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復興予算の決算

7月31日に、昨年度(平成26年度、2014年度)の決算を公表しました。26年度単年度では、執行率は約6割です。毎年この程度です。ほかの予算と比べて、執行率が低い、すなわち使い残しが多いです。これは、現地で予算が足らなくならないように、多め・早めに予算を自治体に渡しているからです。現地で、地権者の同意が取れなかったりすると、その年度に使い切れず、翌年に繰り越されます。そして、翌年度に事業が執行されて、執行済みになります。
今年は、平成23年度から26年度までの4年分の執行率を公表しました。すると約8割になっています(朝日新聞記事)。単年度の予算で見ると6割の執行ですが、その予算は翌年度にはほぼ執行されます。すると、平成23年度から25年度までの3か年分の予算は、一部の不用を残してほぼ使われ、26年度だけが6割の執行率なのでこれを足し上げると、8割の執行率になったのです。26年度予算も、27年度末までには、ほぼ使われます。
事業が遅れる見込みの時点で、一度国に使い切れない予算を返還してもらい、翌年再度交付するという手続きをとれば、執行率は100%になります。ただしそのための手間が、大変なのです。自治体からは、「その手間をなくして、数年間で使わせてくれ」との強い要望があって、このように「合理的」にしています。数年かかる事業も、予算制度が単年度になっているので出てくる「低い数字」ともいえます。数年かかる事業の予算を前渡しするのは、単年度予算制度の下での柔軟な執行の試みなのです。例えば「2年間予算制度」とか「5年間予算制度」があれば、単年度の執行率はさほど問題にならないでしょう。しかし、より視野を広げると、当該年度の予算を使い切ったかどうかではなく、どれだけ現地で成果が出たか、例えばどれだけ住宅ができたかが、本当の評価なのです。
「不用額もあるではないか」との指摘もあります。これは、発災直後に急いで復旧事業の予算を見積もったので、完全には正確に計算できなかったこと、事業を見なおす場合があることなどによります。時間をかけて予算を正確に見積もるのか(それだと、事業着手が遅れます)、少々予算が繰り越されたり不要が出ることを覚悟で早め早めに予算を自治体に渡すのか。今回は、後者をとっているのです。もちろん、無茶や手抜きはしていません。国民の税金ですから。不用になった予算は返却してもらい、翌年度以降の財源に使います。
民間の方には、少し理解しがたいかもしれません。会社でも家庭でも、同じ成果を出すなら、予算は少ない方がよい、余った予算は別に回すのですから。行政の場合は、しばしば予算が多いほどその事業に力を入れていると評価され(昨年度との伸びの比較が記事になります)、一度決めた予算はその通りに執行するのがよいと考えられています(使い残しが出ると、あたかも悪いことかのように書かれます)。予算=事業であり、成果は予算で評価するという「形式主義」が、はびこっているからです。もちろん、財源は税金であり、議会による民主的統制に服するという点で、企業や家庭とは違うのですが。行政での「予算偏重」の弊害は、拙著『新地方自治入門』p247で解説しました。

暑い日、涼しいコンサート

8月になりました。東京も暑い日が続いています。皆さん大丈夫ですか。私は、夜は我慢してエアコンをかけずに寝ているので、朝起きると汗びっしょりです。毎朝シャワーが気持ちよいです。今日も午前中、我慢してたら汗だく。何度も水シャワーを浴びましたが、遂に冷房を入れました。
午後は、サントリーホールまで、ベートーベンの第九を聞きに行ってきました。高校時代の友人のK君が、60の手習いと称して、合唱を始めたのです。毎週土曜日に練習に行っているのだそうです。1人では、できませんものね。新日鉄住金の職員やOBでつくっている、オーケストラと合唱団です。彼もOBです。今日の晴れ舞台のために、練習をして、蝶ネクタイも買って。合唱団の前から3列目、右から3人目で、口を大きく開けていました。どの程度の声が出ていたかは、遠くてわかりませんでしたが(失礼)、よい趣味を見つけましたね。
1,500円で、サントリーホールという大きな空間、冷房も効いて、気持ちよい2時間を過ごすことができました。隣のおじさんも、気持ちよく寝ていました。

原発避難指示12市町村の復興、世界で初めての試み

7月30日に、「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会 提言が、最終的にまとまりました。ポイントは、これまでに書いたとおりです。今後、この提言を元に、個別施策を具体化しますが、それ以上に、この地域が復興できることを、世界の皆さんに認識してもらいたいのです。有識者の方でも、話をすると、「あの地域は、人が住めないのでしょ」とか「無人の荒野で荒れているんでしょ」と、おっしゃる方がいます。大間違いです。
一つ、書き忘れていました。これまでに、原子力発電所の過酷事故は、代表的なもので、チェルノブイリ事故と、スリーマイル島事故があります。チェルノブイリ事故では、住民を立ち退かせ、新しい町をつくったことが紹介されます。しかしこれは、元の住居に戻れないので、新しい町をつくるというケースです。
今回私たちが取り組んでいるのは、いったん避難指示を出した町に、安全になった時点で戻ってもらおうというものです。その点では、たぶん世界で初めてのことです。もちろん、安全性を確保し、かつ戻りたいという方だけに、帰還を選んでもらいます。避難は強制でしたが、帰還はご本人の選択です。

将来負担を考えたまちづくり

7月30日のNHK時論公論は、二宮徹・解説委員の「新たな復興枠組み 被災地の自治体は”自立”できるのか」でした。そこでは、復興の進ちょく状況、来年以降の復興事業の枠組み、地元負担の概要のほか、自治体の「自立」への新たな課題が検証されています。
・・・復興後の街を想像してみます。病院など重要な施設以外にも、新しい道路にホールや観光施設が並びます。こうした施設は復興を強く実感させてくれるでしょう。しかし、「負担が少ないならもっと作ろう、大きく作ろう」となってしまうと、余計なものが増えたり、規模が大きくなりすぎたりするおそれがあります。人口や産業の規模に見合ったものにする必要があります・・・
特に「次の世代のために」として、陸前高田市の例が紹介されています。
・・・こうした中で、すでに自ら事業の規模を小さくする動きも出ています。
陸前高田市は、小学校や図書館など、15の公共施設を再建する計画の中で、延べ床面積のおよそ10%を縮小する方針を決めました。既に完成した消防署は防災センターと集約したほか、今後も商業施設と図書館を併設するなどして、効率化を図ります。
自主的に計画を縮小する理由を市長に聞いたところ、次の世代にかかる財政負担を少しでも減らすためということでした。この「次の世代のため」というのは、とても重要な視点だと思います。
公共施設は運営のための人件費や電気代などの維持費がかかります。修繕費は、壁を塗り替えたり、道路の穴を直したりするものですが、数年後には年間1億円以上かかるおそれがあります。これに加え、数十年後には建て替えが必要になります。
特に被災地では、今、一斉に道路や施設をつくっていますので、将来は、何億、何十億円の建て替えを毎年のように行うことが懸念されます。ところが、その頃には今のような国の手厚い支援は期待できません。次の世代の負担を検証する機会は、こうした施設を建てる前の今しかないのです。
また、人口や税収が減る中、将来にわたって住民の暮らしをどう支えるのかも、今、あらためて問われています。しかも、復興が長引く福島では、特に将来を考えたまちづくりが求められます・・・

生活困窮者、3割が働き盛りの男性

7月29日のNHKニュースが、「生活困窮者自立支援 相談の3割が働き盛り男性」を伝えていました。それによると、
・・・生活に困った人を支援するため、生活保護を受ける前の段階で自立につなげようと、ことし4月にスタートした「生活困窮者自立支援制度」について、NHKが全国の自治体を対象にこの3か月の実施状況を聞いたところ、自治体の窓口には合わせて5万5000人の相談が寄せられ、このうち3割が30代から50代の働き盛りの男性に関するものだったことが分かりました・・・
・・・相談の内容は、複数回答で、「収入や生活費」が全体の27%を占めて最も多く、次いで「仕事探しや就職」が16%、「病気や健康、障害」が13%などとなっています。また相談者の性別と年代を見ると、30代から50代の男性が合わせて全体の34%を占め、働き盛りの世代で生活に行き詰まっている実態が見えてきました・・・
戦後日本では、家族や親族による保護、地域での助け合い、会社での支援、そして生活保護によって、困窮者を救ってきました。しかし、それだけでは不十分なことが、この20年ほどの間に明確になってきました。高齢者については、年金や介護保険を充実してきたのですが、所得格差、子どもの貧困、非正規雇用、引きこもり、落ちこぼれなど、苦しんでいる人が「発見」されたのです。現在の日本社会の重要課題の一つでしょう。
第1次安倍政権では、再チャレンジ政策が掲げられました(官邸のHP私のHP)。麻生政権では、「安心社会の実現」が提唱されました。「生活困窮者の支援制度」も、これらの問題への対応です。生活保護を受ける前の、安全網です。学生についても、同様の課題があります。学校を中退すると「困ったことに対応してくれる窓口や組織」がありません。非行を起こすと警察のお世話になりますが、その中間がないのです。「通常生活」と「行政によるお世話になる」の中間に、「自立を支援する」仕組みが必要なのです。
課題は明確になっています。そして、これまでの制度や組織では対応できないことも、わかっています。では、どのように、政府の政策さらには責任組織を再編成するか。ここに、政治と行政の力量が問われます。