カテゴリー別アーカイブ: 官僚論

行政-官僚論

ブレア首相の指摘する現代の官僚機構の欠点

イギリスのブレア元首相が、日経新聞に「私の履歴書」を連載しておられます。ブレア元首相の回想録は、英語版が出た時にすぐに買い求め、先月に邦訳が出たのでこれも買ったのですが、未だ読めず。なにせ分厚いので、布団の中で読めないのです(反省)。
1月12日の文章から。
・・国家を能率的に機能させる能力は、20世紀半ばに必要とされたものとは違う。それは実行とプロジェクト管理を扱う民間部門のものに似ている。近代政治のペースは速く、メディアも徹底追求するので、政策の意思決定、戦略の策定は圧倒的な早さで進めなければならない。
官僚が作った政策文書を、首相が議長を務める閣議で討議し決めるという従来の方法では、急速に変化する政治環境に対応できない。
官僚制度の問題は、物事を妨害することではなく、惰性で続けることだ。官僚は既得権に屈服し、現状維持か、物事管理するのに一番安全な方法に逃げ込む傾向があった。
官僚組織は、うまく指揮すれば強力な機構になる。官僚たちは知的で勤勉で公共への奉仕に献身している。ただ、大きな課題に対し小さな思考しかできず、組織が跳躍を求められるときに、少しずつしか動かなかった・・

日本の官僚機構の問題点を、大学で講義し、連載したことがあります。そこで採り上げた課題の多くが、イギリスと共通していることに、改めて驚きました。我が意を得たりです。もっとも、それを解決していないという問題と、共通課題の上に日本独自の課題があることを、反省しなければなりません。
その後、総理官邸などで、さらに行政機構と官僚制の問題点を考えました。いずれ、中断した連載に、片を付けなければなりませんね(決意表明)。

試行錯誤、改革の試みと復古と

10月1日の朝日新聞に、次のような記事が載っていました。
・・官房長官、官僚に苦言
「メモ出しなど、大臣のサポートがうまくいっていなかった場面が時々あったので、改善してほしい」藤村修官房長官は30日、各省の事務次官を集めた会議で、臨時国会の委員会審議をめぐる官僚の対応に苦言を呈した。初の委員会審議で新任閣僚の不慣れな答弁が目立ったが、大臣席の後ろに控える官僚のメモを手渡すなどの対応が不十分だった、との指摘だ。
菅直人前首相は「脱官僚」を強く意識していたのに対し、野田佳彦首相は「官僚を活用しつつ、政治主導を堅持する」と強調する。実際には「官僚頼み」がじわじわと進みつつあるようだ・・

また、次のようなお知らせが、載っていました。
・・朝日新聞社は、10月1日から、東京本社と大阪本社の編集部門の一部の呼称を変更し、エディターと一部のセンター長は「部長」、出稿グループ一部のセンターは「部」に、それぞれ改めます。
編集部門の組織は2006年、柔軟で機動的な紙面づくりをすすめるために、それまで編集局内の各部に所属させていた記者を全員、当時の編集局所属とするフラット化を実施し、これに伴い、部をグループとセンター、部長をエディターとセンター長としました。5年を経てフラット化の目的を達成したため、呼称については呼び慣れた名前に変更します・・

後段の「呼び慣れた名前に変更します」は、「やはり以前の方がわかりやすいので、呼び慣れた名前に戻します」と書いた方が、実態を表していると思いますがね。
私は保守主義者なので、改革は大好きです。守るべき本筋=引き継ぐべき良いところを守るために、どんどん改革は試みるべきです。そして、変えた方が良ければそれを続ける、ダメだったら元に戻す。そうしないと発展はなく、また生き残ることはできません。
もちろん、従来のものを何でも否定したり、十分な検討をせずに改革したり、やってみておかしいのに続けるような「改革論者」は、私は嫌いです。

公務員の業績評価

霞ヶ関では、国家公務員の人事評価(目標による評価)の時期です。年に2回、3月末と9月末が基準日です。能力評価と業績評価の2つについて、自己申告をし、上司の評価を受けます。私も、提出しました。
私の場合は、達成したかどうかの業績評価をするために、その前に何を達成すべきかの目標を作ることが一番の仕事です。これまでにない仕事をしているので、職員が困ったり手戻りがないように、適切な課題=仕事を設定することです。それが間違っていると、いくらその目標を達成しても、世間からは良い評価をもらえません。
業績評価のための項目を書き出し、「こんな項目でよいのかなあ」と、部下職員に確認してもらいました。
目標による評価は、結構面倒ですが、自らの仕事について、考え直す良い機会です。さらに、仕事の目標について、上司と議論し共有できる良い機会です。これまでも、部下の自己申告を読んで、「おいおい、それば違うだろ。重要な仕事は××だよ」ということが、何度かありました。部下に対し、的確な指示をしてなかった私が悪いのですが。

政策思考力を養う

北海道大学の宮脇淳先生が、『政策を創る!考える力を身につける!「政策思考力」基礎講座』(2011年、ぎょうせい)を、出版されました。中央政府の職員にも、地方政府の職員にも、新しい課題に対し、政策を考えることが要求されます。
何度も書いていますが、先進諸国に学び、政策を輸入する時代は、とっくの昔に終わりました。例えば、世界一の高齢国になった日本に、お手本はありません。地域の産業をどう振興するか。課題は、地元にあります。
自治大学校などでは、いわゆるケーススタディで、具体的な課題について、どのように対策を考え実行に移すかを、練習してもらっています。
宮脇先生の新著は、ケーススタディではなく、その前に必要となる基礎力を養うものです。例えば、「全体の議論をしているはずなのに、個々の詳細な細部の議論に終始してしまうと、1つの枝(細部)の議論が終わると、次の枝の議論になってしまい、全体の議論に至らない。これを、ムササビ議論と呼ぶ」といった指摘(p239)は、皆さん思い当たるところがあるでしょう。長い会議や、回数だけ重ねているのに、結論が出ない会議です(笑い)。
読者としては、政策を創っている人やこれから政策を創っていく人、30~40代の町を盛り上げようとしている人を中心に、考えておられるそうです。この本は、政策基礎力原論ともいうべき書物で、読みこなすには少し努力が必要かもしれません。政策を作ることができる幹部を目指している職員の皆さん、チャレンジしてください。

10年間の公務員給与引き下げ

民間企業の給与が減っていることに合わせ、公務員の給与も削減されています。平成11年以降毎年のように、人事院勧告が引き下げられてきました。どの程度下がったのか、専門家に聞きました。平成22年夏の人事院勧告に、次のような記述があります。
・・公務員給与は、民間賃金が厳しい状況にあったことを反映して、平成11年に年間給与が減少に転じて以降、平成19年を除き、月例給又は特別給の減額による年間給与の減少(平成11年~平成15年、平成17年及び平成21年)又は据置き(平成16年、平成18年及び平成20年)が続いている。年間給与が減少に転じる前の平成10年と平成21年について、40歳の国家公務員のモデル例(配偶者・子2人)で比較してみると、その年間給与は、本府省勤務の係長で約12.8%、地方機関(地域手当非支給地)勤務の係長で約17.5%それぞれ減少している・・(別紙第1 職員の給与等に関する報告p1)。
累計では、1割以上も下がっているのですね。さらにこのあと、平成22年も引き下げられました。地方では地域手当見直しで、さらに大きく下がっています。
給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント」の7ページ(9枚目)に、わかりやすい表がついています。平成11年から22年までの間、19年は引き上げですが、16、18、20年は勧告なし、そのほかの年度は引き下げです。