カテゴリー別アーカイブ: 経済

経済

ブランドを守る

1月28日の日経新聞「経営の視点、ブランドを死守したネスレ」から。
・・数年前、ネスレ日本は、イオンと大げんかした。イオンがプライベートブランド(PB=自主企画)で、ネスレのチョコレート菓子「キットカット」に似た商品を発売し、大量に陳列した。しかもその横に本物のキットカットをわずかな量だけ並べていたのだ。
ネスレ側は、この「仕打ち」に激怒。イオンは売上高の約10%を占める最大の販売先だったが、一切の販促費を止めた。イオンにおけるキットカットの販売は減少。ネスレ日本の売り上げも落ち込んだが、平然とこう言い放った。「キットカットは中身をPBと入れ替えたとしても、必ず売れる」。その価値がわかっていないことへの抗議だった。
「本物ブランドは味と品質に優れるだけでなく、消費者の感情に入り込んでいる」とネスレ日本の高岡浩三社長は話す。グローバル成長には世界共通のメガブランド商品が不可欠。それを育てるには時に販売減のリスクを冒してでも、ブランド価値を守るこだわりが必要というわけだ・・
日本企業が、アジアで日本製品をまねた偽物や類似品に困っていますが・・・

日本の技術の実力

日経新聞1月26日朝刊「アルジェリア人質事件」の記事によれば、世界の液化天然ガス(LNG)の製造設備は、日揮と千代田化工建設の日本の2社を含め、4社で世界の8割を占めているとのことです。
同じく「温水洗浄便座の開発」の記事では、発売以来30年で、7割の家庭で使われているとのことです。あのウオッシュレットの中に、160個の部品が詰まっています。

市場が公正に運用されるための、政府の役割と倫理

11月28日の朝日新聞オピニオン欄「市場と政府と中央銀行」、ポール・ボルカー元アメリカ連邦準備制度理事会議長の発言から。
銀行から、投機的な活動を分離しようとしたボルカー・ルールが、まだ実施されていないことについて。
・・「(銀行が収益拡大のために自己資金で行う)自己勘定取引そのものが危険なものだ。それだけで金融危機が起きたわけではないが、危機の原因の一つだ。銀行は重要な公共サービスを行っているがゆえに世界中どこでも保護されている。規制されていると同時に、政府の安全網(セーフティーネット)の中に入っており、支援も受けている。
なので、本質的にはギャンブルである投機的な活動までも保護することは不適切だと考える。本来の銀行業務は、政府のセーフティーネットに入れつつ、投機的な業務はその外に置く。「機能を分けましょう」ということを言っている・・

ボルカー・ルールによって金融がリスクをとれなくなり、経済にマイナスの影響を与えないかという問に対して。
・・全くそうは思わない。これは、銀行の本来の業務とは何かという文化的、哲学的な問題と関連する。銀行は貸し出しを通じてリスクを取り、それによって社会に便益をもたらし、経済は成長する。だから銀行は政府から保護される。だが、投機が経済に重要なプラスの効果をもたらすと私は考えない。投機は続けていい。だが、それは銀行システムの外で行うことであり、政府の支援を受けるに値する活動ではない・・

銀行幹部の報酬が多すぎる状況を改善する方法について。
・・難しい問題だ。一昔前には、銀行界のみならず、法律家や会計士などにも、資産を預かっている顧客に対する責任や配慮、今とは異なる倫理観があったが、その復活に期待するのは夢なのだろうか・・簡単な答えはないが、報酬の問題はそうした倫理規範と深く結びついていると思う。大きな報酬をもらえるとなれば、倫理からはずれる誘惑も大きくなる・・

政府と市場の関係について。
・・私の考え方はやや古風なものだ。我々は、資本主義経済、競争がしっかりある状態を望んでいる。一方、政府には市場が公平に運営され、競争が確保されているか監督する役目がある。これはバランスの問題でもある。金融市場は、規制が少なすぎる状態になったが、過剰な規制もよくない。振り子のように振れる問題ではあるが、できる限り「中庸の道」を歩むべきだと思う・・

海外からの観光客を呼び込む

これまた古くなりましたが、10月28日の日経新聞「創論」の「観光立国実現の道は」から。
田川博己・JTB社長の発言
「2003年に小泉純一郎首相が『ビジット・ジャパン』と銘打って観光立国を目指す方針を明確に示しました。約10年が経過してどのように評価していますか」という問に対して。
・・確かに2003年に521万人だった海外からの旅行者は、ピークの2010年には861万人にまで増えた。しかし、世界各国・地域の外国人訪問者数ランキングでは30位にとどまっている。これは03年当時とほとんど変わっていない。世界第3位の経済規模の日本でいながらこの順位の低さの原因を考えていかなくてはならないだろう。第1位のフランスを訪れる外国人は7,680万人だ
この間に日本各地の交通機関や案内板などの表示で中国語やハングルをよく見かけるようになり環境整備も進んではいる。しかし海外で(メニューなどを除き)日本語表示は見かけるわけではない。もっと取り組むべき大切なことがあるはずだ・・
「外国人旅行者が日本に滞在している間について取り組むべき所はありませんか」という問に対して。
・・訪日外国人旅行者を保護するインバウンド法(仮称)の制定を強く求めたい。日本人が日本の旅行会社を使って海外旅行をした場合、旅行業法によって幅広く旅行者のトラブルなどを補償することになっている。日本人を保護するための厳しい法律があるのに、日本を訪れている外国人旅行者を保護する法律がないのはおかしい・・
石塚邦雄・三越伊勢丹ホールディングス会長の発言。
・・中国や韓国などアジアからの観光客の来日目的を聞くと上位に買い物(ショッピング)がくることが多い。旺盛な消費意欲にこたえなくてはいけない。百貨店での海外旅行者の買い物金額は約400億円で全体の1%にも満たない。フランスの著名百貨店では50%近いという。買い物の利便性を高める必要がある
販売員と言葉が通じないという指摘はよく聞く。免税の対象商品の幅も狭く、化粧品は対象外だ。中国や韓国では日本の化粧品の人気が圧倒的に高く、免税対象となればもっと買っていただけるはずだ
一般的に家電製品などの免税手続きも煩雑で、利用者に迷惑をかけてしまうこともある。小売店側もその処理に手間暇がかかっている。三越や伊勢丹の主力店舗ではコンピューターによる免税手続きのシステムを採用した。これだけ電子化が進んでいる時代にもかかわらず、国内では商品名や金額などを手書きで記入する伝票がいまだに存在する。手続き中にイライラが募った買い物客が返金を待たずに立ち去ることもある・・
これまで日本は、海外に出て行く(観光に行く)ことは考えていましたが、アジアの人を呼び込む努力は少なかったようです。

経済学の「間違い」

佐伯啓思著『経済学の犯罪―稀少性の経済から過剰性の経済へ』(2012年、講談社現代新書)を読みました。「犯罪」とはいささかショッキングな表題ですが、副題の「稀少性の経済から過剰性の経済」にひかれて読みました。
モノあまり、カネあまりといわれる現在、モノが足りないことを前提とした経済学の有効性が低下しています。日銀がいくら通貨を供給して低金利にしても、企業は金を借りてくれません。ケインズ経済学では、政府が需要を創出して、景気を回復させます。一度は「ケインズは死んだ」と言われましたが、リーマン・ショック対策には、効果を発揮しました。しかし、個人の需要と企業の投資は、史上初の低金利政策にもかかわらず、回復しません。
佐伯先生の見立ては、これまでの経済学は、需要はいくらでも発生するという前提に立っていた。これが間違いである、というものです。そして、供給の規制を撤廃し自由競争を導入すれば供給が伸びるという、新自由主義経済学を批判されます。
さらに、市場経済の基本命題=「自由な競争市場こそは効率的な資源配分を実現し、可能な限り人々の物的幸福を増大することができる」を批判されます。この命題が成り立つための前提が、間違っているのです。この点は、多くの人が指摘しています。
新書なので読みやすいですが、いろんなことを考えさせる本です。ここでは、ごくごく一部しか紹介できません。
私は読みながら、次のようなことを考えました。

すなわち、「経済学」は2つある。その一つは、国民の生活を向上させようとする、政策の学問です。もう一つは、いくつかの条件を設定して、経済の動きをモデルにしようとするものです。前者は政策であり、後者は理論です。そして、近代経済学が理論の精緻さを追うばかりに、現実とは離れた前提をおいたことが、2つを分かってしまいました。
特に、自由主義経済学、市場原理主義です。この考え方は、国家は市場に介入しない方が良い、と主張します(極端に表現してあります)。しかし、現在の日本の政治でも、アメリカの大統領選挙でも、最大のテーマは経済であり、政府(中央銀行を含めて)が何をすべきかが、争点になっています。そして、各国とも、産業政策に力を入れています。さらに、国内経済だけでなく、世界貿易や国際金融についても、政府の役割が大きいです。
経済の自由主義は、放っておけば効率よく動くものではなく、政府が管理しなければならないものです。レッセ・フェールでなく、「管理された自由経済」(少し矛盾していますが)です(例えば、戦後の「管理された自由な国際貿易」について、ラギー著『平和を勝ち取る―アメリカはどのように戦後秩序を築いたか』(邦訳2009年、岩波書店)第2章、第5章)。
なぜ、ここにおいて、自由主義経済学の理論が成り立たないか。それは、簡単には、次のような理由だと思います。
・個人や各企業の間に、持っているものと能力に大きな差があること。決して、平等な競争ではありません。スタートにおいて、差があるのです。
・それは、世界の各国の間にもあります。1人あたりGDPに大きな差があり、競争力にも大きな差があります。教育程度やインフラの差は、能力に大きな差を生みます。
・産業と経済は、止まっていません。絶えず動き発展しています。遅れてきた者・貧しい者は、進んでいる者に追いつき追い越そうとしています。先を行く者は、次なることを考えます。世界は常に動いているのです。理論経済学は、このあたりを過小に見ています。
このテーマは、こんなホームページの記述では説明しきれない大きなものなので、この程度で止めておきます。ただし、私は規制改革・構造改革には、意義があると考えています。それは、古い時代に適合した仕組みを変え、時代遅れになった既得権を壊すために、必要な手順であり哲学です。