カテゴリー別アーカイブ: ものの見方

地球温暖化のもう一つの理由

6月8日の読売新聞文化欄「令和問答」は、歴史学者の奈良岡聰智さんと地質学者の鎌田浩毅による「災害から学ぶ」でした。
詳しくは記事を読んでいただくとして、対談の最後に、鎌田先生が次のように発言しておられます。なるほど。

・・・まさに「過去は未来を解く鍵」ですからね。地質学者も、地質や古文書にある地震や噴火の記録から未来を予測します。そして「長尺の目」で見ることが大切です。
例えば地球温暖化ですが、20世紀後半以降、噴火が非常に少なかったことが一つの要因なのはご存じでしょうか。18~19世紀のように21世紀に大噴火が頻発すれば、火山灰が太陽光を遮り、温暖化どころか寒冷化する可能性がある。そんな発想も必要です・・・

頭は類推する。カタカナ語批判。1

なぜ、カタカナ語やアルファベット語は、理解しにくく、覚えにくいのか。人は、画像にしろ文言にしろ、連想で認識します。それは、次のようなことです。

まず、目で見る景色から説明しましょう。景色を見る場合、ぼやけた像から、はっきりした像に進みます。遠くから人が近づいてきた場合、最初は人か物なのか判別できません。だんだん近づいてきて、ぼんやりした像を見て、人だろうと判断します。さらに近づいて、服装によって男性か女性かを推測し、体つきから大人か子どもかを判断します。そして顔が見えてくると、知っている人か知らない人かを判断します。
最初から、知人のAさんだとはわかりません。それは、網膜に写った像を、頭の中の記憶にあるよく似た像にあてはめて、正解を探すのです。
テレビ番組に、モザイク画像を見て、何の写真かを当てるクイズがあります。最初は解像度の悪い画像で、何の写真なのかわかりません。だんだん解像度が高くなって、正解がわかります。私たちは、ぼやけた画像でも、記憶の中から似たものを探します。「脳の働きと仕組み、推理の能力

言葉も同じです。耳にした言葉が、はっきりしたものでなくても、よく似た言葉に当てはめます。その単語の発音に似た単語に当てはめます。外国語が聞き取りにくいのは、経験が少なく、頭の中の類似例が出てこないからです。
聞き慣れた日本語を理解する際にも、辞書で単語を引くように、発音の1音目から解読するのではありません。私たちは、耳で聞いた音声を、1音ごとに音声そのもの(発音記号)として認識しているのではありません。ひとかたまりの音声(単語)として聞いて、それを頭の中の類似例に当てはめ、正しい単語を探します。
この項続く

広い視野と行動力、岡本行夫さん

岡本行夫JICA特別アドバイザー追悼記念シンポジウム」(4月29日)を見ながら考えました。今も、録画を見ることができます。行夫さんを見ていて感じることは、その広い発想と行動力です。それとともに、多彩な趣味です。基にあるのは、熱い男でした。

まず、課題への取り組みです。自らの所管業務について、視野を広げて考えます。それは、将来という軸と、現時点での広がりとの両面です。それには、持っている付き合いの広さ(人脈)、持っている場所の多さ(異業種交流)が物を言います。
そして、課題解決のために、所管を超えて行動されます。この思考は、外交官という職業にも由来するのでしょうか。予算や制度を所管するのではなく、日本が世界で位置を占めるためには、どのようにするのがよいかを考えておられました。「今、それをしなくても」と考えられることでも、検討し行動に移します。
そして、それを実現するために、関係ある人を巻き込んでいかれます。ひとりではできないことですから。相手を動かすには、言葉(論理)とともに、信用される人間関係が必要です。そこにあるのは、憂国と情熱でしょう。

しかも、仕事だけでなく、多彩な趣味をお持ちです。その一つ、エジプトでの海中写真が、『フォト小説 ハンスとジョージ 永遠の海へ』(2021年2月、春陽堂書店)として、小説となって本にまとめられています。きれいな写真とともに、人の悲しみへの共感、人間の野蛮さへの怒りが書かれています。
私も、いくつもの場に誘っていただきました。私には縁のない分野が多く、楽しみでした。それをここで紹介するのは、行夫さんが喜ばれないでしょうから、書かないでおきます。
「全勝さんも熱いから」と言って、10年後輩の「内政官」をかわいがってくださいました。

「理不尽な進化」説明と理解と納得

理不尽な進化 競争でなく不運で滅びる」の続きです。吉川浩満著「理不尽な進化」は、後半で、自然科学と社会科学の違いを扱います。

自然を説明すること(自然科学)と、歴史を理解すること(歴史学、社会科学)の違いがわかりやすく説明されます。進化論がその中間に位置していること、双方で使われることで、私たちの進化論の誤用が説明されます。
私たちは、自然科学によって事実の因果関係を説明されると、なるほどと思います。しかし、それが私たちにとってどのような意味があるのか、別途、理屈が欲しいのです。社会科学は、それを教えてくれます。自然科学の説明は「因果」「方法」であり、歴史の理解は私たちが求める「意味」「真実」の世界です。次元が違うのです。

さらに言うと、説明されることと、理解することのほかに、納得することがあります。頭で理解できても、気持ちで納得できないことがあります。
地震は地下で岩盤がずれることで発生すると、説明されます。でも、なぜ2011年3月11日に起きたのか。それは理解できません。そして、あの人は亡くなり、私はなぜ助かったのか。説明され、理解できても、納得はできません。
そこに、「意味」を求めるからです。かつて宗教は、それを説明してくれました。自然科学がいくら発達しても説明してくれない「意味」を、私たちはどのように「納得」するのか、自分を「納得」させるのか。難しいことです。

この本は、もっといろいろなことを教えてくれます。面白いです。ただし、文庫本で400ページを越え、文章は平易なのですが、しっかり理解しようとすると読みやすい内容ではありません。著者も狙っているのですが、学術書と小説を混合した文章です。
シーザーがルビコン川を渡ると歴史的事実となり、ほかの何百万の人がルビコン川を渡っても、筆者が神田川を渡っても歴史的事実としては取り上げられない話など、難しい内容に、軽妙な比喩がちりばめられています。でも、納得できます。

本文中にある「注」が、とても充実しています。参考文献がたくさん取り上げられ、どのように読むと良いかが解説されています。哲学から自然科学、そして小説まで、良くこれだけの書物に目を通し、紹介するだけの理解をされたものだと、尊敬します。
私も読もうと思っていた本、興味を引く本がいくつも取り上げられています。でも、これを注文すると、読まない本が増えるのですよね。

「理不尽な進化」競争でなく不運で滅びる

吉川浩満著「理不尽な進化 ――遺伝子と運のあいだ 」(2021年、ちくま文庫)が勉強になりました。進化論を扱っていますが、進化論を素材とした、学問(科学)のあり方といったら良いでしょうか。1冊の本にいくつもの論点、それもかなり深遠な論点が含まれていて、紹介するのは難しいのです。2冊か3冊に分けた方が、著者の主張がわかりやすかったでしょう。

これまで、地上に現れた生物種のうち、99.9%が絶滅したと推測されています。適者生存の進化論は、環境に適合した生物だけが生き残ると説明しますが、ではなぜ、99.9%もの種が現れて消えていったのか。種が絶滅する型には、3種類あります。
1 競争に負ける。これは適者生存の考えに一番沿っています。
2 絨毯爆撃に遭う。巨大隕石の衝突です。
3 理不尽。環境に適合したのに、その環境が突然変わってしまった。2の隕石衝突に近いのですが、隕石衝突で「支配者だった」恐竜たちは滅んだのに、「日陰者」だったほ乳類の祖先は生き延びたのです。たまたま生き延び、支配者たちがいなくなった世界で発展します。そしてこの「理不尽」が、重要な役割を担っていたのです。
進化論の言う「自然選択」は、環境に適合した生物だけが生き残る。生き残った生物が環境に適合していた。それでは同語反復ではないか。その通りなのです。

私たちは、進化論の適者生存を、人間社会にも適用します。「競争に勝ち残るために、改革しなければならない」というようにです。しかし、「理不尽な絶滅」を理解すると、このような適用は正確ではありません。「強者生存」「優勝劣敗」も、進化論では間違いです。でも、よく使いますよね。
その背景は、「キリンは高いところの木の葉を食べるために首が長くなった」というような、生物はある目的に向かって前進的に変わっていくという「発展論的進化論」に、私たちは陥りがちで、惹かれるからです。

ところで、進化論には、2つの原則があります。「生命の樹(共通祖先説)」と「自然淘汰説」です。でも、生命の樹の方は、余り認識されていません。

グールドの「ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語」(1993年、早川書房)を読んだときの、驚きとわくわく感は、今でも覚えています。奇妙奇天烈な形をした動物には、驚きました。4月18日のNHK「ダーウィンが来た」でも、アノマロカリスを取り上げていました。この項続く