カテゴリー別アーカイブ: 報道機関

仲間うちの投稿

9月5日の朝日新聞連載「平成とは」「仲間うちの投稿欄、部数増」から。
・・・大島さんは近くに本社がある産経新聞社が発行する保守系の論壇誌「正論」の元編集長だ。新聞の記者などを経て編集長に就任したのは1990(平成2)年。冷戦が終わって米ソ対立という大テーマが後退。苦戦を強いられたオピニオン誌をどう活性化させるか大島さんは真剣に考えていた・・・
・・・まず目をつけたのが、雑誌の最後にあった1ページの読者投稿欄だ。届いた投書を読んでいると「読者の書くものが面白いことに気づいた。その知恵をもっと拝借しようと思った」。
「読者の指定席」と名づけて投稿欄を6ページに増やしたのを皮切りに、93年には投稿に編集者が一言感想を添える欄「編集者へ 編集者から」を新設。2000年には読者の疑問に編集者や他の読者が答える「ハイ、せいろん調査室です」も追加した。「自国の歴史と先祖に誇りを持って生きるのはすばらしいことですね」「国旗を購入したいがどこにも売っていない。日の丸は簡単に手に入りません」……。次々と舞い込む封書やはがきを紙袋いっぱいに詰め込み、自宅に持ち帰って目を通した・・・
興味深い発言もあります。
・・・異論にも耳を傾けようと「朝日新聞的な意見」を載せたこともあったが、読者は「それは、他で読めばいい」と反発した・・・

・・・最近では敵を探そうとする流れも強固になっている、とメディアコンサルタントの境治さんはいう。データ会社を通じ、在京キー局の情報番組などを調べたところ、森友学園問題や日大アメフト部のタックル問題など一つの話題を集中的に伝える傾向が、ここ数年で強まっているのを確認したという。
「『悪役』が誰かわかりやすい話題が好まれる。常にたたける相手を探し、徹底的に打ちのめす傾向が社会的に強まっているのではないか」
水島久光・東海大教授(メディア論)は、平成は人々が「味方集め」に奔走した30年だったとみる。「SNSの『いいね!』もそうだが、誰かからの評価を求めてさまよう人々であふれ、ネットを中心にその傾向が加速している」・・・

他者との対話を拒否し、身内だけで盛り上がる。寛容性が低くなり、排他性が高まっています。以前からその傾向はあったのでしょうが、インターネットの発達がその拡散を助長します。
あわせて、多くの人は「話を聞いて欲しい」「意見を言いたい」。しかし、「反論されるのは嫌だ」「いいねと言って欲しい」。「私は正しい。あの人たちは間違っている」のです。友人、家族、職場でも同じです。

政策の検証

7月12日の日経新聞に「成長戦略、検証なき膨張  工程表3倍でも目標達成率は低下」が解説されていました。
・・・政府の成長戦略への関心が下がっている。安倍政権で6回目となる今年の戦略は世界的なデジタル革命への対応などを打ち出したが、株式市場はほとんど反応しなかった。新たなテーマを毎年加えたことで目標実現への工程表は初回から3倍に膨らんだが、目標達成が厳しくても検証が不十分なままの政策も多い・・・

・・・成長戦略は規制緩和など制度改革を伴うので金融・財政政策よりも成果が出るまで時間がかかる。このため、戦略に盛った政策はKPI(重要業績評価指標)と呼ぶ目標を設け、達成までの数年間の工程表を示す。
工程表は肥大化している。2013年に安倍政権が初めてつくった成長戦略の工程表は48ページだったが、新たな政策が加わり続けた結果、18年版は147ページもある。
政府が1月に評価したKPIの進捗状況をみると、目標達成に向けて順調な項目は全体の45%と前年の51%から下がった。目標を引き上げたことで未達になった項目もあるが、工程表に新たな目標が加わったことも達成率を押し下げている。
過去の検証はおざなりだ。例えば産業の新陳代謝を促す観点から掲げた開業率・廃業率の引き上げ。「米英並みの10%台に高める」という目標を最初の戦略から掲げてきたが、直近16年度の廃業率は3.5%と15年度よりも下がった。それでも目標達成への補完策は打ち出していない・・・

検証の重要性を示す、良い解説記事だと思います。
もちろん、打ち出す政策が、すべてうまくいくとは限りません。このような批判に、政府はどう答えるか。それによって、政策がよいものとなっていきます。
マスコミはとかく、政府の政策について、会社の商品について「新しく打ち出した」といったニュースを書きますが、その政策がどのような結果になったか、どのような成果を生んだかは伝えません。特に、うまくいかなかったものについては、政府も会社もだんまりを決め込みますから。
記者が、省庁や会社の「記者発表」を追いかけている限りは、そのような「提灯記事」になる恐れがあります。

アメリカ政治とメディアの分極

山脇岳志・朝日新聞編集委員の「アメリカ政治とメディアの分極化ー鶏が先か、卵が先か?」から。詳しくは、原文をお読みください。

・・・1994年には民主党支持者と共和党支持者はかなりの部分で重なっているが、2017年には重なる部分が大幅に減少し、中心付近ではなく両極に位置する人々の割合が大きく増加している。両党の中央値も大きく離れている。ラクダにたとえれば、2004年調査までは「ひとこぶラクダ」だったのが、2017年には「ふたこぶラクダ」化していることがチャートから見て取れる・・・

・・・共和党支持者と民主党支持者の間の価値観が離れていくにつれ、対立政党に対する反感、否定的な感情のレベルが上昇している。下図からわかるように、2017年には、民主党支持者の81%が共和党に対し否定的であり、44%が非常に否定的である。同様に、共和党支持者も81%が民主党に対し否定的で、45%が非常に否定的である。対立政党に対し非常に否定的な意見をもつ人の割合は、共和党・民主党ともに1994年の2倍以上に膨れ上がっている。さらに、共和党支持者と民主党支持者の友人ネットワークのほとんどは、自党の支持者に偏っている。トランプ氏については、大統領に選ばれるずっと前から共和党支持者と民主党支持者の間に深い分断があるが、2017年の調査によると、トランプ大統領の職務能力に対する支持率の党派間格差は、過去60年間のどの大統領の支持率格差よりも大きい・・・

・・・メディアの分極化が国民の分極化を招いたのか、それとも、国民の分極化に応え、そのニーズを満たす形でメディアが分極化したのかについては、研究者の間でもさまざまな議論がある・・・
・・・この問題を研究してきたペンシルバニア大学准教授のマシュー・レバンドスキ氏(政治学)は、影響は限定的だとしつつ、メディアの分極化が国民を分極化させている一因だと指摘する。「人々は自分がもともと持っている考え方を強化するようなメディアを選択する。共和党支持者はFOX、リベラルな層はMSNBCを視聴する傾向にある」。番組によって、主に影響を受けるのはすでに極端な考えをもつ人々であり、「研究から示唆されるのは、イデオロギー分布の中心をシフトさせるのではなく、両極に位置する人々をもっと中心から引き離すことによって分極化の原因となる」としている・・・

SNS時代のスポーツ中継

6月22日の朝日新聞オピニオン「いいね!スポーツ中継」、水越伸・東大大学院情報学環教授の「昭和の型から抜け出して」から。

・・・一般の人がSNSで発信できるようになり、スポーツの見せ方は一つではないという事実と、その面白さに気づいてしまったんです。10代のネットの利用時間は、テレビの視聴時間を上回っています。受け手のニーズの変化に合わせ、送り手も中身を工夫する必要があります。

ところがそんな時代に、日本のテレビは古い型から抜け出せていません。昭和時代に隆盛だったプロ野球や大相撲、プロレスを基軸とした従来の型です。王や長嶋、力道山といったスーパースターだけに焦点を当て、勝利の物語にしか関心を示さない。サッカーW杯でも特に民放は、日本の本田や香川らスター選手のことばかりやっています。
型を持つのが悪いわけではありません。大学の論文を書くにも講義を進めるにも一定の型はあります。ただ、例えば武道でいえば、ある流派の中でその型だけを神格化していたら異種格闘技では負けますよ。「もっと違う型もありうるのでは」と意識することが大事だと思います。

例えば成功した選手の物語もいいけど、うまくいかずに無念に終わった選手もしっかりとり上げて欲しい。「どうしてうまく行かなかったのか」に焦点を当てることは、その競技に取り組む子どもたちのためにもなります。
また、日本人選手だけをとり上げるのもやめて欲しい。テレビのプロが思う以上に、型にはまっていない視聴者は多い。もっと多文化的であるべきだと思います・・・

佐伯啓思さん、重要政策論の不在

4月6日の朝日新聞オピニオン欄、佐伯啓思さんの「森友問題一色の国会 重要政策論の不在、残念」から。
・・・昨年の今頃、米国のトランプ大統領が空母を日本海方面へ派遣し、米朝戦争が勃発しかけていた。ところが日本の国会はといえば、戦争の危機などほとんど話題にもならず、ひたすら森友学園問題一色であった。
それから1年、国会の予算委員会(参院)では、また森友学園で大騒ぎである。この1年、国会で論じられた最大のテーマは何かと世論調査でもすれば、たぶん、森友・加計学園問題だということになるであろう。両者は、今日の日本を揺るがすそれほどの大問題だったのか、と私など皮肉まじりにつぶやきたくなる。
本紙がスクープした財務省の文書改ざん問題は、森友学園問題というよりは、まずは財務省の問題であり、官僚行政の不法行為に関わる問題である。私は、この問題の重要性を否定するつもりは毛頭ない。しかし・・・

・・・私がもっとも残念に思うのは、今日、国会で論じるべき重要テーマはいくらでもあるのに、そのことからわれわれの目がそらされてしまうことなのである。トランプ氏の保護主義への対応、アベノミクスの成果(黒田東彦日銀総裁による超金融緩和の継続、財政拡張路線など)、朝鮮半島をめぐる問題、米朝首脳会談と日本の立場、TPP等々。
私は安倍首相の政策を必ずしも支持しないが、それでもこうした問題について安倍首相は、ひとつの方向を打ち出しており、そこには論じるべき重要な論点がある。問題は、野党が、まったく対案を打ち出せない点にこそある。だから結果として「安倍一強」になっているのだ。
日本社会は(そしておそらくは世界も)今日、大きな岐路にたたされていると私は思う。麻生太郎財務大臣が「森友学園問題はTPP問題より大事なのか」といって物議をかもしたが、当事者の発言としては不適切だとしても、当事者でないメディアが述べるのは問題ないであろう。財務省の文書改ざんの「真相解明」はそれでよいとしても、それ一色になって、重要な政策論が見えなくなるのは残念である。安倍首相の打ち出す方向に対する代替的なビジョンを示して政策論を戦わせるのもまた、いやその方が大新聞やメディアに課された役割であろう・・・