%)を持つのもこの若年層が最も少なかった・・・

・・・AKP政権下でトルコの1人当たり国内総生産(GDP)は3000ドル(約40万円)台から13年までに1万2000ドル台と約10年で3倍超に増えた。全国に空港や大学ができ、医療へのアクセスも大幅に改善するなど国民は成長を実感した。だが近年は1人当たりGDPは1万ドルを割り込む。
AKP政権でいったんは前進したようにみえた民主主義も近年は後退が著しい。英国の調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が公表する民主主義指数でトルコは13年ごろから年々、スコアを低下させている。

しかし、人々に不自由を感じさせるだけの欧米的な自由主義を浸透させたのも現政権の功績といえる。AKP政権以前のトルコでは世俗主義の守護者を自任する軍が強い力を持ち、人口の大半を占める敬虔なイスラム教徒が抑圧されていた。イスラム主義を掲げるAKPも裁判で違憲とされた・・・

連載「公共を創る」第138回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第138回「「ガバナンス改革─行政改革の分類」が、発行されました。
前回に続き、1990年代と2000年代に行われた行政改革の項目を説明しています。今回は、「官の役割変更・経済活性化」として、会社法改正、事前調整から事後監視へ、行政機関の改廃、規制手法の変化を取り上げ、「ガバナンス改革」として、公開と参加、訴訟手続きの改革、政治主導、公務員制度改革を取り上げました。

こうしてみると、これまでにない大きな改革が、たくさん行われたことが分かります。原稿を書いていて、改めて思い出し、大きな改革が続いたことをかみしめています。前後を経験した官僚の一人として、1990年代と2000年代の改革によって、行政はそれまでとは別の「世界」になったと思います。

私にとっては、これらの改革は参画した仕事であったり動きを見ていた改革で「同時代史」ですが、若い方には歴史に属することでしょう。しかしまだつい先日のことなので、学校でも職場でも、教えてもらっていないと思います。研究者が、わかりやすい本を書いてくださることを期待しています。

年内の発行は、これで終わりです。右筆と二人三脚で、今年も乗り切ることができました。新年の発行は、1月12日号からです。

政策転換の評価

12月7日の日経新聞経済教室「原発政策の行方」、橘川武郎・国際大学副学長の「現政権、「政策転換」には値せず」から。

8月のGX実行会議での岸田文雄首相と西村康稔経済産業相の原子力に関する発言を巡り、一部メディアが「原子力政策を転換した」と大きく報じた。。岸田政権が原子力政策の遅滞解消に向け年末までに政治決断が求められる項目として挙げたのは、(1)次世代革新炉の開発・建設(2)運転期間延長を含む既設原子力発電所の最大限活用――の2点だ。
特に注目されたのは(1)だ。「原発のリプレース(建て替え)・新増設はしない」という従来方針を転換し、次世代革新炉の建設に踏み込んだと評価された。

本当にそうなのか。結論から言えば、政策転換と判断するのは時期尚早だと考える。そう考える根拠としては、第1に誰(どの事業者)が、どこ(どの立地)で、何(どの炉型の革新炉)を建設するのかについて全く言及がない、第2に肝心の電気事業者の反応が冷ややかで、国内での次世代革新炉の建設について具体的な動きを示していない。
これまで政府がエネルギー政策を本気で転換した時には、それに先行して政策転換につながる電気事業者の具体的な動きがあった。
例えば2020年10月に菅義偉首相(当時)が50年までにカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)をめざすと宣言した時は・・・
だが今回は様相が違う。次世代革新炉の建設といっても、それと共鳴する電気事業者の具体的な動きはない。三菱重工業が発表した次世代加圧水型軽水炉「SRZ-1200」の開発プロジェクトに関西電力など電力4社が協力することになったが、これはあくまで「開発」をめざすものであり「建設」までは視野に入れていない。実際に建設となれば中心的な当事者になるはずの関電の森望社長は最近のインタビューでも、既設の7基体制を将来にわたり維持すると述べるにとどまっている。
「誰が、どこで、何を」という具体的な言及がないのは、こうした事情を反映したものとみられる。

意味の世界に生きる人間

ピーター・バーガー著『聖なる天蓋 神聖世界の社会学』(2018年、ちくま学芸文庫)を読んでいます。
宗教の持つ機能を知りたくて、これまでにいくつか本を読んだのですが、私の関心に合う本は見当たりません。この本が、私の疑問に答えてくれそうなのです。
文章は平易なのですが、内容が高度に抽象的でもあり、なかなか先に進みません。このような深い意味のある本を、布団の中で読むことが間違いです。昨日読んだところは何が書いてあったかと振り返る必要があり、少しずつしか進まないのです。
とはいえ、一気に読み通せる内容ではありません。で、途中で考えたことを、書き留めておきます。

宗教は世界の成り立ち(ときには宇宙や死後の世界も含めて)を説明してくれます。それが、社会に秩序をもたらし、個人に居場所と生きる意味を与えてくれます。

p105 「神義論が第一義的にもたらすものは、幸福ではなく、意味なのである」
キリスト教にしろユダヤ教にしろ仏教にしろ、生きていく際の苦しみ(生命、病気、貧困、差別、家族との軋轢)などを緩めてはくれません(貧しい信者に「もっと喜捨をせよ」とか、聖戦と称して命を差し出すことを命じることすらあります)。しかし信者は、教えを信じることで生きる意味(場合によっては、生命を差し出す意味)や安心を得るのです。
宗教が与えてくれる意味の世界は、利害得失の物差しとは違う基準ですから、異教徒には理解できないものです。

ではなぜ、生きる意味を求めるのか。
一つには、「なぜ私はこの世に生まれてきたのか」「私の生きる意味は何か」「なぜ人は死んでいくのか」「死んだら私はどうなるのか」という「意味の世界」に人は生きているからです。自然科学は、どのようにして人が生まれ死ぬかを説明してくれますが、その意味は説明してくれません。
もう一つは、苦しいことや困った事態に出会ったときに、人はその緩和を求めます。しかしそれが実現しない場合に、その説明やよりどころを求めます。それぞれに理由はあるのですが、納得できないこともあります。その場合に、それを宗教は説明してくれるのです。それは時に本人の力不足であったり他人の方が条件がよかったりするのですが、それを認めたくない場合は、前世からの報いであったり、世界の秩序が理由となります。
苦しみや困った場合でなくとも、御利益を期待して神に祈る場合もありますが。