若手官僚の悩み、講義後の質問2

若手官僚の悩み、講義後の質問」の続きです。
たくさん質問をもらったことは、うれしいです。手応えがあるということですから。答えを書きつつ、「このような質問は、職場ではしにくいのだろうな」「近くに相談に乗ってくれる人がいないのかなあ」と思いました。私が仕事で悩んだときに助言してくれたのは、上司ではなく6年から2年年上の先輩でした。

読売新聞の「人生案内」や、朝日新聞土曜別刷りの「悩みのるつぼ」という人生相談投稿欄があります。その回答者になった気分でした。
回答をつくるにあたって、岡本組の組員たち(何かと相談に乗ってもらう元部下たち)に、相談しました。ありがたいことに、私の気づかない点を指摘してくれました。

皆さんはご存じないでしょうが、昔ラジオの人生相談番組に、融紅鸞(とおる こうらん)という、大阪のおばちゃん(?)の回答者がいました。昭和40年代でしょうか。夫婦の悩み事、おおかたはひどい夫についての妻からの相談に、「ほな、別れなはれ」という身も蓋もない決めぜりふを言います。
私も結論を急ぐ方で、それに近い回答を考えるのですが。協力してくれた「岡本組の相談員たち」は、親切でした。「悩んで相談している若手に、もっと親身になって回答すべきです」と忠告をくれました。また、私の回答案に対して「相談者が悩んでいることは、それとは別ではないですか」と、鋭い読みをした助言者も。

中には、次のような指摘をする相談員もいました。
「質問者は、質問内容を電子メールに打っている段階で、自ずと答えのようなものを見い出していることも多いのではないでしょうか。そして、「岡本先輩のような人に聞いていただきたい、分かっていただきたい」という思いと、「岡本先輩に、自分で見い出した答え的なものを後押ししてほしい」ということなのではないでしょうか」
そのような効果があれば、よいですね。

コロナ経済対策の検証

3月3日の日経新聞経済教室「社会保障 次のビジョン」中、鈴木亘・学習院大学教授の「非常時対応、既存制度改革で」から。

・・・問題は今後もショックが起きるたびに、今回のような大規模な財政出動を繰り返すのかということだ。コロナ前には、国の一般会計歳出額は年間100兆円前後で推移していた。だが2020年度の3回の補正予算を含む歳出額は175.7兆円、21年末に成立した補正予算を含む21年度の歳出額は142.5兆円と、空前の規模に達している。
高齢化による社会保障費増が続くなか、こうした大盤振る舞いを何度も続けていては、いずれ日本の財政は立ちいかなくなる。そろそろウィズコロナにふさわしい効率的な経済対策を検討し、現在の「非常時体制」から脱する必要がある。
コロナ経済対策を振り返ると、大部分は生活支援の給付金、雇用対策、休業支援、弱者・貧困対策、医療・介護の補助金などに費やされており、広義の社会保障にほかならない。社会保障ならば失業給付や生活保護などのセーフティーネット(安全網)が用意されているが、今回はそれらがあまり使われず、現金給付や特例措置などの新施策が次々と創設された。まるで既存制度を使わないことが政策目標であるかのようだ・・・

・・・結果をみると、特にコロナ禍の初期時点ではパニックによる解雇や廃業を防ぐため、新施策がよく機能したことは評価できる。問題は泥縄式の急ごしらえで作った制度なので、救済すべき対象以外にもバラマキがなされ、財政規模が大きくなりすぎたことだ。国民全員に10万円ずつ配った特別定額給付金が典型例だ。
その後も、ひとり親世帯や子育て世帯への臨時特別給付金などとして、継続的にバラマキが実施され、もはや財政のタガが外れてしまったかのようだ。また休業支援金についても、支援金の方が得だからと不必要な休業を選択する本末転倒な使い方がされることや、持続化給付金のように不正受給が横行する例もある・・・

・・・今後、コロナ経済対策をどう変えていくべきだろうか。新施策はあまりにも財政浪費的だ。大幅に整理したうえで、必要な部分は既存の社会保障制度の中に取り入れて、次のショックに備えるべきだ。長年の風雪に耐えた既存制度は、さすがに完成度が高く効率的でもある。もっとも、新施策が作られた背景には、既存制度では非正規労働者や被害を受けた業界への迅速な救済が難しかったことがある。その意味で、既存の社会保障制度もコロナ禍の反省に立って見直すべきだ・・・

詳しくは原文をお読みください。

震災復興、非営利団体への支援

古くなってすみません。東日本大震災から11年ということで、各紙が特集を組んでいました。今日紹介するのはNPOの活躍と、資金難で活動が細っていることです。

3月5日の読売新聞「復興の実像5被災者サポート 資金難
・・・宮城県七ヶ浜町の災害公営住宅で暮らす女性(36)の次女(5)は近くの交流施設「七ヶ浜みんなの家きずなハウス」の前に来ると、「遊んでいきたい」とだだをこねる。ハウスは、NPO法人「レスキューストックヤード」(名古屋市)が子どもの遊び場や住民の交流の場として運営してきたが、昨年3月末で閉鎖された。
理由は資金不足だ。活動費の大半を賄っていた寄付金は減少し、自治体からの助成金を充てても年約1000万円の費用を捻出できない状況が続いていた。同法人の横田順広さん(45)は「孤立しがちな人に手を差し伸べるなど、支援はまだ必要なのに」と唇をかむ。
東北の被災地には、NPOなどの団体が1000以上入ったともいわれる。それぞれの得意分野を生かし、「心のケア」「まちづくり」などの支援を行ってきた。マンパワー不足の自治体に代わり、行政の手が回らない部分を補ってきた面もある。だが、「震災10年を機に活動停止や規模縮小が増えている」と、支援団体でつくる「東日本大震災支援全国ネットワーク(JCN)」は指摘する・・・
・・・災害対策基本法が13年に改正され、国や自治体は支援団体を含むボランティアと連携するよう義務づけられた。だが、「支援団体の位置づけはあいまいで、国の援助も足りない」と、兵庫県立大の阪本真由美教授(被災者支援論)は批判する・・・

同「支援分担「石巻モデル」 団体同士で調整 官民で連携
・・・東日本大震災で最大被災地となった宮城県石巻市には震災直後、100以上の支援団体が駆けつけた。混乱の中、互いの顔も活動内容も知らない団体同士が集まって役割を調整し、市役所や自衛隊などと情報共有する仕組みを作り上げた。「石巻モデル」とも呼ばれた連携の形は、災害対応の「基本」として定着しつつある・・・

3月8日の日経新聞、菅野祐太・NPO法人カタリバディレクター(岩手県大槌町教育専門官)「学ぶ意欲、出会いが育む 被災地の岩手・大槌で学習支援」「2つの震災が残す課題 孤独死600人超、つながり構築に壁」、朝日新聞3月9日夕刊の「「支えられた私、今度は支える」 震災遺児ら癒やすレインボーハウス」も参考になります。

若手官僚の悩み、講義後の質問

1月から実施した内閣人事局幹部候補研修では、質問を受けることとしました。課長補佐級、係長級あわせて、22人から質問が寄せられました。

寄せられた質問は、私の話し足らなかった点への質問や、現場で実際に悩んでいる事柄です。前者は、簡単に回答しつつ、詳しくは拙著「明るい公務員講座」3部作の該当ページを読んでもらうようにしました。後者は、まさに彼ら彼女たちの仕事の上での悩みです。一生懸命取り組んでいる職員ほど、悩むのかもしれません。

このほかに、この時代特有の悩みというべきものもありました。
その中の一つは、コロナ対策で在宅勤務が増え、職員との対面が減ったことでの困りごとです。もう一つは、働き方改革です。霞が関は滅私奉公の代表的職場でした。今、仕事と生活の両立に向けて改革中です。ところが、部下たちは定時に帰るのですが、職場の仕事は相変わらず多く、課長補佐たちがそれを引き受けて「満杯」になっているのです。

質疑応答は、集合研修なら通常のことですが、オンライン講義なのでいささか勝手が違います。集合研修なら、その人の目を見つつ、こちらからも質問したりして、回答を見つけます。また、時間が限られているので、エイヤッと答えなければなりません。
今回は、電子メールで寄せられた質問に、電子メールで回答する。そしてそれを掲示板に載せて、参加者は読むことができるようにします。回答は慎重になります。
しかも、最後の週に10問も一度に出てきて、回答を作るのが重労働でした。でも、少しでも若手官僚の不安に答えることができたら、うれしいです。この項続く

アメリカ、連邦から州への交付金の使い方

3月1日の日経新聞、エコノミスト誌の転載「米1.9兆ドル対策、州支出は放漫」が興味深かったです。国から地方への交付金が、どのように使われるかについてです。米国救済計画法(ARPA)です。

・・・2021年3月に成立したARPAに基づく経済対策は総額1.9兆ドル(米国の国内総生産=GDP=の9%に相当)規模に上る。前提には、州政府と連邦政府が深刻な財務難に陥っているとの判断もあった。だが実際には、同法の発効前から税収は急速に回復していた。来年度予算案の作成に取りかかっている知事や州議会議員らは、良くも悪くも独創的な方法で支給された資金を使おうとしている。
資金の一部は賢明な投資に振り向けられ、何年も恩恵が見込める。一方で、その多くは長期的にコストが発生する大規模な新インフラ建設計画や社会プログラムに投じられている。潤沢な資金を貪る知事たちは民主党・共和党を問わず、政治的な上昇機運を享受している。だが、資金はいずれ底を突く。高水準の州財政は長続きしない。

州の一般財源(その大部分が税収)はパンデミック当初こそ急減したが、現在はあふれ返っている。過去最大の財政黒字を計上する州も多い。ARPAで配分される連邦政府の資金は州・地方政府への直接支援に3500億ドル、医療インフラ、学校、交通機関への支援が3000億ドル超に及び、州政府に前例のない規模の財源を与えた。
ARPAの資金は、26年までに消化しなければ全額を失う。予算分析のアナリストの間では、その時点で歳入がパンデミック前の趨勢に回復しているとの見方が多い。ARPAは資金使途に一定のルールを定めているが、州政府は自身が適切と判断した用途に巧みに資金を配分している。

賢明な投資から見てみよう。ほとんどの州は万一の場合に備え、資金を予備費に回している。各州の予備費が歳出に占める比率の中央値は、過去30年間で最高に達した。新型コロナ禍で底を突いた失業保険基金は補充された。ただし、州政府は今後、失業保険基金に充当された連邦資金の中から800億ドル以上を支出することになっている。
これらの賢明な支出は、州政府が次の困難を乗り切る力となる。また、長期的なリターンが期待できる単発投資に資金を投じる州も多い。ほとんどの州は修理・修繕、環境汚染対策、旧式コンピューターの更新など積み残されていた投資(総額8730億ドル)を実行するためにARPAの資金を使っている。ARPAの大盤振る舞いは、パンデミックという激変期のさなかに公的医療制度や教育の強化にも役立っている・・・
・・・一方で、多くの州政府が乗り出しているインフラ投資計画は玉石混交だ。ARPAの管理に関する財務省の規定では、各州が投資できるインフラは高速インターネット、下水道、水道の3種類に限られている。各州は勢いこんで高速インターネットに資金を配分し、推定76億ドルがすでに投じられている。
だが、ワシントンに本拠を置くブルッキングス研究所のアディー・トメア氏は、こうした予算の使い道で経験のある州はほとんどないと警鐘を鳴らしている。22年は1.2兆ドル規模の「インフラ投資法」に基づく資金配分が始まるため、インフラ投資はさらに底上げされることになり、大部分が高速インターネット網への投資に向かう。
しかし実際には、州議会議員の多くは、たとえいくら悪い政策でも、「歳入補塡」の資金を使えるようになったことで肝煎りの案件を優先的に支援できるようになった・・・