カテゴリーアーカイブ:政治の役割

異論の統一、国会の役割

2018年5月6日   岡本全勝

朝日新聞、5月6日の社説は「エネルギー計画 この議論で決めるのか」です。

・・・経済産業省が、今年夏に改定する「エネルギー基本計画」の骨子案を審議会に示した。国内外で逆風が強まる原発と石炭火力発電を基幹電源と位置づけるなど、4年前に決めた現行計画をほぼ踏襲する内容だ・・・
・・・国民の声に耳を傾けるプロセスも軽んじられている。
経産省は、ネットなどで受け付ける「意見箱」を設けた。原発の賛否は分かれ、再エネは大幅拡大を求める声が目立つが、そのまま印字した分厚い紙を審議会に配るだけで、議論の材料になっていない。エネルギー分野のNPOや消費者団体から、国民各層との対話の場を求める声も相次いだが、黙殺された・・・
・・・どんなエネルギーをどれだけ使うのか。望ましい方向に変えるには、個々の消費者や企業に適切な行動を促すことが欠かせないのに、こんなやり方で社会の理解が進むだろうか。
今からでも遅くない。市民やさまざまな団体、幅広い知見を持つ専門家らと意見交換する場を設け、活発な議論につなげるべきだ。重要な政策を鍛え直す機会を逃してはならない・・・

原発については、国民の間で意見が分かれています。今後のエネルギー政策をどうするのか、安定供給、安全、環境保全などの観点で、これが正しい唯一の答というものはないでしょう。しかし、どれかに決めなければならない。その際にどのような手順で決めるか。それは、国会です。国民の間にある異論を集約する機能と責任は、国会にあります。

この社説では、経産省、それも審議会が決めるかのように読めます。
かつて、審議会は、国民の意見を聞く、有識者の意見を聞く、関係者の意見を聞く場として活用されました。しかし、そのお膳立てを官僚がすること、結論もあらかじめ決められているのではないかという批判がありました。「官僚の隠れ蓑」とも言われました。
2001年の省庁改革の際も、官僚主導から政治主導に変える一つとして、審議会の数や役割の見直しをしました(方針は決まっていて、その実施が私の役割でした。「中央省庁改革における審議会の整理」月刊『自治研究』(良書普及会、2001年2月号、7月号にまとめておきました)。

エネルギー政策や原発のありようが重要政策なら、経産省や審議会に任せるのではなく、それらの議論も踏まえ、国会で議論すべきことでしょう。
案の提示とその長所短所の説明は、官僚の役割です。しかし、異論がある時に、結論を出すのは、国会です。
国民の声を聞く、国民の声を反映させるのは、審議会ではなく、国会です。

法律を守る

2018年5月1日   岡本全勝

「憲法9条を守れ」と主張があります。ところで、この「9条を守れ」と「法律を守れ」とは、内容が違う場合がありますよね。

「法律を守れ」は、例えば「未成年者は飲酒してはいけない」とか、「自動車は制限速度を守れ」という意味であって、法律の規定を遵守しろです。
他方、「9条を守れ」は、
A「9条を履行して、戦力を持つな」という意味のほか、
B「9条を改正するな」という意味で主張する人がいます。

憲法第99条に、次のような規定があります。
天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

これについて、衆議院議員からの質問主意書に対する、内閣の答弁書があります(H18.10.10内閣衆質165-27対辻元清美議員答弁書)。
問九 日本国憲法第九九条の憲法尊重擁護義務により、安倍首相は日本国憲法を尊重し擁護する義務があると考えるが、安倍首相の見解はどうか。
答弁 政府としては、憲法第九十九条は、日本国憲法が最高法規であることにかんがみ、国務大臣その他の公務員は、憲法の規定を遵守するとともに、その完全な実施に努力しなければならない趣旨を定めたものであって、憲法の定める改正手続による憲法改正について検討し、あるいは主張することを禁止する趣旨のものではないと考えている。

尊重するとか擁護するということが「改正するな」という意味なら、第96条の国会が憲法改正の発議をする定めが意味をもたなくなります。
第96条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

もちろん、9条を改正しようとする立場と、改正しないでおこうという立場があります。

『ベルルスコーニの時代』その2

2018年4月16日   岡本全勝

ベルルスコーニの時代』の続きです。

多くの政治家が、自らの勢力拡大と生き残りをかけて、様々な策謀を巡らします。まさに権謀術数の世界です。権力闘争と内部分裂。少数政党が乱立し、合従連衡が繰り返されます。選挙目当ての呉越同舟は、すぐに破綻します。
そして、政治のゲームは、参加者の思ったような筋道では進みません。
一方で、有権者の投票は、意外な結果をもたらします。EC加盟の条件を整えなければならないという外圧も働きました。なかなか実現しなかった、税制改革や財政改革も実現します。平時ではできないことが、危機の時代、混乱の中で実現するのです。
あまりにたくさんの政治家と政党が出てきて、なじみのない日本人が読むのは一苦労です。

同じような近代立憲民主主義、代表制であっても、各国の歴史と国民意識、社会構造によって、その運用は異なっています。
政治が、政治家たちの活躍の場(それは政策実現という建前の世界と、利益や権力の追求という本音の世界を含みます)であるとともに、国民の意識、国民の経済の上に成り立つ、それを反映したものだということを改めて考えさせられます。
政治学の教科書や政治を書いた本、新聞の政治報道は、場を政治家たちの言動に限定していることが多く、国民が出てきても投票結果だけというのが多いです。国民、有権者、社会や文化を視野に入れていないのです。

ところでもう一つの主題である、ベルルスコーニ首相です。不動産業、マスメディアで成功を収め、政界に打って出ます。その過程は、まさに立身出世の成功物語です。
政治家としては、社会の不満を捕まえ、既成政党と政治家を敵に仕立てる。昨今の欧米のポピュリズムの先駆者です。
選挙宣伝と戦略に成功し、一度は政権に就きますが、短命で崩壊します。不正蓄財やマフィアとの関係で、刑事訴追の身ながら、2001年に首相に返り咲きます。
当時、イタリアの労働人口の3分の1は独立自営業者であり、上場企業は240社に対し零細企業が500万社だったことは驚きです。家族経営で働く人たちが、ベルルスコーニを支持します。
ところで、彼のスキャンダラスな言動は、読んでいてあきれます。

村上信一郎著『ベルルスコーニの時代』

2018年4月11日   岡本全勝

村上信一郎著『ベルルスコーニの時代 崩れゆくイタリア政治』(2018年、岩波新書)を読みました。政治、特に西欧民主主義の現在に関心のある方には、お勧めです。
面白いと言ってはお叱りを受けますが、イタリア政治の実態がよくわかります。そしてそれを通して、政治が制度や理論では動いていないことが、よくわかります。複雑怪奇なイタリアの戦後政治を、著者は切れ味良く整理して見せてくれます。
ベルルスコーニの時代と銘打っていますが、それとともにイタリア政治の実情と大変化が主題です。

イタリアは、キリスト教民主党が戦後長く政権にあり、しかし内閣は短命で交代を繰り返していました。また、共産党が大きな勢力を持っていました。それが、1990年代初めに両党がなくなるという、大変化が起きたのです。
私も新聞報道を読んでいましたが、この本を読んで、その背景と過程がよくわかりました。一つは、東西冷戦の終結です。
しかしもっと大きいのは、イタリアの政治と経済を仕切っていたマフィアと秘密結社への戦いが進んだことです。この二つの裏の力には、改めて驚きます。検察と裁判(イタリアでは検察は内閣の下ではなく、この二つが同じ組織に属します)が、暗殺による多数の被害者を出しつつも、切り込みに成功するのです。
戦後長く続いた第一次共和制は、制度と主たる担い手とともに終わるのですが、第二次共和制への移行は混乱を極めます。
この項続く。

麻生政権の仕事ぶり

2018年3月28日   岡本全勝

日経新聞3月25日の風見鶏が「麻生氏不在の存在感」を書いていました。2008年のリーマン・ショック後の経済運営についてです。

・・・麻生氏ら当時の首脳の真剣ぶりを示したのが、日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の創設。リーマン・ショックから2カ月の早さで会議の開催までこぎ着け、結束を新たにした。国際金融の安定を守る国際通貨基金(IMF)の拡充は、日本の音頭でG20会議を舞台に進んだ。
石油危機後の経済を論じるため1975年に日米欧の首脳が集まったことに始まるのがG7の枠組み。G7は共通の価値観をもつ少数のメンバーが集まるのに対し、G20は成長著しい中国やインドも顔をそろえる。「G20会議は出席者が多すぎて言いっ放しになりがち。なかなか議論が深まらない」(国際金融筋)との不満はある。それでも、過去10年でG20はすっかり国際社会に定着した・・・

新聞は往々にして「政局」を追いかけることに熱心ですが、「政策」については関心が少ないことがあります。特に、国際政治や国際金融については、分かる記者も少ないようです。
当時、官邸で麻生総理の近くにいた者として、がっかりしたことを覚えています。
総理官邸ホームページに、いくつか記録が残っています。これは便利です。
麻生内閣」「経済への緊急対応」「主な政策体系