12月26日の日経新聞夕刊「私のリーダー論」は、栗田暢之・レスキューストックヤード代表理事の「理念との整合、常に振り返り」でした。
・・・阪神大震災が起きた1995年は全国から130万人が支援に集まり「ボランティア元年」と呼ばれた。名古屋市を拠点とするNPO法人「レスキューストックヤード(RSY)」代表理事、栗田暢之氏は30年にわたって被災者支援を続けてきた。組織のリーダーとして「一人ひとりと向き合う」という活動の理念をぶれずに貫くことを大事にする・・・
――災害救援を担うNPOのトップとしてどんなリーダーシップを大事にしていますか。
「リーダーと言えば周囲を引っ張るタイプと思われるかもしれません。私にも『自分がやってやるぞ』という面はあります。でも、一人ができることには限界があるじゃないですか。スタッフをどれだけ信じられるかがリーダーにとって大事だと思います」
「私たちは営利を目的とするわけではなく、災害からの復興を助け、避難生活に伴う災害関連死を無くし、人の命と暮らしを守ることを実現していく団体です。仕事を数値で評価するのは難しく、正解がありません。どんな手法で活動を進めていくか、スタッフそれぞれが考えることが重要で、『リーダーについてこい』という発想はありません」
――活動を進めていくうえで、リーダーの役割をどう捉えていますか。
「ぶれない理念を示すこと。それが役割だと思っています。何のために自分たちがNPOとして活動しているのか。目指すべき大きなビジョン、果たすべきミッションを示します。それに整合した活動になっているかどうかは常に見極めます」
「スタッフが担当する事業はうまく進むときも進まないときもありますが、信頼して任せることが必要です。細かいところまで全てトップに言われたら、煩わしいですよね」
――大事にしているミッションとはどんなものでしょうか。
「一人ひとりと向き合うことです。例えば東日本大震災で故郷から遠方に避難している家族にアンケートを取っても、世帯ごとの回答しか得られません。実際は父親は故郷に帰りたい、母親は帰りたくないというケースがあります。当時は幼かった子どもたちも年とともに自分の意思を持ちます。生の声に耳を傾け、大事にするというミッションは阪神大震災の頃からずっと譲れません」
――被災者支援の難しさをどう感じていますか。
「災害はその規模や地域性によっても状況はさまざまです。足りない物資を届けることは分かりやすいですが、『何から手をつければいいのか分からない』『何だか気が晴れない』といった人の心の部分を扱うわけですから、支援を求めるニーズすらはっきりしない『グレー』な状況と向き合うことになります。個々の状況にたどり着かなければ上辺だけの支援になってしまいます。だからこそ一人ひとりの声を聞きます」
「災害救援のプロフェッショナルと言ってもらうこともありますが、自分たち自身は毎回必死にやっているだけです。被災者の支援、災害からの復興は本当に難しく、『私たちはプロです』などと言うのは慢心です」