「行政」カテゴリーアーカイブ

行政

組織能力

平野雅章『IT投資で伸びる会社、沈む会社』(2007年、日本経済新聞社)が面白く、勉強になりました。先生の主張は先日、日経新聞経済教室を紹介しました。その元となっているのが、この本です。
IT投資で成果を出すにはどうしたらいいかが、この本のテーマです。組織能力のない会社がIT投資をしても、成果が上がらないことを実証しておられます。能力のない会社が最先端の生産設備を入れても、使いこなせないのと同じ、という説明には納得します。IT投資をすれば組織能力が上がるという考えも、間違いだそうです。素人がスーパーカーを運転すると事故を起こすのと同じです。
「手続きを変えることなくIT化してもダメ」と、はっきり書いてあります。行政機構でのIT化の失敗を観た私としては、もう少し早くこの本を読んでおればと、思いました。もっとも、失敗しているから、この本を読んで納得したのですが。
もう一つは、職員の能力と組織の能力は別であり、いくら職員研修をしても組織の能力は上がらないという指摘です。相撲の団体戦は各選手の力を強化すれば勝てますが、サッカーは各選手の連携を強化しないと強くなれないのです。私は、組織能力は、漠然と組織の伝統だと思っていました。でも、この本に指摘してあるように、まだできて新しい会社でも組織の能力が高いか低いかがあるのですから、「伝統」と片付けるのは間違いですね。
その他、組織の管理者として、納得することが多かったです。すごく、触発されました。

地域の経営

22日の朝日新聞「列島発」は、島根県隠岐諸島の海士町を取り上げていました。町長が率先し、若手職員や職員組合も同調し、大幅な給料カットをしました。町長は50%、職員は最大30%、議員は40%削減です。給与水準は国家公務員を100として、72まで下がりました。ここまでは行革です。海士町はその財源を、産業振興や移住者受け入れに使い、2,400人の町に4年間で130人の移住者を呼び込みました。

金融庁の10年・行政のあり方の変化

金融庁の前身である金融監督庁が発足してから10年になるので、各紙が金融庁の業績を取り上げています。20日の朝日新聞は、「こわもて金融庁、転機」で大きく取り扱っています。
当初は不良債権処理に腕をふるい、20以上あった大手銀行は6グループに集約されました。日本の行政のあり方としても、それ以前の護送船団行政からの大転換の代表例でした。もちろん、日本経済と国際金融市場の大変化が、その背景にあります。
次にその延長として、銀行保護から預金者・投資家保護に重点を移しました。これもまた、日本の行政のあり方の大転換の現れです。この流れは、現在進められている消費者庁構想に続きます。この観点からは、今の金融庁は、金融機関(業界)育成と消費者保護という、相反する行政を行っています。
この間、国家公務員総定数は削減されていますが、金融庁の定数は400人から1,200人へと3倍になっています。極めて珍しい例です。機動的に定員を配置したのです。また、事前調整型行政では公務員は少なくてすみますが、事後チェック型になると検査員が大幅に必要になることがあるのです。

メンバーの能力と組織の能力

19日の日経新聞経済教室は平野雅章教授の「企業の人的投資、組織の能力が成果を左右」でした。教授の主張は原文を読んでいただくとして、私が納得したのは、次のような部分です。
「組織の優秀性は、組織メンバーの能力とは別物である。何となれば、メンバーが入れ替わっても、組織の能力は変わらないから。組織の能力は、メンバーの資質と組織の優秀さによる。」
この主張には、目から鱗が落ちるですね。いくら優秀な職員をそろえても、あるいは育てても、組織の能力が変わらないことは、多くの管理者が経験済みです。
私の研究フィールドでは、官僚機構の問題が、一部これに該当します。優秀な職員をそろえながら、官僚機構のアウトプットは上がらない。それは、組織に問題があるのです。
民間でも、過去に効果的だった仕組みと人が、新しい環境では機能不全になることがあります。しかし、過去の伝統で育った管理職は、それを変えようとしません。メンバーも、時代遅れの組織原理に染まっています。ここに、メンバーと組織の伝統・エトスは同調します。
このページで書いた「組織のガバナンス」「民間ベストプラクティス」などが、改革への道しるべだと、私は考えています。これについては、別途、議論をまとめようと考えています。

都市的集積

先に、定住自立圏構想の紹介をしましたが、忘れていたことを書きます。大きなデパートや病院は、一定の人口が必要です。では、どの程度の人口があれば、そのような施設は成り立つか。それぞれ地理的・歴史的条件が違いますから、なかなか標準化は難しいです。山間部・離島では条件が違います。大都市の近辺だと、これまた大都市の影響を受けます。最も簡単な試算は、いま全国にあるそのような施設の数で、全国の人口を割ってみるのです。すると、単純な平均が出ます。定住自立圏の研究会では、そのような試算もしています。
第4回研究会の配付資料「定住自立圏域のあり方とイメージ」のp2です。これによると、新幹線の駅は300万人の後背人口が必要です。高速道路のインターチェンジは9万人。デパートは38万人、映画館は18万人。うーん、インターの数より映画館の方が少ないのか。スーパーは1万5千人です。塾は2千人あれば良く、飲み屋は400人あれば成り立つようです。結構面白いですよ。もちろん、単純平均値ですが。ご覧ください。