岡本全勝 のすべての投稿

長時間労働の割には成果が出ていない

日経新聞土曜日の別刷り「ニュースクール」4月11日は、「朝早くから仕事、どうして」でした。この夏に試みられる国家公務員の朝方勤務が、解説されています。そこに、日本のお父さん、アメリカのお父さん、フランスのお父さんの1日が、グラフになって比較されています。それによると、「家を出る」は、日本7:36、アメリカ7:30、フランス7:42です。ほとんど差がありません。ところが、終業時間は、アメリカ5:03、フランス5:31に対して、日本は6:51です。さらに、帰宅時間は、アメリカ6:05、フランス6:14に対して、日本は8:12です。帰宅時間では、2時間も違います。
さて、これに見合うだけの成果が出ているのか。どうも、そうではなさそうです。記事には、1時間当たりの労働が生みだすGDPも比較されています。当然、日本は低いです。長時間労働をしていながら、成果は少ない。踏んだり蹴ったりです。それぞれのデータには、出所が明記されています。ぜひ、記事をお読みください。課題は、常態化した残業と、夜の付き合いです。

被災地での挑戦

NHKクローズアップ現代、4月14日は「復興イノベーション~被災地発 新ビジネス」でした。
・・多くの命が、町が失われた東日本大震災の被災地。4年あまりたつ今、ここで新たな産業を創出する「イノベーション」が起きている。宮城県山元町では、従来の農業にはなかったブランド戦略で1粒1000円のイチゴを開発。水産業が壊滅的な被害を受けた三陸の沿岸部では、ライバル同士だった各地の若手漁師たちがグループを作り、高品質の魚介類を直接、消費者や海外へ販売する動きを始めている。これらの動きを後押ししているのが、都会の企業でバリバリ働いていた若手の人材たち・・
番組を8分間、無料で見ることができます。ぜひご覧ください。
被災地の復興には、産業・生業の復興が不可欠です。しかし、発災前の産業をそのまま復興しても、じり貧です。どのように新しい産業に取り組むか。これまでは、つくったら売れる、採ったら売れるでした。しかしそれでは、もはや通用しません。これらの成功事例は、「売れるものをつくる」です。重要な要素は、新しいことに挑戦し、地元で頑張る人材。そして、外とつなぐ仕組みや人材です。鍵は「人」です。復興庁でも、民間企業やNPOなどの協力を得て、新しい試みを支援しています。

丸山真男著『政治の世界他十篇』

丸山真男著、松本礼二編注『政治の世界他十篇』(2014年、岩波文庫)を、読みました。丸山先生の『日本の思想』(1961年、岩波新書)、特にそこに収められた『「である」ことと「する」こと』は、読まれた方も多いでしょう。
丸山真男先生は、私が東大に入った頃は既に退官しておられましたが、法学部生にとっては「神様」であり、『現代政治の思想と行動』(未来社、新装版は2006年)は必読書でした。終戦直後に書かれた、戦前戦中の日本政治を鋭く分析した各論文を読んで、知的興奮を覚えました。今年は、先生の生誕100年だそうです。
今回の文庫本に収められたのは、政治学関係それも時事的なものでなく、政治学の特質や政治の特質を論じたものです。1947年(昭和22年、終戦から2年目)から1960年(昭和35年、日米安保闘争)までに書かれたものですが、今読んでも、古さを感じさせません。いくつか共感するか所を、紹介しましょう。
・・政治的認識が高度であるということは、その個人、あるいはその国民にとっての政治的な成熟の度合を示すバロメーターです・・それは政治的な場で、あるいは政治的な状況で行動する時に、そういう考え方が、いいかえれば、政治的な思考法というものが不足しておりますとどういうことになるかというと、自分のせっかくの意図や目的というものと著しく違った結果が出てくるわけであります。いわゆる政治的なリアリズムの不足、政治的な事象のリアルな認識についての訓練の不足がありますと、ある目的をもって行動しても、必ずしも結果はその通りにならない。つまり、意図とはなはだしく違った結果が出てくるということになりがちなのであります。
よくそういう場合に、自分たちの政治的な成熟度の不足を隠蔽するために、自分たちの意図と違った結果が出てきた時に、意識的に、あるいは無意識的になんらかのあるわるもの、あるいは敵の陰謀のせいでこういう結果になったというふうに説明する。また説明して自分で納得するということがよくあります。
つまり、ずるい敵に、あるいはずるい悪者にだまされたというのであります。しかしながら、ずるい敵にだまされたという泣き言は、少なくとも政治的な状況におきましては最悪な弁解なのであります。最も弁解にならない弁解であります。つまりそれは、自分が政治的に未成熟であったということの告白なのです・・p341。
この項、続く。

岩手県沿岸南部視察

今日14日は、岩手県宮古市、山田町、大槌町、釜石市、大船渡市、陸前高田市を視察し、市町長と意見交換してきました。特に、山田町、大槌町、陸前高田市は、市の中心部がすべて津波で流され、役場機能も失うという大きな被害を受けた町です。そのため他の町に比べ、復旧・復興事業が遅れていたのですが、最近になって大きく進みました。
すなわち、住民の意見集約ができて、高台移転や区画整理の計画ができあがり、用地買収もほぼできました。工事も着実に進んでいます。また、早い地区では公営住宅や宅地造成が完成し、引き渡しも始まっています。首長さんたちも、自信を持ったお顔です。工事完成までには、まだ2~3年かかりますが、見通しが立っていること、順次完成することで、住民の方にも安心してもらえます。
その他の市も、順調に工事が進み、次の課題は生業の再生や集団移転跡地の利用計画などに移っています。新しい街並みができると、仮設商店街から本設の商店街に移転してもらう算段が必要になります。また仮設住宅での孤立防止見守りや新しい住宅地でのコミュニティ再建支援の他に、自宅を再建するか公営住宅に入るかを決めかねている家族への相談なども必要になります。現場に行くと、新しい課題やそれに対する新しい試みなども勉強になります。工事の完成時期や残る事業とあわせ、後期5か年の財政要望なども聞いてきました。
時間を有効利用するために、昨日夜に盛岡まで入り、今朝から一筆書きで、回ってきました。今日も、強行軍でした。

著作の解説2 日本の政治と行政

1 今後の日本の政治と行政
①「地方自治50年私たちの得たもの忘れてきたもの」(1997年、富山県職員研修所)と、「失われた10年と改革の10年-最近の地方行財政の成果」月刊『地方自治』(ぎょうせい)2001年5月号は、これまでの行政を、長期的な視点から論じたものです。
また、「豊かな社会の地方行政-工業化社会からポストモダンへ」月刊『地方自治』2002年5月号は、社会の変化に応じたこれからの地方行政の在り方について論じたものです。
それらを発展させて、東大で講義をしました。講義内容は加筆して、「地方自治50年の成果と課題」として『地方行政』に連載しました(2002年7月~2003年4月)。
②それを単行本にまとめたのが、「新地方自治入門-行政の現在と未来」(時事通信社、2003年10月)です。

③「予算編成の変化」月刊『地方財務』2003年12月号は、右肩上がりの時代と現在とで、大蔵省の査定・各県や市町村財政課の査定が、どのように変わったか。私の体験を踏まえて、論じてみました。
若い職員には信じられないでしょうが、かつては「要求基準前年度比150%」という時代があったのです。プラス50%ですよ。財政課のステイタスも高く、「財政課にあらずんば人にあらず」というような風潮もありました。中央政府においては、もっと極端だったそうですが。今なお、そんな俗説を信じている人(マスコミ)もたくさんいます。その「神話」を検証してみました。各地方団体の財政課員の皆さん、財政課に頭を下げている要求側の皆さん、一読してください。批判も、お待ちしています。予算査定の在り方を論じました。財政担当の方、ご一読ください。(東大での研究会では、これを基に、大蔵省や財政課の「予算を通じた権力」を議論しました。いつか、別にまとめたいと考えています。)(2003年11月28日)

「再チャレンジ支援施策に見る行政の変化」月刊『地方財務』(ぎょうせい2007年8月号
『地方財務』今月号に、再チャレンジ特集を組んでもらいました。私の他は、「再チャレンジ支援策の概要」(黒田岳士・再チャレンジ室企画官、旧経企庁)、「地域における若者の自立支援」(美濃芳郎・再チャレンジ室企画官、旧労働省)、「暮らしの複線化の推進」(森山誠二・再チャレンジ室企画官、旧建設省)、「交流居住、移住促進政策の推進」(菊地健太郎・総務省補佐、旧自治省)、「ささやかですが、北海道から新たな『日本の笑顔』を創ります」(大山慎介・北海道庁主幹)です。すごい執筆陣だと、思いませんか(自画自賛)。
なぜ『地方財務』で再チャレンジを、という疑問をもたれた方もおられるでしょう。しかし、私は、出納簿の計算を合わせることや、歳出を削ることが、財政ではないと考えています。財政は手段であって、目的ではありません。数字合わせなら、電卓に0.9を定数として入れて、すべての支出にかければいいのです。
今の職場で、行政の新しい形を考える機会をいただきました。中でも、地域の若者を育てること(美濃論文)は、地域と自治体の最大の使命です。「新地方自治入門」に書いた、「モノの20世紀から関係の21世紀へ」の代表例です。しかも、そんなに多額のお金は、必要ありません。市町村の財政担当者や企画担当者に、一緒にこれからの自治体を考えて欲しいのです。「?」とお思いの方は、拙稿をお読みください。次のような内容です。
1 再チャレンジ支援策の目的
2 行政の変化
(1)対象、(2)手段、(3)評価、(4)手法、(5)役割
3 再チャレンジ支援があぶり出したもの
(1)単線型社会、(2)外部に冷たいムラ社会、(3)仕事優先
4 地方団体の役割
(1)社会の大転換と行政、(2)地方団体への期待
なお、これまでの行政とこれからの行政の違いを、簡単な表行政の変化にしてあります。
(2007年8月3日、12月31日)

2 省庁改革
①平成10年から3年間、内閣に出向し、省庁再編を担当しました。その内容を「省庁改革の現場から」にまとめました。2001年に行われた省庁改革の概要のほか、国家行政機構のあらまし、政治と行政(政と官)の在り方などを解説しています。
②「中央省庁改革における審議会の整理」は、2001年の省庁改革に併せ、審議会を大幅に整理した際の考え方をまとめたものです。
永年批判があった審議会を、211から90に半減しました。そのほか、審議会についての問題点や論点も、網羅してあります。審議会を考える際には、役に立つと思います。これも、類書が無いと思います。

3 行政構造改革
連載「行政構造改革-日本の行政と官僚の未来」月刊『地方財務』(ぎょうせい2007年9月号から

行政改革の現在位置~その進化と課題」年報『公共政策学』第5号(2011年3月、北海道大学公共政策大学院)
北海道大学公共政策大学院の年報『公共政策学』に、拙稿「行政改革の現在位置~その進化と課題」が載りました。抜き刷りも送っていただいたので、関係者に送る準備をしているのですが。インターネットでも読めるのは、便利なものですね。宮脇淳先生から執筆依頼を受け、長年温めていたテーマを論文にしました。詳しくは、「行政改革の分類」のページへ。(2011年4月29日)

連載社会のリスクの変化と行政の役割月刊『地方財務』(ぎょうせい)2010年10月号から2011年4月号。中断中。

4 大震災と復興
東日本大震災 復興が日本を変える2016年、ぎょうせい

「地震・原発災害からの復興と地方自治」
日本地方財政学会編『地方分権の10年と沖縄、震災復興』(2012年、勁草書房。地方財政学会年報)
2011年9月に行われた、地方財政学会のシンポジウムの記録です。私も、パネリストを務めました。(2012年3月15日)

「被災地で考える「町とは何か」~NPOなどと連携した地域経営へ~」
(共同通信社のサイト「47ニュース、ふるさと発信」2012年8月31日)
「NPOと行政の関係を、書いてください」という注文でしたので、いま携わっている復興の仕事を通じて、考えていたことを書きました。
今回の大震災では、津波によって、町そのものが流された地域が多くあります。すると、ほぼゼロの状態から町を復旧しなければなりません。その過程を通じて、町には何が必要かがわかります。すなわち、町は何から成り立っているかが、見えてくるのです。そして、阪神淡路大震災と今回の大震災で、復興のために何が違うかが、見えます。道路や住宅を再建しただけでは、住民の暮らしや町の賑わいは、戻らないのです(第1章)。
第2章では、その観点から、行政学や財政学に議論を広げて、行政の役割の変化を論じました。最近書いていた関係する文章を再考してまとめたので、近年のいくつかの拙稿が基になっています。これらを読み返してみて、近年は同じようなことを、一つの共通する視点で考えていたことに気づきました、
第4章では、被災地での、NPOの活躍を紹介しました。リンクを張ってあるので、詳しく見る際には、便利ですよ。少ししか事例を紹介できなくて、申し訳ありません。いずれ、体系だって整理するように、NPO連携班の諸君が努力中です。
ディスプレイ上で読むには、結構な分量です。印刷して、ゆっくりお読みください。(2012年8月31日)

「東日本大震災からの復興―試される政府の能力」、日本行政学会年報
拙稿「東日本大震災からの復興―試される政府の能力」が載った日本行政学会編『東日本大震災における行政の役割』(年報行政研究48、2013年5月、ぎょうせい)が発行されました。この本は、日本行政学会の年報です。2012年の総会・研究会での発表を基に特集が組まれ、冒頭に拙稿を載せていただきました。行政学の大家と並べてもらい、とても光栄なことです。
発災以来2年間の取り組みと、それから得られた教訓を整理しました。行政学会なので、政府が何をしたか、何が変わったか、何を変えなければいけないかの視点を盛り込んであります。
副題も、千年に一度の津波と過去に例のない規模の原発事故災害を踏まえ、「試される政府の能力」としました。このような報告も、実務に携わり責任を担った官僚の務めだと考えています。
A5判で18ページの小論ですが、短いが故に執筆には苦労しました。書きたいことをたくさん削除し、かつ全体像をバランスよく書く必要がありました。他方、全体像をつかむには、読みやすいと思います。
目次は、次の通りです。
1 災害の特徴と復旧の現状
(1)被害の特徴、(2)効果的な救助と早い復旧、(3)復興への課題
2 政府の取り組みと民間の貢献
(1)生かされた経験と経験のない取り組み、(2)地方自治体による応援、(3)民間の活動
3 救助と復旧から見える日本の行政
(1)国土の復旧から生活の再建支援へ、(2)試される政府の能力、(3)大震災によって見えた日本社会

私の他に、飯尾潤先生が「東日本大震災に対する復興政策:構想と論点」、室崎益輝先生が「東日本大震災から見えてきた減災行政の課題」、森田朗先生が「東日本大震災の教訓と市民社会の安全確保」を、執筆しておられます。筆者の立場と視角が異なると、違ったものが見えてきます。これだけの大きな災害であり、いろんな観点からの考察が必要です。拙稿と合わせて読まれることを、お勧めします。(2013年5月14日)

(地方財政学会年報)
日本地方財政学会編『原子力災害と地方自治体の財政運営日本地方財政学会研究叢書)』(2015年、勁草書房)が出版されました。2014年5月に福島大学で開かれた、日本地方財政学会第22回大会の特集です。シンポジウム「原子力災害と地方自治体」には、私も参加したので、少しだけ発言が載っています。(2015年2月28日)

「復興の現状と課題―未曾有の事態へどのように対応してきたのか」
地方自治体向けの月刊誌『地方財務』(ぎょうせい)2015年4月号に、「東日本大震災から4年―復興へのあゆみと地方創生のヒント」を、特集してもらいました。次のような内容です。
1 復興の現状と課題―未曾有の事態へどのように対応してきたのか 小生執筆
2 福島復興の加速化―地震、津波、原子力発電所事故の三重災害からの復興 田谷聡・福島復興局長執筆
3 被災自治体への財政支援及び人的応援 海老原諭・復興庁参事官執筆
4 「新しい東北」の創造―産業・生業の再生、コミュニティ形成への新手法 小川善之・復興庁参事官補佐執筆
5 企業の力で産業・コミュニティを復興する 藤沢烈さん執筆
長尾編集長の指示により、自治体職員向けに構成しました。そこで、4年経った時点での復興の現状と課題だけでなく、私の原稿では、これまでにない課題にどのように対応したか、そしてどのように組織を作ったかを書きました。岡本全勝と職員たちの、この4年間の努力=技と作品=苦労の記録です。これは今後、霞が関で新しい課題について新しい組織を作る際の教科書になるでしょう。同様に、地方自治体の幹部にも、参考になると思います。また、地方での現在の第一の課題である地方創生に関して、被災地で進めている「新しい東北」という地域振興の取り組みを紹介するとともに、行政だけではできない部分を民間の力をどのように活用するかを書いてもらいました。
拙稿は、次のような構成になっています。
「第一章 5年目を迎える復興」は、復興庁資料でも公表しているとおりです。「第二章 復興庁をつくる」が、これまでにない課題にどのように対応したか、そしてそのためにどのように組織を作ったかです。
それを、「明快な目標」「効率的な組織」「関係者の理解」の3つに分けて解説しました。私の苦労の整理です。「明るい官房長講座」あるいは「明るい総務部長講座」です。新しい組織作りに悩んでおられる方や、これまでにない課題に取り組む方に、お役に立つと思います。
一 5年目を迎える復興
1 天災と原発事故、異なる復興
2 現状と課題
(1)住宅再建とまちづくり (2)産業と生業の再生 (3)被災者の健康と生活の支援 (4)原発事故からの復興 (5)新しい東北の創造
3 今後の見通し
(1)復興の完了を目指して (2)原発事故処理
二 復興庁をつくる
1 これまでにない課題にどう取り組んだか
(1)明快な目標=優先順位の設定と工程表の作成 (2)効率的な組織=組織作りと社風作り (3)関係者の理解=意思統一と国民の理解
2 新しい取り組み、新しい手法
(1)政府が行った新しい取り組み (2)企業やNPOとの協働
(2015年4月3日)