落としたスマホが戻る日本

12月6日の朝日新聞夕刊スポーツ欄に、「スマホ戻り、作戦通りスパート 福岡国際マラソン優勝、エルマハジューブ・ダザ」が載っていました。

・・・1日にあった第73回福岡国際マラソンは、初出場のエルマハジューブ・ダザ(モロッコ)が2時間7分10秒の好タイムで初優勝を果たした。来年の東京五輪のメダル候補に躍り出た28歳は「日本のことがすごく好きになったよ。また僕の走りを見てほしい」。快走の背景には、日本人の親切さがあったという・・・

・・・大会2日前の夜。コーチのエルムサウイ・ムスタファさん(49)は、1人で福岡市内のスポーツバーで酒を飲んでいたが、スマートフォンを店に忘れたままホテルへ帰ってしまった。翌朝起きると、手元にないことに気づき、「絶望的な気持ちになったんだ」と頭を抱えた。

連絡先だけではない。そのスマホには、ダザの練習メニューや食事メニュー、福岡のコースの特徴やレース中の注意点など詳細なデータが入っていたのだ。
あきらめかけていたが、交番へ向かう前にホテルのフロントに確認すると、「こちらですか?」。スマホが届いていた。バーのテーブルに置いていたホテルのルームキーを覚えていた店員が届けてくれたようで、「信じられなかった。日本人はなんて親切なんだと、感激したよ」。

ダザも一安心できたのは言うまでもない。大会では、作戦通りに30キロ過ぎにスパートをかけて飛び出し、ぶっちぎりの優勝を果たした。「スマホがなかったら違う作戦を立てていたかもしれない。もっとハードな展開になっていた」とムスタファコーチ。優勝を決めた後、2人はぎゅっと抱き合った・・・

落としたスマホが、戻ってくる。世界200カ国の中で、そのような国はいくつあるでしょうか。この治安の良さ、親切心は、大事にしたいです。
もっとも、海外に行くと、落としたら戻ってこないことを、忘れないでください。プロにかかると、ロックはすぐに解除されるので、落としたスマホは直ちに転売されるそうです。

学歴が評価されない日本、高学歴が減る

12月8日の日経新聞1面トップ「チャートは語る」は、「博士生かせぬ日本企業 取得者10年で16%減」でした。
・・・世界は新たな「学歴社会」に突入している。経営の第一線やデジタル分野では高度な知識や技能の証明が求められ、修士・博士号の取得が加速する。主な国では過去10年で博士号の取得者が急増したのと対照的に、日本は1割以上減った。専門性よりも人柄を重視する雇用慣行を維持したままでは、世界の人材獲得競争に取り残されかねない・・・

少子化の影響ではありません。4年制大学の入学者は、増えているのです。多くの人が4大卒で満足し、大学院まで進まないのです。その背景には、企業や社会が大学院卒を求めていないことがあります。その基礎に、大学での教育に専門性を期待していないことがあります。

日本の企業は、学生に学校で得た知識や学問でなく、空気を読むことを期待しているようです。採用面接の際に、「大学でどのような学問をしたか」ではなく、「学生時代に一番力を入れたことは何ですか」と問うのだそうです。学生の答は、サークル活動とバイト経験です。
学問に励まない学生、卒業生という「製品」に品質保証をしない大学、大学に学問を求めない企業。三者のなれ合い構造です。そしてそれを当然と思っている国民も、同罪です。「企業の採用面接に見る日本型雇用

詳しくは記事を読んでいただくとして。グラフがいくつか付いています。諸外国との比較が一目瞭然です。

と書いていたら、12月5日の朝日新聞オピニオン欄に、ジョセフ・M・ヤング、駐日アメリカ臨時代理大使が「減る日本人の米留学 関心高め同盟の土台に」をかいておられました。
・・・日本への米国人留学生数が増える一方、米国へ留学する日本人が激減しているのだ。1997年に約4万7千人いた日本人留学生は昨年、約1万8千人となった・・・

宮城県被災地視察

9日、10日と、宮城県の被災地を視察してきました。毎年行っています。岩手県は10月に行ったのですが、宮城県は秋の台風災害もあり、この時期になりました。
今回は、東松島市、石巻市、女川町、南三陸町、気仙沼市を見てきました。首長さんたちは、12月議会の最中ですが、忙しい中、説明をしてくださいました。旧知の方々です。皆さん、苦労しておられるのですが、街の復興が完成に近づき、円満な表情です。

住宅の復興はほぼ完成に近づき、仮設住宅に入っている人は少なくなりました。この人たちも、住宅の完成を待っておられるので、来年度中には移ってもらいます。
ほとんどの町で、市街地の復興土木工事は終わっています。もう少し残っている町もあります。あと1年あまりで、街の復興は完成する予定です。しかし、地元調整が長引いた場所での防潮堤を含んだ工事などは、もう少しかかるところもあるようです。

また、市街地ではないのですが、集団移転した元地の活用が残っているところがあります。各町とも、住民の住宅や市街地の復興を優先したので、それら以外は後回しにしたのです。さらに、集団移転した元地は、そもそも住宅を建てることができない場所です。活用には、制約があります。
それぞれの町で工夫を凝らして、活用しています。産業団地、公園、パークゴルフ場などなど。

首長さんたちに、課題や悩みを聞くと、残った工事の完成、戻らない産業の復旧、そして人口減少を上げられます。工事はこのまま進めば、あと2年で完成するでしょう。
産業は、いくつかの課題があります。まず、魚が捕れないことです。この地域の主たる産業は漁業です。ところが、サンマや鮭が捕れないのです。これは、短期的には手の打ちようがありません。
人口減少は、止まりません。少子高齢化で、生まれる数より亡くなる人の数の方が、はるかに多いのです。被災地だけの問題ではありません。日本の多くの地方で進んでいる現実です。この項続く

中根千枝先生「タテ社会と現代日本」

中根千枝先生の新著『タテ社会と現代日本』(2019年、講談社現代新書)を読みました。『タテ社会の人間関係』(1967年)は半世紀にわたるベストセラーなので、読まれた方も多いでしょう。「紹介

新著は、タテ社会から現代日本を読み解いたものです。
タテ社会では、参加者は全面的な参加を要求されます。それが、長時間労働を生みます。契約や資格によって参加していないので、長くその組織にいる者が上位に来ます。それが、新参者へのいじめ、非正規雇用問題を生みます。家族という小集団が、家庭内虐待問題を生んでいることなど、ハッとさせられる指摘が並んでいます。

『タテ社会の人間関係』は1967年、昭和42年の出版です。東京オリンピックが昭和39年、大阪万博は45年です。高度経済成長の前半期でした。それから半世紀、日本社会は大きく変貌しました。しかし、場を重視するタテ社会という、日本社会の基本構造は変わっていないようです。
いま、連載「公共を創る」で、社会の文化資本、この国のかたちを書いているところです。中根先生の本も、引用しています。この項続く

政治家が示す目指す社会像

12月4日の朝日新聞オピニオン欄、国分高史・編集委員の「仏改憲が教えること めざす社会像、論じるのが先」から。
・・・ フランスは戦後、昨年まで27回の憲法改正を経験している。多くは議会の行政監視機能の明確化など統治機構に関するものだが、憲法院(憲法裁判所)による違憲判断を克服し、研究者に「特筆すべきだ」と評価されている例がある。
1999年と2008年に、男女の平等な社会参画を促す条項を加えた改正だ。前者は議会選挙の候補者を男女同数にすることを政党に義務づける「パリテ法」制定に道を開き、後者はそれを議会だけでなく、企業の取締役など広く社会一般に広げることを目的とした。
仏国民議会(下院)の女性議員比率は、改憲前の水準から4倍近い40%になった。ひとまずここまで来るには、女性たちの粘り強い運動や議会内外での論争など、国民合意に向けた長年の積み重ねがあった・・・

・・・フランスでは家父長制の伝統が根強く、1789年の人権宣言でも女性は対象外とされた。女性参政権が認められたのは、欧米ではかなり遅い1944年のことだ。
それでも70年代から女性の政界進出の機運が高まった。82年には社会党の女性議員が北欧発祥の「クオータ制」を地方議会選挙に導入する選挙法改正案を提出。候補者名簿に25%以上の女性を載せることを政党に義務づける内容で、議会を通過した。
だが、憲法院はこの改正案を違憲と判断した。全ての市民は法の前に平等であり、性で候補者を区別するのはフランス共和主義の理念に反するという理由だった。
この壁を乗り越えるには、どうしたらいいのか。そこで出てきたのがパリテの理念だ。一定割合を女性にあてるクオータ制には、男性への逆差別との批判がつきまとう。これに対し、パリテはざっくり言えば「世の中は男女半々なのだから、議会も男女半々に」というものだ・・・

・・・政治の動きを、最後に後押ししたのは世論だった。憲法のどの条項を改正するかをめぐり、政府・国民議会と保守的な元老院(上院)が対立すると、一般紙だけでなく大衆紙や女性ファッション誌も競うように賛否両論を特集。関心が薄かった市民を巻き込み、パリテに消極的と見られた上院に批判的な論調が強まっていった。
上下両院は妥協に向かい、政府案提出から1年後の99年6月、「選挙で選ばれる公職への男女の平等なアクセスを促す」など二つの条項を加える案が、両院合同会議で可決された。採決では、国民投票がなくても成立する「有効投票の5分の3」を超え、ほぼ満場の賛成票を集めた・・・
・・・この経験から日本が得られる教訓は何か。「多くの人が正義だと考える政治課題の実現を憲法が妨げている時、合意をつくって改正という最終手段をとる。これこそが憲法改正のあるべき姿だと思います」と糠塚さんは話す。
私は、日本でも女性議員を増やすためにすぐに改憲すべきだと主張したいわけではない。フランスでも改憲までの丁寧な合意形成やその後のフォローアップがなければ、前進はしなかっただろう・・・