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日本の戦後政治

「三位一体改革が政治改革である」という主張に合わせて、参考になる本を紹介しておきます。去年6月に出た、山口二郎著「戦後政治の崩壊」(岩波新書)です。ここでは、戦後日本政治の仕組みと特徴を、4つの構成要素から説明しています。4つとは次のようなものです。
1 外交安全保障=9条と安保・自衛隊の共存
2 政党=自民党長期支配
3 政策=経済成長と開発主義
4 政策決定システム=官僚主導の政治
そして、それらが成功したこと、しかし新しい時代への適応と転換に失敗していることを論じています。
私は、「新地方自治入門」で、地方行政を通して、戦後日本の政治と行政が成功し、またそれが転換を妨げていることを論じました。山口先生の本は、私の主張を政治の構成要素から分析したもので、共感するところが多いです(もっとも、すべてに同意するわけではありませんが)。
私は、日本の政治について、第10章で論じました。そこでは、国民への負担を問わなかったことと、国際貢献をしなかったことを指摘し、争点設定と決断をしなくてよかったと述べました。「政治をしなくてよかった戦後日本」という表現でです。これが、先生の指摘する4要素が成り立ち得た条件であり、結果です。

三位一体改革40

26日の日本経済新聞は、小泉政権の経済政策について、エコノミスト234人の評価を載せていました。「6割以上の人が60点以上の及第点をつけた」そうです。
評価される点は、「手つかずの課題もあるが、首相自ら課題を設定、実行している。政権が長期にわたり、政策が継続している」「公共事業を減らしても、景気が回復する実例を作った」です。
最優先課題は、年金改革が1番で、三位一体改革が2番目、次が景気対策です。三位一体は、ここまで来ました。(12月26日)
27日の日本経済新聞「2004年地域経済回顧と展望」で「三位一体改革・地方関与が前進」を取り上げていました。「国会が地方分権の推進を決議して11年。分権に向けた政策決定に地方が直接関与する仕組みが今年、初めて整った」「『政府は約束を果たした、首長も地方の経営をしっかりとやってほしい』地方交付税の総額確保が決着した今月18日、麻生太郎総務相は全国の首長に奮起を促した」(12月27日)
麻生総務大臣の12月24日の記者会見が、総務省HPに載りました。今年の締めくくりとして、20分間にわたって、三位一体改革の評価を述べられました。ご自身の語り(読み上げでないもの)なので、少し読みにくいところがありますが、ご了解ください。大臣の生の声を、お聞きください。
28日の読売新聞「2004年回顧検証2」は、「三位一体改革:地方の声に省庁は反撃」でした。三位一体が、今年の政治でもっとも進んだ課題だったことは、間違いないでしょう。詳しくは本文をお読みいただくとして、さわりだけを紹介します。
「地方の声を聞いたのは、ぺり-以来150年ぶりだ」「閣僚と地方自治体代表が激突」「文部省の新聞広告に対して、飯島首相秘書官が『小泉をつぶす気か』と激怒」「小泉首相はこう語った。『今後、国と地方の役割について、より踏み込んだ議論ができるんじゃないか。いいきっかけになった』」
「地方と省庁が激突」という構図は、去年までなら、ありえませんでした。今はそれを、新聞が当然のことのように解説します。「進展が少ない」という批判もありますが、これだけで、今年の三位一体=麻生大臣の仕掛けと努力が成功したと、私は評価します。
毎日新聞「記者の目」は、加藤春樹記者の「地方分権は進んだか:国と四つ相撲した6団体、次は国民を味方にして」でした。この論文も、明快でした。詳しくは紹介できませんので、本文をご一読ください。(12月28日)
三位一体改革の目標と実績を最新版にしました。お使いください。四捨五入の関係で、端数が合わないことがあります。(12月28日)
29日の読売新聞「解説」では、青山彰久記者が「分権・改革の覚悟、地方に必要」を書いておられました。「2005年は分権推進法成立から10年になる。」しかし「地方財政改革の改革速度は遅い」「地方6団体は、新しい制度の設計を提案し、地方から分権政策の立案に参画する力を高めることが不可欠だろう」「自由を求めれば責任も問われる」(12月29日)
30日の朝日新聞「04年日本経済・激動の主役(下)構造改革」は、「号令先行、結論と落差」という見出しで、郵政民営化と併せて三位一体改革を詳しく解説していました。(12月30日)
5日の朝日新聞「私の視点」に、山田啓二京都府知事が「三位一体改革、中央集権復活を憂える」を書いておられました。毎日新聞「よくわかるページ」は、三位一体改革の意味を、マンガ入りで分かりやすく解説していました。(1月5日)
9日の日本経済新聞「風見鶏」で、安藤俊裕編集委員が「骨抜きと先送りのツケは」として、政府・自民党の意思決定過程のあり方が異様であることを、解説しておられました。
「首相や内閣が掲げた改革構想が、自民党や官僚との調整プロセスでもみくちゃになり、結果は骨抜きと先送りである。首相・内閣が責任をもって政策を実行する一元的責任政治とは、ほど遠い姿と言ってよい」
「三位一体改革は、政府与党の統治能力を疑わせるような体たらくだった・・・」として、代表例に三位一体改革が取り上げられていました。
何度も書いたように、三位一体改革の目的は、日本の政治過程・政治構造を変えようとするものであるとともに、その実行過程が、日本の政治過程を反映したものなのです。
また、政治過程をあるべき姿にするためには、総理の政治力の他に、ここに書かれているマニフェストも有効です。そのために、新聞などによる検証が重要でしょう。期待します。
1面の連載「少子に挑む・ニッポン大転換」は、「未来描けば廃墟の山」を載せていました。需要予測を曲げてまで作った公共施設。そしてその維持費や修繕費が賄えません。この問題は、みんなが気づいています。問題を知っていながら先送りする組織。
官僚組織は、拡大の時には適していますが、縮小や終結には向いていないようです。開戦時に戦争終結を考えた日露戦争と、「一暴れして見せます」と言って勝算なき戦いに入った太平洋戦争との違いが、思い出されます。
政治家が責任をもつべきなのか、官僚が変わるべきなのか。続きは、またの機会に。(1月9日)

ページ開設3周年

このホームページを開設してから、3年が経ちました。最初は、大学院での授業のために作りました。その後「下宿人を置いて、お客の呼び込みもしました。1年目は合計30ページ余りをつくり、総観客は1万人でした。2年で合計100ページ、累計観客4万人でした。3年で200ページを超え、観客累計は18万人を超えました。
この1年は、「日々の三位一体改革」や「法律ができるまで」「国会というところ」をたくさん追加しました。これが「観客動員」につながったと思います。ある人からの年賀状に「最近HPの更新が多いですが、飲む機会が減ったのですか」と書いてありました。うーん、そうかなあ。
最初のころ1日3人だった観客は、最近は平日は600人を超えます。ありがとうございます。これからも、ご期待に応えられるようにがんばります。

伝道師活動

私がいそしんでいる「副業」=地方財政の伝道師活動をどう説明したら、みんなに理解してもらえるか。講演会に行ったり本を書いたりすると、「変わり者」といわれるので、考えていました。自分では正しいことをやっていると思っているのですが、どうも今の霞が関では違うようです。
先日、東大出版会のPR誌「UP」2004年12月号に、鎌田浩毅京大教授の文章を見つけました。「基礎科学のフロンティアとしてのアウトリーチ」です。
「理系ではアウトリーチが問題になっている。アウトリーチ(outreach)とは、知らない人に手を差しのべて、情報を伝えることをいう」「アウトリーチの目的は、研究資金の獲得・後継者の育成・一般社会に認知してもらうことの3つである」と書かれています。
そうなんです。私のやっている伝道師活動は、目的が少し違いますが、これなんです。専門分野の研究者が社会で理解を得るためには、これが必要なんです。しかも、社会を変えようとする官僚の方が、科学者よりアウトリーチ活動は重要なはずです。
「寄らしむべし、知らしむべからず」とか「俺がやっていることは正しい。理解できない奴がバカだ」では、通じませんよね。社会での理解を得るためには、理解者を増やさなければなりません。さらに、時代の流れ、流行語になるまではやらせないと、改革は進みませんよね。

1 官僚の発言

1 官僚の発言
(制度の維持と改革と)
官僚には、2つのことが期待されます。一つは、法律などで決められた制度の運用です。もう一つは、その制度の問題点や漏れ落ちている事項を見つけ、改革あるいはその提言をすることです。
その点、最近の官僚は「発言」が少ないと思います。それも、自分の名前での発言が少ないと思います。書かれている多くの「論文」は、制度の解説であって、未来に向けた改革論議は少ないです。時には、「文中、意見は私見である」と書いてあっても、文中に「意見」が出てこない「論文」もあります。

(発表の場)
官僚が自説を述べる場所も、案外ありません。各省が出す白書は、匿名です(この点、新聞の社説とよく似ています)。
各省が出版・関与している雑誌(政策情報誌)には、2種類有ります。私が面白いと思っているのは、「外交フォーラムESP」です。その他の多くは、提言や分析でなく、単なる解説が多いようです。
もう一つは、専門の商業雑誌です。これは「業界向け」ですので、読者の面から制約があります。改革論議よりは、制度の解説や予算の紹介が多くなります。一定の読者(購買層)が必要です。
私が専門にしている地方行政では、地方団体や地方公務員、大学などの研究者の需要があり、いくつもの雑誌があります。しかも、その性格上、予算の紹介ではなく、制度の解説と議論を内容とすることができます。
しかし、他の官庁では、そう多くはないのです。国家公務員制度や公務員管理、国の行財政改革について、これはという発表の場、あるいは発表している論文は見あたりません。
もう一つは、総合雑誌例えば「中央公論」等でしょう。
富山県庁にいるとき、「デルクイ」という、県職員による政策情報誌を創りました。実名・写真入りで、職員が自説を書くのです。かつ、市販しています。「デルクイ発刊趣意」(『デルクイ』創刊準備号1996年)に、私の意図を書いてあります。