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生き様-仕事の仕方

組織の能力、7。仕事の割り付け

組織の分割と編成(2月12日)を効果的にするために、その前に、組織が成し遂げなければならない使命の明示と、そのための仕事の分割と道のりの明示が必要です。仕事をどのように分けて、誰に担ってもらうかです。
被災者生活支援本部では、「現地の課題と支援本部の取組み(分類)」(例えば平成23年4月7日)を作り、毎週改訂していました。復興庁でも、例えば1月に「26年度の取り組み方針」を示しました。
これで、関係者に「何が課題で、復興庁は何をしようとしているか」を理解してもらえます。また、職員にも「自分の仕事は、全体の中でどう位置づけられているか」わかってもらえます。職員にとって、自分の仕事の位置づけを理解することは重要です。
もちろん各担当責任者は、この分類の下に、自らの担当部分の仕事の工程表を持っています。復興庁には本庁で、約30人の参事官がいます。普通の省に置き換えれば、30もの課があるということです。班編制は、さらにたくさんになっています(一人でいくつもの班に、属しています)。
このような表は、仕事の体系であり、地図です。優先順位をつけることでもあります。どうってことのない表ですが、目に見える形にすることで、認識を共有してもらえます。よく言われる「見える化」です。私は、震災以来、こればかりやっているような気がします(苦笑)。
もちろん、事後には、どれだけできたかの検証も必要です。例えば「復興の取り組みと成果」「復興の現状」。

組織の能力、6。仕事の仕方と社風を作る、2

被災者生活支援本部は発災直後の混乱時期でもあり、政務職と事務職があつまり、毎日の会議で多くの事案を即断即決しました。職員もそのほか関係者も、「早く何らかの手を打たなければならない」という意識でした。また、世間全般が、そのような雰囲気でした。前回に述べた「公務員の欠点」は、出る幕がありませんでした。
まずは、どのような要望も意見も受け付ける。直ちに処理できるものは、そこで決める。直ちに返事できないものは、その旨を報告し、急ぎ検討してもらって、その結果を報告する。部下からの報告を待つのではなく、トップダウンで決めて進める。情報を待つだけでなく、こちらから聞きに行く。そのような仕事の仕方と社風ができ、それを、復興本部、復興庁に持ち込んだのです。
その結果、いくつも新しい解決を編み出してきました。もちろんこれは、国会や関係府省のご理解と協力のおかげです。

復興庁は今も、とてもフラットな組織で、統括官(局長)、参事官(課長)、企画官、補佐、係長、係員が、テーマごとに集まって議論をし、方向を決めています。通常の府省だと、係長や係員にとって、局長室は「遠い」です。
また、統括官や参事官が自らペンを持って、職員に指示を出します。ボトムアップを待つことなく、トップダウンで課題を解決するのです。業務が定型化してくると、ボトムアップになります。でも、次々と新しい課題が出てくるので、トップダウンにならざるを得ないのです。復興庁の参事官たちは、霞が関の課長の中でも、最も多くペンを持ち、パソコンで文章や資料を作っていると思います。
そして職員は、しばしば現地に足を運んで、現場を見ています。机上の空論でなく、現場で答を出すのです。あわせて、市町村長や自治体職員と、頻繁に意見交換をしています。これが、信頼関係を作っているのだと思います。それが、先日紹介した市町村長アンケート結果「復興庁の評価」に出ているのでしょう。
復興庁で仕事をした多くの職員が、このような仕事の仕方と社風に驚いて、「勉強になった」と言ってくれます。「親元の省では、新しい事業を考えても、予算要求の枠があり、上司を説得してと、なかなか実現できません。復興庁では、こんなに早くできるとは」とか「新しいことができ、結果が出せるので、うれしかったです」とか。もっとも、もれなく「仕事は大変です」という言葉も、ついています(苦笑)。

組織の能力、5。仕事の仕方と社風を作る

被災者支援本部や復興庁が、設立母体なくできた組織だと指摘しました(組織の能力3)。すると、仕事の仕方や社風を作らなければなりません。もっとも、意識して作らなくても、自然とできあがるものでもあります。しかし、自然とできあがる社風が、組織の運営に適切なものかは、保証の限りではありません。
ここに集まった職員の多くは、国家公務員です。国家公務員の良いところと悪いところを持っています。官邸、国会、与野党、各省との仕事のすりあわせ方は、みんな知っています。法令の読み方、法律のつくり方、予算の要求や執行の仕方も、知っています。
他方、しばしば批判される欠点「それは前例にありません」「法律に書いていません」「予算がありません」という公務員的思考を、持ってきている人もいます。
被災者支援本部も復興庁も、「これまでにない大災害」に対応するために作られた組織です。「前例がありません」などという発想自体が、矛盾しています。
そして、スピード感です。目の前に今、困っている人や自治体がいるのです。「それは私の所管ではありません」とか、検討のしっぱなし(お蔵入り)では、存在意義がありません。もちろん、その場で回答できないもの、検討に時間を要するものはあります。しかし、できるだけ早く、的確な回答をすること。前例がないことでも、できないか知恵を出すことが必要です。
できない理屈を探すのではなく、また自分の所管でないことの理由付けを考えるのではなく、どうしたらできるか、誰ならできるかを考えるのです。(ただし、全ての要求に、国が答えられるものでもありません。国民の税金で行うのですから、一定の限度があります。)
そして、予算をつけたことや通達を出したことで、「やりました」としないことです。それは、霞が関ではアウトプットですが、被災地ではインプットです。現地で結果を出さない限り、「やりました」とは言えません。
この項続く。

組織の能力、4。信頼という武器

組織の力の一つとして、「武器」(手段)を挙げました。ところで、行政組織の能力を考える際に、「武器の有効性」もあります。
すなわち、同じ政策で同じ手法あっても、受け取る国民・住民の意識の差によって、効果が違うのです。鉄砲やミサイルなら、性能が同じなら、相手に与える被害も同じです。
しかし、行政の手法の多くは、住民がそれに従ってくれることで、成果を発揮します。
自動車の速度制限をした場合や飲酒運転を禁止した場合、運転手が従ってくれると、コストは低いです。しかし、違反者が多いと、取り締まるための費用がかかります。
役所に対する住民の信頼度の差によって、行政の手法は、有効性(威力)が違ってきます。住民の信頼を得ている役所だと、仕事は進みやすく、そうでない場合は説明して説得するのに、時間と手間がかかります。
企業の場合は、企業ブランドでしょうか。同じような品質や性能の商品でも、老舗のブランドがついていると、消費者は知らない会社の商品より老舗のものを信用して買ってくれます。
商売や行政は単体で成り立っているのではなく、消費者や住民との関係の中で成り立っています。そこで武器の一方的性能とは違い、相手との信頼関係が有効性を高めるのです。武器はハードパワーであり、信頼はソフトパワーです。

さて、おさらいをすると、組織の能力は、次のようなものから、なっています。
まずは、職員の数と質、組織の編成。そして、仕事の仕方と社風。ここまでは、組織内の要素です。
つぎに、任務を達成するための「武器」(手段)があります。そして、住民からの信頼があります。これらは、相手方との関係です。

不可抗力におわびは必要か

最近の大雪の日の新聞に、配達遅れをお詫びする文章が載っています。「新聞の配達が遅れて、申し訳ありません」とです。読者から、苦情が来るのでしょうか。
でも、仕方ないですよね。こんな日に、ふだん通りに配達することは、新聞社と配達店の能力を超えています。お詫びする必要があるのでしょうか。
電車が遅れた場合も同様です。お客さんが急病になって介助した場合、人身事故で遅れた場合などで、「到着が遅れて申し訳ありませんでした」とアナウンスがあります。でも、これも鉄道会社の責めではなく、対応能力を超えています。
自らの責任でないこと、また努力しても改善できないことをお詫びするのは、変ですね。自らの過失など責めを負う場合と負わない場合とで、同じお詫びをすると、おかしな結果になると思います。後者の場合は、「今後このようなことのないように、注意します」とは、言えないのです。
不可抗力の場合は、遅れる事実とその理由を例えば「雪のため、配達が遅れる場合があります。ご了承ください」と伝えておけば、一般の方は納得するでしょう。「それなら、しゃあないなあ」と。