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公務員制度

日経新聞「やさしい経済学」は、清家篤先生が「人的資本」を連載しておられます。
・・企業特殊的な生産能力の向上と、それに対応した長期雇用は、「人的資本」の主要概念だった。この特殊性は、最近の公務員制度改革を考える際にも重要な意味を持つ。というのは、もともと民間ではできない仕事を公務員が行っているとすれば、その仕事能力は公務部門でのみ役に立つ特殊な種類のものと考えられるからである。
典型的な例として、国の予算作成といった仕事をするための能力は、民間ではあまり使えそうにない。そうした高度に公務特殊的な能力を高めるための費用は、国、すなわち国民が負担しなければならない・・
公務員が民間ではできない特殊性のある仕事能力を磨いてきたとすれば、彼らが民間に転職することは容易ではない・・そうした公務員には、最後まで公務員として仕事をしてもらわなければならない。
もちろん公務員の中にも、民間企業で役立ちそうな能力によって仕事をしている人もいる。たとえば経済分析といったような仕事をする能力は民間企業でも使えそうだ。そうした仕事に従事する公務員なら、比較的容易に民間に再就職できるかもしれない。しかし、よく考えてみれば、民間でもできる仕事なら、それをわざわざ公務員にやってもらう必要はなく、外注すれば良いともいえる・・
こう考えると、公務員制度改革の柱が、民間企業への再就職支援制度というのは、やはり変である。むしろ改革の中心は、職業生活の最後まで、安心して公務員として仕事をしてもらえる制度(適切な年金制度も含む)をつくることであるべきだ・・・

非官僚政権

30日の朝日新聞変転経済は、「小泉構造改革」「非官僚でやるしかない。始まりは00年の裏官邸だった」です。
・・バブル崩壊後、改革を一向に進められない政府・与党に国民は失望していた。そこに登場したのが「自民党をぶっ壊す」と宣言する小泉純一郎だった。変人宰相に期待する学者や経済人らが政権に集まった。官主導経済を壊そうとする、初の本格的な「非官僚政権」の試みは、しかし未完に終わる・・
牛尾治朗さんの発言から。
・・郵政民営化こそ彼(小泉総理)の政治信条。総理になるのは単なる手段だった・・05年に郵政民営化が決まり、そこで「おれの出番は終わった」という気持ちになったと思う。
小泉後の政権は、グライダーのように勢いで飛んできたが、第2のエンジンが出ていない。リーダーにとっては難しい時代だ。小泉改革は不良債権処理や郵政などの国内問題ですんだ。いま立ちはだかるサブプライム危機、原油などの資源高騰、食糧不足などのグローバルな問題は、国内の民営化だけでは乗り越えられない・・

分権委員会・基本的考え方

地方分権改革推進委員会が、30日に議論の方向を示す「基本的な考え方」をまとめました。内容については、各紙が伝えています。31日の朝日新聞では、坪井ゆづる編集委員が、次のように解説しておられます。
いったん停止していた分権改革が動き出した。地方分権改革推進委員会が、「地方政府の確立」「条例制定権の拡大」を柱とする基本的な考え方をまとめた。経済財政諮問会議と連携しながら、国と地方の役割分担の見直しを突破口にする構えだ。権限と定員、財源を削られる中央省庁とのせめぎ合いが再び熱を帯びる。
これまでの分権改革では、補助金を廃止して、それに見合う税源を自治体に移す論議が主役だった。だが、今回の「考え方」には、補助金廃止の文言も、税源移譲の目標額もない。その代わり、まずは国と地方の役割分担に焦点を当て、政府の出先機関の廃止、縮小にとりかかる。
各省の出先機関には約21万人の国家公務員がいる。自治体の仕事との「二重行政のむだ」を指摘されており、分権委で自治体に仕事と同時に権限も渡していく発想だ・・・役割分担と定員を絡めた協議は難航が必至だが、丹羽委員長は分権委で素案(諮問会議民間ペーパー)を取り上げると明言。丹羽氏を接点に、分権委と諮問会議が二人三脚で取り組む姿勢を鮮明にした。
「考え方」は「思い切った税源移譲」を唱えるが、地域格差を埋める地方交付税のあり方など、財政調整にはほとんど踏み込んでいない。この問題でも、経済財政諮問会議の民間委員が先行して提言・・「法人2税を地方交付税の財源にして、その同額の消費税を地方に渡す」など3案を書き入れ、「税源移譲の際の偏在を拡大させない方法を自治体も提案すべきだ」とした・・・
読売新聞では、青山彰久編集委員が「地方政府目標に。税財源、具体策見えず」として解説しておられます。
・・目を引くのは、地方自治体を「自治行政権・自治財政権・自治立法権を持った地方政府」とすると掲げた点だ。自治体について「地方政府」とする表現は、政府関係文書では例がない。住民と首長と議会で構成する自立した組織という意味があり、分権の目標として新鮮な響きがある。
・・政省令を条例で書き換える権限を設ける考え方は、政策決定の一部を地方主体で行う意味があり、大きな問題提起になりそうだ。国の出先機関の縮小・廃止という方向は、25日の経済財政諮問会議で民間委員が・・・具体案を提出しており、現実的な課題に発展する可能性がある・・
「これまでの改革で各省が同意できる範囲のことはやってしまった。この間、各省はどう抵抗すればいいかについて、知識も経験も積んでいる。今度の委員会は改革案を提案する場だと割り切り、最後の決断は主要な政治家が行う仕組みにしなければならない」旧地方分権推進委員会の委員だった西尾勝氏の指摘だ・・・

諮問会議審議の公開

15日の経済財政諮問会議の審議内容が、一部非公開になりました。各紙が、批判的に紹介していました。17日の朝日新聞では、大月規義記者が「公開してこそ諮問会議」として、大きく取り上げていました。
非公開の理由は、テーマである地球環境問題が、外交交渉に問題があるという理由です。ただし、会議後の記者会見や議事要旨では公表になりませんが、4年後には議事録が公開されるので、その段階で再度公開するかどうかが判断されると思われます。これまでには、2001年11月に、金融システム問題について非公開にされ、4年後の議事録では公開されています。
閣議は、内容は完全に非公開です。結論だけが公表されます。諮問会議は、非公開になると問題視されます。ここに、諮問会議の機能が表れています。諮問会議は、テーマを国民の前に見せ、民間議員から厳しい提言をだし、会議での議論の対立を見せることで、改革を進めています。関係者が一致したものだけを、議題にし承認する閣議との違いです。
一方、諮問会議は、閣僚間で実質的な議論をする「機能する閣議」という機能も発揮しています。閣議には、そもそも事前に一致していない議題はのせられないのですから、実質的な議論はありません。
またそれは、「少人数閣議」と言ってもいいでしょう。閣僚の全員一致が難しい事項・内閣の重要戦略を、限られた閣僚で議論する場です。そのほか、イギリスの内閣委員会インナー・キャビネットとしての機能も考えられます。そのような場がないので、諮問会議がその機能も担っているのです。内閣の重要戦略を限られた閣僚で議論するのなら、それは多くの場合、非公開になるでしょう。国際交渉に限らず、手の内を見せるのが愚策の場合は多いです。ここに、議論を公開する諮問会議の原則と、衝突することになります。
このような機能は、諮問会議ではなく、別の場が必要なのでしょう。その場は、民間議員の入らない、少人数の閣僚による「小閣議」「内・内閣」だと思います。
しかし、日本政府が、地球環境問題について戦略的に対外政策を考えているということは、明らかになりました。これまでだったら、そういうことも国民の前にはなかなか明らかにならなかったのです。審議を非公開にしても、政策過程が見えるようになったという功績はあります。(5月18日、19日、20日)

(諮問会議)
月刊『自治研究』(第一法規)4月号・5月号に、小西敦東大教授の「諮問会議の誕生、成長、そして未来-内閣総理大臣の指導性を中心に」が載りました。議事要旨を基に、諮問会議が期待された役割や、総理大臣の指導性への寄与を、どの程度果たしてきたかを分析したものです。

介護の名付け親

「介護」という言葉は、おむつカバーの会社が発案した名前で、商品登録もしてあるのだそうです(30日付け朝日新聞夕刊)。介助の「介」と、看護の「護」をつなぎ合わせました。1980年に考えて、1983年には広辞苑に載ったとのことです。しかし、使用料も取っていません。いまや、「介護保険法」と、法律の名前にまでなっています。すごいですね。