「行政」カテゴリーアーカイブ

行政

健常者だけで議論する共生社会?

9月12日の朝日新聞オピニオン欄に、市川沙央さんの「共生の未来 誰とともに」が載っていました。

・・・ 「対話でさぐる 共生の未来」
昨年秋に東京ミッドタウン八重洲カンファレンスで開催された朝日新聞社主催の一大イベント「朝日地球会議2024」のテーマです。SNSでフォローする作家さんの登壇告知ポストから興味を持ち、イベント内容を公式サイトでチェックした私は、とても驚いてしまいました。〔誰ひとり取り残さず、すべての人が暮らしやすい持続可能な地球と社会について、みなさまとともに考えていく「朝日地球会議」〕。輝かしい理念に続いて紹介される70人近い登壇者は、すべて元気そうな人ばかり。障害当事者や家族あるいは支援者の立場の人すら、一人もいないのです。高校生・大学生ゲストの10人を含めれば、登壇者合計76人中のゼロ。20以上を数えるプログラム(セッション)のテーマにも、障害者に関するものは一つもないようです。では会場参加者のアクセシビリティはどうなっているのかと、事務局に問い合わせてみたところ、各セッションに手話通訳も同時字幕も用意されていない旨のお返事をいただきました。
均質的な知性および移動や会話に困難のない健常な身体を持った人だけを76人も集めて、聴衆に聞こえや認知のアクセシビリティを保障する意志も感じられない「対話でさぐる 共生の未来」。朝日新聞は、いったい誰と、何と共生するつもりなんだろう・・・

・・・アクセシビリティに関して無理な要求はしていません。同時期に東京国際フォーラムで行われていた東京都主催の「だれもが文化でつながる国際会議」では、手話通訳・同時字幕、パンフレットのテキストデータ提供があるだけでなく、それらアクセシビリティサポートの情報が公式サイトのトップに明記されています。ただでさえ障害者はどこへ行こうとしても下調べと事前連絡を課され〈問い合わせ疲れ〉をしています。そもそもドアが開いているかどうか分からない場所に、必要もないのにわざわざ行ってみようとは思わないでしょう。クローズドな健常者ファーストの場を作っておいて、あたかもサポートのニーズが存在しないように見せかける、それのどこが「対話でさぐる 共生の未来」なのでしょうか。重箱の隅をつつくようですが「朝日地球会議」公式Xは、8月末現在で投稿する画像にALT(代替テキスト)を付けてすらいませんね・・・

詳しくは記事をお読みください。朝日新聞社は「市川沙央さんのご批判を踏まえた朝日新聞社の受け止めと取り組みを、社会総合面に掲載しています」と書いています。

中国、官僚主義を批判し指導

8月26日の日経新聞に、「中国・習近平指導部、地方の形式主義にメス 「公文書は5000字以内」」が載っていました。文書作成の手引きや事務の簡素化なら、拙著『明るい公務員講座』を配れば良いと思います。翻訳して出版してくれないかなあ。

・・・中国共産党の習近平指導部が地方政府ではびこる形式主義への警戒を強めている。冗長な公文書の作成や無駄な会議が現場の負担になっているとして、8月に入って是正を指示する通知を出した・・・

・・・特にやり玉に挙げたのが公文書だ。「年間の発行数は前年より減ることはあっても増やしてはならない」と強調し、増やす場合は書面で理由を説明するよう義務付けた。
文書1件あたりの文字数も原則5000字以内に収めるよう求めた。内容は「冒頭から本題に入る」べきだとし、文体についても「簡潔で、実用的でなければならない」と明記した。政策を提案する際は「背景などの説明までは必要ない」と断じた。
会議の開催に関しては「一つの領域で包括的な会合を開くのは原則年1回」「責任者のスピーチは1時間以内に収めるべきだ」と定めた・・・

・・・中国当局は2024年夏にも同じような規定を公表した。改めて「規定を厳格に執行するように」と通知した背景には、形式主義が依然はびこる現実がある。
国営新華社通信によると、東北部・黒竜江省綏化市は7月、市の公安当局が現場の職員に、評価のために大量の参考資料を提出するように要求しており、これが本来業務の妨げになっていると批判を受けた。
必要な資料として要求されたのは、会議を開いた証拠写真や宣伝文書、携帯電話のスクリーンショットなど多岐にわたっていた。評価の結果は毎月ランキング付けして公開されるため職員らも提出しないわけにいかず、大きな負担になっていたという・・・

地方版ハローワーク

8月23日の日経新聞に「地方版ハローワーク、女性や高齢者の働き手発掘 就職率は国を上回る」が載っていました。これまで地方自治体の関与が少なかった(できなかった)分野の一つが労働政策です。

・・・自治体が運営する無料の職業紹介所「地方版ハローワーク」が眠れる働き手を発掘している。5月時点で全国に992カ所あり、島根県は県と全19市町村が設置する。地域課題を解決する自治体の政策と連動した職業紹介で、働く意欲のある高齢者や女性、障害者らの背中を押す。就職率は2019年度以降、国のハローワークを上回る。

地方版ハローワークは、地場産業の振興や介護・福祉の人手不足解消、移住促進といった地域課題を解決する政策の効果を高めるため、自治体が独自に職業紹介する。
地域のニーズをきめ細かく吸い上げて雇用に結びつけ、23年度の就職率は全国で31.3%。民間の職業紹介が存在感を増し、就職件数の減少が続く国のハローワーク(26.8%)より4.5ポイント高い。
都道府県別に自治体の設置割合をみると、島根県が100%で最も高く、鹿児島県の65.9%、大阪府の61.4%が続く。

島根県益田市は介護現場の課題解消をめざし地方版ハローワークを活用する。高齢者福祉課が実施する入門研修やUIターン人材への働きかけと並行し、課内に設置した「無料職業紹介所」が介護の周辺業務の求人と求職者をマッチングする。
施設の部屋の清掃や食事の片付け、利用者の話し相手など、資格が不要な周辺業務を担う人材を多数確保することで、資格のある職員が食事や入浴の介助、専門的な知識の必要な業務に集中できる環境を整えるのが狙いだ。
経験や年齢、勤務時間、資格の制限を設けず「介護お助け隊」として募集したところ、4年間で延べ97人が登録し、43人が職を得た。24年度の就職率は50%だった。
益田市は広報紙やチラシのほか、介護保険や家族の介護の相談で市役所を訪れた高齢者らに地方版ハローワークを紹介して周知してきた。「普段から足を運ぶ市役所の窓口に開設したことで、働きたくても一歩を踏み出せなかった高齢者のニーズを掘り起こせた」(高齢者福祉課)・・・

・・・中央大学の阿部正浩教授は地方版ハローワークについて「地域の課題やニーズをくみ取る自治体の施策に合わせた活用は効果が期待される」と評価する。
そのうえで「高齢者や女性の就職支援は国のハローワークも力を入れ、人材を奪い合う構図もある。地方版の一部は開店休業状態だ。地域の事情を詳しく知る強みをマッチングに生かすことが、地方版にはさらに求められる」と話している・・・

労働者階級が正規労働者階級とアンダークラスに分解

9月5日の朝日新聞オピニオン欄、橋本健二・早稲田大学教授の「最下層のブラックホール化」から。
・・・最下層の「アンダークラス」が誕生して日本は新しい階級社会になった――。そんな分析で話題を呼んだ社会学者の橋本健二さん。新たな調査結果をもとに、アンダークラスが「ブラックホール」化し、政治から疎外されていると訴えている。格差を解消する政治を生みだすため、まず足元を見つめてみたい・・・

――階級という視点から日本社会を見つめてきましたね。アンダークラスという新しい階級が最下層に出現したと訴える著書「新・日本の階級社会」が話題を呼んだのは7年前でした。
「アンダークラスとは、パートの主婦を除いた非正規雇用の労働者たちを指します。人数は890万人。日本の就業人口の13・9%を占めます。1980年代から進んだ格差拡大に伴って生まれた新しい階級であり、現代社会の最下層階級です」
「2022年に東京・名古屋・大阪の3大都市圏で私たちが実施したネット調査によれば、アンダークラスの人々の平均年収は216万円で、貧困率は37・2%に達していました」

――どのくらいの経済格差が見られたのでしょう。
「同じ調査で見ると、アンダークラスの人々の平均年収は、経営者ら資本家階級との比較では2割強、正規雇用の労働者と比べても4割強にとどまる額でした。貧困率を見ても正規雇用の人々は7・6%なので、桁違いです。非正規雇用の労働者と正規雇用の労働者の間には、もはや同じ階級とはみなせないほどの経済格差があるのです」

――今年6月に出された新著「新しい階級社会」の中で印象的だったのは、アンダークラスがブラックホール化しているとの指摘でした。なぜ、そのようなたとえを使ったのですか。
「貧困や格差の『連鎖』としてアンダークラスを理解しようとする誤解が気になっていたからです。貧困層の家庭の子は貧困層になるという連鎖です」
「確かに一般的には連鎖が見られるのですが、アンダークラスに関する限り、それはあてはまりません。そもそも子どもが生みだされにくいからです」

――どういうことでしょう。
「3大都市圏で行った私たちの調査から見えたのは、アンダークラスでは未婚率が69・2%と、他の階級に比べ際立って高いことでした。男性では、74・5%に上っています」
「経済的な理由から結婚することも子を持つことも困難な人が多数を占めている。世代の再生産が起きにくくなっている事実を強調するために、吸い込まれたら出てこられないブラックホールのたとえを使いました」

――新しい下層階級が登場する以前、日本には四つの階級があったと説明していますね。
「ええ。よく知られるのが、企業の経営者からなる『資本家階級』と、現場で働く人々からなる『労働者階級』です。そのほかに、経営者と労働者の性格を併せ持つ二つの中間階級がありました。自営で農業やサービス業などを営む『旧中間階級』と、企業で働く管理職・専門職などの『新中間階級』です」
「これらのうち労働者階級が90年代ごろに二つに分裂したというのが私の見立てです。上位の『正規労働者階級』と、下位の『アンダークラス』に」

――非正規労働者自体は以前から存在していたはずですが、なぜ、階級という固まりとして登場するに至ったのでしょう。
「一つは、経済のグローバル化によって非正規労働者が生み出されやすくなったためです。人件費を下げなければ企業が収益を上げにくい構造が作られ、低賃金の非正規労働者が増えやすい環境が生みだされました」
「また政府の政策や企業の方針の面でも、非正規雇用の労働者の増加を促進する施策が進められました。とりわけそれが顕著だったのが日本や米国です」
「かつては非正規労働と言えば、学生やパートの主婦、定年後など人生の一時期だけのものでした。人生のすべてを非正規として働く人が激増したことで、独立した階級になった形です。人間を消耗品として使い捨てている状態だと言えます」

――階級は社会からなくした方がいいでしょうか。
「いえ、なくさない方がいいと思います。経営をしたいか雇われて働きたいか、脱サラして自営業を始めたいかの選択肢はあった方がいいからです。でも格差はなくすべきです。格差は社会全体に損失を与えます」
「もし階級間の格差が小さくなれば、人は自分の所属階級を自由に選べるようになります。目指すべきは、そうした社会なのではないでしょうか」

イギリス民営化、規制が不十分だった

8月20日の日経新聞には「クラーク元英産業戦略相「民営化、規制不十分だった」 放任は否定」も載っていました。先日書いた「イギリス、民営化政策転換」の続きになります。

・・・英国ではサッチャー政権時代に進めた民営化から転換し、産業政策で政府の関与を強めつつある。保守党のグレッグ・クラーク元ビジネス・エネルギー・産業戦略相は日本経済新聞の取材に「様々な方法で産業育成に取り組んだ。完全な自由放任主義ではなかった」と述べた。民営化後の企業に対する規制は不十分だったと指摘した。

――保守党のサッチャー政権が1980年代に進めた民営化の弊害が目立ちます。何が間違っていたのでしょうか。
「忘れられがちだが、民営化以前のインフラ部門は政府の財政制約で設備投資が抑制されていた。民営化で変革がもたらされた。ただ、インフラは独占企業が担うことになる。規制の面で、消費者の利益を擁護する運営が必ずされるとは言いがたかった」
「初期の規制モデルはナイーブだった。企業は規制当局を説得し、楽な条件で事業を進めようとした。民営化自体が間違っていたとは思わないが、規制には誤りがあった」・・・