カテゴリー別アーカイブ: 仕事の仕方

生き様-仕事の仕方

良い失敗を褒めよ

8月16日の日経新聞「教育岩盤、突破口を開く」、畑村洋太郎・東大名誉教授の「「良い失敗」した人をほめよ」から。

日本の教育は物事に必ず一つの正解があると考え、それを効率的に得ることを重視する「正解主義」に染まってきた。失敗を創造につなげる「失敗学」の提唱者として知られる畑村洋太郎・東京大名誉教授は、社会全体が「失敗」と「正解」に関する考え方を変えるべきだと主張する。

――失敗には「良い失敗」と「悪い失敗」があるそうですね。違いは。
「悪い失敗は手抜きや不注意に基づく失敗で、これは経験する必要がない。良い失敗は人の成長に必要な失敗だ」
「新しい価値の創造には仮説を立て、検証することの繰り返しが必要で、それは良い失敗と表裏一体だ」

――日本はこの30年間、成長率が低迷しイノベーションが停滞しています。根底には良い失敗の欠如がありそうです。教育とも深く関係しますね。
「そうだ。習うとはまねをすることだ。日本は古代から一千年以上、中国や西欧の立派なものを学び取り、自分のものにするのが最善という考えでやってきた。正解を吸収することが学びで、それを効率的にできる人が賢いと考える『優等生文化』が成立した」

――入試がそうです。
「高度経済成長期はそれで一見うまくいった。コピーの量産が教育の基本理念になってしまった。本当は自分なりに考えて『我を出していくこと』が一番大事なのに。自分の考えを外に主張し、やりとりをする中で考えをより豊かにするディベートのような経験をしてこなかった」
「日本の教育は子どもに創造性を育む視点が欠けたままだ。創造性を刺激された経験のない人が教壇に立っている」
「西欧の先達は大変な努力をして犠牲を払い、失敗を積み重ねてそれだけのものをつくってきた。効率主義だとそれをまねすればよいとなる。考えてみると傲慢な姿勢ではないか。学べば自分のものにできるという明治維新以来の勘違いに気づかずにきたツケが、いま回って来ている」

8月20日の日経新聞、柳井正ファーストリテイリング会長兼社長の「失敗で磨け、無二の価値 世界に挑み続ける柳井氏の信念」も参考になります。

省庁改革本部減量班同窓会25年

先日、省庁改革本部減量班の同窓会をしました。
2001年に実施された省庁改革の作業のために、私たちが事務局に集められたのは、1998年6月でした。今年は25年です。よく続いているものです。「20年の記事

ちょうどアフリカから一時帰国中の大使、イギリス勤務を終えて帰国した官僚、熊本や大阪勤務から帰ってきた人、すでに第二の職場にいる人などなど。都合がつかない人以外が集まりました。
皆さんそれぞれに歳を取っていますが、元気で活躍中です。

部下に慕われる上司

霞が関の定期人事異動が行われ、異動した人とともに、退職した人もいます。そのお祝い会やら、送別会が続いています。
ある後輩の送別会で、彼の仕事ぶりが話題になりました。仕事もでき、部下からの信頼が厚かったのです。仕事はできて当たり前なのですが、部下から慕われる人と、そうでない人がいます。何が良かったのか。本人は気がつかないので、その部下だった出席者に聞きました。いくつも長所が挙げられましたが、要約すると次のようなことでした。

・判断が速い
部下が相談に行くと、その場で方向を決めてくれたことです。「よし、これで行こう」とか「これは、××さんに相談に行こう」とです。必ずしも結論が出るわけではないのですが、次への段取りを示してくれます。すると、部下は次の段階に進むことができます。それがないと、もやもやが貯まります。

・話を聞いてくれる、一緒に考えてくれる
部下が相談に行くと、まずは話を聞いてくれます。多くの上司は部下の話を聞きますが、たぶん彼は、部下の目線まで降りて、相談に乗って、一緒に考えてくれるのでしょう。すると部下は、どんなことでも相談に行くことができます。「こんなことを相談して良いのだろうか」と、悩まなくてもすむのです。

・別の上司の前で助けてくれる
別の上司に案を持っていったときに、その上司は厳しい質問をするときがあります。部下たちは、立ち往生してしまいます。そんなときに、彼は、横から助け船を出してくれるのです。これは部下たちは助かりますよね。

部門を越えた人事異動

日経新聞「私の履歴書」6月27日、中山譲治・第一三共常勤顧問の「バイオ生産」に次のような話が載っていました。

新薬を発売するにあたり、生産要員の確保が問題になりました。生産要員だけでなくそれ以外の部署でも大幅な要員不足が見込まれました。
しかし、各部門の専門性が高く、人事は別々でした。研究開発と営業の2部門に分かれ、ほとんどが同じ部門で定年を迎えます。他部門への異動は少なく、動いた人たちは、元の部署でのエースではないという偏見すらあったのです。

中山社長は、本社の部門長だけでなく関係会社のトップを集め、「異動に際しては量と質の両方を重視し、エースを出して欲しい。第一三共の未来がかかっている」と訴えます。子会社を吸収合併もします。幹部だけでなく、社員の理解と納得を得るべく、努力します。

東日本大震災の際に、被災者支援本部には、霞が関のほぼすべての省庁から職員を出してもらいました。官邸から指示を出してもらい、各省庁もそれに応えてくれました。ありがたかったです。次に私が考えたのは、この優秀な人たちをなるべく早く各省庁に戻すことでした。彼ら彼女らを引き抜かれて、各省庁は困っていたはずですから。

教員の長時間労働の是正

6月13日の日経新聞教育欄に、青木栄一・東北大学教授の「教員の長時間労働の是正 首長・教育長、役割大きく」が載っていました。青木先生は、教育行政学の第一人者です。『文部科学省-揺らぐ日本の教育と学術』(2021年、中公新書)、「福島市いじめ問題対応改善有識者会議

・・・文部科学省による公立小中学校教員などの勤務実態調査は2006、16、22の各年度に行われた。筆者は研究者チームの一員として調査の企画や結果の分析に関わった。
2年度の調査は携わって3回目にして初めて長時間労働の改善が強く推測できる結果となった。1日の勤務時間に当たる在校等時間(速報値)は16年度比で校長、副校長・教頭、教諭の全職種で減少。教諭では平日は小中ともに約30分、休日は小学校で約30分、中学校では約1時間減った。
平均でこれだけ減ったのは大きな改善である。特に部活動休養日を設定した効果は如実に表れた。新型コロナウイルス禍での行事の縮小なども改善につながった可能性がある・・・

・・・さらに、これだけでは限界がある。文科省は残業を月45時間以内とする指針を定めているが、残業が指針の上限以上に相当する教員は小学校で64.5%、中学校で77.1%に上る。
指針を超える教員がかなり存在する以上、教員文化や学校の職場風土にメスを入れる必要がある。そこで筆者が携わった教員の気質に関するパイロット(試行)的調査の結果を参照しながら、変えるべきことは何かを考えてみたい。
この調査で明らかになったのは教員の極めて強い平等意識である。加えて、学校管理職は過酷な長時間労働を耐えて勤続年数を重ねた「サバイバー」だ。
公立学校は女性管理職比率の低さが問題になる業界だが、当然である。男性並みに働けない限り管理職に登用されることはない。調査では管理職の方が一般教員よりもメンタルヘルスが良好でストレス耐性が高く、仕事の進め方が上手であることが分かった。

病気休職者に占める精神疾患を原因とする教員の割合を年代別に見ると、20代で割合が最も高く年代が上がるにつれて低くなる。これは若手のストレス耐性の低さが問題なのではなく、管理職は耐性の低い教員がいても仕事ができる職場をつくらないといけない。
教頭・副校長は全職種の中で最も労働時間が長い。その教頭・副校長が相互監視の場である「大部屋」すなわち職員室にいて、平等主義が強く「自分だけ得や損をするのは嫌」と考える傾向の強い教員同士が集まって仕事をしている。
そこでは働き方改革の機運が生じることはまずなく、同調圧力によって巻き込まれ型残業が生まれる。定時退勤はもってのほかとみなされ、効率性やタイムパフォーマンス(タイパ)は考慮されない・・・