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内海健著『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』その2

内海健著『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』」の続報です。村上陽一郎・東大名誉教授が、7月25日の毎日新聞に書評を書いておられます。

「一読、巨きな一幅の絵を見た思い。システィナ礼拝堂の天井画、アダムの指先のリアルさにまがう、細部のリアルさは細密画の如く、しかし、全体が訴えるものは大きくて深い。読み終わって、魂に木霊するような静かな亢ぶりがある」で始まり、「確かな書物を読んだ後の魂の亢ぶりは、まだ続いている」で終わります。

村上先生による極上の評価です。私の説明は、控えめでしたね。

内海健著『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』

内海健著『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』(2020年、河出書房新社)を紹介します。

産経新聞7月18日、文芸評論家・富岡幸一郎さんの書評「苦悩する魂の秘密に迫る」から。
・・・本書は、70年前に金閣に火を放った青年僧の生涯をたどり、著者専門の精神病理学の視座から、彼がなぜ金閣を焼くに至ったのかを追究する。
青年の生まれ故郷、禅僧の父、息子の犯行直後に自殺した母、彼自身の鹿苑寺金閣での修行の日々、犯行後の精神状態。鋭利な分析は推理小説のようにスリリングであるが、驚くべきは現実界の青年が、いつしか小説の主人公に深く交差し、作者・三島由紀夫の天才の病理へと結びついていくことである。
そこに現れるのは、人間の心の深淵であり苦悩する魂の秘密である。三島の衝撃的な自裁もくまなく解明される。精神科医による文学論などではない。著者自身の実存を賭して描かれた、類いまれなノンフィクションの傑作である・・・

ノンフィクションというと、事実に基づいた創作小説を指すようですが、この本はそのような分類より、精神科医による、金閣寺放火犯とそれを題材に小説を書いた三島由紀夫の精神分析といった方がわかりやすいでしょう。事実と二人の生い立ち、三島については彼の小説を手がかりに、二人の心を開けて見せます。推理小説に近いかもしれません。分裂病やナルシシズムなど、そのための基礎知識も得ることができます。私は、そのような感想を持ちました。

著者は、東大医学部卒の精神科医です。というか、私にとっては、高校の同級生です。いつもいただく本は難しいのですが、これは読むことができました。

責任を取る方法4

責任を取る方法3」の続きです。
この項では、失敗した場合の責任の取り方にはどのようなものがあるのかを、考えています。あわせて、何をすることが、被害者や社会への償いになるのかを考えています。

8 償いとは何か。
表に整理した、Aあやまることや、C職を辞める・組織を解体することは、事故を起こしたり不祥事を起こした社長の記者会見でも、中心主題になっています。しかし、それで観客の溜飲は下がるにしても、B原状復旧・被害者支援やD償いに比べ、被害者や社会に対しては実益はありません。特に、責任者を辞めさせることや組織を潰すことが、責任を取ったことになるのか。そこを、問いたいのです。

A「お取りつぶしのパラドックス」
東電の場合は、「とんでもない事故を起こしたので会社を潰せ」という意見もありました。しかし、被害に遭った人に賠償をさせるために、国有化もして存続させました。そして、現在も(今後も)お詫びを続け、社会奉仕を続けるのでしょう。また、2度と事故を起こさない努力をするのでしょう。

他方で、原子力安全・保安院は廃止されました。原子力規制業務は、環境省に原子力規制委員会・原子力規制庁がつくられ、そこに移管されました。原子力安全・保安院が廃止されたことで、事故を起こした責任と償いの主体が不明確になったのではないでしょうか。国としての責任は逃れられないのですが、政府のどの組織が所管するかです。
新しく作られた原子力規制庁は、今後起こる事故を防ぐための組織であり、福島原発事故の後始末は所管ではないようです。もし、原子力安全・保安院が存続していたら、被災地での避難者支援や復興に責任をとり続けたと思います。原子力規制庁に所管が移ってないとすると、原子力・安全保安院を所管していた経済産業省に残っているのでしょう。

日本陸軍と海軍も廃止されたことで、組織として「責任を取る」「償いをする」ことがなくなりました。国家としては、ポツダム宣言の受諾と占領による政治改革、東京裁判とその刑の執行、関係国への賠償などはあります。
個別の組織が存続していたら、戦争を遂行した組織としての「残されたものとしての責任」を果たすことがあったと思います。それは、記録を残すこと、原因の究明、再発防止策、そして「償い」です。陸海軍は廃止されることで、これらが途絶えてしまったのではないでしょうか。

B 戦後の混乱を生きた人たち
極東軍事裁判で、戦犯は死刑などの刑罰に処せられました。「命をもって償った」のです。
しかし、戦災に遭った国民もまた、つらい目に遭いました。一家の大黒柱をなくした人、家を焼け出され無一文になった家族、両親や家族を失った戦災孤児・・・。この人たちは、戦後の混乱を生き延びるために、想像を絶する苦労をしました。命を落とした人も多かったのです。また、日本だけでなく、海外においても同様の被害を与えました。
この人たちに対して、戦争責任者と陸海軍はどのような償いをしたのか。すべきだったのか。きれいに整理できませんが、このようなことを考え続けています。
過去の記事「事故を起こした責任と償い

「箱に人を詰め込む」都市造りからの転換

6月25日の読売新聞文化欄、「箱からの解放へ コロナ後のまちづくり」。建築家の隈研吾さんの発言から。
・・・これまでの都市は、ビルという大きな「箱」の中に人を詰め込んで、効率的に働かせることを目指してきた。18世紀の産業革命などを経て、20世紀のアメリカで完成したモデルで、それは空間だけでなく時間も管理することだった。人々は定時に電車で通い、大きなビルに集まって仕事をする。人を密にすることにより、社会の効率を上げようとしていたのだ。
日本は「大箱スタイル」の優等生と言えるが、今回のコロナ禍でその根本的な見直しが迫られている。「箱からの解放」だ。ルネサンス以降に欧米で発展し、日本も取り入れてきた都市づくりが、折り返し地点にある。
情報通信技術の進歩で箱から抜け出す環境はすでにある。多くの人がテレワークを経験し、いちいち会社に集まらなくても仕事ができることを実感したと思う。私もその一人だ・・・

・・・ホテルのロビーや公園を仕事の場にすることも「箱からの解放」といえる。
宿泊客以外も利用できる共用スペースを広く設けた「ライフスタイル系」と呼ばれるホテルが、欧米で注目されている。地域の人や通りすがりのビジネスパーソンが、ちょっとしたメールや書き仕事をしたり、くつろいだりすることができるのだ。昨年訪れた隅田川近くの倉庫を改装したゲストハウスが、まさにそれだ。
日本の公園は無味乾燥で、使途が限られていることが多いが、公衆無線LAN「Wi―Fi(ワイファイ)」やカフェを整備すれば、様々な職業の人が仕事場を共有する「コワーキングスペース」になり、町の魅力創出にも寄与できる。昨年末に見学した南池袋公園が好例だ。こういう公園がもっと増えればいい・・・

責任を取る方法3

責任を取る方法2」の続きです。失敗した後の、責任の取り方です。ここには、いくつかのものがあります。前回の表に沿って、説明します。

4 まず、責任を認めることです。
これは、責任を取ることの第一歩です。これに対し、「失敗を認めない」「他人に責任を転嫁する」「沈黙を守る」は、責任を認めない態度です。

5 法的責任
法律では、被害者に対して民事責任を負い、損害賠償を支払います。社会的には、刑事責任を追い、刑事罰を受けます。組織内では、規則に従って処分を受けます。

6 再発防止
このほかに、再発防止と分類できる、責任の取り方があります。二度としないと誓い実行すること。失敗を検証し、原因究明をして再発防止策をとります。また、今後の教訓とします。
これらは民事責任や刑事責任ではありませんが、社会にとっては重要なことです。
日本航空などは事故機を保存して、後世の戒めにしています。鉄道や飛行機事故が起きた際に、運輸安全委員会が原因究明調査を行い、必要な措置の実施を求め、事故の防止をします。
組織が失敗したとき、検証をして将来に活かすかどうかは、組織にとっても重要なことです。太平洋戦争における日本軍の失敗とアメリカ軍の強さを語る際には、しばしば指摘されます。

7 償い、道義的責任
法的責任ではない、道義的責任とも分類すべき行為があります。つぐない、罪滅ぼし、贖罪とも言います。
A あやまる
あやまることは、その第一です。あやまることは、法的責任ではありません。しかし、被害者も世間も、失敗した人や組織に求めることは、まずは謝罪です。マスコミでも、大きく取り上げられます。参考「お詫びの仕方

B 原状復旧をする、被害者支援をする
民事訴訟で原状復旧を義務づけられた場合は、5の法的責任ですが、法的責任は認められないまま原状復旧をする場合などです。
男女関係で「責任を取ってよ」と言われた場合などにも、当てはまるようです。

C 責任を取って職を辞める。組織を解体する。
「責任を取る」と言われる場合、責任者が辞めることがあります。組織を解体することも、同列でしょう。
太平洋戦争では、日本陸海軍が解体されました。原発事故では、経産省原子力安全・保安院が解体されました。

D 償いのしるし
慰霊祭をしたり、罪滅ぼしとして社会奉仕活動などをすることがあります。
例えば東電は、仮設住宅での生活支援や帰還に向けた草刈り、イベントの手伝いなどをしています。「復興推進活動
この項続く