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社会

精神的な不調に苦しむアスリート

11月1日の朝日新聞オピニオン欄、バスケットボール元女子日本代表主将・小磯(旧姓・浜口)典子さんの「アスリートと心の病」から。
バスケットボールの女子日本代表選手として5度のオリンピックに挑み、アトランタ(1996年)とアテネ(2004年)の2回、出場を果たした小磯さん。アスリートの心の問題への関心を訴えています。

・・・2010年に引退後、想像もしなかった自己嫌悪や絶望感に襲われ、精神的な不調に長く苦しんだからです。18歳で初めて出た1992年のバルセロナ五輪予選から引退まで、私の毎日はすべて、五輪で戦う準備の日々だったと言っても過言ではありません。ところが、引退後は、心にポッカリと穴が開いたような気がして、何も残っていない自分を痛感しました。
これは私の個人的体験ですが、燃え尽きて心を病んだり、目標をなくし生きがいを失ったりするアスリートは少なからずいる、とも聞きます。自分の経験を語ることで、見過ごされがちな選手たちの心のケアにも社会が関心を持ってくれればと思っています・・・

「その頃、息抜きとか気分転換になるような趣味は?」という問に。
・・・ありませんでした。姉の影響で小学4年からバスケを始め、高校は県内一の名門に特待生で入学し、18歳で実業団チームに。バスケで自分の生活をたてたいという必死な思いだけで、社会や会社のことなど何もわからないまま成長しました。
忘れもしない出来事があります。引退間際の欧州遠征で、生まれて初めて先輩の指示に「それは違います」と口答えしました。思いをはっきり伝えたその翌日、移動する空港の貴金属店でピンクのジュエリーが驚くほど輝いて見えたんです。ピンクがピンクに、草木の緑が鮮やかな緑に見えた。世界にはこんなに色があふれているんだと驚きました。目上の人の言うことは絶対という世界にいて、色もきちんと見えないほど、感覚が摩耗していたのかもしれません・・・

「東京五輪が2年後に迫りました。現在の盛り上がり方をどうみていますか」について。
・・・マスコミも含め、国全体で盛り上げようとするのはわかります。ただ『感動物語』があふれ過ぎていないでしょうか。諦めず努力して挫折を乗り越え、栄光をつかむ、そんな話が多くないですか。だれもが努力次第で成功者になれるというのは幻想で、現実には努力では越えられない壁が多くあります。若いアスリートが自分の努力不足が原因ととらえ、自分を追い込み、痛めつける方向へ向かうことを心配しています・・・
原文をお読みください。

小中学校でのスマホ禁止

10月23日の東京新聞が「学校でスマホOK?」を伝えていました。フランスの小中学校では、スマホを禁止したのだそうです。

・・・フランスは今年9月、すべての幼稚園と小中学校内でスマートフォンなどの使用を原則禁じる法律を施行した。勉強に集中させるとともに、校内での盗難やネット上のいじめを防ぐなどの狙いだ。世界では授業で積極的な利用を呼びかける国もあり、スマホと教育との関係は模索が続いている。
禁止されたのはスマホを含む携帯電話やタブレット端末、通信機能などがあるスマートウオッチ。仏生活環境調査観察研究所の調査によると、12~17歳の86%が携帯電話を持っており、中学生は大部分が影響を受ける。高校は学校の判断で独自に禁止できるが、すでに導入しているところは多い・・・

・・・スウェーデンでは、長時間のスマホの使用が脳や神経の発達に悪影響を及ぼすなどとして、フランス同様に禁止は定着している。2016年の調査では、10~15歳の57%が禁止に理解を示した。
ドイツでは9月、教職員組合がいじめへの懸念から、14歳以下の子どもの学校持ち込み禁止を呼びかけた。英国では学校ごとに対応が委ねられている・・・

・・・イタリアでは2007年から携帯の教室持ち込みを禁じていたが、2016年に解禁。政府は校内のWi-Fi化やブロードバンド化で、授業でも積極的に使用できる環境整備を進める。ファラオネ教育次官は「学習障害のある子どもにとっても助けになる」と述べ、全体的な学力向上が期待できるとの認識を示した。スペインでも解禁する自治体が相次いでいる・・・
・・・米国では校内への携帯電話の持ち込みを認める動きが広がっている。連邦政府機関のまとめでは、校内での携帯使用を禁じる公立学校は2009年度の91%から、2015年度には66%まで大幅に減った。
ニューヨーク市は2015年春、「子どもの安全が高まる」として携帯の持ち込みを解禁。これを主導したデブラシオ市長は父親としての経験から「保護者は子どもに電話したりメールを送ったりできるべきだ」と主張し、解禁の意義を「家族の尊重」とも述べた。・・・

原文をお読みください。

ピンピンコロリとはいかない

10月18日の朝日新聞オピニオン欄「最期は好きにさせてよ」。

上野千鶴子さん(社会学者)の発言から。
・・・現場を歩いてきた経験から断言しますが、施設や病院に進んで入りたいお年寄りはいません。お年寄りは住み慣れた「おうち」が好き。でもそれは「家族と一緒にいたい」という意味と同じではありません。自分以外に誰もいない「おうち」でもおうちが好き。目をつぶっていても、電灯スイッチの位置がわかるとか、住まいとは身体の延長のようなものです。
施設を選ぶお年寄りは、子どもに迷惑をかけたくないという理由から。親を施設に入れる子どもは自分の「安心のため」。親の幸せのためではありません・・・
・・・いま、独居高齢者の数が増えています。2017年の厚生労働省の調査では65歳以上の高齢者世帯のうち、独居世帯は26・4%、独居予備軍の夫婦世帯は32・5%です。以前は死別してひとりになった親を子ども世帯が呼び寄せて同居するケースが多かったですが、独居になっても世帯分離が定着してきました。それ以前から世帯内での家計分離が起きていました。この変化のスピードは私の予想を超えています。
理由は単純です。「独居」はやってみると親にとっても子にとってもラクなことがわかってきたから・・・

遠矢純一郎さん(内科医)の発言から。
・・・ピンピンコロリが実現できるのは、せいぜい1割ほどの方たち。ほとんどの方は様々な病気とつき合いながら、老いていくのが現実です。だれもが「我がこと」として考えないと間に合いません。急に脳卒中になる可能性だって、あります。
私も鹿児島にいる母を自宅で看取りましたが、いざ当事者になると知らないことだらけでした。必要な窓口がどこにあるかを含め、戸惑いました。慌てず、望ましい最期を迎えるために、家族と意思を早めに話し合うことが大切です・・・

会社を退職しにくい日本の風土

NHKインターネットニュースのウエッブ特集「会社からの非常口用意します」(9月26日配信)が、考えさせられます。 私は、最初に表題を見た際に、意味がわかりませんでした。

・・・退職の意向を本人に代わって会社に伝える「退職代行サービス」が少し前からネット上で話題になっています。「気持ちはわかるけど、そこまで必要?」と思いながら取材をすると、会社を辞めるに辞められず、心身ともにすり減らす人たちがいました。会社からの「非常口」を用意する、時代が生んだビジネスです・・・
・・・そもそも、退職に会社側の承認は不要です。民法では、期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間で終了することとなっています。辞めるのは働く者にある権利なのです。それでもなぜ退職代行サービスの需要があるのか、まず利用者に話を聞きました・・・

詳しくは、原文を読んでいただくとして。次のような指摘も書かれています。
・・・「日本で会社を辞めることは、『周囲に迷惑をかける自分勝手なこと』『仕事を続けることができないことは恥である』という考えがまだまだ根強い。コミュニケーションがとれない上司の下や、いわゆるブラック企業で働いていた場合、辞めたいと思い悩んでも相談する相手すらいないんです」・・・
・・・取材したアメリカ人のアレックス・マーティン記者は、次のように分析しています。
「転職によるスキルアップが定着している欧米人から見ると会社を辞めたくても辞められない日本の労働環境は奇異に映る。退職代行サービスが生まれた背景には、『karōshi』という言葉を生み出した国ならではの行き過ぎた仕事文化があるように感じます」・・・

先日「契約社会と帰属社会2」を書きました。会社との関係を契約と考える欧米社会に対し、会社への帰属と考える日本社会。その社会風土が、背景にあります。

日本型信頼社会の低下

7月31日の朝日新聞オピニオン欄「孤独は病か」を紹介しました。「孤独という社会問題」(8月9日)。すみません、古くなって。書きかけで、放ってあったのです。

他人との信頼関係、近年では「ソーシャルキャピタル」が、良い社会をつくるためにも、経済活動にも重要だと主張されています。その点で、日本は、隣近所での助け合いや、職場内での団結など、他人との信頼関係が強い社会だと言われてきました。
しかし、どうもそうではないようです。そこには、2つの要素があります。

1つは、日本社会は本当に、信頼の高い社会なのかということです。
かつては地縁、血縁、社縁で助け合っていました。しかしそれは、「身内」には親切ですが、「ソトの人」には冷たい社会でした(山岸俊男著『信頼の構造』1998年、東大出版会)。社会一般に、信頼関係が強いものではなかったのです。ソトの人との接触が増えると、この弱点が見えてきます。

2つは、その信頼関係も、急速に弱くなっているのです。
「身内に親切」も、機能が低下しました。田舎では農村の共同体が縮小し、都会でも地元の商店で働くのでなく通勤する勤め人が増えることで、地縁社会が弱くなりました。親族による助け合いも、減りました。企業は、生活を丸抱えしてくれなくなりました。ムラ社会が小さくなったのです。
他方で、一人暮らし、あるいは孤立した家族が増えているのです。

先日、アメリカが契約社会であるのに対して、日本は帰属社会だと説明しました「契約社会と帰属社会2」。しかし、この帰属社会の欠点と衰退が見えてきたのです。
この項続く