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三位一体改革その4

【16年度地方団体の予算編成】
「交付税が大幅に減って予算が組めない」という悲鳴が、各地で上がっています。事情は次のようだと思います。(2004年2月8日)
1 地方財政計画
(1)交付税の減
16年度の地方財政計画では、
地方交付税総額:6.5%、1.2兆円減
臨時財政対策債:29%、1.7兆円減
臨時財政対策債は交付税の振替なので(交付税が足らないので発行を許可する、自由に使える赤字地方債。後年度各団体には、その償還額を交付税配分額に上乗せ)、この合計で12%、2.9兆円の減です。
これらが、国から配分される「一般財源」(地方団体が自由に使える金)です。この他に、地方譲与税・地方特例交付金も、同様に国から配分される一般財源です。
(2)一般財源
地方団体が自由に使える財源の第一は、もちろん地方税です。しかし、多くの団体では税収だけでは足らないので、これら地方交付税などを足して予算を組みます。(東京都や豊田市などは交付税の配分を受けていませんから、交付税が減っても予算編成に影響はありません。)
当然この他に、国庫補助金や使用料など「特定財源」(使い道が決められている財源)もありますが、財政課が予算を組む際の一番の要素は、一般財源総額です。
地方財政計画では、一般財源総額は3.7%減です。これで見ると、そんなに極端な減少ではありません。
ただし、今回は補助金の一般財源化が行われ、従来なら国庫補助金(特定財源)で配分されていた金が、譲与税などに振り替えられました。その分を考慮しなければなりません。その分だけ、一般財源が増えないと困るのです。
(3)歳出
地方財政計画では、歳出総額は1.8%減です。これもそんなに大きな減少ではありません。
2 現場と地方財計画との差
では、地方財政計画ではそんなに無理な数字ではないのに、各団体は、なぜ悲鳴を上げるのでしょうか。
(1)これまでとこれから
(臨財債の減少)
交付税総額は、平成15年度も7.5%減っています。16年度(6.5%減)の方が、減り方は少ないのです。それなのに悲鳴が上がるのは、臨時財政対策債の減が大きいからです。交付税総額は、この4年間減少しています。しかし、臨時財政対策債が減るのは今回が初めてで、「交付税総額と臨時財政対策債合計」が減るのは初めてなのです。
「交付税が減るのは予想していた。しかし、臨時財政対策債が減るとは思っていなかった」とおっしゃる首長さんが多いです。総務省も、昨年の6月の「骨太の方針」や11月の「麻生プラン」で、「交付税が減りますよ」とPRしていました。しかし、臨財債が減ることは、十分理解してもらえてなかったようです
(減ることは良いこと)
現在の仕組みでは、交付税総額と臨財債総額はリンクしています。そして、地方財政全体の収入不足額に連動して増減します。地方財政計画の収支不足額が減れば、交付税も臨財債も減るのです。去年まではこの仕組みへの過渡的手段をとっていたので、交付税が減っても臨財債が増えたのです。また、15年度までは、地方税総額も減ったので、財源不足額が増えたのです。
臨財債が減ったことは、それだけ歳出が減って、(16年度は税収も減らず)、財源不足額が縮小したのです。これは喜ぶべきことです。
(これまで通りには行かない)
しかし、いくつかの団体では、「これまでも臨財債は増えたから・・」という思いこみがあったのかもしれません。また、これまでも行政改革・歳出削減を続けてきていて、「かなり雑巾は絞った、これ以上絞るのは難しい」という思いもあるようです。
将来予測は、三位一体改革その5
(2)全体と個別
地方財政計画全体では、交付税の減は6.5%減、一般財源総額では3.7%減です。びっくりするような数字ではありません。しかし、この数字は、地方団体全体の数字であって、この中には3200もの団体が含まれています。
団体によっては、収入のうち税収は1割・交付税が4割という団体もあります。そのような団体では、交付税の減が大きく影響します。
全体と個別では、事情が異なるのです。
(3)計画と実際
地方財政計画は、あくまで計画です。実際の現場=各地方団体の予算とは違います。国の予算は、決められたとおり、その範囲内で執行されます。でも、地方財政計画は、国が期待する「地方団体の財政の合計」です。はじめから、実際とは違います。近年では、総額は実際の方が1割以上大きいです。各団体が自前で財源を見出して、仕事をしているということです。
また、投資的経費の、計画と実際との乖離も指摘されています。計画では、投資的事業を期待しているのですが、実際には(いくつかの団体では)、その金額は他の経費(たぶん、独自の福祉経費など)に使われています。地財計画では投資的経費を大幅に削減したのですが、現場では他の経費に使われていて、削減は難しい。こういう事情があるようです。
3 「赤字予算」
「収入額が不足する予算案を組む団体がある」との報道がありました。真偽のほどは不明ですが。
①法律違反
まず地方自治法は、第208条第2項で「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもって、これに充てなければならない」と定めています。
②政治的責任
それ以前に(法律で縛る以前に)、歳入が不足して執行できない予算案を市民や議会に提出することは、無責任ですよね。まずは、やめることができる事業をすべてやめて、自分たちの給料を無給にして、と努力をすべきでしょう。それでもだめなら、その時はそのような制度にしている国の責任もでてくるでしょう。
③国との比較
ここで、地方団体の財政制度と国との違いが、見えてきます。
地方団体の予算の「赤字」には、次のような場合が考えられます。一つは、通常の歳入では不足し、「赤字地方債」を発行する場合です。現在、地方財政は全体で収入が不足し、「臨時財政対策債」を発行しています。これは、国が発行を認めた「赤字地方債」です。でもこの場合は、「赤字予算」とはいいません。
もう一つは、各団体で(臨時財政対策債を発行しても)収支が不足する場合です(このほか、予算は赤字でなくても、決算が赤字の場合があります)。
ひるがえって、国の場合は、毎年大幅な財源不足が発生しています。それを埋めるため、大量の赤字国債を発行しています。16年度も、30兆円(82兆円のうち37%)にのぼっています。
国の場合は、自ら法律を制定して赤字債を発行しています。地方団体の場合は、法律に基づき、国の許可がないと、赤字債は(地方債そのものが)発行できないのです。地方団体に比べ、国はより甚だしい状況になっています。

雪の秋田へ

今日は、秋田まで講演に行ってきました。県議会と市町村議員さんたち有志の勉強会です。今日も辛口の話をしましたが、「このほうが、よくわかって良かった」と喜んでいただけました。
今の職場は平日に行くことは無理なので、土曜の朝にしてもらいました。「前日に行って、温泉に入って、雪を見ながら・・・」と思っていましたが、金曜日は仕事が長引いて。新幹線「こまち」に乗ったのが東京駅20時、秋田に着いたのが24時。残念ながら、真っ暗でした。帰りの新幹線の車窓は、一面の雪景色でした。

法律ができるまで

各省が法律案を作成して、国会に提出し、審議されて成立する過程の解説です。その例として、2004年度地方交付税法改正法案を、このページで解説します。内閣法制局のページに「法律ができるまで」が解説されています。また、国会というところ」をあわせて見てください。
地財対策決定(2003年12月18日)
2004年度地方財政対策決定。総務大臣と財務大臣の折衝で、地方交付税の総額の特例などが決まりました。交付税課で、地方交付税法の改正法案(原案)の作成を開始。内容は、総額の特例、算定方法の改正のほか、今年にあっては、特例交付金の改正(税源移譲予定交付金の創設)などがあります。改正の概要を検討するのと並行して、内閣法制局への説明を始めます。
年末
省内では、総務省から提出する法案の本数を整理。各局の案を、官房総務課が取りまとめ。例えば、「地方税法改正法案」が提出予定、合併特例法の改正などが検討されています。
国会開会(2004年1月19日)
第159回通常国会が始まりました。会期は、150日間です。官房長官が、「政府から提出予定の法律案は125件、提出予定条約は19件。このほか、提出につき検討中の法律案17件、条約10件」と発表されました。このうち、総務省は、提出予定法律案が14件、検討中が3件です。
(本数の確定)
ここに至るまで、今月の始めに、省としての提出案件をまとめ、内閣法制局や内閣官房(総務官室)と調整して、この本数を固めました。
その後、与党の議院運営委員会・国会対策委員会のメンバーに、提出全法案の本数とその概要を説明しました。これは、「総務省からこのような法案を考えています」という、全体像の説明です。これが、総務課長の仕事始めです。内閣(各省)は法案を提出することはできますが、審議をするのは国会です。野党の理解を得て政府案を「通す」のは、与党です。
法案を固める
(内容確定・法制局審査・各省協議)
法案は、省内での原案確定・内閣法制局の審査を経て、案が固まります。地方財政関係は、地方税法等の改正・所得譲与税法の新設・交付税法等の改正(地方特例交付金法の改正を含む)・新東京国際空港周辺整備財政特例法の延長の4件です。法制局の審査の過程で、「税源移譲予定交付金」は名称が「税源移譲予定特例交付金」となりました。省としての案が固まると、各省協議をします。各省協議とは、法案に関係ある他の省に異議がないか確認するためのものです。
(決裁)
できあがった法案は、省内では大臣まで決裁を得ます。交付税法の場合は、地方財政審議会の同意も必要です。他省と「共管」の法律は、その省での決裁ももらいます。交付税特別会計法は、財務省と共管です。内閣法制局の正式な決裁も、もらいます。こうして、政府原案が固まります。
法案は、「改正文」本体(「××」を「△△」に改め・・という文章です)ですが、説明先によっては、あわせて「要綱」「新旧対照表」、さらに「提案理由」「参照条文」をつけます。これを「3点セット」とか「4点セット」と俗称します。閣議に提出する「正本」は、和紙にタイプで打ち、こよりで綴じます。
これらの作業は、交付税課では、課長補佐が責任者になり、「見習いさん」と呼ばれる入省3~5年目の職員が担当します。期間が短く・量が膨大で・一言一句の間違いも許されない(法制局審査は厳しいことで有名です)・大変な作業です。何回かの徹夜を伴います。
与党法案等審査手続(2月3日)
次に、与党の了解を得る手続があります。法案4本と地方財政計画の合計5つについて、2月3日に、自民党にあっては、政務調査会の総務部会・政調審議会(政審)・総務会の了承を得ました。また同日、公明党にあっては、政務調査会の総務部会・政調全体会議の了承も得ました。
部会には、副大臣・政務官らが出席し、担当局長が説明します。関係課長も出席します。(自)政審・総務会、(公)政調全体会議では、各々部会長・専任部会長が説明します。もっとも、これらの関係者には、関係局が事前に概要を説明しておくことが多いようです。
与党の了承を得たものが、閣議に提出されることになっている、とのことです。
閣議決定・国会提出(2004年2月6日)
地方交付税法案など4本と地方財政計画が閣議決定され、国会に提出されました。国会に提出といっても、国会が一つではないので、内閣から衆議院と参議院にそれぞれ提出されます。
閣議案件は、通常前日に事務次官等会議にかけられます。これは、各省が異論ないことの確認行為の意味を持っています。逆に言うと、異論のある省はこの場で発言するのです。もっとも、「次官会議で反対するぞ」ということが「抑止力」になっているので、そうならないように事前に調整されているようです。急を要する案件などは、閣議の後にかけられるようです。
閣議は、通常、毎週火曜と金曜日です。急を要する場合は、この日以外にも開かれますし、「持ち回り閣議」といって、各大臣の署名(花押)をもらいに回る場合もあります。次官会議は、月曜と木曜日です。

「この国のかたち」を創る

昨年まで私は、自治財政局交付税課長をしていました。今話題の「三位一体改革」「地方交付税改革」の担当です。これまで50年間、地方交付税制度はよく機能し、日本の地域社会の発展に貢献してきました。北海道から沖縄まで、大都会から山村離島まで、教育・福祉・衛生といった行政サービスや、道路・上下水道といった社会資本を整備できたのは、地方交付税があったからです。しかし、成功し定着したが故に、交付税制度を改革することは大変です。
関係者に説明するだけでなく、活字として私見を世に問い、マスコミの取材に応え…と。理解を得る努力をしました。講演会は年間40回。平成14年からは、東京大学大学院の客員教授も務めています。日本地方財政学会総会で、神野直彦東大教授、齊藤愼阪大教授、金子勝慶大教授といった学者の前で基調報告もしました。全国紙の1面に実名が載るという「おまけ」もありました。