カテゴリー別アーカイブ: 人生の達人

自分が決めた予定なら、頑張れる

7月17日の朝日新聞夕刊、教育評論家・尾木直樹さんの「なかなか宿題に手をつけられません」から。

「週明けまでにリポートをまとめて」「この書類、締め切りは○月○日で」――。子どもだけでなく、大人の日常にもつきものの「宿題」。さっさと済ませた方がいいとわかっていても、なかなか手につかない。一方で宿題を出す側にも、きっと心労があるに違いない。宿題を巡る悩みの根っこに何があるのか、教育評論家の尾木直樹さん(77)に相談してみた。

――宿題をつい後回しにし、締めきり間際に苦労することも少なくありません。
「夏休み最終日の子ども」状態ですね。それはそれは、しんどいですね。計画性をもって進めている人に比べると、大変な苦労をされているわけですが、ある意味では、それも能力のひとつですよ。ぎりぎりになっても何とか間に合わせる。つまり、取りかかりさえすればやれる能力があるとも言え、そこまで気にしなくていいと思います。
それに、取りかかるまでに、ほかに魅力を感じたやりたいことをやっているわけですよね。たとえ、ぼーっと寝ていたとしても、その時間もまた大事です。

――尾木さん自身は宿題とどう付き合ってきましたか。
学校の宿題って、そう簡単にやる気は湧きませんよね。自分で決めた課題ではなく、他人(先生や親)にやらされていると思うから。
その点、うちの母は巧妙でした。「宿題をしなさい」と言われたことは一度もない。学校から帰ってくると、母は「今日はどんな予定?」と聞くんです。「とりあえず宿題をやってから、遊びに行こうと思う」と答えると、「えらいね、自分で予定を決められて」と褒めてくれる。すると自己肯定感が湧いてくる。
「やる気スイッチ」というより、「やる気エンジン」かな。ポジティブな気持ちで得意なところから始めて、エンジンがかかれば、勢いで苦手な教科にも取りかかれる。すると、母がまた「えらいね」と褒めてくれる。うまく操られていたような気がします。

役職定年の課題

7月15日の朝日新聞「50代の壁「役職定年」廃止じわり 中高年のモチベーション低下・人材不足が問題に」から。
・・・50代以降、一定の年齢で管理職から自動的に外す「役職定年制」。肩書は外れ、給与が激減するため、中高年にとって働くモチベーションが下がる要因の一つとされました。ところが近年、役職定年を廃止する動きが相次いでいます。どんな背景があるのでしょうか・・・

・・・約1万6千人の従業員を抱える大和ハウスが役職定年を廃止したのは2022年4月。人事部長の河崎紀成(としなり)さん(49)によると、60歳以上の社員50人前後を元の管理職に戻したり、継続させたりした。給与カットもなくし、同じ役職なら60歳までと同じ水準で支払うようにした。
その結果、人件費は十数億円規模で膨張したという。それでも踏み切った理由は、技術者などの人手不足と、役職定年によるシニア社員の「モチベーションの低下」、それによって職場の雰囲気が悪くなり、戦力になる人材が流出したことなどだ。
「人材の流出が減り、現場のモチベーションは上がった」と河崎部長。ただ、技術職を中心に人がまだまだ足りないといい、65歳以上の技術職を中心に再雇用も積極的にすすめるという。
役職定年を廃止すれば、人事が硬直化し、ポストが若手に回らなくなると不満はないのか。
同社の部長級の平均年齢は55歳前後。役職定年の廃止は無条件にポストを約束するものではなく、人事は適宜おこなう方針だとする。「評価はシビアで、成果が出せなければ、役職定年前でも部長は交代となる」と話す社員もいる。

空調大手ダイキン工業(本社・大阪)も今年4月から役職定年を廃止した。
定年を60歳から65歳に引き上げ、これまで56歳としていた管理職の役職定年を廃止。59歳以下に適用していた資格等級、評価、賃金制度を、定年の65歳まで継続して運用する制度に変えた。
「これまで56歳以降になると、給与が減り、部長などの役職名も『参与』などに変わっていた」とダイキンの人事本部ダイバーシティー推進グループ長の今西亜裕美さん(49)は説明する。
同社社員は56歳以上の割合は20%強(23年度末時点)。「ベテランの力で仕事を支えていたので、年齢で区切るのはやめようとなった」という。60歳以降も能力や成果に応じて昇格や昇級も可能になった。

年齢による労務管理自体を見直す動きも。電機大手NEC(本社・東京)は21年4月、56歳に設定していた役職定年を廃止。約千人を管理職に復帰させた。さらにこの4月には、これまで管理職以上が対象だった「ジョブ型人材マネジメント」の対象を全社員に広げた。
ジョブ型人材マネジメントとは、年齢や経験年数ではなく、職務に対して専門知識をもつ人材などを管理職に配置し、担当職務によって報酬を決めるというシステムだ。

日本企業が役職定年制を採用するようになったのは1980年代後半ごろだ。年功序列型の人事で世代交代が滞り、役職に伴う人件費の増大などが問題視されていた。強制的に世代交代を進め、新陳代謝を図るための解決策として導入された。
パーソル総合研究所は22年、役職定年制の導入の有無などについて大手企業(32社)にヒアリング調査を行った。それによると、「制度あり」は31%、「(1~2年前に)新設」が13%、「制度を廃止」が16%、「廃止予定」が13%、「制度なし」が28%だった・・・

・・・大手企業32社の人事責任者らに、役職定年などのヒアリング調査をしたパーソル総合研究所の上席主任研究員、藤井薫さん(64)に現状を聞きました。
――企業が「廃止」「廃止予定」とした主な理由は?
役職定年となり、仕事に対するモチベーションが下がり、「働かない妖精さん」などと揶揄される50代を減らすことも理由の一つです。最近は管理職になりたがらない若手も多く、現場を仕切る「課長不足」に悩む企業が少なくありません。「バブル採用組」がもうすぐ大量定年となるので、管理職を中心に人材不足が深刻になるでしょう。

――役職定年が廃止されると人事が硬直化するリスクが生じるのでは?
組織の新陳代謝の障害になる恐れはあります。しかし、これからはゼネラリスト型の管理職より、スペシャリスト型の方が需要が高くなるのではないでしょうか。人事の硬直や専門性の陳腐化を防ぐため、役職定年のように年齢で区切るのでなく、若手も含めて2~3年の役職任期制度を設けるという手もあります・・・

日本人の死生観

6月30日の読売新聞読書欄に、岡美穂子(歴史学者・東京大准教授)による佐藤弘夫著『激変する日本人の死生観 人は死んだらどこへ行けばいいのか 第2巻』の書評が載っていました。
・・・著者に 拠よ ると、中世人の理想的な「死後」が極楽浄土への往生であったのに対し、近世人は自分が生きていた世界、子どもや孫たちが暮らす場所により近いところで「仏さま」として過ごすことを理想と考えるようになったという。その理由として中世の「生」は飢餓や貧困、病気などに満ちた厳しい場所であったのに対し、比較的平穏であった江戸時代の現世が「生まれ変わっても良い」と思える場所になっていたことが挙げられる。現在日本人の家庭の多くにあるように、江戸時代に仏壇が普及したのは、その時代の死生観に基づくと考えれば合点がいく・・・

それで納得できました。葬式や法事の際に、お坊さんは、亡くなった仏さんは西方浄土に生まれ変わるとおっしゃいます。とても遠いところだそうです。ところが、お盆などでは、仏さんは自宅に帰ってきます。近くにいて、私たちを見守ってくれているとも言われます。
なんでだろう、と思っていたのです。

幸福はよき人間関係から

6月29日の朝日新聞夕刊に、ロバート・ウォールディンガー、米ハーバード大教授の「人生を追跡調査、幸福のカギは」が載っていました。
・・・85年以上、約2600人の「人生の追跡調査」で幸福度を探る研究を続けている米ハーバード大学。研究の結果、ウェルビーイング(心身の健康や幸福)は、良き人間関係によって育まれることが分かってきたという。研究を担うロバート・ウォールディンガー教授(精神医学)に、幸せになるためのヒントを聞いた。

ハーバード大学が1938年から行っている「成人発達研究」は、卒業生を含め、貧困層から富裕層、子どもから大人まで幅広く調査しているという。
対象者には約2年ごとに生活状況などを聞く質問票を送り、5年ごとに健康診断のデータを集める。約10年ごとに対面で幸福度などをヒアリングし、さらにその配偶者、子どもなど3世代へと調査が広がっていく。
「現在、約2600人が調査対象になっており、こうした追跡調査は前例がなく、史上最長です」とウォールディンガー教授。

調査では、良い人間関係が、心臓病や糖尿病、関節炎の発症を抑制するなど、健康にも良い影響を及ぼしていたことがわかった。
一方で「慢性的な孤独感」は、肥満の2倍健康に悪く、1年あたりの死亡率を26%高めるという。
ウォールディンガー教授は研究成果をまとめた著書「グッド・ライフ」(辰巳出版)の中で「将来のウェルビーイングは予見できる」と記している。
研究チームは被験者たちの人生を80代まで追跡した時点で、中年期の状況から将来、健康で幸せな生活を送る人とそうでない人を予見できるか、検討してきた。
被験者の50歳時の全データを集めて分析すると、老年期の状況を予見できたのは、「コレステロール値ではなく、人間関係の満足度でした。50歳の時の人間関係の満足度が高い人ほど、精神的、肉体的にも健康な80歳を迎えていました」と説明する・・・

・・・定年が迫ってくると、人生に対する後悔や焦り、むなしさが生じがちだ。こうしたミッドライフクライシス(中年の危機)をどうやって乗り越えればいいのか。
「親友を探すことです」とウォールディンガー教授はアドバイスする。ある調査会社が「職場に親友はいますか」と世界中でアンケートしたところ、3割がいると回答したという。
「管理職によっては、従業員同士が仲良くなるのを警戒し、生産性を下げると言う人もいますが、実際は逆。親友がいると回答した人の職場での幸福度、生産性は他よりも高く、転職願望が低い結果となりました」
注目すべきは、親友がいると答えた女性たちは、意欲的に仕事に取り組む人の割合が2倍になっていたという事実だ。
「つまり、雰囲気のいい職場はストレスが少ないため、健康的に働くことができ、生産性も上がり、幸福度が高まると言えます」・・・

楽観的な人は先延ばし癖が少ない

6月26日の朝日新聞に「楽観的な人、先延ばし癖少ない? 東大院生ら、20~29歳の男女を調査」が載っていました。

・・・将来はストレスが少なくなると考える楽観的な人たちは、物事を深刻に先延ばしする癖が少ない。そんな研究結果を東京大学の研究グループが科学誌に発表した。「深刻な先延ばし癖を減らすには、未来に希望を持つことや、その支援を受けることが大切ではないか」と指摘している。
「深刻な先延ばし」とは、課題を先送りすることでよくない結果を招くことがわかっても先延ばししてしまうこと。幸福度が下がってストレスが増え、健康を損なったり学業成績が低下したりすることが知られている・・・

・・・オンライン調査で、20~29歳の男女296人(平均25・6歳)に、「過去10年」から「この先10年」の9段階の時間軸で、どれくらいストレスや幸せを感じるかを選んでもらった。同時に、12の質問をもとに、先延ばし癖が強い人たち、弱い人たち、中間層にわけ、ストレスや幸せの感じ方との関連を調べた。

ストレスの感じ方は4パターン。未来に行くほど、ストレスが減る「下降型」が18%、ストレスが増える「上昇型」が30%、今が一番ストレスが低く、過去や将来ほどストレスが増える「V字型」が38%、過去の一時点がストレスが最も高く、以降は減る「への字型」が13%いた。

下降型は、先延ばし癖が強い人たちが11%と、ほかの3グループの半分以下で統計上も明確に少なく、中間層の人たちが65%と多かった。下降型は未来に対して楽観的に考える人たちで、そういう見方が深刻な先延ばし癖を減らす可能性が示唆されたという・・・