国民の期待値の低下

安倍内閣の成長戦略評価」の続きです。

・・・それでも、多くの人がこの時代を「評価する」としているのは、長年にわたり一国のリーダーとして重責を担った首相が病で退任することへの同情があったのかもしれない。しかし、より本質的な理由は、バブル崩壊以来30年、数々の国難を経て、「日本人の経済・社会に対する期待値が下がってしまった」ということなのではないだろうか。
実際、賃金は上がらないと思っている若い人は多い。人口は減るし、日本はジリ貧だという感覚は、今や広く蔓延しているようだ。

こうした中で求められるのは、長期的な観点に立った経済政策である。コロナ対策も例外ではない。足元の対策だけでなく、長期を視野に入れねばならない。アベノミクスも、もともとは第3の矢「成長戦略」が本命だったはずなのに、矢は的に届かなかった。
規制改革がいかに社会を変えるかは、「ビザ要件の緩和」などにより外国人観光客が激増したことを見れば明らかだ。「働き方改革」「女性活躍」の旗もあるべき方向を示したが、残念ながら道半ばである・・・

前回引用した「成長戦略評価」は政府の業績評価であり、今回引用した「国民の期待値の低下」は国民の側の問題です。それぞれ大きな問題ですが、政府の業績は、担当者たちを代えれば改善できます。他方で、国民の意識の問題は、そう簡単に変えることができません。より困難な問題なのです。
私の連載「公共を創る」では、政府や行政の問題を議論する際に、このような国民の意識や社会の仕組みの側の変化と問題を取り上げています。

歩きスマホ実態調査

歩きスマホの実態調査があることを、教えてもらいました。インターリスク総研のリサーチ・レター<2020 No.2> 「歩きスマホに関する実態と意識について~アンケート調査結果より」(2020年8月3日)。損害保険会社のシンクタンクが調査したのは、歩きスマホが通行の妨げとなるにとどまらず、死亡事故等重大事故の原因にもなっているからです。「報告書

この調査では、「歩きスマホ」とは、スマートフォンの画面を注視しながら歩いている(周囲が見えていない)状態のこです。画面を見ずに音楽を聴いたり、通話をしたりする(周囲が見えている)状態は除きます。

スマホ保持者の中で、歩きスマホを行う人が約60%、行わない人が約40%です。行う人の内訳は、ほぼ毎日が16%、週に数回が13%、急用など月に数回が30%です。
場所(複数回答)は、一般の歩道(横断歩道以外)73%、駅以外の建物内通路35%、駅のホーム32%、駅の構内(ホーム以外)26%、横断歩道15%です。危険な場所であると言われる「駅のホーム」や「横断歩道」での歩きスマホも結構あります。
自分が歩きスマホをしていて、または他人が歩きスマホをしていて、他人との接触経験のある人は30%を超えます。その中には、けがをした人、相手をけがさせた人、持ち物を壊した人、壊された人がいます。

歩きスマホを行う人のうち80%を超える人が、歩きスマホは「問題のある行為」だと認識しています。しかし、習慣化していてやめられない、多くの人が行っているから構わない、他人に迷惑をかけない自信があるから構わないと答えています。
スマホ保持者の中で、歩きスマホに対しペナルティの必要性を感じる人は、約90%です。

安倍内閣の成長戦略評価 

10月4日の読売新聞1面「地球を読む」は、吉川洋・立正大学長の「アベノミクス後 成長戦略 矢は届かず」でした。

・・・読売新聞が9月上旬に行った世論調査では、安倍内閣の実績について、「大いに」と「多少は」を合わせて、実に74%の人が「評価する」と答えた。支持率も前回8月7~9日の37%から52%へと、15ポイントも上昇した。記事には「首相の辞任表明後、支持率が大幅に上昇するのは、過去の内閣と比べても異例だ」とのコメントが添えられていた。
アベノミクスの下で、日本経済の実績はどうだったのか。残された数字は、世論調査の結果と必ずしも平仄が合うものではない。 日本経済は、2012年11月を景気の「谷」としてその後「拡張期」に入った。その1か月後に誕生した第2次安倍内閣は、景気が上り坂に入ったその瞬間に誕生したのだから、こと経済に関する限り、運のよい内閣だったのである。

それでも、12年10~12月期から、新型コロナウイルスの感染が拡大する直前の19年10~12月期まで、7年間の実質国内総生産(GDP)成長率は年率平均0.9%と、1%に届かなかった。身近な個人消費の平均成長率は0.04%と、ほぼゼロ成長である。
同じ期間、世界的に経済の「長期停滞」が語られる中でも、米国の消費は平均2.7%伸びた。悪いと言われていた欧州連合(EU)でも消費は平均1.4%のペースで増えた。日本の消費ゼロ成長は、先進諸国の中で際立って悪い・・・
この項続く

仕事人。輸入した外車を運ぶ

9月28日の朝日新聞夕刊「凄腕しごとにん」は、小田巻幸子さんの「整備工場まで運んだ新車、約37万台」です。
輸入した外車を、陸揚げした港の埠頭から、整備工場まで一台一台、運転して運ぶのが仕事です。それだけ聞くと簡単なようですが、そうではないのです。何が大変か。記事をお読みください。

さらに、次のような工夫もしておられます。さすが仕事人。
「新車を傷つけないよう、外側にファスナーの金具やボタンがない制服を着用している。面ファスナーで止めたり、生地の中にボタンをしまったりしている。夜間の事故防止のため、反射材も縫い付けてある」

内閣官房の肥大化

9月29日の朝日新聞に、「内閣官房「分室」、安倍政権で40に膨張」が載っていました。
・・・安倍政権で目玉政策が打ち出されるたびに、省庁横断的に対応するため内閣官房に設けられてきた「分室」が過去最多の40にまで膨れあがっている
・・・分室は、法律や閣議決定などに伴い、特別職の官房副長官補がトップを務める内閣官房副長官補室(通称・補室〈ホシツ〉)の下に置かれる。内閣官房に与えられている総合調整の機能を使い、複数の省庁にまたがる重要政策に対応しやすくするのが役割だ。
内閣官房によると、分室は、中央省庁再編時の2001年には5室あった。その後、増えたり減ったりした。7年8カ月余り続いた安倍政権では、31室が役割を終えて廃止されたが、それを大きく上回る48室が新たに作られ、今では40室までに膨らんだ。各省庁から1~2年程度出向している職員を中心に、官房に約800人が常駐しているという・・・

・・・新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、対策強化のために3月下旬にできた「推進室」は多忙を極める。その一方で、安倍政権が選挙などのたびに打ち出したスローガン、「働き方改革」「1億総活躍」「人生100年時代」などを冠した分室は、4月1日時点で常駐の職員がいない。複数の分室の役職を兼務する職員も少なくない。ある官邸幹部は「中には何を今しているのか分からないものもある」と認める。
ただ、議員が主導した法律に伴い設置された分室もあり、「廃止や移管すると、『政府の意識が低い』と映ってしまう恐れがあり、なかなか簡単に減らせない」(官邸幹部)といった事情も、分室が減らないことの背景にある・・・

どのような室があるか、記事を見てください。
このような内閣官房をはじめ総理官邸を支える仕組み、そして各省など国家行政機構についての解説書って、ないのですよね。地方行政・地方自治は、大学に講座があり、研究者がいて、マスコミにも専門家がいて、学会もあります。本屋に行くとたくさん関係書が並んでいます。ところが、国家行政・中央政府の研究って、組織だって行われていないのです。「市場」が成り立たないからでしょうが。

幸い、私は総理官邸や内閣府などに勤め、霞が関全体を見るという経験をしました。もちろん、各省の細部までは知りませんが。時間ができたら(現在の連載が終わったら)、次の取り組みとして、国家行政を分析したいと考えています。いつのことやら・・・。