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進まない規制改革

11月14日の日経新聞「検証、ニッポンこの20年。長期停滞から何を学ぶ」は、「内需産業はばたかず。医療・農業・・規制の壁厚く」でした。
・・高齢化やグローバル化を乗り切るためには、医療や農業など規制に守られた内需型産業を経済のけん引役に変身させなければならないーこう言われ始めたのは、1990年代だ。だが、医療も農業も成長の源泉になるだけの地力を発揮していない。業界団体は規制に安住し、その構造を政治が温存してきたことが、成長産業への脱皮を阻んできた・・
日本の自動車産業も、かつては保護の対象でした。情報通信や金融は、保護から自由化に大きく転換しました。規制による保護では、勝ち残れません。消費者・利用者にとっても、供給者にとっても、長い目で見ると損失でしょう。
もちろん、そのようなことを言っても、現在規制に守られている供給者にとっては、今の生活がかかっています。その人たちのうち勝ち残れる人を応援し、残れない人に対し別途支援する。それが、政治の仕事だと思います。改革には、痛みが伴います。

立教大学大学院講義

今日は、20時過ぎから、立教大学大学院(21世紀社会デザイン研究科)で講義をしました。危機管理論の講座の一コマを頂いて、「豊かな社会の新しいリスク」を、お話ししてきました。今、連載している内容の、一部です。日本大学大学院では、春学期10数回を使った内容です。
それを、1時間半の授業、しかも質疑応答の時間も取らなければならないので、1時間ちょっとに収めなければなりません。ポイントだけをお話しするとしても、工夫が必要です。なかなかうまくは、できませんねえ。早口になり、脱線したりと。反省。
それでも、皆さん熱心に聞いてくださいました。少人数だと、聴衆の反応がわかって、しゃべりやすいです。もっとも、私のリスク論は、普通の危機管理論とはかなり視点が違うので、とまどわれたと思います。
このような時間に勉強しておられることに、敬意を表します。私も、駅で軽く晩ご飯を食べて、出かけました。お腹がすいては、力が出ませんからね。今回の講義も、中国出張の前に準備しておいたので、あわてることなく、しゃべることができました。

2010.11.13

今日は、日本大学大学院で講義でした。夕べ、中国から帰ったばかりですが、出発前に準備しておきました。
地域を経営するという観点から見ると、地方政府(市役所)は何をしなければならないのか。これまでは、財とサービスの提供が政府の役割だと、説明されていました。しかしこれは、経済学からの見方でしかありません。また、財とサービスを行政が提供しなくても、民間企業やNPOに委ねてもよいという行政改革論も盛んです。しかしこれも、政府・行政の役割が財とサービス提供であると、狭い範囲でしか見ていません。
今日本の地域社会で問題になっていること、それは活力の低下と暮らしの不安です。公共施設や公共サービスを充実することでは、解決しません。
財とサービス提供に関しては、企業活動やNPOなど非営利活動がうまくいくように条件整備をすることも、政府の仕事です。そして、活力と安心のためには、人とのつながり、地域活動などをどのように充実していくか。これが政府に問われています。「まちづくり」や「地域おこし」「地域の活性化」という言葉で、財とサービスの提供ではない地域の活性化や安心づくりが、各地で試みられています。しかしまだ、行政学や地方行政論では、体系だった議論はされず、教科書の中でも占める定位置を与えられていないようです。
もちろん、それらは市役所が提供できるものではなく、住民の参加や住民の活動によって、できるものです。ここに、難しさがあります。

変わらない年功型賃金制度

7日の日経新聞連載「検証、ニッポンこの20年。長期停滞から何を学ぶ」は、「進まぬ脱・年功賃金」でした。年功型から成果重視への賃金制度改革が、この20年の間、足踏みしています。その結果、専門性の高い人材を思うように採用できず、外国企業への流失も後を絶たないと指摘しています。競争力の源泉である人材確保に、苦しんでいるのです。
1993年に富士通が成果主義賃金制度を導入しましたが、うまくいきませんでした。2002年にはNECが、2004年には日立製作所が、裁量労働制を導入しましたが、あまり広がりませんでした。「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」は、2007年に導入を見送りました。中途採用の実施企業の割合が、2007年度の44%から、2009年度の33%に減ったという数字もあります。
同一労働同一賃金や職種別賃金への改革は、進んでいません。企業別組合が、壁になっているとの指摘があります。高度成長期には適合的だった制度が、そのあと条件が変わったのに変革できていないのです。

都市の人間関係の変化

高澤紀恵著『近世パリに生きる-ソシアビリテと秩序』(2008年、岩波書店)が、興味深かったです。
16世紀から18世紀にかけてのパリが舞台です。ソシアビリテ(人と人との結合関係)に注目し、都市の社団(住民の集まり)が様々な都市機能を担っていたのが、徐々に王権に組み込まれていく過程を描いています。近世パリにおける都市社団は、街区や教区という近隣関係、あるいはギルドという職業集団です。それが、治安、防衛、徴税、ごみ処理などの機能を果たしていました。代表者を選び、自らの負担と奉仕で、処理していたのです。しかし、次第に王が任命する官職と組織に取って代わられます。それら機能の主体でもあった住民は、統治の客体に転化するのです。
都市のソシアビリテという観点からの、都市統治・都市自治論です。政治史では、法令や制度から見た政治と行政が主ですが、それでは実際の姿が見えてきません。一方、権力者の伝記や市井の住民の日記による歴史研究もありますが、それにも限界があります。社会的な機能を果たす人間関係から見ることは、極めて有意義ですが、資料から検証するには大変な困難があります。この本は、それに成功しています。
類書に、結社の世界史シリーズ(山川出版)、第3巻福井憲彦編『アソシアシオンで読み解くフランス史』(2006年)などがあります。こちらは買ったまま、積ん読状態になっています。反省。