カテゴリーアーカイブ:歴史

イギリスが偉大だったのは例外の時代

2020年1月22日   岡本全勝

1月18日の朝日新聞オピニオン欄。ケンブリッジ大学名誉教授、デイビッド・レイノルズさんのインタビュー「英国、解体の足音」から

・・・英国の歴史を500年単位で見ると、偉大な大国だった18、19世紀は例外です。小さな島国で、資源も限られ、衰退しているのがむしろ定番でした。海洋が重視される時代になり、海軍と商業船団の発達のおかげで世界中の資源にアクセスし、奴隷の力も借り、英国は大英帝国に成長したのです。蓄えた富で産業革命を起こし、19世紀半ばに産業経済大国となりました。「英国は偉大だ」という意識は、こうした経緯と結びついています。

ただ、この国のサイズでその力をずっと維持できるわけではありません。その後の英国の展開は、没落というより、定位置に戻っただけ。にもかかわらず、「世界での地位を失った」かのような感情が残りました。それを利用して「英国を再び偉大な国に」との選挙スローガンを打ち出したのがサッチャー首相です。彼女が率いる保守党にとって、偉大さの喪失は見過ごせなかったのです・・・

倉本一宏著『公家源氏』

2019年12月27日   岡本全勝

倉本一宏著『公家源氏』(2019年、中公新書)が、勉強になりました。
平家と争い、鎌倉幕府を開いた源氏については、皆さんご存じですよね。源氏と言えば、この義家、頼朝の家系で武家の印象が強いですが、この本が取り上げているのは、宮中で活躍した源氏です。

天皇の子供や孫が、源という姓をもらって、皇族から離れます。他の姓をもらった皇族もいます。在原とか。平安時代の天皇が、それぞれたくさんの子供を、このようにして処遇します。他の方法は、出家して寺院に入ることです。
どの天皇から別れたかによって、嵯峨源氏、清和源氏、村上源氏など、たくさんの家が興ります。よって、源氏と言っても、一つの家ではありません。

公家となった源氏は、天皇に近く、殿上人として王権を支えます。血筋、育ち、教育において、優れているのです。
しかし、子孫の代になると、天皇とは遠くなり、地位を低下させます。もっとも、その頃には、別の天皇から出た源氏が活躍します。
たくさんの有名な源氏の公家が、載っています。もちろん、全員が出世したわけではありません。
公家と言えば、藤原氏を思い浮かべますが、一時は、源氏の方が多いときもあります。もっとも、力を持っているのは藤原氏で、源氏とはお互いに共存を図ります。婚姻を通じてです。そこに、天皇家、藤原氏、源氏の3家による、共同体が生まれます。

宮中で活躍するためには、血筋と教養と後ろ盾とが必要です。もう一つは、財産です。藤原氏は代々、荘園を引き継ぎ、また拡大します。
各源氏は、どのようにして、財産を確保したのでしょうか。その点は、この本には詳しくは書かれていないようです。

1900年、産業のロンドンではなく自由なパリに人が来る

2019年12月26日   岡本全勝

12月22日の読売新聞、フランスのアニメ映画監督、ミッシェル・オスロ氏のインタビュー「アニメという仕事。人間の悪と戦う 機知と寛容」から。

・・・無論、それだけでは作品は成り立ちません。万博が開かれた1900年のパリを舞台に選びました。
フランスは1789年の革命以来、幾度か戦争を行い、輝いた瞬間もあったが、自滅に向かいます。決定的だったのは1871年の普仏戦争の大敗です。
ところが再興を果たす。世界の才能が大英帝国のロンドンではなく、パリに集う。なぜでしょう。精神の自由が求心力になったのではないかと私は推察します。報道の自由も重要でした。

パリは女性が社会の幾重もの束縛を解き、活躍した都でもあった。国際女優サラ・ベルナール、ノーベル物理学賞と化学賞を受けるポーランド出身の科学者マリー・キュリー、革命家ルイーズ・ミシェル――・・・

リン・ハント著『なぜ歴史を学ぶのか』2

2019年12月19日   岡本全勝

リン・ハント著『なぜ歴史を学ぶのか』の続きです。次のような記述もあります。P87

歴史学は、時間に対して3つの扱い方をしてきました。
第一は「模範の探索」です。19世紀に歴史学が大学で学問となると、学生であるエリートの成年男子に対し、古代ギリシアやローマの歴史を教えました。彼らは、政治や軍事指導者になることを期待され、その最良のモデルとしてです。現在もなお、政治家は古典の中から、理想となる指導者や文章を引用します。

1800年代中葉から1900年代中葉に、模範の探索は、第二の「進歩の投影」に取って代わられます。
それは、歴史とは人類の進歩であると見なされます。古典時代が黄金時代であり、そこから堕落したとか、興亡の循環であるという歴史観に取って代わったのです。
その際には、進歩した西洋が、他の地域より優れているという考えがありました。他方で、国民国家を作るために、各国の歴史が作られました。

第三は「全地球的時間」です。最近の傾向です。歴史は単純な進歩ではない。各国が遅れて西欧に追いつくのではなく、各地域で異なった歴史が進んでいきます。また、人間の相互作用だけでなく、地球規模での環境、微生物や病気、植物、交通運輸、交易などが視野に入ってきます。ジェンダーもそうです。

政治の歴史から、経済の歴史へ、そして文化の歴史へと代わってきたともいえます。あるいは、政治家の歴史から、実業家の歴史、そして庶民の歴史に代わってきたのです。

リン・ハント著『なぜ歴史を学ぶのか』

2019年12月17日   岡本全勝

リン・ハント著『なぜ歴史を学ぶのか』(2019年、岩波書店)が勉強になりました。「E・H・カーの『歴史とは何か』の21世紀版」という書評もあるようです。

どちらの本も「歴史」と題にありますが、「歴史学とは何か」という本です。
かつて(19世紀から20世紀前半)、事実を探求すれば歴史がわかるとされていた実証主義に対し、カーは「歴史とは現在と過去との対話である」と喝破し、見る人の時代や立場によって、歴史の解釈が違ってくることを主張しました。

ハントはさらに進めて、立場の違いが解釈の対立を生んでいることを指摘します。戦争や虐殺による事実が、加害者(の子孫や国)と被害者(の子孫や国)との間で論争を引き起こしています。教科書の書きぶりであったり、「英雄」の記念碑の扱いです。被害者(の子孫や国)は、加害者の非道ぶりを国際社会で訴え続けます。アジアにおける日本もまた、例外ではありません。

また、これまで「歴史の事実」とされていたものが、ヨーロッパ人による、ヨーロッパ中心の歴史観であったことを、してきします。これらは、ハントが初めて主張したのではなく、ここ数十年の社会の実態であり、歴史学の進歩によるものです。この項続く。

参照「歴史学は面白い」「歴史は書き換えられるもの」「覇権国家イギリスを作った仕組み、7」「日経新聞夕刊コラム第16回 未来との対話