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社会

コロナウイルスで変わることと変わらないこと

「新型コロナウィルス感染拡大で社会が変わる」とマスメディアで流行しています。でも、本当にそうでしょうか。「変わる」は、マスメディアの商売文句です。何か変わったこと、新しいことを主張し「売らなければ」ならないからです。

私は、一部変わるところがあるが、大きくは変わらないと考えています。在宅勤務がしやすくなるでしょう。しかし、それに向いている仕事以外は、元に戻ると思います。学校がインターネット授業になるか。たぶん、多くの学校でそうはならないでしょう。例えば「テレワークの短所」。
多くの人は、職場に行きたい、同僚と話したい。学校に行きたい、友達と話したいのです。飲食店や行楽地が人が戻らないか。それは困るでしょう。感染拡大に注意しながら、元の生活に戻るでしょう。

東日本大震災でも、「災後」という言葉で、社会が変わると言われたことがあります。私は、意識して変えない限り、変わらないと主張しました。災害復旧の哲学を、公共施設の復旧から住民の生活の再建へと変えました。ここは確実に変わったと思います。しかし、多くの人の日常生活は変わりませんでした。

男性原理の退潮

引き継がれる敗戦のトラウマ」の続きです。8月7日の日経新聞文化欄、赤坂真理さん「現代男性の心に刻まれた「敗戦のトラウマ」とは」から。その2です。

・・・このところ男性らしさや男性性を嫌悪したり、男性であることに罪悪感を抱いたりする傾向を感じる。男性のパワーを良いものとして発揮できる機会が減っているからかもしれない。
社会インフラが整ったことで、スイッチひとつで何でも動き、日常生活から力仕事が消えた。優しい男性を望む女性も増えている。そのような戦後空間に適応するために、男性性がしぼんできていると見ている。

しかし性差のダイナミズムがなければ動かないところもある。日本の夫婦形成は見合いより恋愛が主流になり、マッチングが成立しにくくなっているのがその例だ。
ひとり暮らしが増え、これまでの家族の形を前提にした社会ではひずみが大きくなっていくだろう。家族の概念を広げることもありうる。恋愛するしないにかかわらず、親密な人がいたほうが困らないことが多い。親族のつき合いや地縁が緩むなか、ひとつの家族だけで人生の不確実性に対処するのも限界があるだろう。これまでとは違ったかたちで、帰属感を持ちうるコミュニティーが求められていくだろう・・・

平成時代に、男女共同参画が広がりました。昭和憲法で男女同権をうたったのですが、実際の生活では、男性優位の暮らしが続いていました。それが、仕事場や家庭において男女対等が実現しつつあります。しかし、世の中の男たちは、男性優位の社会で育ってきたので、どのように行動して良いか戸惑っています。
結婚しない人、子どもを持たない人、片親で育てる人、定住外国人・・・これらも、これまでは「標準外」として扱われたのです。家庭の在り方、地域社会の在り方が大きく変わりつつあります。意識を追いつかせることが、課題です。

引き継がれる敗戦のトラウマ

8月7日の日経新聞文化欄、インタビュー 戦後日本の行方(2)、作家の赤坂真理さん「現代男性の心に刻まれた「敗戦のトラウマ」とは」から。

・・・世代が替わり、戦争を体験した人々が少なくなっても、心の傷痕は自然には消えない。親から子、子から孫と受け継がれ、さまざまな問題を引き起こしかねない・・・

・・・戦争体験を語るとき、そこには一定のフォーマットがある。「巻き込まれて大変な苦労をした」という被害者の語り、いわば「女性の語り」だ。
男性はあまり戦争を語りたがらない。語るとしても、往々にして被害者の語り口になる。だから戦争を動かしてきた男性の声は埋もれている。戦争は悪いことだったという結論ありきでスタートするので、正直な気持ちが言えないのか。男性のプライドは傷ついているはずだ。
酒に酔ったときなどにその片りんが表れ、眉をひそめたという妻や子の証言はいくつも残っている。男性は意識的にせよ、無意識的にせよ本音を語らず、忘れたふりをするしかなかった。男性のプライドがどこに行くのか、興味がある。
経済戦争と呼ばれた時代にも、先の敗戦の傷が刻まれているのではないか。男性はワーカホリックになり、経済で世界で勝とうとした。バブル期の日本企業が米国を象徴する摩天楼を買収したとき人々が喜んだのは、心の中に敗戦による鬱屈や惨めさを抱えていたからではないか。だから経済が弱くなると体面が保てなくなってしまう・・・

鋭い指摘です。命を賭けて戦った戦争。従軍した兵士たちは、復員後、その体験について語ることは限定されました。公の場で自分たちの功績を語ることはできず、負の面はなおさら語ることを避けました。内面に押し込め、忘れたふりをしたのでしょう。負け戦とはそのようなものです。
さらに、太平洋戦争は、アメリカによる占領と改革で、戦前日本そのものを否定する結果を招きました。軍隊自体を否定されたのです。
男たちは、否定された経験を乗り越えるためにも、全力を経済成長の闘いにつぎ込んだのだと思います。
この項続く

コロナウイルス、相互理解の衰弱促進

8月4日の日経新聞経済教室「アフターコロナを探る」、猪木武徳・大阪大学名誉教授の「相互理解・連携の衰弱一段と」から。
・・・パンデミックが歴史の転換点となりうるとしても、これまでの変化を加速させるのか、あるいは変化の方向を反転させるような力を持つのかを見通すのは難しい。ここでは2月以来、筆者が注目してきた点をいくつか述べるにとどめたい。

まず第1は、感染への恐れから人との直接的な接触が少なくなり、相互理解の努力をしつつ連携(associate)しようとする精神が弱まるのではないかという問題だ。過去四半世紀の技術革新、特に情報通信技術の進展は、わずか一世代で社会生活のスタイルを大きく変えた。それは人と人の直接の接触を減らす方向への変化であった。今回のパンデミックはその傾向をさらに強めると考えられる。
われわれはフェイス・トゥ・フェイスの接触を通して、人とのほどほどの距離感と公共意識を学び取ってきた。だが先端技術による社会的交わりの手段の多くは、人との距離感覚を鈍化させるような不確かで不安定なものが多い。タブレットやスマホでの映像や短い言葉のやり取りが人と人との連携を生むのだろうか。
デモクラシーは本来的に人々を個人主義的にし、バラバラにさせる力を持つ。そこへ「社会的距離を取る」というマナーが加わると、人々の匿名性が高まり公共精神を育む力は弱くなるであろう。公共精神の衰弱は健全なデモクラシーの屋台骨を切り崩しかねない・・・

・・・科学と技術のハードウエアの教育だけでは、社会の改善は望めない。その一つの歴史的根拠として、ジャスティン・リン北京大教授の次の指摘は興味深い。
中国社会では羅針盤、火薬、紙、印刷、鋳鉄技術など様々な発明が生まれた。にもかかわらず、産業革命という大転換は起こらなかった。それは中国が科学という社会システムとしての「文化」を生み出せなかったからだと言う。知的廉直さを厳守する社会システムが存在しない限り、科学という「文化」は生まれない。個別具体的な発明は散発的に現れても、科学という「文化」は中国には形成されなかったとリン教授は指摘する(米経済学者ポール・ローマー氏の引用による)・・・

SNS、共感と分断

7月31日の日経新聞経済教室「SNSと現代社会」、前嶋和弘・上智大学教授の「共感と分断を同時に加速」から。
・・・SNS(交流サイト)が米国政治を大きく変貌させている。ツイッター、フェイスブックなどの各種プラットフォームが普及し出してから10年強にすぎないと考えると、変化の大きさには改めて驚く。これは、ちょうど米国政治の中で保守とリベラルが大きく分かれていく「政治的分極化(両極化)」が進展した時代とも重なっている。
トランプ大統領はSNSを巧みに操り、党派性を徹底的にあおりながら自分の主張を展開し、支持固めに直結させている。同氏のツイッターのアカウントは2020年7月下旬現在、8371万人超のフォロワー(登録者)を持つ・・・
・・・ただ、内容は極めて特異だ。「敵と味方」をしゅん別し、敵を徹底的に否定し、味方をほめちぎるのが基本姿勢だ。この姿勢は16年の大統領選挙のころから全く変わっていない。そう考えると、トランプ政権はSNSが生み、育てている初めての政権と言ってもいいのかもしれない・・・

・・・ここで、SNSというメディアの特徴について立ち戻ってみたい。論点は3つある。
まず第1に、SNSは基本的に共感を呼ぶメディアである。米国で一気に拡散した人種差別反対運動については、残忍な白人警官のやり方に対して、写真や映像とともに憤りの言葉がSNS上に拡散し、参加の渦が広がっていった。運動のピークとみられる6月半ばに2600万人もの人々が参加する、過去最大といわれる社会運動に広がっていく(数字はカイザー家族財団の推計、6月8日から14日調査)。

第2の性質は、自分と違う立場の意見とは没交渉になる点だ。SNSや検索サイトでは、アルゴリズムで利用者の関心が高いとみられる情報が優先表示される。見えないフィルターがかかり、まるで泡の中にいるように自分と反対の立場や不都合な情報が見えなくなってしまう。共感できるものと共感できないものが分かれ、見えない壁ができる「フィルターバブル」現象が目立っていく。そのため、SNSは社会の分断をさらに加速化させている、という見方も少なくない・・・

3番目は、技術的な脆弱性である。7月15日には、11月の次期大統領選で民主党の指名獲得を確実にしたバイデン前副大統領や、オバマ前大統領などの複数のツイッターアカウントが何者かに一時的に乗っ取られた。被害はなかったというが、トランプ大統領のアカウントも当然、狙われていたと推測される・・・