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新しい社会のリスク、セルフネグレクト

1月22日の日経新聞夕刊に、セルフネグレクトの記事が載っていました。アメリカで生まれた概念で、「高齢者が通常1人の人として、生活において当然行うべき行為を行わない、あるいは能力がないことから、自己の心身の安全や健康が脅かされる状態に陥ること」だそうです。
内閣府の経済社会総合研究所の調査では、自治体の地域包括支援センターや民生委員が把握している件数は、7,394件です。これをもとに推計すると、全国では約1万人のセルフネグレクト状態の高齢者がいることになります。
高齢者が一人住まいになると、自分の生活に関して意欲や能力が低下して、無頓着になります。家の中が散らかり、ゴミ屋敷にもなります。各自治体が、ゴミ屋敷対策に乗り出していますが、このような高齢者を支えないと、ゴミ問題は繰り返されるだけです。
一方、「監視社会になってはいけない」という指摘もあります。自己決定権を、他人が邪魔をしてはいけないのです。しかし、健康や判断能力が低下している場合は、後見人制度など、支えが必要でしょう。意識がしっかりしていて、「放っておいてくれ」という人をどうするか。これは難題です。
孤独な社会での、新しいリスクです。この調査は、昨年1月に公表されているようです。よい調査をしてくださっていたのですね。かつて経済企画庁に「国民生活局」があったのですが、なくなってしましました。私がこのホームページで取り上げているように、「生活の安心」を所管する部局が、国にも自治体にも必要です。

明治大学での講義

今日は、明治大学で講義をしてきました。3年前から約束していたのですが、大震災の仕事に就いて、なかなか時間がとれず、延期を重ねてきました。ようやく、約束を果たすことができました。公共経営学の授業なので、復興から見た公の役割を、お話ししました。夜の授業なのに、たくさんの学生が熱心に聞いてくれました。

安全神話を生んだ背景、それを許した社会

1月11日の朝日新聞オピニオン欄、田中俊一・原子力規制委員会委員長のインタビューから。
・・これまでの規制行政は、間違いがないことを条件にする無謬性が前提となっていました。そのために、あとになって規制の判断の誤りがわかっても、それを認めて修正することがなかなかできませんでした。このことが、原発の安全神話を生み出したベースになっていると思っています。これからは、新しい知識や技術が出てくれば、常に反映させて前向きに判断を変えていくつもりです・・
これまでの事故対策が、安全神話の上に成り立っていたことは、指摘されています。では、そのような安全神話を作った人、それを前提に対策を講じた人は誰なのでしょうか。もちろん、原発の設計者、運転者、規制当事者、対策責任者に、第一次的な責任があります。しかし、それを許した、またそのような状況を助長した社会も、一因があると思います。社会と言っても、そんな実態が存在するのではなく、人々によって成り立っているのですが。
「おかしい」という発言をしなかった関係者、そのような発言を許さなかった社会。それぞれの責任です。山本七平さんの言葉を借りれば、「空気の支配」を生んだものです。

日本のブランド力、その2。自虐趣味は止めよう

・・日本では、国内総生産(GDP)で中国に抜かれたことも意気消沈の一因のようだが、「革新経済学」の著者ロバート・アトキンソンさんはGDP神話に異を唱える。国の生活水準を決めるのはGDPの規模ではなく、働く1人あたりの生産力と所得の伸びであり、その点では日本は10年以上、米国より成績がよい。
「日本経済に問題が多いのは確かだが、日本は悲観的で、米国は楽天的というのは理不尽な感情論」と語る・・
ブランド力を磨く道とは何か。ロゼントレイターさんは、その第一歩は「実現できる最も高い理想の自画像を描くこと」と言う。企業で言えば、IBMがコンピューター会社から地球規模の総合技術革新グループに脱皮したように、高い目標を定め、努力を積むこと。国の場合は、「どんな国になりたいのか」だ。
GfKの上級副社長シャオヤン・チャオさんは、日本は「生活様式」大国を目指せるのに、とかねて考えていたそうだ。省エネで環境を守り、先端技術で生活水準を保ち、世界がうらやむ和食を食べ、米英の競争型とは違う助け合いの長寿社会を営む。北欧とアジアのいいとこ取りの社会文化を伸ばし、そして世界に提言できる潜在力がある。
世界が今でも一目置く黄金の国ジパングの不思議さは、その持ち余す力を自己評価せず、発信も不熱心なことだ。おごる理由はないが、落ち込んでばかりいる理由もない。日本流の技術と伝統の調和社会の高みを目指し、惜しみなく世界と分かつ「生活文化大国」になれたら・・・

日本が世界に誇るべき「生活文化」については、原研哉さんの主張をたびたび紹介しています(日本が提示する生活文化。2009年10月15日の記事など)。

そして、沈黙または自虐について。謙遜は美徳ですが、自虐は罪です。周囲はそれを事実だと思い、日本(あなた)を貶めます。国際社会や市場競争の場で、謙遜はプラスになりません。また、本人たちも、自分の実力よりも低く感じてしまいます。そして、さらに元気をなくす。
少なくともリーダーたる者は、国民や住民、部下を鼓舞するために、その努力をほめるべきです。自虐ではなく、自慢すべきです。そして足らない部分について、挑戦すべきです。評論家も記者も、そうあるべきでしょう。
「全く進んでいない」「遅れている」と言われて、関係者は元気が出るでしょうか。嘘をついてまで、誇大表示をする必要はありませんが、できていることは正当に評価して元気を出させ、できていないところを指摘した方が、生産的です。
批判ばかりの記事を読むと、「この記者さんは、子どもにも、しかってばかりいるのかなあ。よいところはほめてやらないと、子どもは育たないのに」と心配します

日本のブランド力

1月14日の朝日新聞オピニオン欄に、立野純二アメリカ総局長が、次のような記事を書いておられました。
・・今の世界は、「ブランド」であふれている。数々の有名ブランドは、モノやサービスの品質のあかしであり、市場が決める価値でもあろう。
企業10傑では、アップルやグーグル、コカ・コーラ、マクドナルドが常連。落日の日本勢はトヨタだけ・・といえば聞き飽きた話だが、意外に知られていない別の国際ブランドがある。それは「国」だ。
国際コンサル会社「フューチャーブランド」が昨年11月に発表した最新ランキングによると、日本は、スイス、カナダに次ぐ第3位。ブランド王国フランス(13位)や英国(11位)、米国(8位)よりも上とは本当か?・・
国家ブランドは他に「GfKローパー広報&メディア社」も毎年発表しており、そちらも昨年日本は6位。どちらも、世界の人々に国の分野ごとのイメージを聞き取りした調査という。日本は政治の自由度や外国人に厳しい雇用などが弱点だが、テクノロジーと観光、伝統文化で高得点を稼ぎ、総合上位につけた。
産業技術が世界一とは、買いかぶりでは? 特許の世界動向の専門家パトリック・トマスさんによると、確かに特許数は中国が今や世界一だが、技術の価値を考慮した指標では「米国と日本が今でも世界で抜きんでた巨人だ」という・・。
この項続く。