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私たちの選択

12日の朝日新聞夕刊文化欄で、大澤真幸京大助教授が「参院選の結果を読む」を書いておられました。見出しは、「われわれは何も選んでいない 『枠組み』変える担い手の不在」です。
そこでは、今回の争点は「イラクでの多国籍軍への参加」と「年金問題」ではなかったか・・。と始まっています。詳しくは本文を読んでいただくとして、ここで紹介したいのは、その後半部分です。
「・・・そのために必要なのは、決定的な構想力(想像力)と結果責任への覚悟である。だがそれらを担う者はどこにもいなかった」
私の批判する「戦後日本に政治はなかった」(「新地方自治入門」p265~)に、相通じる指摘だと思います。

池上先生の新著

池上岳彦立教大学教授が、「分権化と地方財政」(岩波書店)を出版されました。「シリーズ:現代経済の課題」の1冊としてです。そこでは「分権的福祉政府」を提唱し、税、交付税、地方債にわたる分析と改革案を述べておられます。三位一体改革への言及もあります。
地方財政は、今もっともホットな学問分野になっています。新聞記事だけでなく、次々と論文や書籍が出版されます。国庫補助金廃止と税源移譲は、理論的裏付けに基づきスタートしました。そして、現実に改革が進むと、新たな問題もでてきます。すると、また理論が展開します。このような学問と実行のキャッチボールで、三位一体改革が進むんだと思います。

三位一体改革13

日々の三位一体改革:続き
【足並みの乱れ】
今朝(7月7日)の日本経済新聞は、昨日の続きで「なるか地方発補助金改革:下」を載せていました。「自治体、足並み乱れる」という見出しで、「地方側は、知事と市町村長、そして市町村長同士で意見が違う」こと「都市と地方の意見も違う」ことを取り上げています。しかし、「地方案のとりまとめは、権限移譲を獲得する布石として千載一遇のチャンスのはず」と述べ、地方団体にハッパをかけています。
また、同紙の「経済教室」では、神野直彦東大教授が「東京問題は解消可能」という論文を寄稿しておられます。そこでは「三位一体改革は補助金廃止・税源移譲であるが、その目的は公共サービスの負担と供給を、国民に身近な空間で決定できる仕組みを作ること、国民が自分の生活と社会のあり方を決定できる権限を強めることである。」
「ところが、こうしたビジョンを明確にした改革は、既得権益を奪われまいとする勢力から激しい抵抗に遭う。」「改革を阻止するための常套手段は、常に分断工作である。三位一体改革の場合は、それが東京問題であり、東京とそれ以外の自治体との対立をあおり・・」です。ぜひ、本文をお読みください。(7月7日)
【全体像を示せ】
今朝(8日)の日本経済新聞の「経済教室」は、増田岩手県知事の論文でした。「分権国家の全体像を示せ」という表題です。私も、その趣旨には賛成です。しかし、霞ヶ関(国家官僚)も永田町(中央の政治家)もそれを示せないところに、問題と難しさがあるのだと思います。官僚は全体像を示すどころか、抵抗勢力になっているのですから。だからこそ、三位一体改革には、単なる税収の帰属の変更だけでなく、「この国のかたち」=政治構造改革の意味があるのです。
私の考えは、「走り走り考える」「考えながら走る」という方法です。現在の「三位一体改革」は、正にこれです。
14年:三位一体の方向を決めた。しかし、芽出ししかできず。
15年:そこで、3年という期限と4兆円という補助金削減目標額を決めた。これで、補助金削減1兆円は達成。しかし、一般財源化は少なく、また補助金選定に困難。
16年:そこで、一般財源化目標を決め、補助金は地方団体に選んでもらうこととした。
こうして、「堤防」を補強し、徐々に幅を狭めて、流れを作ってきたのです。というか、この方法しか、今の日本では進まないと思います。詳しくは、月刊「地方財務」8月号に書きました。(7月8日)
【国税と地方税の組み替え】
今朝の日本経済新聞「経済教室」は、持田信樹東大教授による「協調的分権を目指せ」でした。平等なサービスを目指す「行政的分権」や、自己責任と競争を目指す「競争的分権」ではなく、公平と効率を目指す「協調的分権」を提唱しておられます。
そして、国庫補助金の一般財源化のほか、交付税財源となっている消費税の地方消費税への組み替え、地方財政計画の見直しを主張しておられます。(7月9日)
【あれも問題、これも問題。ではどうするの】
今朝(11日)の朝日新聞には、「格差社会:下」として、「都市と地方」が取り上げられていました。読んで思ったことをいくつか書きます。
1 義務教育費国庫負担金を(廃止して税源移譲し)、人口割で配った場合の試算を載せていました。東京は800億円増え、北海道は200億円減るというものです。
→これって、何を主張したいのですかね?三位一体改革を止めろと言う主張でしょうか。
実は現在でも、義務教育負担金は、必要額の2分の1しか配られていません。残りの額は、地方税と交付税で賄っています。国の負担率を2分の1から10分の10にすれば、より格差はなくなります。「国庫負担は国の責任だ」と主張する人たちも、なぜかそれは主張しないのですが。記事は、そのような主張とも読めませんし。
2 「公共事業や地域振興に補助金と交付税をつぎ込んだが、それによって地方が甘え、配分のゆがみがひどい。地方が自立するよう三位一体改革を進めている。しかし、現実には新たな地域格差が生じている。景気回復の恩恵を受ける地域と取り残され疲弊する地域をどうするか」という主張について。
→こういう主張って、ありがたいような、そうでないような。景気回復の地域間格差を埋めることを、交付税に期待されても困るんですよね。これまでは、それを公共事業で埋めたんです。でも、それが地域の自立に逆行しているというのが、現在の共通認識でしょう。
全国で標準的行政サービスが実施できるように財政保障をすることは交付税の任務ですが、景気回復の差による地域間の「元気さの違い」を埋めることは、交付税には荷が重すぎます。シャッターの続く商店街を活性化することは、交付税には無理です。
→で、この記事はどうしろと、言いたいのでしょうか。「地域間に経済回復の差がある」という主張は、わかります。「公共事業、補助金、交付税による格差是正は地域の甘えを助長した」「義務教育負担金を人口割にしたら差が広がる」も理解できます。で、これらをつなぎあわせれば、どうしろと主張しているのでしょうか。「それは官僚が考えろ」ということでしょうか。
問題点の指摘は、マスコミの重要な使命です。でも「これも問題」「あれも問題」といっていると、結局、改革は進まないんですよね。全てを解決する「魔法のような解決案」はありません(かつては、お金で全て解決したんですが)。より問題の少ない改革案を組み合わせるしかないのです(ではな
いでしょうか、辻さん)。
私は、現在進めている三位一体改革は、この問題を次のように解こうとしていると考えています。
①国家が保障する行政サービス(安全・教育・福祉)の範囲を限定すること。この範囲の外は、地域で自由にしてもらう。地域振興などは、一定部分は財政保障しますが、それ以上は地域の自由に。もちろんその分は、地域での差が生じます。
②国家が保障する部分(財政保障)であっても、まずは地方税に税源移譲し、それで足らない分は使いやすい一般財源(地方交付税)で保障する。国庫補助金は資源配分のムダを生じるので、なるべく減らす。です。(7月11日)

今日の見聞

今夜(9日)は、自治大学校教授時代の生徒さん達(関東の市役所有志)の同窓会に行ってきました。昭和63年からなので、もう16年も続いているんですね。それぞれ市役所の幹部になって、活躍しておられます。でも、集まってみると、みんな「いいおじさん」になっています。「本を読んでますよ」「表紙のデザインは・・」とか「三位一体は・・」と、いろんな意見をもらってきました。

豊中市役所講演

今日は、大阪府豊中市まで、講演に行ってきました。暑い中、200人もの職員と議員さんが集まって、熱心に聞いてくださいました。大阪市の北の、豊かで整備されたいい町です。もっともかつて不交付団体だった豊中市も、交付団体になり、行革に努力しておられます。日本の行政の「これまでの大成功と、方向転換しなければならないこれから」をしゃべってきました