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連載「公共を創る」第33回

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第33回「社会的共通資本 社会の変化に応じて変更を」が、発行されました。

今回から、(3)「次代への責任」に入ります。前号までで、暮らしに必要な社会の環境や装置を「社会の財産」として分類しました。関係資本と文化資本の重要性を指摘し、日本社会の特質を、日本人論や「この国のかたち」で説明しました。
今回から、この社会の財産をどのように引き継いでいくかを検討します。
先進国に追いついたことで、経済発展という国家目標を達成しました。次の目標は何か。
また、これまで優れていると言われていた日本の文化資本の弱点は何か。
欠点の一つ目は、安心は強いが信頼は弱いことです。すなわち日本人は、仲間内のでの安心は強いのですが、よそ者との信頼は弱いのです。

日本型雇用に変革を迫る専門人材の評価

2月11日の日経新聞「私見卓見」、小熊英二・慶応義塾大学教授の「専門人材の評価、世界基準で」から。

・・・IT(情報技術)や金融など知的産業が台頭するなか、世界では専門的な技能や知識をもとにした人材の評価基準の共通化が進み、国をまたいだ高度人材の流動化が加速している。だが日本は独自の進化を遂げた雇用慣行のため、世界から隔絶されている。それぞれの企業の枠組みを超えた客観的な評価基準なしに、高度人材の獲得は難しい・・・

・・・日本企業の人材評価は基本的に、企業横断的な客観基準でなく、個別企業内で従業員を長期観察することでなされてきた。そこではどの職務に配置されても適応する熱意や協調性を「職務遂行能力」と評価してきた。この慣行は、製造業の現場従業員のモラルを高めると評価されたこともある。
だがこの日本型は、従業員数が少なく、社長が従業員を観察できる中小企業向きの評価システムだ。それを大企業にまで適用してきたのが日本の特色といえる。

欧米などでは、会計やマネジメントなどの職務がまずあり、職務の専門能力を持つ人材を登用するのが基本だ。素人がIT開発をできないように、マネジメントの専門能力がない人は、管理や経営はできないと考える。評価基準も職務ごとに企業を超えて共通化が進み、個人は同じ職務で企業を移りながら専門性を高めキャリアを築く。1つの企業内で様々な職務を異動する日本の慣行とは異なる・・・

・・・専門職を評価する基準は、もはや国境を越えて共通化が進んでいる。専門性の評価基準がない雇用慣行を続ければ、わざわざ日本で働こうとする高度人材はいなくなる。それは労働市場に限らず、企業活動が次第に国内に閉ざされていくことも意味する。まずは採用や昇進、異動などの際に結果だけでなく、過程や基準を透明化し公開してみてはどうか。米国なども過程や基準の透明化・公開により、基準の客観・横断化が広がった歴史があるようだ・・・

立花隆さんの知的遍歴

立花隆著『知の旅は終わらない 僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと』(2020年、文春新書)を読みました。
立花さんの、私の履歴書です。私生活については余り言及がなく、読んだ本と書かれた本についての履歴です。本の帯に、「知の巨人」とあります。
これまでにも、立花さんの読書についての本を読んだことがあり、その時も膨大な読書量に感服しました。しかも、一つの専門分野に止まらず、哲学、脳、がん、臨死体験、宇宙などなど、その広い分野にも脱帽です。

私たちの世代にとっては、総理大臣を退陣に追いやることになった「田中角栄研究」(1974年)が印象的です。私が大学生の時です。
立花さんも、80歳になられたのですね。

原発事故の風評を考える、小松理虔さん

2月12日の朝日新聞「原発事故を考える 東京学芸大学入試問題から」。小松理虔さんの発言。
・・・東京電力福島第一原発の事故が起きてから間もなく9年。ニュースでは復興、避難、廃炉、風評などの言葉が数え切れないほど使われてきたが、どれだけの人が身近な課題として感じられているだろう。原発事故の影響に関する入試問題(東京学芸大、2012年度)を題材に、福島県いわき市の地域活動家、小松理虔(りけん)さん(40)に語ってもらった・・・

・・・魚や野菜など福島県産の食べ物を「食べる食べない」の判断の違いもあります。僕が住むいわき市では、お歳暮で県外の親戚に福島県産のものを贈ると「気にされるかも」と思う人もいるでしょう。一方、知り合いの魚屋は県外から注目されていますが「むしろ県内客の売り上げが回復していない」といいます。この9年で福島の内側にいる人が被害者意識を強めて、「どうせ福島のものは受け入れられない」といったトラウマを抱えている、と僕は感じます。

被害者同士が傷つけ合うような状況もあります。避難指示のなかった地域から県外で避難を続ける人たちに対し、「福島を危険だと言って傷つけている」との声が出てくる。一方、政府を批判したいと思うあまり危険を過度にあおったり、再生や復興をネガティブに語ったりする人も。福島の声と言っても多様で、一口には語れない難しさがあります・・・

経産省、伴走型支援

2月11日の日経新聞東京経済欄に、「関東経済産業局、伴走型で中核企業育成」が載っていました。
・・・関東経済産業局が地域の中核企業の育成で新たな手法を試行している。企業の悩みに応じて解決策を提案する「ご用聞き」型の支援を脱し、経営者が気づかない課題を発掘して自発的な変革を促す伴走型のコンサルティングを導入した。各地で本格展開を目指すが、成果を生むには経営者と誠実に向き合う根気が不可欠で、現場の職員らの本気度が問われる・・・

2019年6月から、経産局職員と公募で選んだ民間コンサルタントによる官民合同のチームが、企業を訪問し、支援を続けています。
この手法は、福島の原発被災地で、経産省が取り組んだ「福島相双復興推進機構(福島相双復興官民合同チーム)」で開発されたものです。記事にもあるように、角野然生・関東経産局長が、福島で作った手法を持ち込みました。

拙稿連載「公共を創る」第19回で、この手法を取り上げました。被災地の事業者には中小や零細な人も多く、産業振興制度を作っても活用できないことも多いのです。
ひるがえってみると、これまでの産業政策は、振興計画や補助金などが主な手法でした。国が制度を作り、希望する企業が応募します。大企業相手ならこれでよかったのですが、小さな事業者では、応募するだけの能力を持っていません。今回始めた、個別支援・伴走型支援は、画期的だと思います。

もちろん、成果を出すためには、記事でも指摘されているように、継続が必要です。しばしば指摘されるように、「法律や補助制度を作ったら終わり」というこれまでの行政では、成果は出ません。その点でも、新しい行政の手法が試されています。