カテゴリー別アーカイブ: 歴史

人類進化の理由

人類が、どのようにサルから分かれて進化したか。興味がありますよね。さらには、生物の進化、日本人がどこから来たかも。私も、これまで何冊かの本を読みました。
8月10日の日経新聞夕刊、親子スクール「人類はいつ生まれたの」に、近年の研究成果を踏まえて、簡単に整理されていました。

一番のなぞは、二本足歩行、脳の発達、言語の習得でしょう。一番と言いながら、三つもありますが。
かつては、私たちのご先祖様は、他のサルとの争いに負けて森から追い出され、草原で生きていくようになった。その際、立っていると遠くが見えたとか、逃げるのに速かったから二本足になったと言われました。
その説もそれなりに納得したのですが、二本足で逃げるのと四本足で逃げるのには、そんな差がありませんよね。どちらにしても、すぐに疲れるし。直立したから、脳が大きくなったのではないでしょう。

最近有力な説は、オスがメスにあげる食料を、手に持って運んだからだそうです。チンパンジーは、メスをめぐってオス同士が争います。人類は、オスとメスが一組のペアになりました。そこで、オス同士の争いより、メスの気を引く方が重要になったのだそうです。
取っ組み合いより、貢ぎ物と挨拶です。気に入られるために、知恵も必要になります。

草原が人類を生んだという環境原因説より、オスがメスの気を引くためという社会原因説の方が、面白いですよね。
おかげで、700万年後の子孫である私たちオスも、メスのためにせっせと働いて、気に入られようとしています。男女は同権だと主張しても、生物的社会的に、オスは弱いものですわ。続く。

歴史の見方、思想が動かすか情念が動かすか

歴史の見方、指導者の歴史と民衆の歴史」の続きです。
もう一つの区分に、歴史は理念で動くとみるのか、情念が動かすとみるのか、があります。
思想の歴史といった書物を読むと、哲学者の思想が並んでいます。確かに、彼らの思想が社会を動かしたこともありますが、大衆はそれを知らなかったことも多いです。
江戸時代の思想とか、昭和時代の思想といった場合、大学で講義されていた思想や書物に表されていた思想は、それぞれの時代の思想の一部でしかありません。というより、大衆からは離れ、ごく一部の人の思想だったでしょう。本屋に並んでいるのは、(ヨーロッパから輸入した)最先端の思想書です。

確かに、ルソーやモンテスキューの思想が、近代市民革命の思想的基盤になったのでしょう。しかし、フランス革命とナポレオンを支えた民衆は、そのような思想ではなく、情念で動いていたと思います。また、フィレンツェで、サボナローラの神権政治を支えた市民も、たぶん情念で動いていたのでしょう。
民衆だけでなく、指導者にあっても、鹿島茂さんが『ナポレオン フーシェ タレーラン 情念戦争1789-1815』で描いたように、情念で動いているようです
情念が時代を動かす

歴史の見方、指導者の歴史と民衆の歴史

歴史を語るときに、エリートや指導者を見るのか、民衆を見るのかの違いがあります。前者は、王様や英雄を語ることで、歴史を書きます。後者は、社会の変化を見ます。
これまでの歴史学は政治史が中心で、前者に偏っていました。年表は支配者の交代で時代が区切られ、記述も戦争や支配形態が主でした。読み物も、英雄の伝記が多かったです。

それはそれで面白いのですが。政治史では、民衆がどのような暮らしをしていたのか、どのような変化があったのかわかりません。
王様が交代しても、民衆はほとんど変わらない生活をしていたのでしょうね。他方で、生産技術の向上、思想や信仰の変化、生活はどのように変わったのか。そのようなことを知りたいです。社会史や文化史の視点が必要です。
この項続く

歴史の見方の変化」「加藤秀俊著『社会学』」「覇権国家イギリスを作った仕組み、10。エリート文化と民衆文化

「ヒトラーの時代」

池内紀著『ヒトラーの時代 ドイツ国民はなぜ独裁者に熱狂したのか』(2019年、中公新書)を読みました。帯にあるように、政界デビューから人気絶頂期まで、1925年から1939年までの15年間です。

第2次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人の大虐殺を行った「希代の悪人」です。それが、20世紀のドイツに、そして当時最も民主的と言われたワイマール憲法の下に現れます。政治と行政の大した経験もなく、「民主的手続き」で独裁者になります。そして驚くべき蛮行を実行します。
どうして、ドイツ国民は彼を選び、熱狂的に支持し、蛮行に手を汚したか。これまでに、多くの研究や書物が出ています。この本は、新書版という小さな、だから読みやすい形で、分析しています。

なんと言っても、第1次世界大戦後の、ドイツの天文学的インフレ、社会の混乱、そして秩序をもたらさない政府が、ヒトラーの出現を許した背景でしょう。
彼が政権に就いてから、次々と良い政策を行います。インフレの沈静、大量の失業者の解消、社会保障、労働者保護などなど。労働者への旅行の提供、フォルクスワーゲン・アウトバーン・国民ラジオ、そして(格好良い)制服などなど。国民に取り入る政策や文化の数々が紹介されます。それらがなくては、独裁だけでは政権は長持ちしなかったでしょう。
国民への宣伝にも、これまでにない新機軸を打ち出しましたが、宣伝だけで国民の支持を得て、そしてつなぎ止めることは難しいでしょう。
4年で政権を退いていたら(死んでいたら)、ドイツ史上最も偉大な人物として歴史に残っただろう、という意見もあります。

しかし、それら新政策と同時に、異論を許さない全体主義国家、ナチス以外を認めない一党独裁、収容所建設を進めていたのです。彼が発案した、あるいは指導したとしても、それを受け入れ実行した多くの国民がいたからこそ、実現したものです。
それらに手を貸した人たち、また見て見ぬふりをした人たち。残念ながら新書版の大きさでは、それらを望むのは、無い物ねだりですね。

「アルプスの少女ハイジ」

「アルプスの少女ハイジ」って、皆さんご存じですよね。かつて、テレビのアニメでも、ヒットしました。小説を読んだことがない人でも、足の悪いクララが、ハイジに助けられて、アルプスの大自然の中で、歩けるようになったということは知っているでしょう。私も実は、その程度しか知らなかったのですが。

NHK番組「100分de名著」6月は、『アルプスの少女ハイジ』だったのです。私は放送は見ずに、テキストを読みました。松永 美穂著『シュピリ「アルプスの少女ハイジ」』(2019年、NHK出版)です。

紹介に、次のようにあります。
「世界的な人気を誇る日本のアニメ作品が、ゲーテによる教養小説の流れを汲み、19世紀のヨーロッパ社会や宗教観を色濃く反映した原作をもとに作られたことは、あまり知られていない。登場人物の心の葛藤や闇、豊かな宗教性・自然観にも焦点を当て、アニメには描かれていない原作の深淵な魅力に迫る」

両親を亡くし、山のお爺さんに育てられるハイジが、経験を積んで成長していくことが、この物語の一つの主題です。
そして、150年後に読む私たちにとっては、当時の社会を理解する、歴史学として読むことができます。19世紀後半の貧しいスイスの山の暮らし、工業化が進むドイツの都市。そこをつなぐ鉄道ができて、この物語が成り立ちます。それにしても、親を亡くした子供の多いこと。かつては、それが当たり前だったのです。
童話と思わずに、お読みください。松永さんの解説を読んでから、原作を読むと、勉強になるでしょう。