カテゴリーアーカイブ:経済

市場と国家、政策の設計と意図せざる効果

2014年2月15日   岡本全勝

最近話題になった、2つの政策を取り上げます。ある政策目的のために、民間の活動を誘導するべく制度を設計したのですが、意図とは違った結果も生んだ例です。
一つは、病床に関する診療報酬です。2月7日の朝日新聞は、「重症向け急性期病床4分の1削減へ 医療費抑制で転換」という見出しで、次のように伝えています。
・・症状が重く手厚い看護が必要な入院患者向けのベッド(急性期病床)について、厚生労働省は、全体の4分の1にあたる約9万床を2015年度末までに減らす方針を固めた。高い報酬が払われる急性期病床が増えすぎて医療費の膨張につながったため、抑制方針に転換する。4月の診療報酬改定で報酬の算定要件を厳しくする。
全国に約36万床ある急性期病床の削減は、診療報酬改定の目玉のひとつ。実際は急性期ではない患者が入院を続けるケースも目立ち、医療費の無駄遣いと指摘されてきた。急性期病床以外での看護師不足も招き、「診療報酬による政策誘導の失敗」といった批判も強まっていた・・
・・7対1病床は、高度医療を充実させるため2006年度に導入された。入院基本料は患者1人につき1日1万5660円。慢性期向け病床(患者15人あたり看護師1人)の1・6倍だ。全国の病院が収入増をねらって整備を進め、導入時の8倍の約36万床にまで増えた。一般的な病床の4割を占める。厚労省の想定を大きく上回る規模に膨らみ、この部分にかかる医療費は年間1兆数千億円とされる・・
これは、「7対1入院基本料」という制度です。入院患者7人当たり看護師1人という手厚い配置をすると、病院に高い報酬が支払われる算定方式です。急性期の高度医療を充実させるために、誘導策として導入されたのですが、当初の意図を超えて、必要以上に増えすぎたと批判されています。
2006年の4万床が、36万床にまで一気に増えたのですから、誘導策としては高い効果があったのでしょう。ありすぎたのかもしれません。しかし、軽症患者も入院するほか、看護師の争奪戦が起きて、看護師不足を招く一因になったという批判もあります(2月13日付読売新聞「医療費抑制へ、脱・大病院志向」)。

もう一つは、太陽光発電など再生可能エネルギーの普及策です。2月15日の日経新聞は「太陽光、発電しない672件の認定取り消しへ、経産省」という見出しで、次のように伝えています。
・・経済産業省は14日、再生エネでつくった電気を一定の価格で買い取る制度で、国の認定後も発電を始めようとしない672件の認定を取り消す検討に入った。発電に必要な太陽光パネルの値下がりを待って不当な利益を得ようとする事業者が多いためだ。
2012年に始まった買い取り制度は、太陽光や風力など5種類の再エネでつくった電気を一定価格で買い取ることを電力会社に義務づけている。太陽光は初年度に1キロワット時あたり40円(税抜き)という有利な価格が付き、参入が相次いだ。
この制度で電力会社に電気を買い取ってもらうには、事前に発電計画を提出して国の認定を受ける必要がある。認定さえ受けておけば、いつ発電を始めても20年間は40円で電気を買い取ってもらえる。太陽光パネルなどは急速に値下がりが進んでいるため、発電開始を遅らせればパネル価格の下落分だけ事業者の利益が膨らむ。
14日発表した調査結果によると、2012年度に認定を受けながら発電を始めていないなどの問題がある事業は738万キロワット分(1643件)。認定を受けた事業全体の発電容量の半分近くになった。
買い取り制度では、電力会社が電気料金に再生エネの買い取り費用を上乗せする。発電事業者の不当な利益を許せば、再生エネ普及という目的を達成できないまま、国民負担だけが膨らむ・・
これは、「認定後何年以内に事業を開始すること」とか「成果を事後評価し、一定基準を満たさない場合は、助成を取り消す」というような仕組みを組み込んでおけば、防げたのではないでしょうか。

葬式代

2014年2月5日   岡本全勝

1月16日(すみません、古くなって)の朝日新聞オピニオン欄「葬式代、どうします?」から
ある調査によると、日本の葬儀の90%は仏教式です、費用の平均は、葬儀一式が127万円、別途お寺へのお布施が51万円、飲食接待費が46万円だそうです。
「寺は比較的新しい。自前のホールと祭壇を持ち、葬祭業者を介さない葬式を提案している。檀家は約700軒。情報公開を進め、1970年代後半から毎年、檀家に決算書を配っている。お葬式でのお布施の平均額は約26万円だ。1件ずつの内訳をまとめた一覧表がある。それを示しながら住職が語るには・・」
・・ほら、お布施が4万円や5万円の方もいらっしゃるでしょう。ああ、この3万円は生活保護のお宅でしたね。事情によっては、お布施は受け取りません。昨年は約80件のお葬式にかかわりましたが、3件はお布施ゼロです。それどころか、寺の持ち出しもあります。ここに赤い字で「13万8千円」と書いているのは、この寺が棺などの実費を払ったという意味です。亡くなったのは60代で独り暮らしの方。手元には1万円しか残っていませんでした・・
・・例えば親を長く介護していると医療費などが非常にかさみます。その末に、いよいよ最期のお葬式に100万円も200万円もかけるなんて、とてもじゃないけど無理ですよ。「もうお葬式をする費用がないけど」という方の相談にも乗っています・・
・・30~40年前までこの地域は寺も檀家も、みんな貧乏でした。私の母だって借金に走っていました。それでもお葬式となると地域の人たちが3日間、ずっと煮炊きをして食事を用意していた。地域コミュニティーは冠婚葬祭でつながっていた側面があります。しかし、高度経済成長期からお葬式はどんどん大きくなっていく。会葬者が千人規模というケースもあり、まるで家の権威を周囲に見せるためのようでした。バブル期は寺の再建ラッシュで、檀家は何十万円もの寄付を平気で出してくれました。その時期、お布施は全国的に一気に上がった。いまもその流れを断ち切れずにいるわけです・・

政府が企業に賃上げを要請すること

2014年2月1日   岡本全勝

1月26日の日経新聞「日曜に考える」「ベアは広がるか」、早川英男さん(富士通総研エグゼクティブ・フェロー)の発言から。
「政府の賃上げ要請をどう受け止めていますか」との問に。
・・賃上げは労使の交渉に委ねるのが原則で、政府の要請は本来好ましいことではない。だがデフレ均衡から抜け出すには、だれかが背中を押す必要がある。今回に限ってはあってしかるべきだ。
第2次石油危機のさなかにあった1980年には官民の連携で賃上げを抑制した。第1次石油危機後の大幅な賃上げがインフレを悪化させたという反省からだ。おかげで不況もインフレもそれほどひどくならずにすんだ。今回は逆のケースと言える・・
「継続的な賃上げに必要な条件は何ですか」
・・何よりも企業が生産性を高め、付加価値を増やさなければならない。コストの削減だけに目を向けるのではなく、魅力的なモノやサービスを提供していく必要がある。その努力を支えるような政府の成長戦略も欠かせない・・
・・だが持続的な賃上げのカギを握るのは第3の矢の成長戦略だろう。特定の分野に企業を誘導する「ターゲティング・ポリシー」ではなく、企業が自由に動ける環境づくりこそが政府の役割だ・・

日本の生活文化を売り込む

2014年1月12日   岡本全勝

先日も、日本の生活文化を海外に売り込むための、「クールジャパン機構」を紹介しましたが、日本の良さを海外に売り込むことが関心を呼んでいます。
読売新聞は「ソフトパワーのつくり方」を連載していました。例えば1月9日(第6回)では、日本を訪れる外国人観光客が、物見遊山でなく、日本を体験することに関心を持ち満足していることを取り上げていました。ハレの場でなく、普段着の日本にも関心を持っているのです。いろんなものが独特の陳列をされている格安量販店のドン・キホーテ、浅草のカッパ橋道具街の食品見本(ロウ細工)、しかもそれを作る体験コースとか、観光果樹園のもぎ取り体験も。
観光庁の調査では、外国人が日本で満足した出来事は、次の通りです。生活文化体験が71%、歴史・伝統文化体験が、68%、自然・景勝地観光が63%、温泉入浴が57%、日本食が56%、繁華街の街歩きが53%、美術館・博物館が52%、買い物が52%、旅館に宿泊が42%です。
私も若い頃、海外旅行が珍しかったときに、ヨーロッパの観光地も行きたかったですが、町中でのレストランや商店での買い物がうれしかったです。もちろんそれには、日本にない「あこがれ」「珍しさ」が必要です。
NHKスペシャルも、ジャパン・ブランドを特集しています。かつて日本人が、ヨーロッパの暮らしにあこがれ、アメリカンライフにあこがれたと同じように、アジアの人たちが日本の生活文化をあこがれてくれると良いですね。

産業振興、政府はどこまで関与すべきか

2013年12月31日   岡本全勝

12月29日の日経新聞、「ベンチャー育成、官がどこまで」に、政府の成長戦略として、官が主導するファンドによる新企業育成の議論が載っていました(官民ファンド)。政府が産業にどこまで、どのように関与するのかは、大きな課題です。
国家が経済成長をするために、産業政策がとられます。かつては、欧米先進国に追いつくために、先進的な産業を導入し保護育成しました。他方で、衰退する産業を保護しました。これは、技術指導、補助金、低利融資、税制、参入規制などの手法を組み合わせました。
また、一時的に破綻に瀕した個別企業を救済したこともあります。企業再生や銀行救済などです。このほか、日本の生活文化を海外に売り込むための、「クールジャパン機構」も作られています。
かつてのような特定産業の保護育成は、終わったようです。今、話題なっているファンドは、どの産業と決めずに新産業・ベンチャーを育成しようというものです。追いつき型経済発展の時代が終わったら、自らで新しい分野を開拓する必要があります。既存企業が新しい分野に進出するほか、ベンチャー育成は、その一つです。
放っておいてもどんどん新企業が出てくれば良いのですが、近年の日本は廃業が多く開業が少ないとのことです。起業家精神を喚起し、どのような条件を整えると、新企業がたくさん出てくるのか。その際どこまで、政府が関与するかです。
ところで、銀行がこのような挑戦者に融資をしてくれるほかに、保険の役割もあります。新しく見込める商品やサービスに、リスクの補償をするのです(例えば、2013年7月18日、日経新聞「ニッポン金融力会議。新産業、保険で後押し」)。そのような観点からも、保険の役割は重要です。目的とともに、手法も大切です。