「人生の達人」カテゴリーアーカイブ

幹部の役割、業務の分別

管理職や幹部になると、部下だったときと異なった「仕事」が出てきます。その一つが、たくさんある仕事について優先順位を付けることです。どの仕事から急ぐか。自分でするか部下に任せるか、任せるとしたらどの範囲までか。誰に、どの仕事を任せるかなどです。

部下も、与えられたたくさんの仕事の中で、優先順位をつける必要があります。しかし、それは上司と相談できますし、処理しきれないときは「もう無理です」と言うことができます。

それに対して管理職は、はるかに多くの仕事を部下職員に割り振らなければなりません。それらの仕事の作業量の多さ、難しさ、急ぎの度合いを、判断しなければなりません。単純に急ぎの案件と締め切りまでに余裕がある案件の比較なら簡単ですが、重要度の比較が難しい案件に、順位をつけなければなりません。他方で、各職員の抱えている仕事量や各人の能力を見極めなければなりません。
これは、有能な部下の延長にはない能力です。「鬼軍曹」の失敗は、『明るい公務員講座 管理職のオキテ』でお教えしました。

そのような職場内での検討とともに重要なのが、上司や関係先といった外部との相談と調整です。
職場内での検討が行き詰まったとき、抱えている案件を先送りできるかや、「手付け」「時効中断」(ひとまず未完成で提出し、完成を待ってもらう)で許してもらえるかを、その人たちと交渉しなければなりません。
これが、管理職の重要な役割なのです。
「調子の良い管理職」は外面が良く、幹部や取引先に良い顔をして、たくさんの仕事を引き受けてきて、それを部下に押しつけます。そして部下職員が行き詰まっても、幹部や取引先に掛け合ってくれないのです。

電話が怖いを乗り越える

10月12日の朝日新聞オピニオン欄「電話が怖い」から。

電話に苦手意識を持つ人は、どのような心構えで向き合えばいいのでしょうか? 約15年間コールセンターで働き、電話応対コンクール全国大会で優勝した経験がある「ケーブルテレビ」(本社・栃木市)カスタマーサポート担当課長の三沢教子さんに、会話を円滑にする電話応対術を聞きました。

――電話が怖いと思ったことはありますか?
「当然あります。今もドキドキしながら緊張感を持って対応しています。うまく説明できる自信がないとか、クレームに発展してしまったらどうしようとか。でもそうした不安は、相手に対しての謙虚さの表れでもあると思います」

――どうすれば克服できるでしょうか。
「電話応対の基本技術を身につけることが何よりも大事だと思います。名乗りから始まって、相づちをちゃんと打つこと。私たちは『笑声(えごえ)』と表現していますが、笑顔であることが伝わるような声で話すこと。適切にお礼やおわびを言う、復唱する、寄り添う姿勢を示すこと。これらをしっかり身につければ、相手のトーンや言葉に乗る感情が柔らかくなる瞬間が見えてきます」
「基本技術は自分自身を守る『武器』になります。何のよろいも武器もなく、丸腰の状態で『とりあえず電話を取れ』と戦いに臨まされたら、弾があたって傷つけられ、誰だって『電話が怖い』『逃げたい』と思うでしょう」

――敬語や丁寧な言葉遣いが正しく使えず、電話に苦手意識がある人へのアドバイスは?
「まずは本やインターネットなどで情報収集をして、電話での応対にふさわしい言葉を知っておくことです。また、お客様から『間違った日本語だ』と指摘をいただいたら、それをスルーしないこと。私たちは、それは自分たちがスキルアップするために必要なものだと受け止めています」
「例えば『なるほど』は相手に対して失礼にあたることがある。『勉強になります』『私も同じように思います』が適切ですね」

――急にかかってきた電話だと、用件も、相手が誰かもわからないので不安を感じる、という人への心構えを教えてください。
「相手や用件がわからないからこそ、基本を押さえることが大事です。相手に安心してもらえるようなトーン、笑声で会話をスタートさせることが重要です」
「具体的には、私は電話を受ける前に口角を上げるようにしています。身ぶり手ぶりが伝わらない分、ウェルカムな気持ちを表すために、笑声を崩さずに話します」
「また、実際にわからない内容のことを尋ねられたときのために、わからないなりのフレーズをおぼえておくことです。『間違いがあってはいけませんので担当に確認いたします』など、ポジティブな表現に言い換えましょう」

人工知能で国会答弁作成支援2

人工知能で国会答弁作成支援」の続きです。
人工知能は、答弁作成にも使えそうです。前例通りの答弁を書くのなら。

ただし、人工知能は過去の蓄積を調べる機能であって、頭の「肉体労働」を楽にするけど、新しいことを考えるといった「創造性」はないのでしょうね。過去に類似例のない質問が出たら、どのような答弁案を作ってくれるのでしょうか。その答弁の当否を、職員は判断できるのでしょうか。

次の記事を読むと、勝手に捏造してくれるそうです。しかも、社員・職員が見破ることができないのです。人工知能に頼るようになると、まちがいを見つける能力も育たないでしょう。
人工知能が嘘をつくことも大問題ですが、人工知能に頼ることで職員の能力が向上しないことが、一番の弊害かもしれません。自動運転で車を運転する技術が下手になること、ワープロを使うことで漢字を覚えなくなることなどは大きな問題を生じませんが、職員育成・能力向上については大問題です。

10月8日付け日経新聞「デロイト、AIを使用した報告書に誤り オーストラリア政府に返金」。
・・・コンサル大手デロイトが人工知能(AI)を使用して作成した報告書に複数の誤りが発覚し、顧客のオーストラリア政府に代金の一部を返金したことが分かった。AIの利用が広がるコンサル業界の信頼性に疑問符がつきそうだ。

豪メディアが7日までに報じた。報告書は豪雇用省の依頼を受け、デロイトが約44万豪ドル(約4400万円)の報酬で作成。7月に公表したという。
ところが、報告書を見た地元大学の研究者が誤りを指摘。存在しない学術文献3件が参照されたことになっていたり、裁判所の判決文からの引用として文章が捏造されたりしていた。
豪メディアによると、デロイトは報告書の作成にAIを使用したと認めた・・・

人工知能で国会答弁作成支援

デジタル庁の人工知能の使用実績について発表がありました(8月29日)。
・・・デジタル庁では、本年5月以降、デジタル社会の実現に向けた重点計画(2025年6月13日 閣議決定)に基づき、デジタル庁の内部開発等により構築・展開する政府等におけるAI基盤である「ガバメントAI」に係る取組の一部として、デジタル庁全職員が利用できる生成AI利用環境(プロジェクト名:源内(げんない))を内製開発で構築しました。また、源内で国会答弁検索AIや法制度調査支援AIなど、行政実務を支援する複数のアプリケーションを提供することで、行政の現場での利用状況や課題を把握する検証を進めてきました。
このたび、源内の利用を開始してから3か月が経過したことを受け、デジタル庁職員による生成AIの利用実績を公表します・・・

これについて、9月30日の時事通信社「iJAMP」が解説していました「答弁準備もAI時代=デジ庁AI「源内」」。
・・・職員への利用アンケート結果によると、利用頻度では「週に数回」との回答が44.5%で最も多く、「毎日」も28.1%でした。業務効率化への寄与度については、「ある程度」が57.3%、「非常に」が21.8%で、全体の約8割が「寄与している」と答えました。
実際に利用した職員からは肯定的な反応が多かったようです。「行政文書を読む・整理する手間の省力化につながった」「情報検索に役立つ。さまざまな視点で気づきを与えてくれる」「システム情報を調べる際に役に立っている。マニュアルを確認する場合に比べて1回当たり30分、1時間の作業時間を削減できている」といった声が寄せられています。
国会答弁の準備作業での効果も目立ちました。これまでは、膨大な過去答弁や法令を人手で調べていましたが、国会答弁検索AIは、想定質問を入力すると過去の政府答弁を関連性の高い順に示し、URLや審議日時も併せて表示。短時間で関連資料を抽出し整理できるため、準備時間が大幅に短縮されました。法制度調査でも、複雑な条文や関連する通知をAIが要約し、以前より短時間で全体像を把握できたといいます・・・

この記述では、国会答弁作成そのものでなく、過去の答弁を調べるのに使っているようです。その作業に使うのなら、人工知能は得意です。職員は楽になります。しかし、上司が「あれもこれも、さまざまな答弁を調べよ」と指示すると、楽にはなりません。この項続く。

知能指数は能力の高さを表さない

東京大学出版会の宣伝誌『UP』6月号から、高岡佑壮・東京認知行動療法センター臨床心理士の「知能検査を受ける前に」が連載されています。主旨は、「知能検査で「能力」は調べられない」です。

小学校で受けた知能検査。知能指数が高いと、頭が良いと喜びました。でも、あまり勉強ができないA君の数値が高く、なぜだろうと思いました。その後、見聞きすることがなくなりました。
この論考は、知能検査の内容と限界を、わかりやすく説明しています。職場での「能力」を考えるにも、参考になります。偏差値が高い大学を出ているのに、仕事ができない職員がいるとか。詳しくは原文を読んでいただくとして、私なりの理解を書いておきます。

・知能検査では、人の能力は正確には調べられない。仕事や勉強などの「生活の中でのいろいろな課題」をこなす能力の高さは、知能検査では調べられない。
・検査で出される問題はクイズと同じで、やるべきことは一つひとつはっきりと指示されている。しかし仕事や勉強のような生活の中での課題は、やるべきことを細かく指示してもらえることはない。段取りなどは、自分で考えなければならない。
・会議で発言する場合も、知識だけでなく、周りの人との関係を考えなければならない。能力は、経験や健康状態、人間関係などさまざまな要素によって成り立っている。
・能力は、本人の中にあるものだけでなく、環境との関係で結果的にできる(家庭や学校、社会など、恵まれた環境とそうでない環境がある)。

・知能指数は4つの指標から構成されている。言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度。
・例えば、言語理解の場合。検査では「これについて話してください」と指示されるが、実生活ではそうではない。例えば中学生が「周りの生徒たちと意見を出し合って何かを決める」場合、誰かがいちいち「次は○○くんが△△について話してください」という指示を出さない。雑然とした雰囲気の中で話し合いが進む。そこでは「他の人が話しているときは、それをさえぎらない」「自分が話すときは、周りの人が聞いているか見る」「緊張しすぎないように、感情を安定させておく」などなどが必要です。しかし知能検査は、これらの要素を調べていません。
・知覚推理の場合は、検査では「何を見て答えを推測するか」が、一つひとつはっきりと指示されている。しかし生活の中では、「何を見るべきか」を教えてくれない。「会社の中にある散らかった部屋に初めて入って片付けをする」という仕事は、知識に頼れず推測しなければならない。どの順番でやるか、書類や荷物をどのように分類するか、箱に入れるのかロッカーに入れるのか、捨てるか保存するかは誰に相談するか、誰に相談すればよいのかなどを、考えなければならない(この説明は、職場によく当てはまります。納得します。いくら学力が高くても、新人では処理できません。経験が必要なのです。『明るい公務員講座』では、一人で悩まず、周囲に相談せよと助言しました)。