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生き様-仕事の仕方

組織の能力、4。信頼という武器

組織の力の一つとして、「武器」(手段)を挙げました。ところで、行政組織の能力を考える際に、「武器の有効性」もあります。
すなわち、同じ政策で同じ手法あっても、受け取る国民・住民の意識の差によって、効果が違うのです。鉄砲やミサイルなら、性能が同じなら、相手に与える被害も同じです。
しかし、行政の手法の多くは、住民がそれに従ってくれることで、成果を発揮します。
自動車の速度制限をした場合や飲酒運転を禁止した場合、運転手が従ってくれると、コストは低いです。しかし、違反者が多いと、取り締まるための費用がかかります。
役所に対する住民の信頼度の差によって、行政の手法は、有効性(威力)が違ってきます。住民の信頼を得ている役所だと、仕事は進みやすく、そうでない場合は説明して説得するのに、時間と手間がかかります。
企業の場合は、企業ブランドでしょうか。同じような品質や性能の商品でも、老舗のブランドがついていると、消費者は知らない会社の商品より老舗のものを信用して買ってくれます。
商売や行政は単体で成り立っているのではなく、消費者や住民との関係の中で成り立っています。そこで武器の一方的性能とは違い、相手との信頼関係が有効性を高めるのです。武器はハードパワーであり、信頼はソフトパワーです。

さて、おさらいをすると、組織の能力は、次のようなものから、なっています。
まずは、職員の数と質、組織の編成。そして、仕事の仕方と社風。ここまでは、組織内の要素です。
つぎに、任務を達成するための「武器」(手段)があります。そして、住民からの信頼があります。これらは、相手方との関係です。

不可抗力におわびは必要か

最近の大雪の日の新聞に、配達遅れをお詫びする文章が載っています。「新聞の配達が遅れて、申し訳ありません」とです。読者から、苦情が来るのでしょうか。
でも、仕方ないですよね。こんな日に、ふだん通りに配達することは、新聞社と配達店の能力を超えています。お詫びする必要があるのでしょうか。
電車が遅れた場合も同様です。お客さんが急病になって介助した場合、人身事故で遅れた場合などで、「到着が遅れて申し訳ありませんでした」とアナウンスがあります。でも、これも鉄道会社の責めではなく、対応能力を超えています。
自らの責任でないこと、また努力しても改善できないことをお詫びするのは、変ですね。自らの過失など責めを負う場合と負わない場合とで、同じお詫びをすると、おかしな結果になると思います。後者の場合は、「今後このようなことのないように、注意します」とは、言えないのです。
不可抗力の場合は、遅れる事実とその理由を例えば「雪のため、配達が遅れる場合があります。ご了承ください」と伝えておけば、一般の方は納得するでしょう。「それなら、しゃあないなあ」と。

組織の能力、3。「武器」としての商品、予算と権限

組織の能力のうち、前回書いた「仕事の仕方」は、私のライフワークです。古いところでは『明るい係長講座』で、その後も、このホームページで「仕事の仕方」シリーズを書き続けています。
第1回に書いた「職員集め」と「組織編成論」は、被災者生活支援本部復興本部で、実践することができました。そして今の復興庁で、実践中です。
ところで、復興庁は、まさに新しくできた官庁です。それは、次のような意味です。過去にも、いくつか新しい官庁ができましたが、それらは設立母体がありました。消費者庁(内閣府国民生活局)、金融庁(大蔵省銀行局、証券局)、環境庁(厚生省公害部、国立公園部)などです。( )内が、母体となった組織です。もちろん、他の省庁からも参加しましたが、核となる組織がありました。
ところが、被災者支援本部や復興庁は、まさに寄せ集め所帯で出発しました。これは、珍しいケースでしょう。

さて、組織の能力が、極めて明瞭にわかるものがあります。軍隊です。戦争すると、直ちに結果が出ます。相手より強くなければ、負けます。
その差は、兵員の数、訓練による兵士の質、指揮官の指揮能力などです。そして、持っている武器の性能と数も、大きな要素です。
企業なら、武器(道具、手段)に当たるのは、安くて良い商品とサービスでしょうか。行政の場合は、予算や法律などでしょう。
すると、任務にふさわしいだけの、予算や権限が必要になります。責任者としては、それをそろえる必要があります。

組織の能力、2。仕事の仕方と社風

次に、仕事の仕方があります。上司からは明確な指示が出て、部下がそれに答えているか。指揮命令系統は、はっきりしているか。各人に与えられた目標は明確か、成果はきちんと評価されているか。
また、庶務がしっかりしているかどうかも、重要です。職員が仕事をしやすいように、パソコンや備品をそろえたり、出張旅費や福利厚生を素早くやってくれるかです。表からは見えにくいですが、「縁の下の力持ち」です
このほかに、「社風」とも言うべきものがあります。職員が新しい仕事に挑戦する雰囲気にあるか、会社がそれを許すか。自由闊達な雰囲気で、風通しがよいか。職員は、のびのびと仕事ができるか、それとも上司の顔色をうかがっているか。派閥で人事抗争を繰り返しているかなどなど。これは、最も目に見えない要素です。
同じように職員をそろえていても、良い上司がいて、良い雰囲気の職場だと、良い成果が出ます。その逆もあります。
このように、単に人数を集めただけではダメ、職員一人ひとりの質を向上させるだけでもダメなことが、わかってもらえるでしょう。組織の能力とは、職員の数と質の合計ではないのです。
さて、職員の人数は多い方が、そして職員の質は良い方が、上司としてはありがたいですが、常に満足できる水準とは限りません。ほとんどの場合は、不足している中で、やりくりを考えなければなりません。
他方、組織編成、明確な指揮命令系統や指示、職員にやる気を出させること、社風は、上司が努力すれば、かなりの部分は改善できます。そして、経験不足の職員を育てること、腐っている職員を再活性化することも、上司の仕事です。

組織の能力。職員の数と質、組織の編成

ずーっと考えていることに、「組織の能力は、何で決まるか」があります。それは、「組織の能力を向上させるには、どうしたらよいか」でもあります。
会社や官庁が良い成果を出すためには、責任者は「業務の管理」と「組織の管理」をしなければなりません。良い成果を出すために、「いつまでに、どのような成果を出すか。そのために何をするか」と、業務を管理する必要があります。しかし、それを支える組織がきちんと動かないと、成果は出ません。上司が指示を出しても、「笛吹けど踊らず」です。組織を管理する、すなわち組織を作り、その質を向上させる必要があるのです。
まずは、人数が必要です。仕事量に応じた職員数がないと、仕事はこなせません。
次に、その職員集団をどのように編成するかという、分割・編成論があります。製品や政策ごとに分けるのか、地域ごとに分けるのか。全体を、どのような「分野別」小集団に分けるかです。そのような分野別(縦割り、方面軍)とは別に、本社(参謀系、官房系)の組織があります。人事、会計、企画などです。これらは、縦割り小集団を側面から助け、統一を取る、横串になります。そして、この縦割りと横串を、どう組み合わせるかです。これらをうまく分別し、組み合わせないと、組織全体は能率良く動きません。
その次に、職員の質があります。能力のある職員とそうでない職員。また、その仕事に向いている職員と向いていない職員がいます。さらに、やる気(モラール)の差があります。能力があっても、腐っている職員では、良い結果が出ません。それぞれのポストにふさわしい人を配置する人事配置も、重要です。ここまでは、職員とその質の問題です。
この項、続く。