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経済

世界の金融決済を支える仕組み

10月29日から大阪で、金融業界で世界最大規模の国際会議「Sibos(サイボス)」が開かれています。主催者は、国際銀行間通信協会(SWIFT、スイフト、Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)です。
世界各国の金融機関の決済を行う通信網を、運営している組織だそうです。200か国、1万を超える金融機関が使っていて、1日あたり1,500万件の送金をしているそうです。本部はベルギー、幹部はオランダ人のようです。利用者は、イギリスとアメリカがダントツです。もっとも、国内取引に利用している国もあり、日本のように国内取引は別のシステムを使っている国とは状況が違います。
ここで取り上げたのは、これが純粋に民間の仕組みということです。この決済システム(正確にはそれを運んでいる通信システム)がなければ、現在の国際金融は成り立ちません。あるいは、危険きわまりないでしょう。民間が提供する「国際公共財」「国際的共通資本」です。

フランスの売り上げを支える日本人

9月22日の朝日新聞経済欄に、フランスの高級食材店フォションの最高経営責任者のインタビューが載っていました。
日本では高島屋百貨店などで売っています。日本での売り上げは年間約99億円、世界での売り上げの56%だそうです。
へ~。半分以上が日本とは。ルイヴィトンの売り上げの多くが、日本人だと聞いたことがあります。
日本人って、フランスが好きなんですよね。かくいう私も、若い頃にパリで、フォションの紅茶を買ってきました。あの金色の缶です。
かつて三越や高島屋では、イギリスフェアやフランスフェアが定番でした。次にイタリアフェアになりました。日本人のあこがれでしたが、日本も豊かになり、海外旅行も珍しくなくなって、最近はかつてほどの輝きがないです。
それでも、日本人が買っているのですね。次は、中国人が買うのでしょう。
日本が考えなければならないこと。それは、日本のおいしい食品や産物を、成長著しいアジア諸国に売り込むことです。日本の果物は、結構高い評価を得ています。日本ブランドで、もっと売りましょう。そして、国内より国外での売り上げが多いというように、なりませんかね。

学者の見立てと経営者の主張と

7月23日の日経新聞に「技術交流の盛んな日本を始めよう」が載っていました。そこで、田中陽・編集委員が、次のようなことを書いておられます。
・・
今から15年ほど前、ハーバード・ビジネススクールが、「味の素」の経営をケーススタディーとして取り上げたことがあります。主力の調味料に始まり甘味料、加工食品、飼料用アミノ酸、医薬品など多岐にわたる事業領域の是非について、ビジネスエリートたちが下した結論は「選択と集中。多くの事業から撤退すべき」というものでした。味の素の幹部もこの議論に参加し、多彩な事業展開の必要性を説明しましたが、彼らを納得させることはできなかったそうです・・
その後、味の素の事業領域は香粧品、電子材料なども加わり、さらに拡大しています。その大半は同社の中核であるアミノ酸やバイオ技術に裏打ちされた事業であり、それぞれが切っても切れない関係にあります。そこで培われた長年のR&D(研究・開発)の蓄積が今、さらに多様な分野でいかされようとしています。株式時価総額も15年前の6400億円が現在は7500億円まで増えました。あの時、ビジネスエリートたちの言うことに従っていたら、新しい価値を生み出すベンチャー精神の芽も摘み取られてしまっていたことでしょう・・

所有者規制か運営規制か

7月30日から8月3日まで、日経新聞夕刊「人間発見」は、山口洋さんでした。山口さんが社長を務める(株)JPホールディングスは、保育を主たる事業とする会社で、ジャパンポスト(日本郵政)ではありません。保育所など160施設を運営しています。
かつて保育園は、市町村の直営か社会福祉法人だけに限られていました。2000年に規制緩和され、株式会社も保育所を運営できるようになりました。もっとも、「慣習」の壁は厚く、2万3千ある保育所のうち、株式会社の運営するものは、まだ1%だそうです。
・・「うちは株式会社をお断りしています」。保育所を開設しようと自治体の担当窓口を訪ねても、そう言われることがいまだにあります・・「利益優先でコストを削り、保育の質が悪くなる」と真顔で力説する方もいます。冷静に考えれば、矛盾に満ちた主張です。認可を得るには保育士の人数などいくつもの基準順守が求められます。誰が運営しようと質は守られる仕組みです・・
・・保育は通常夕方までですが、残業などで遅くなる保護者のために、夜8~9時まで延長保育をしています。子どもはおなかがすきますので、夕食を出していました。すると、ある自治体の担当者から、注文が付きました。「食事ではなく、おやつ程度にしてください」。夕食は親と食卓で囲むもの。保育所で食べてしまうと、その機会が失われるという理由です。
でも、ひもじいも思いをさせては、かわいそうです。そう詰め寄ると、本音を明かしました。地域の他の保育所は延長保育でもおやつ程度しか出しておらず、うちだけが夕食を出すと、その園に保護者から苦情が出る恐れがあるというのです・・行政も事業者も、どこを向いて保育をしているのかと姿勢を疑いました・・

いろんなところに、「消費者ではなく、内輪を向いたムラ」があります。ムラをなくす一つの手法が、競争です。そのために、規制緩和をして参入をしやすくします。もちろん、守るべき基準を定め、厳しく監視する必要があります。
話が広がりますが、かつて空港などの運営主体を緩和する際に、所有者が問題になりました。昔は、公共空港は国か自治体の直営でしたが、株式会社も可能にしました。中部国際空港や関西国際空港がそれです。さらなる規制緩和を議論した際に、「その会社を、外資が買ったらどうするか」が議論になりました。
空港に限らず、電力やガス、通信などの公共インフラを運営する会社の株が外国資本に買われ、経営を支配されては困る事態が出ることも予想されます。その際の議論は、誰が所有してもサービスの提供を義務づけること(運営規制)と、どうしても外資を排除するならば株式の一定割合を国またはそれに準ずる者が保有すること(所有者規制)の二つがあるということでした。

国内で満足し海外に攻めなかった製造業

6月15日日経新聞「迫真。テレビなぜ負けた」の第4回は「これでシャープに勝てる」でした。
シャープ亀山工場の建設が始まったのが、2002年。液晶パネルからテレビまでを一貫生産する、世界初の垂直統合型工場を造りました。最先端技術をブラックボックスに閉じ込め、韓国、台湾勢の追随を許さない戦略です。
しかしその頃、韓国サムスン電子は、全く違ったことを考えていました。「これでシャープに勝てるかもしれない」。この時、サムスンが恐れたのは、シャープが液晶テレビの海外生産に乗り出すことでした。しかし、海外に進出することはありませんでした。それは、パナソニック、キャノン、ホンダも同じで、国内で大型投資に踏み切っていました。
「日本のものづくりは強い」と自信を持ち、1ドル=100~113円の円安にも助けられ、ミニバブルに酔っていたようです。モーニング娘。が「日本の未来は、世界がうらやむ」と歌っていたのが、1999年でした。
また、日経新聞電子版、西條都夫編集委員の「内なる顧客とともに沈んだ日の丸半導体」(6月13日配信)は、日本企業の内向き体質が顕著になったのは、1990年前後のバブル期だと指摘しています。
日本の半導体製造業は強かったのですが、一方、半導体を購入する市場規模でも世界の40%を占めていました。半導体メーカーは、国内のお客に食い込んでおれば良かったのです。しかし、半導体のユーザーである日本の家電メーカーが弱くなると、日本の半導体メーカーは弱くなり、韓国や台湾企業に負けるようになりました。
つい数年前まで「日本のものづくりは世界一」と言われていたのですが、あっという間の変化です。日本のメーカーが変わったから、ではありません。変わらなかった、世界の動きについて行けなかったから、後れを取ったのです。
かつて「日本の官僚と行政は世界一」と言われていたのが、1990年代以降、大きく評価を下げました。これも、日本の官僚と行政が変わったからではなく、社会が変わっているのに、行政が変わらなかったからだと、「行政構造改革」で論じました(連載は、途中で中断したままです。反省)。
でも、悲観することはありません。いろんな製品や分野で、世界のトップグループにいます。欠点がわかったのですから、それを見直して、努力すればよいのです。