投稿者アーカイブ:岡本全勝

連載「公共を創る」第251回

2026年3月5日   岡本全勝

連載「公共を創る 新たな行政の役割」の第251回「政府の役割の再定義ー求められる働き方と暮らし方の改革」が発行されました。

省庁改革から四半世紀、そしてバブル経済崩壊から35年もたつのに、経済や社会の行き詰まりは解決されていません。その理由の一つは、課題が緩慢な変化によって引き起こされたことにあります。中長期的に緩やかに変化する場合は、急激な変化に比べ気が付きにくく、対策も遅れがちです。
「ゆでガエル現象」という言葉を、聞かれたことがあるでしょう。カエルを水に入れてゆっくりと温度を上げると、カエルは気が付かずに、そのままゆでられて死ぬという話です。実際には、カエルはどこかで跳び出すでしょう。この30年間の日本経済の停滞は、これによく当てはまります。ただし水温が上がったのではなく、温かいと思って浸かっていた風呂が徐々に冷めて冷水になったと言った方がよいでしょう。「冷めた風呂現象」とでも呼びましょうか。

議論のずれが生じた原因のもう一つは、国民意識や社会の仕組みが、目に見えにくいことです。例えば、日本で働く外国人が増えたことは比較的目に付きやすく、新聞でも写真付きで報道されます。それに対し、かつて職場に進出した女性たちの周囲との関係や、現在も子育て中の従業員が保育園への送り迎えなどで苦労していることは、写真では表面的なことしか表現できません。また、他者には分かりにくいのです。

それでは、私たちの社会の未来に関する議論、それに向けた制度や政策の取捨、改造といった問題は、誰が、どのような場で、どのように行っていけばいいのでしょうか。

挑戦しない日本の企業経営者

2026年3月5日   岡本全勝

2月18日の日経新聞経済教室、神田秀樹・東京大学名誉教授の「企業統治指針、改訂で産業構造の転換を後押し」から。

・・・日本ではバブル崩壊後に企業が設備投資の抑制や負債圧縮の姿勢を強めた。日銀の資金循環統計によれば民間企業部門は1998年から資金余剰に転じて今日に至っている。金融セクターが成長資金を出そうとしても、貸出先のビジネスがないという状況である。
日本で主にお金を使っているのは低金利下で積極的な財政出動を続ける政府部門であり、家計の預貯金が政府の赤字を埋めてきた。本来であれば企業の投資が景気をけん引し、賃上げによる家計の消費拡大が企業のさらなる投資を支えるという好循環が望ましいが、そうはなっていない。
日本の経済と金融は「悪い均衡状態」に陥っている。経済がジリ貧なのに危機感に乏しいのが最大の問題である。バブル期の不良債権処理ばかりにまい進し、新産業の創出を怠ってきたことのツケが、いま生じているのである。こうした悪い均衡から脱出するには、まずは新たな産業を生み出す必要がある。

米国ではIT大手の「GAFAM」が経済成長をけん引した。日本の強みがものづくりだとすれば、そうした分野でもっとイノベーションを起こす必要がある。日本は今こそ生産性を高める技術開発などにより、新しい産業構造へと転換しなければならない。
そのためには、強いリーダーシップを発揮する経営者が日本にもっと生まれてほしい。2025年4月末に経済産業省が公表した「『稼ぐ力』を強化する取締役会5原則」は、こうした産業構造の転換を目指して各企業の取締役会の機能強化を提言するものである。筆者は研究会の座長として策定に関わった。
この原則では、企業の「稼ぐ力」強化に向けて経営陣が自社の競争優位性を伴った価値創造ストーリーを構築し、実現のために事業ポートフォリオの組み替えや成長投資に取り組むなど、適切なリスクテイクを行うよう取締役会が後押しすることを提言している。
また、経営陣が短期的な成果にとらわれて中長期的な成長を犠牲にしていないか確認することや、取締役会がマイクロマネジメントに陥らないよう留意することなども求めている。

米国では経営者がリスクテイクに走り、取締役会はそれをけん制するという役割を果たす。日本では経営者が適切なリスクを取らないので、取締役会が経営者のリスクテイクを後押ししようというのが提言の狙いである。
日本では長年「貯蓄から投資」への転換の必要性が叫ばれ続けてきた。近年の少額投資非課税制度(NISA)導入や株式市場の活況により変化の兆しがみられるものの、依然として個人金融資産2200兆円の約半分が預貯金である。
少子高齢化に伴う急速な人口減少や巨額の政府債務といった構造的な問題にも、本格的な対応ができていない。むしろ状況は悪化し、危機的な状況にある。
日本が30年間続いたデフレ経済から脱しようとしている今こそ、産業構造の転換を実現するため、企業は大きく変化しなければならない。今回の企業統治指針の改訂も、それを後押しするような内容になることを期待している・・・

政府による産業支援、新しい展開

2026年3月4日   岡本全勝

2月18日の日経新聞「資本騒乱・誰のための市場か3」「半導体、巨費投じる国家事業に 民間や海外とのリスク分担が成否握る」から。

・・・ラピダスは半導体専門家の有志が22年8月に設立した。日本の半導体再興という国策の中核を担い、既に2兆円に迫る国費が投じられた。経産省主導で民間資金を集め、30社以上から1600億円超の出資を見込む。3メガバンクは最大2兆円を融資する意向を示す。

「過去の失敗を繰り返さない」。経産省で商務情報政策局長を務める野原諭は、25年12月に都内での半導体の国際展示会に登壇して力説した。野原は半導体政策を4年以上指揮する。局長級のポストは1〜2年の交代が通例のなか、異例の人事が敷かれている。
日本の半導体産業は1980年代後半に世界シェア50%を誇った。90年代以降縮んで今は1割を切る。
国費の投入は失敗を重ねてきた。国内電機各社の半導体部門が統合したエルピーダメモリは日本政府が支援に二の足を踏む中で2012年に経営破綻に追い込まれた。同じ時期、台湾や韓国、中国は大規模な補助金や税優遇で半導体企業を育てシェアを広げた。ジャパンディスプレイや三菱スペースジェット(旧MRJ)も同様だ。

経産省は21年に半導体衰退の要因を分析して、ビジネスモデル転換の遅れや日の丸自前主義など5つを挙げた。全体として「政府として半導体が戦略物資であるという認識が甘く、支援が足りていなかった」(幹部)と振り返る。
分析を踏まえ、同年に半導体政策を転換した。場当たり的対応から転じ「国家事業として主体的に進めることが必要」と位置づける・・・

福井ひとし氏の公文書徘徊10

2026年3月3日   岡本全勝

アジア時報』3月号に、福井ひとし氏の連載「一片の冰心、玉壺にありや?―公文書界隈を徘徊する」第10回「雪のむら消え(上)―文官たちの「二・二六」」が載りました。
1936(昭和11)年2月26日早朝に、陸軍青年将校らが、兵を率いて、首相官邸などを襲いました。今から90年前です。でも、私の生まれる20年ほど前のことだったのですね。大昔のことと、思っていました。

今回の記事は、襲われた内閣側にいた官僚たちの動向を、公文書から追っています。
内閣官房総務課長は、首相官邸敷地内の官舎で、事件を知ります。しかし身動きが取れないので、電話で要路と連絡を取ります。岡田啓介首相は生きていたのですが、それを公表すると、反乱部隊に再度襲撃される恐れがあります。首相が不在では閣議が開けないので、代理を指名する必要があります。首相が生きているのに、もう一人の首相を立てなければなりません。法形式はどのようにするのか。
警察幹部も大変です。陸軍の反乱に対し、警視庁は何をするべきか。陸軍との役割分担が、問題になります。警視庁建物は反乱軍に包囲されているので、幹部は近くの警察署に集まって、対応を協議します。
ほかの省庁は、どのようにしたか。当事者は命がけですが、今から読むとなかなか興味深いです。それにしても、よくまあ、こんな題材を思いつきますね。

私は大学3年生の時に、岡義達先生の政治学ゼミを取り、『西園寺公と政局』(全9巻)を読んでレポートを書きました。半年かけた、当時としては力作です。本棚に、本とレポートが残っています。その頃は、戦前の政治をかなり勉強して、政治家の名前なども覚えたのですが、今はすっかり忘れています。

中高年社員、身につけた価値観を捨てる

2026年3月3日   岡本全勝

2月17日の日経新聞夕刊「「アンラーニング」で過去の価値観手放そう シニアや転職者に」から。
・・・これまで培った仕事のスキルや価値観を意識的に手放す「アンラーニング」に取り組む企業や個人が出てきている。雇用期間の延長に伴うシニア社員の増加や、転職者の増加が背景にある。「シニアは成長しない」「転職前のやり方で転職後もやり通せる」といった固定観念を捨てることで、新たな成長を目指す。

「ベテラン社員はアタマが固い」「若手より報酬が高いのに仕事の担当数が少ない」
森永製菓の人事部の桜沢典子さんはこの数年、幾度となく若手・中堅社員からミドル・シニア社員への不満を耳にした。一方で、50代以上の社員に個別に話を聞くと、また別の風景が見えた。
「ITは苦手と思われているし、挑戦しなくてもいいか」「若手の邪魔にならないよう何事も控えめがいいのかな」

ミドル・シニアに漂う遠慮や諦めの空気を変えなければ成長はない――。森永製菓は50代以上の社員が約4割を占める。今後も若手や中堅が減少する見通しのなか、50代以上の社員を「現役戦力」とするため2022年度から研修を始めた。そこで据えたテーマが「アンラーニング」だ。
アンラーニングとは、成功体験や固定観念を手放すことをいう。森永製菓では「必要ないスキルを一度しまう」、その上で「必要なスキルを学ぶ必要がある」という意識を持ってもらうアンラーニングを目指しているという。
例えば25年12月の研修では、10年後、20年後といった場面ごとにリストラなど予想もつかない変化にどう対応するかを決めるカードゲームをして、今後必要なスキルを確認した。研修の最後には習慣やスキルで「置いていくもの」「もっていくもの」をそれぞれがシートに記入した。
これまでの研修参加者からは置いていくものとして「プライド」「過去の武勇伝」などが挙がったという。人事部の桜沢さんは「ミドル・シニア社員が若手の見本になるよう、現役として学び続ける意識を持ってほしい」と話す。

青山学院大学の松尾睦教授(組織論)によると、個人を対象にしたアンラーニングは2000年以降、海外で研究が始まり、日本でも10年ごろから注目されるようになった。松尾教授は「雇用延長などでシニア社員が増えたり、人工知能(AI)の台頭でリスキリングの必要性が高まったりする中で、企業が特に意識するようになった」と話す。
転職などで仕事環境が大きく変わりうる現代は、年齢問わずアンラーニングの重要性が増している・・・