電気・ガス料金補助、過大に計上

コロナ交付金、2割不用」の続きになります。11月7日の日経新聞は「電気・ガス料金補助、過大計上 昨年度、5700億円使われず 効果の検証も不十分」を書いていました。

・・・物価対策として電気・ガス料金を抑える国の補助金事業を巡り、2023年度予算で計上された3兆2527億円のうち18%にあたる5714億円が24年度に繰り越されていたことが6日、会計検査院の調べで分かった。予算が過大だった可能性がある。政策効果の検証も不十分で、事業計画全体の甘さが浮かび上がった。

電気・ガス料金向け補助金はロシアのウクライナ侵略などによる物価上昇の対処策として23年1月に始まった。企業や家庭の負担を軽減するため、電力・都市ガスの小売会社が値引きした分を補塡する形で国が支援金を配った。
検査院が執行状況を検査したところ、22年度に計上された3兆1073億円のうち、8割にあたる2兆5346億円が23年度に繰り越された。23年度は繰り越し分を含め3兆2527億円の予算を計上したが、5714億円は年度内に執行されず24年度に繰り越された。
制度を所管する資源エネルギー庁は多額の繰り越しが発生した理由について「年度内に小売事業者が値引きを行うための必要額を見込むことが困難で、事業を完了できなかった」と説明しているという。予算の見積もりが甘かった可能性がある。
検査院は事業の効果についても確認した。資源エネルギー庁は事業の進捗を確認する23年度当初の「行政事業レビューシート」で、補助金により各家庭の電気・ガス料金を18%抑えるという目標を掲げた。しかし実際の成果を正確に調べていなかった・・・

・・・電気・ガス料金の補助事業は再委託が繰り返される多重下請けの構造だったことも判明した。会計検査院によると、事務局に選ばれた博報堂から下請け企業への金額ベースの委託費率は7割を超え、さらに8割超が別企業へ再委託されていた。
検査院によると、博報堂は2022年11月から24年8月までの1年10カ月間、事務局の運営を担った。事務費319億円のうち、71%(227億円)が下請け8社への委託費用だった。
そのうち申請書類の審査業務やコールセンター対応など210億円分の委託先は同社子会社の「博報堂プロダクツ」だった。博報堂プロダクツは別の下請け5社に186億円分を再委託していた・・・

(追記)11月21日の読売新聞解説欄に、駒崎雄大記者の「「多重下請け」黙認 ずさん運営 電気・ガス補助金事業」が載っていました。
・・・コロナ禍や物価高といった生活を脅かす事態に対応する補助金事業でなぜ綻びが目立つのか。白鴎大の藤井亮二教授(財政政策)は「いずれも政治主導で慌ただしく実施が決まり、制度設計に緻密さを欠いたからではないか」とみる。
特に、経済産業省の外局である中企庁とエネ庁で多重下請け構造の確認不足が立て続けに問題視されたことからは、検査院の指摘を「軽視」する姿勢もうかがえる。与党などは20日、電気・ガス料金の負担軽減策を来年に再実施することで合意したが、巨額の公金支出を念頭に置き、後の検証に堪えうる精密な事業運営が求められる・・・

役所の事業執行の甘さには、原因があるでしょう。これらの予算は、事務的に十分な検討がないままに、いわゆる「政治主導」で決められたようです。時間的余裕がない上に、臨時に発生したこれら業務に十分な人員がそろえられていないのでしょう。担当職員たちの苦労が見えるようです。

関西大学で講義

今日11月25日は、関西大学経済学部で講演をしてきました。林宏昭先生のお招きで、毎年話しに行っています。
今日の内容は、東日本大震災への対応と、そこで考えた町のにぎわいの3要素と、公私二元論から官共業三元論への転換です。
学生たちは、2011年の大震災当時は小学校低学年で、その実態を知りません。先生の助言で、当時の状況をスライドで説明することから入りました。スライドには出てこない悲惨な状況は、語りで補いました。出席した学生は、熱心に聞いてくれました。

朝の新幹線の窓から、雪をかぶったきれいな富士山が見えました。野山の紅葉はまだですね。
写真を送ってくださったので、載せておきます。

コロナ交付金、2割不用

11月7日の朝日新聞が「コロナ交付金、2割の3.2兆円不用 会計検査院、昨年度の決算検査報告」を伝えていました。

・・・会計検査院は6日、国の2023年度決算検査報告を公表した。国費の無駄遣いや不適切な経理などは345件(前年度344件)で計648億円(同580億円)。新型コロナウイルス対策として20~22年度に国が地方に配った地方創生臨時交付金(コロナ交付金)では、総額18兆3千億円のうち約2割の約3兆2千億円が不用になっていた。

コロナ交付金は、コロナ禍の地方経済や地域の暮らしを支えるためとして創出され、医療機関への支援や飲食店などの休業要請への協力金などの事業が実施された。
検査院が内閣府や総務省と、能登半島地震の影響を受けた新潟、富山、石川各県をのぞく44都道府県の事業実施状況を調べたところ、約3兆2千億円の不用が出ていた。交付金は内閣府から総務省を通じて地方に配られる仕組みだが、約3兆円は内閣府にとどまったままで、地方分の不用は2396億円あった。検査院によると、国は地方で行われた事業を網羅的には把握しておらず、コロナ交付金の不用総額が判明するのは初めて。
コロナ交付金は原則として使途に制限はないとされ、自由度が高く活用が可能な制度とされた。だが、「イカのモニュメント(イカキング)」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」などといった事業について、「コロナとの関連が見えない」などといった批判が出た。検査院の調査で多くの自治体が事業の効果検証を行っていないことが判明し、内閣府は22年11月、自治体に効果検証を要請した。不用額の背景にはこうした状況があるとみられる・・・

・・・コロナ交付金を使った無料のPCR検査事業などでは全国各地で不正が相次ぎ、会計検査院が2023年度末時点で集計したところ、338億円の不正受給が発生していた。うち国費は205億円で、そのうち170億円が返還されていない。
無料のPCR検査は全国で3340万件実施され、コロナ交付金は1853億円使われた。検査交付金事業では、25都道府県で事業者が検査数を水増しするなどして計約200億円の不正受給があった。
未返還分について、大阪府は10事業者に約50億円の返還を求めて訴訟やその準備を進めている。破産する事業者も出ており、回収困難になっているケースもある。
飲食店などが休業や時短営業をした場合に出す協力要請金は524万件支給され、約5兆8千億円が使われた。24都道府県で店舗の実態がなかったり、時短を行っていなかったりし、計109億円の不正受給が発生していた。事業者の倒産などがあり、うち27億円は返還されていなかった。
事業者がテレワークなどを導入する際に使える事業者支援交付金などでも、約7億円の不正受給が発生していた・・・

渡部佳延著『知の歴史』

渡部佳延著『知の歴史:哲学と科学で読む138億年』(2023年、現代書館)を本屋で見つけて、読みました。西洋哲学史の概説書です。文字以前の時代も扱われていますが、主に古代ギリシャから現代までの哲学者を取り上げています。

これだけのものを一人の方が書かれたとは、驚きです。ある哲学者を詳しく紹介することはたぶん時間があればできるのでしょうが、これまでの西洋哲学を作ってきた著名な学者を網羅し、簡潔に紹介することはかなりの読書量と分析力、労力が必要だったでしょう。著者は学者ではなく、「講談社選書メチエ」や「講談社学術文庫」の編集長をなさった方です。

西洋哲学史の入門書として、良い本だと思います。私が次に読みたいのは、「史」ではなく、「哲学概観」です。
古代西洋哲学から自然科学が分離独立して、壮大な自然科学大系を作りました。数学、物理、化学、天文学、地学、生物学、医学・・・と。もちろんこれらも「史」はあるのですが、現代人は「史」を学ばなくても、それぞれの分野の概要、現在たどり着いた知識の全貌を知ることができます。

社会科学にあっても、経済学、法学、社会学などは「史」を知らなくても、現時点での知識の概要を知ることができます。ところが、哲学の概要書はほとんどが「史」であって、現時点での到達点をわかりやすく示してくれないのです。
門外漢には、哲学の「知図」が欲しいのです。それがないと、一般人は哲学について会話が成り立ちません。

103万円は幻の壁?

11月12日の朝日新聞「103万円は幻の壁? 年収の壁、専門家の見方は」から。
・・・国民民主党が訴える「103万円の壁」対策に注目が集まっている。税金がかかる「最低限の年収」のラインを引き上げることで減税し、働く人たちの手取りを増やすというものだ。政府・与党も検討に入ったが、実は「103万円は壁ではない」との指摘もある。既婚女性の「年収の壁」について分析した東京大学の近藤絢子教授(労働経済学)に聞いた。
―103万円にはどんな意味がありますか。
「パートやアルバイトで働く人たちにとって、年収103万円を超えると、所得税の課税が始まります。ただ、税負担が増えるといっても大きくはありません。年収が104万円になったとしたら、増えた分の1万円に税率5%をかけた年500円が納税額です」

―手取りは減る?
「主婦のパートタイマーの手取りは世帯でみても減りません。にもかかわらず、2021年までの住民税のデータを分析したところ、年収が103万円に収まるよう働く時間を調整している既婚女性が多いのです」

―なぜですか。
「データを見ると(社会保険の加入が必要になる)130万円で調整している人もいます。ただ、その手前の103万円の方が圧倒的に多い。それは、ある種の誤解かもしれません。パートで働く妻の年収が103万円以内だと、夫が税の優遇措置である配偶者控除(38万円)を受けられます。103万円を超すと税制上の扶養を外れますが、年収150万円までは配偶者特別控除という名前で同じ額(38万円)の控除が受けられる。150万円を超えると夫の優遇額が少しずつ減り、201万円を超えると優遇がなくなります。それがあまり理解されていないのかもしれません」

―配偶者として受けられる税の優遇でみれば、「150万円の壁」になったと。
「そうです。103万円はいわば『意識の壁』で、『幻の壁』ともいえるかもしれません」