カテゴリーアーカイブ:政治の役割

アタリ著『21世紀の歴史』

2018年3月25日   岡本全勝

調べたいことがあり、ジャック・アタリ著『21世紀の歴史』(邦訳2008年、作品社)を読みました。出版された時、本屋で手に取ったのですが、そのときは気が進まず。

フランスで出版されたのは2006年。世界金融危機を予言したと、有名になりました。今読んでも、適確な未来予想に、驚きます。
本の前半は、これまでの資本主義の歴史、経済と権力の中心がどのように移ってきたかを述べます。
後半は、未来予想です。民主主義、政府、国家が破壊され、放っておくと、混沌とした社会が出現すると述べます。市場・商品化の行き過ぎと、地域紛争によってです。
今まさに、進行していることです。市場経済と民衆の感情は、貧富の格差拡大や移民問題によって、放置しておくと、社会の安定が損なわれます。

この社会の分断を、どのように防ぐか。社会の統合(その基礎にある個人の満足。それは承認と再配分によるのでしょう)も、政治の重要な役割です。政治には、重い課題が突きつけられています(もっとも、対外戦争をすることで愛国主義に訴える手法はよく使われます。これには注意が必要です)。
経済成長がある時期にしか、民主主義は成り立たないという説もあります。20世紀の後半は、経済成長と両大国の支配とで、日本をはじめ多くの先進国や中進国にとって良い時代だったのでしょうか。

社会の動きや人の行動や感情を、管理することはできません。また、そんなことをしたら、怖い社会です。しかし、管理までに至らないとして、社会を制御すること、良い方向に導くことが重要です。

金井利之著『行政学講義』

2018年3月2日   岡本全勝

金井利之著『行政学講義ー日本官僚制を解剖する』(2018年、ちくま新書)を紹介します。
行政学講義と銘打ってありますが、少々変わった行政学講義です。著者自身があとがきで、「多くの教科書とは、かなり異なる構成になっています」と書いています。帯には「支配と権力にさらされる被治者のための教科書」と書かれています。

行政学というより、国民統治の機構と機能、日本の実情についての解説です。通常思い浮かべる国の各省庁と自治体役場の解説ではありません。目次にも、「被治者にとっての行政」「支配と行政」といった項目が並んでいます。
日本の国政を対象とした政治学に近いです。統治の機構としては、構成員として政治(政治家)と行政(事務職、職業公務員)があります。この本では、それらをひっくるめて「行政」としています。私の整理では、政治は権力、行政は政策で象徴できると思います。その点で、この本では政策については詳しくは論じられていません。

また、制度や仕組みの説明ではなく、社会的機能など社会学的な説明が多いです。省庁の内部事情に詳しく、新聞記事には出てくるけど教科書など書物には出てこない話もたくさん書かれています。
日本が実質的にアメリカの自治体であると規定して、様々な見方をするなど、著者独自の見立ても多いです。
初心者より、上級者向けの本と思います。

トランプ大統領と中国と、リベラルな国際秩序

2018年2月11日   岡本全勝

2月8日の読売新聞「南シナ海問題と世界秩序の未来」、ジョン・アイケンベリー教授の発言から。
・・・リベラルな国際秩序は、問題が生じた時に支えとなる枠組みとして必要と考えられていた。自由貿易進展で経済が成長し、様々な国際条約が結ばれて大量虐殺が禁止され、人権が守られ、軍縮が進んだ。リベラルな国際秩序は世界の問題を解決してきたのだ。
だが、これまでの制度や枠組みは冷戦を前提に作られていた。グローバル化により民主化の発展段階や文化が違う多様な国家が秩序の中に入って機能不全を起こしている。また、リベラルな国際秩序は繁栄や安全につながり、労働者のより良い生活のためにも必要であったが、今やその関連が途絶えてしまった。グローバル化により途上国では富裕層が生まれた一方、先進国の中間層は所得が下がり、不平等が生じている。
リベラルな国際秩序が将来的に維持されるために重要なことが3つある。まず、国内問題と国際的な課題を関連づける。ナショナリズムと国際主義は相反するとされるが、国際的な課題に取り組むことで政府の能力が向上して国内問題を解決できることもある。第二に、新興国と先進国が貿易や新たな国際協定などで連帯を強めることも必要だ。そして、気候変動や核拡散など、(多くの国が)脆弱性を抱える課題に対応していかねばならない・・・

アイケンベリー教授の主張は、かつてこのページでも紹介しました。「勢力均衡や覇権主義でない国際秩序」「その2

浅野亮・同志社大学教授の言葉から
・・・中国が米国をしのぐ力を持った時、ウェストファリア体制(国家主権の尊重を基調とする伝統的国際秩序観)や既存の価値を尊重するのか、自国の狭い利益を追求するのかはわからない。いずれの場合も、中国の力が衰え、一帯一路で拡大した勢力範囲や社会整備基盤システムを維持できなくなった場合、何が起きるか、どのような崩壊プロセスがあり得るのかを考えないといけない・・・

歴史をつくるもの、『維新史再考』2

2018年1月30日   岡本全勝

歴史をつくるもの、『維新史再考』の続きです。
先生の設定する「課題の認識とその解決の模索というモデル」は、すばらしいと思います。
歴史記述の方法には、一方に英雄や政治家たちがつくりあげる「主体モデル」があり(ドラマや小説です)、他方に経済や社会の変化が生みだす「社会の変化モデル」(経済学的分析など)とも言うべき形があります。
しかし、それぞれ一面的すぎます。主役の思うようには進まず、経済社会の変化だけで規定されるものでもありません。後者では「人」が見えなくなります。
そして、歴史はそんなに単線的には進みません。大勢の主体が登場し、その駆け引きや判断の中で、ジグザグに進んでいきます。それをどのように記述し分析するか。三谷先生の視角はそれへの回答です。

幕府統治が揺らいだとき、次の政権をどのように構想するか。
徳川方でも、いろんな考えがありました。慶喜、幕閣、尾張慶勝・越前春嶽、会津・桑名。将軍の言うとおりには動きません。朝廷でも、孝明天皇、摂関家、急進派公家。それぞれに意見が違います。西国大名でも、薩摩(久光、大久保、西郷、小松帯刀)、長州(この中はもっと分裂して武力闘争が起きます)、土佐。そして京都を徘徊する志士たち。
主体モデルを正確、精緻に記述しようとすると、大変な人数が登場するはずです。歴史小説は、そこを大胆に切り落として、わかりやすく書いています。

そして、時間の変化とともに状況が変わり、課題が変化して、彼ら主体たちの考えも変化します。攘夷がころっと捨てられるように。
そして、状況が変化した際に、主体による意図の違いが見えてきます。次を目指す大久保や西郷、元に戻そうとする幕閣、「現状」での主導権を持とうとする慶喜や公家・・。

先生の「課題認識とその解決模索モデル」は、登場人物たちが歴史を作っていくという点で、上述の「主体モデル」に近いです。しかし、「課題認識」という点で時代と社会が設定する課題を入れているので、「社会の変化モデル」も入っています。そして、ジグザグに進むという点が見えてくるのです。

国民投票、思わぬ結果

2018年1月30日   岡本全勝

1月30日の朝日新聞「憲法を考える」は「国民投票 経験国からの警鐘」です。2016年に国民投票を実施したイギリスとイタリア。ともに、投票を主導した首相が、予期せぬ結果で退陣しました。両国を訪れた調査団の報告書です。
そこに見えるのは、ともに首相が自らの立場を強くしようともくろんだのが、裏目に出たことです。

まず、イギリスです。
・・・キャメロン氏はまず「最も注意を払うべきは、国民投票が政府に対する信任投票になってしまったり、他の政策的な問題に対する投票になってしまったりするのではなく、『投票用紙に書かれた質問文』に対する投票となるようにする点だ」と議員団に語った・・・
労働党のヒラリー・ベン下院EU離脱委員長は、・・・一方で、政府にことさら反対するために国民投票が利用される危険性も指摘。「何をテーマに国民投票を行うかについて、よく注意しなければならない。国民投票を行って負けた場合、もう議論の余地がなくなってしまうから」・・・
・・・ケンブリッジ大学のデービッド・コープ教授は、過熱した運動が展開された投票をこう総括した。
「いま英国の政治家、産業界、学会の有識者に聞けば、ほぼ100%の人たちが『もう国民投票などすべきではない』という強い意見を持っているだろう」・・・

次は、イタリアです。
・・・ステファニア・ジャンニーニ前教育・大学・研究相は「残念であったのは、国民投票の段階でレンツィ政権に対する賛否を表すという政治的な内容と、国家の機能の簡略化、効率化及び透明性を図るという憲法改正の純粋な内容とを、明確に分離することに失敗したことだ」と総括した・・・